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海嶺188

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:五「さて今日からは、いよいよ大変な仕事に取りかかります」ギュツラフは、今日はターバンを巻いてはいなかった。きれいになでつ
(单词翻译:双击或拖选)
「さて今日からは、いよいよ大変な仕事に取りかかります」
ギュツラフは、今日はターバンを巻いてはいなかった。きれいになでつけられた黒い髪の下に、目の光がいつもより強かった。
(とうとうバイブルの仕事やな)
音吉はつづく言葉に耳を傾けた。
「よろしいですか。今日から、この聖書の言葉が日本語に変わっていくのです。これはまだ、私たちプロテスタント(新教)の世界では、手をつけたことのない大仕事です。それをあなたがた三人が、手伝ってくれるのです。光栄ある仕事です」
ギュツラフは、ひと区切りひと区切り、言葉を区切って、ゆっくりと言った。
聖書を学ぶ時間は、いつも朝の九時半からと決まっていた。隣から生徒たちの歌声が聞こえてきた。ギュツラフは立って行って窓を閉めた。もう一方の窓から、うすぐもりの空が、ガラス越しに見えた。よく磨かれた窓である。部屋は一階の十五畳|程《ほど》の部屋である。大きなテーブルを間に、ギュツラフは三人と向かい合って坐《すわ》った。テーブルの上には、部厚い聖書、和英英和辞典、ノート、そして鉛筆が二、三本置かれていた。今日までの聖書の勉強は、ギュツラフが聖書を朗読《ろうどく》し、そのあとそれをやさしく話して聞かせるというやり方であった。それらは、物語や興味をひくたとえ話が多かった。が、今日は様子がちがった。
「和訳するのは、福音書《ふくいんしよ》のヨハネ伝です。福音書というのは、幸福のおとずれのことです。聖書には幸福のおとずれが四つあります。マタイという人が書いたマタイ伝、マルコという人が書いたマルコ伝、ルカという人が書いたルカ伝、そしてヨハネという人が書いたヨハネ伝です」
ヨハネ伝と言えば、ゼネラル・パーマー号の船の中で、フェニホフ牧師から聞いた話が心に残っていた。人々が、姦淫《かんいん》の場から女を引きずって来て、イエスの前に突き出した話である。人々はこの姦淫の女を、掟《おきて》どおりに石で打ち殺すべきかどうかと、イエスに問うた。イエスは身を屈《かが》め地面に何かを書いて答えなかった。人々はイエスが答えられぬと見て、かさにかかってイエスに迫った。イエスは言われた。
「あなたがたのうちで、罪のない者が先《ま》ずこの女に石を投げつけるがよい」
人々はこの言葉に愧《は》じて、一人去り二人去りして、遂に全部の者が去って行ったという話である。
この話をした時、フェニホフ牧師は言った。「人間は皆罪ある者です。罪のない者は一人もいない」と。この話に、岩吉たち三人は驚いたものであった。自分たちも、お上《かみ》も、帝《みかど》も同じく罪ある者なのか。いやそんな筈はないと話し合ったのだ。
ギュツラフが言葉をつづけた。
「このヨハネという人は、ジーザス・クライストの弟子です。大そう長生きをした人です。綽名《あだな》を雷の子と言われたほどの、激しい性格でした。激しい性格でも、柔和《にゆうわ》な性格でも、神が使ってくださる時、人は立派な働きをします。今、神は、あなたがたを使おうとしておられるのです。さあ、感謝いたしましょう」
久吉と音吉は顔を見合わせた。真剣なギュツラフの気魄《きはく》に三人は厳粛《げんしゆく》なものを感じた。ギュツラフは祈りはじめた。
「聖なる御神、いよいよ今日よりヨハネ伝の和訳に取りかかります。今日までの御導きを感謝申し上げます。まことに小さく、弱い僕《しもべ》に、このような尊い仕事を与えてくださった御神を、心より讃《たた》えます。どうか終わりまで、あなたの聖なる御力を持って、助けてくださいますように。あなたは、不思議な備えをもって、ここにいる三人を今日までお守りくださいました。そして、共に聖書和訳の仕事につかせてくださいました。三人は、今、日本の国の掟《おきて》のために、この仕事を恐れておりますが、どうか平安を与えてください。この仕事が、どんなに光栄あるものかを三人に知らしめてください。三人の安否を気づかう家族の一人一人にも、豊かな御守りがありますように。日本の国が、天地の創造者、真の御神を受け入れ、御子《みこ》による贖《つぐな》いを受け入れる日が来ますように、どうか御導きください。和訳を始めるにあたり、我らの罪のために代わって十字架にかかられた御子キリストの御名《みな》によって、お祈りいたします」
ギュツラフはしっかりと手を組み、頭を垂れて、ひたすらに祈った。
祈り終わった時、ギュツラフの目に光るものがあるのを、岩吉たちは見た。ギュツラフは、聖書の創世記の第一|頁《ページ》を静かにひらいて読みはじめた。
