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海嶺189

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:六 四月五日、朝から爆竹《ばくちく》の音が窓をふるわせていた。「何の日やろ?」久吉が気軽に通りまで出かけて行った。が、す
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 四月五日、朝から爆竹《ばくちく》の音が窓をふるわせていた。
「何の日やろ?」
久吉が気軽に通りまで出かけて行った。が、すぐに帰って来て、
「みんな、花を持ってな、ぞろぞろ歩いて行くわ。まるで日本のお彼岸《ひがん》のようだで」
「墓詣《はかまい》りか」
岩吉が大きくうなずいた。
「墓詣りする時、バリバリバリッとやるんやな」
久吉は両手を天に突き上げながら言う。音吉が、
「な、舵取《かじと》りさん。爆竹はめでたい時も、災難の時も、鳴らすんやってな。悪いことを忘れて、いい運が来るようにと願うんやってな」
「ふーん。なるほど。しかしあの音なら、悪いことばかりか、いいことまで、ふっとんでしまいそうな音やな」
岩吉はかすかに笑った。久吉が、
「舵取りさん、わしらも午《ひる》から墓詣りに行ってみようか」
「誰の墓詣りや?」
「誰って……」
久吉はちょっと頭をひねったが、
「どこやらに、日本人の墓があるって聞いたやろ。これも何かの因縁《いんねん》や。拝んで来たらどうや。な、音」
「そうやな。賛成や。宝順丸の親方さんや、死んだみんなの供養《くよう》になるかも知れせんで」
フラッタリー岬の山の麓《ふもと》に立てた一本の墓標が、音吉の目に浮かんだ。
(兄さ、淋《さび》しがっているやろな)
思った時、不意に音吉は、吉治郎につれられて宝順丸にしのんで行った夜のことを思い出した。音吉は、何のために行くかを知らなかったが、吉治郎はくすねて取り分けて置いた米を、夜陰《やいん》に乗じて盗み出そうとしたのだった。あの時、その二人を取りおさえたのがこの岩吉だった。そのことがなぜか不意に思い出された。岩吉は、一旦《いつたん》取り上げた米を、自分の背に負わせてくれた。あの時の男がこの人だったと、音吉は改めて岩吉を見た。
「何を考えとる? 音」
「いや、何でもあらせん。ふっと兄さのこと思い出してな」
米ばかりか、吉治郎は水も盗もうとした。思い出して、つくづく哀れを感じた。誰の墓でもいい、無性《むしよう》に墓詣りがしたくなった。
その日の午後、三人はギュツラフ夫人に断って外に出た。白いちぎれ雲が幾つも、西のほうにゆったりと流れて行く。昨日小雨が降っていたが、今日は風が出て雨も上がった。
「花も線香も持たんで墓詣《はかまい》りか」
音吉の言葉に久吉が言った。
「なあに、街のどこにでも売ってるやろ」
三人の生活費はイギリスの商務庁から出ていた。だから食費を払っても、岩吉たちは少し小遣《こづか》いを持つことができた。
この半月|程《ほど》、三人はほとんど外出する暇もなかった。ギュツラフが在宅していたからだ。ギュツラフのヨハネ伝和訳への熱意は変わらなかった。家にある限り、朝九時半から十二時まで、三人を相手に必ず仕事を進めた。その後一時までは、メドハーストの和英英和辞典を参考に、訳文の再検討に念を入れた。
三人に言葉を選ばせるためには、原語についての説明を加え、僅《わず》か一語の説明に、三十分もかけることが度々あった。説明が詳しいために、三人はかえってギュツラフの意図をつかめぬこともあった。日本においてキリストの教えを一度も聞いたことのない三人にとって、聖書にふさわしい言葉を選ぶことは困難であった。三人の知っている宗教語はほとんど仏教の言葉であった。神道《しんとう》の言葉は、岩吉もほとんど知らなかった。神社で説教を聞くということもなかったからである。
それはともかく、このようにしてギュツラフ在宅の間は、息をつく暇もない思いであった。港を見に行く気にもなれなかった。それが昨日の午後、ギュツラフは広東にあるイギリス商務庁に出かけて行った。商務庁の通訳官として、ギュツラフは幾日も多忙な時があった。