〈はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵《ふち》のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった〉
そこまで読んで、ギュツラフは三人を見た。
「ここは前にも学んだことがありましたね」
音吉が大きくうなずいた。
「神が光あれと言われると光があり、地が現れよと言われると、その言葉どおりになりましたね。鳥は大空を飛べと言われると、これまた神の言葉どおりになりました。このことをしっかりと頭に入れて、ヨハネ伝を聞いてください」
ギュツラフはヨハネ伝第一章の第一句を読んだ。
「イン ザ ビギニング ウオズ ザ ワード」
「さあ、みんなで、一緒に言ってみてください」
三人は、今聞いたとおりにくり返した。
「先《ま》ずこの言葉を日本語に直すのですが、イン ザ ビギニングとは、今しがた読んだ創世記の『はじめに神は天と地を創造された』その時よりも、もっと以前を指すのです。天と地が造られるよりも前なのです。さて、イン ザ ビギニングを日本語で、何と言ったら一番正しいでしょう」
「……一番正しいか。むずかしいことやな」
岩吉は呟《つぶや》き、両腕を組んだ。
「そうやなあ、音、お前ならどう言う?」
久吉が音吉の顔をのぞきこんだ。
「天地を造るよりも前なら、大昔やけど、イン ザ ビギニングは、メニイ メニイ イヤーズ アゴウともちがうわな」
「ちがうな」
岩吉が答え、
「最初、というのはどうや」
「それはぴったりや」
うなずいてから音吉は、
「けど、イン ザ ビギニングというのは、最初でいいのかな。ちょっと、ちがうみたいやな。ベストもモーストもついておらんでな」
「それもそうやな」
岩吉は頭をひねり、
「じゃ、『はじまりに』はどうや。よく言うでないか。事のはじまりとか。そもそものはじまりとかな」
「さすがは舵取《かじと》りさんや。それでいいわ。それに決めたわ、な、音」
久吉はそう言うと、ギュツラフに向かって、
「ハジマリニ」
と告げた。
「はじまりに?」
ギュツラフは念を押し、鉛筆を取るとノートに、「ハジマリニ」と片仮名で書いた。ギュツラフは片仮名は自由に読み書きができた。
「ありがとう。ハジマリニだね。では、次のワードだがね……」
言いかけると久吉が、
「ワードはわかるな、言葉のことやろ」
ギュツラフは頭を横にふって、
「いや、このワードについては、少し説明をしなければならないのだがね。わたしが今しゃべっているのはワードです。それはあなたがたも知っている。しかし、ここに書かれてあるワードは、只《ただ》の『言葉』ではありません」
(只の言葉ではない?)
音吉が首をかしげた。
「何と説明したらいいか、大変むずかしいのですが……ギリシャ語にロゴスという言葉があります。このロゴスがここにいうワードなのです」
聞き覚えのない言葉を聞いて、三人は怪訝《けげん》な顔をした。その三人の表情に気づいて、ギュツラフは考える顔になった。鉛筆を中指の腹で机の上にころがしながら、ギュツラフは一点を見据《みす》えた。三分、五分と時が流れた。やがてギュツラフの小鼻に、うっすらと汗が滲《にじ》んだ。
(大変やなあ。何でこんな苦労をするんやろ)
音吉はギュツラフの小鼻に目を注《と》めて思った。ギュツラフが口をひらいた。
「神が天地を造られた時に、まず何と言われたか、覚えていますね」
「光あれ、と言われました」
久吉の声もまじめだ。
「よろしい。よく覚えていました。神は、天地を造るのに、その手では造られませんでした。言葉で造られました。魚も鳥も、山も木も、言葉で造られました。その言葉、それがつまりロゴスです。ワードです。それは、ここにはありません」
ギュツラフは胸を叩《たた》いた。
「ここにもありません」
次に腹を叩いた。
「では、ここにあるんですか」
久吉が自分の頭をさした。久吉に問われて、ギュツラフは自分のたとえが適切でないことに気づいた。ギュツラフは、ロゴスが神の理性であり、真理であると説明したかった。が、そのような哲学的な言葉を具体的に理解させることはむずかしかった。
「神には人間のような体はありません。神は霊ですね。だから、腹も胸もありません。たとえが悪かったと思います」
ギュツラフは、何とかしてロゴスを三人に知らせる言葉はないかと思いめぐらせながら、
「つまりですね、それは天地を創《つく》り出す力でもありますし、善悪を判断する知恵でもあります。すべてのものを存在させている秩序でもあります。それらすべてを合わせたもの、それがここでいうワードなのです」
三人は、わかったような、わからぬような顔を互いに見合わせた。
ロゴスは、言葉、神の理性、秩序、真理の判断者、そして創造力、それらすべてを含む深遠な意味を持つ、ギリシャ語であった。そのような言葉を日本語に訳さなければならないのだ。よくはわからぬままに、三人は今言ったギュツラフの言葉をもとに、覚えている日本語の中から、選び出そうとしていた。