通りに出ると、久吉が言ったとおり、花を手にした清国人たちがぞろぞろと歩いている。弁髪《べんぱつ》の男や、纏足《てんそく》の女たちも、もう三人には珍しくない。仏桑花《ハイビスカス》の真紅の花が家々の窓や庭に咲き、|※[#「奚+隹」、unicode96de]蛋花《けいたんか》の白い大きな花がその枝々に咲いている。
「あれ!? あれ山吹とちがうか」
ピンクの壁で、ひと目でポルトガル人の家とわかるその庭先を音吉が指さした。近づくと、日本の山吹によく似てはいたが、しかし山吹ではなかった。
丘に向かって細い道を登り始めた時、今度は岩吉が言った。
「藤《ふじ》や! 久、音、藤が咲いてるで」
「藤!?」
久吉が頓狂《とんきよう》な声を上げた。白い壁の、清国風の大きな家だった。その庭に、確かに藤の花房が見事に垂れ下がっていた。
「藤があるんやなあ」
音吉も感じ入って、見事な藤の紫に足をとめた。
「お琴の家にあったわな」
久吉が言い、音吉も樋口源六の庭の藤を思い浮かべたところだった。
「やっぱり、ここは日本のすぐ隣やな、久吉」
|※[#「奚+隹」、unicode96de]《にわとり》のくぐみ啼《な》く声がした。庭隅《にわすみ》に二、三羽、※[#「奚+隹」、unicode96de]が餌《え》を漁《あさ》っている。
「全くや。日本そっくりやな、舵取《かじと》りさん」
岩吉は広い背を見せて、坂をゆっくりと歩いて行く。両側にオランダ風の家、ポルトガル風の家が、清国人の家にまじってつづく。丈高いガス灯が所々に立っている。日本の桜に似た紫京花が満開だった。
「早《はよ》う帰りたいな、久吉」
「ほんとにたまらんわ」
ささやきながら、二人は岩吉の後について行く。
途中に雑貨を売る店があった。その外で、縁台に客を坐《すわ》らせて髪を刈っている床屋がいた。三人は、軒の低い店の中に入って線香を買った。
ギュツラフ夫人に教えられたとおりに、坂を登って行くと低い平らがあった。大きな菩提樹《ぼだいじゆ》が幾本かあり、仏桑花《ハイビスカス》の花がここにも群れていた。日本人の墓と言われるその墓地は大きな墓地の片隅《かたすみ》にあって、日本風の石碑が疎《まば》らに立っていた。が、墓詣《はかまい》りの日だというのに、他の墓のような賑《にぎ》わいはない。それでも、花や果物を供えた墓が幾つかあった。伸び放題の草が風に吹かれてなびく。三人は黙って、二、三十|程《ほど》墓標の立つ日本人の墓原を見た。爆竹《ばくちく》の音が絶え間なくとどろく。
「みんな日本に帰りたかったやろな」
音吉が呟《つぶや》いて、すぐ傍《そば》の苔蒸《こけむ》した小さな墓の前に線香を立てた。岩吉がポケットからマッチを出して擦《す》った。火は二、三度消えてようやく点《つ》いた。薄紫の煙が横に流れる。
「何や、戒名《かいみよう》も見えせんで。女やったのか、男やったのか」
苔蒸《こけむ》した墓石をなでながら、久吉は顔を近づけた。
「どんな一生やったろ、な、舵取《かじと》りさん」
「うん。どんな一生やったかな」
「もう身内はいないんやろな、きっと」
「うん。多分な」
「わしらも、ここでは死にとうないな。死ぬんなら日本や」
久吉の言葉に、岩吉も音吉も大きくうなずいた。岩吉は思った。
(お絹や岩太郎、そして親たちに会えたら、その場で死んでもいい)
これは近頃《ちかごろ》いつも岩吉の思うことだった。宝順丸で漂流していた時は、岩吉はかえって冷静だった。人間はいつかは死ぬと、自分自身の死をも突き放していた。が、日本に帰れる目処《めど》がつくと、日本への想いが切ないほどに募った。
「大丈夫や。三人共、日本に帰れるわ」
久吉が明るく言い、
「そうや、爆竹《ばくちく》を買うてくるとよかったな、舵取《かじと》りさん。ここで景気よく、バリバリっと鳴らすとよかった」
と、残念がった。が、岩吉が、
「眠ってる仏さんを起こしてしまうでな、あの音は。死んだ者は、静かに眠らせておくがええ」
と、隣の墓に近づいて行った。
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