「むずかしいな、舵取《かじと》りさん」
音吉が頭を抱えた。
「全くやな。力……でもなし、真……でもなし」
岩吉も呟《つぶや》く。久吉は、
「イングリッシュの説明を聞くだけで、頭の中が、くしゃくしゃになるわ」
と、頭をぐるぐるとまわした。音吉が、ガラス窓の外をじっと見つめた。うす雲が晴れて、今日も真っ青な、二月の空だ。
(よその国の言葉を、自分の国の言葉になおすって、大変なことやなあ)
音吉は、ギュツラフの顔をまじまじと見た。ギュツラフは今までに、何か国語にも聖書を訳したという。僅《わず》か一語でも、これだけ時間をかけて考えねばならない。音吉は改めてギュツラフの偉さを思った。
と、久吉がひょうきんな声で言った。
「な、音。良参寺の和尚《おしよう》さんな、善悪のわからんもんは、愚《おろ》か者やと言うたわな」
「ああ言うた、言うた、よう言いなさった」
懐かしい良参寺の境内《けいだい》を思い出しながら、音吉が答えた。
「したらな、善悪をわかる者は、愚か者の反対やろ」
「そうや。それで?」
「したらな、愚か者の反対は、賢い者やろ。どうや、舵取《かじと》りさん」
今、ギュツラフは、善悪を判断する知恵と、確かに言った。
「なるほど、賢い者か。それがええな」
岩吉がうなずき、ギュツラフに言った。
「かしこいもの」
「カシコイモノ?」
ギュツラフはノートに、その言葉を書いた。岩吉が音吉と久吉に言った。
「イン ザ ビギニング ウオズ ザ ワードだでな。『はじまりにかしこいものあった』はどうや」
「はじまりにかしこいものあった……できた、できた、それでできたわ!」
久吉は手を叩《たた》いたが、音吉が不審な顔を二人に向けた。
「舵取《かじと》りさん、ウオズやから『あった』でええんやろけど、かしこいものはもうおらんのやろか」
「さてな? 音、ミスター・ギュツラフに尋《たず》ねて見い」
音吉は英語でギュツラフに尋ねた。ギュツラフは、
「いや、それはいつまでもあるものです。今も万物《ばんぶつ》を支配しています」
「ではどうして、ウオズなのですか?」
「なるほど、よいところに気がつきました。このロゴスは、過去にあり、現在にあり、未来にあるものです。とにかく、一番初めの時のことですから、ウオズとしたのでしょう」
音吉はうなずいたが、
「大変やなあ、舵取りさん。ほんとうはウオズで、イズで、ウイル ビー やって」
「そりゃあ、ことやなあ。まあ、『あった』ぐらいで勘弁してもらわんか。イングリッシュやってウオズやからな」
「けどなあ……」
音吉はすぐにはうなずかなかった。久吉が音吉の肩をつついて、
「音、あんまり考えるな。『はじまりにかしこいものあった』でええやないか。大したものや。ぐだぐだ言うてたら、日が暮れるでな」
「けどなあ、かしこいものに、『あった』と言うのは失礼やで。な、舵取りさん」
「ま、そう言えばそうやな。それに、これはキリシタンの大事な本だでな。失礼があってはならんわな」
「はじまりにかしこいもの……何と言ったらいいやろ」
「そうやな音、失礼のない言い方なら、『ござる』はどうや。講釈師がよう言うわな。『天野屋利兵衛《あまのやりへい》は男でござる』とかな。侍《さむらい》も使う言葉やで。これなら失礼にならせんやろ」
「なるほど! なるほどな、それなら失礼にならんわ。はじまりにかしこいものござる」
音吉は口に出して言い、
「いいわ。これでいいわ。これなら、罰《ばち》も当たらんわな」
と、口もとをほころばせた。ギュツラフはほっとしたように「ゴザル」とノートに書いた。そのギュツラフの手もとを見ながら、音吉は、
「『ござった』がほんとうかな」
と頭をかしげたが、
「昔々も、今も、これからずっと後にもおられるんやから、やはり『ござる』がいいな」
と、ようやく納得した。久吉は、
「ええわ、ええわ、何でもええ。とにかく大したもんや」
と、得意げな顔をした。
「ありがとう。今、訳したところは、聖書の中でも、もっともむずかしいところなのです。そのむずかしいところをやり遂げたのです。感謝です」
ギュツラフは感動していた。
「そうですか。そんなにむずかしいところなのですか」
「そうです。とにかく、手をつけたら、その仕事は七十パーセントできた、という諺《ことわざ》があります。さあ、頑張《がんば》って次にいきましょう」
ギュツラフが言うと、
「何や、今日はこれで終わったんやないのか」
と、久吉ががっかりしたように言った。音吉が、
「久吉。何や、今始まったばかりやで。はじまりやで」
と、冗談を言った。久吉も岩吉も笑った。
こうして、ヨハネ伝のギュツラフ訳は始められたのであった。
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