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海嶺203

时间: 2020-03-19    进入日语论坛
核心提示:四 七月十六日夕七時、モリソン号は日本を目指して、琉球《りゆうきゆう》の南端を迂回《うかい》していた。那覇《なは》港が視
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 七月十六日夕七時、モリソン号は日本を目指して、琉球《りゆうきゆう》の南端を迂回《うかい》していた。那覇《なは》港が視界から消えて、一時間以上は過ぎている。和風を受けて、船はゆるやかに海上を進んで行く。
船長室には、船長インガソル、医師パーカー、宣教師ウイリアムズ、オリファント商会のキング、そしてギュツラフの五人が、食後のコーヒーを飲んでいた。
点《とも》したばかりのランプが、静かに揺れている。ふと、ギュツラフは違和感を感じた。それは、甲板《かんぱん》にいた時は感じなかったものだ。ギュツラフは暗くなった窓外に目をやった。暗くはなっても、彼方の水平線は、空と水との境をはっきりと区分していた。
(そうか……)
水平線を見つめながら、ギュツラフは自分が何に違和感を感じたのかに気づいた。五人の中で、ギュツラフだけがイギリス政府に属していて、他の四人はアメリカ人であったのだ。が、それだけではないことを、ギュツラフは心の隅《すみ》に感じていた。
「ところで皆さん。ここでもう一度、この度《たび》の航海について、重要な懸案を討議しておきたいと思いますが、よろしいでしょうか」
キングがにこやかにコーヒーカップを皿の上に置きながら言った。一同が口々に賛成をとなえた。
「では、先《ま》ず、われわれが日本のどこに入港するかということですが、船長はいかがですか」
「わたしはやはり、長崎港に入るのが穏当《おんとう》であると思います。前回にも申しましたように、日本では、長崎港以外に、ヨーロッパの船を入港させないことになっていますから」
「わたしは、船長《キヤプテン》の意見に異議があります」
若いウイリアムズが元気な顔を船長に向けた。
「どうぞ何なりと」
船長は鷹揚《おうよう》にうなずいて見せた。
「船長、第一にこのモリソン号はヨーロッパの船ではありません」
「なるほど、われわれはヨーロッパではなくアメリカだ」
船長は愉快そうに笑った。
「そこですよ、船長。日本の法律には、ヨーロッパの船の入港は規制していますが、わが国アメリカについては、只《ただ》の一行も書かれておりません。彼らはまだ、アメリカの存在を知らないのですから、われわれアメリカを規制する法律がある筈《はず》がありません」
「それはおっしゃるとおりです」
医師のパーカーも相槌《あいづち》を打った。
「とするとですね。われわれが江戸に入港しようと、薩摩《さつま》に入港しようと、はたまた岩吉の故郷熱田に入港しようと、決して日本の国法を犯すことには、ならない筈です」
「それは確かにそうですがねえ。日本がわれわれをヨーロッパの船と思って、国法を破ったと詰《なじ》るかも知れませんよ」
船長インガソルはあくまで慎重だった。
「船長の心配はごもっともですが……」
キングが口をひらいて、
「日本の政府に咎《とが》められたなら、われわれはヨーロッパの者ではなく、アメリカの者であることを説明しましょう。そうすればわかってくれると思います。われわれに関する規制がない限り、われわれは自由なのですから。それはそれとして、わたしも江戸に直航すべきだと、今も考えているのです」
一同はキングの意志的なまなざしを見つめて、次の言葉を待った。
「その第一の理由は、江戸には、日本の最高政府が置かれているからです。最高政府と直接交渉することが、最良の道だとわたしは信じます。なぜなら、最高政府さえ岩吉たちを受け入れてくれるなら、彼らの安全は全く保証されるからです」
「そうです。それが、この度《たび》の最も重大な、そして果たすべき問題だとわたしも思います」
ウイリアムズが力をこめて言い、
「ミスター・キングの意見に、全く同感です。もし、地理的に一番近い薩摩藩と交渉して、薩摩が岩吉たちを受け入れても、江戸の政府が受け入れなければ、岩吉たちの安全は侵されるかも知れません。何しろ日本の最高政府は端倪《たんげい》すべからざる強力な政府と聞いておりますから」
黙って聞いていたギュツラフが、はじめて口をひらいた。
「確かにおっしゃるとおりです。われわれは、日本人たちを、只《ただ》届けさえすればいいのではありません。彼らが安全に受け入れられなければ、苦労して送り届ける意味はなくなるのです。わたしも、江戸にある政府と交渉するのが、最善の道だと考えます」
船長インガソルは腕組みをしたまま、静かに揺れるランプを見つめていた。博学のウイリアムズが言った。
「では、江戸に入港と肚《はら》を決めましょう。何しろ江戸の人口は百万と聞いています。広さも六十平方|哩《マイル》の大都会だそうです。一六一六年に完成したという近代都市江戸こそは、多分地方的な偏見《へんけん》を持たぬ都市だとわたしは思います。恐らく古い慣習もないにちがいありません。つまり、合理的に問題を討議し得る政府がそこにあると、わたしは信じますが……」
一同はうなずいた。見たことのない日本は、誰にとっても謎《なぞ》に満ちた国であった。むろん、日本が排他的《はいたてき》な国であることは、誰知らぬことのない事実であった。が、その日本も、曾《かつ》てはヨーロッパの諸外国と通商していたと聞いている。今日本が鎖国《さこく》政策を取っているのは、その諸外国が日本の国法を度々《たびたび》犯したためであるとも聞いている。しかし、新しい国アメリカは、曾て一度も日本を訪れたことがない。従って日本の国法を犯したこともない。今、初めて、アメリカは日本を訪れようとしているのだ。しかも七人の日本人漂流民を送り届けるのが主な目的である。紳士的に交渉すれば、江戸にある最高政府は、必ず自分たちの人道的な行動を評価してくれると、一同は思っていた。幾度か意見が交わされた後、結局は船長インガソルも江戸直航に同意した。パーカーが言った。
「ミスター・キング。これで決まりましたね。もしかすると、日本の政府はアメリカとの通商を認めるかも知れませんね。日本政府に通商を拒まれるような過失を、アメリカは過去に一度も犯してはいないのですから」
「そうなれば、願ったり、叶《かな》ったりです」
キングは楽しそうに笑った。その声に合わせて、一同も笑った。が、ギュツラフは、またしても、自分がイギリス政府の官吏《かんり》であることを改めて感じた。ギュツラフは、四人と共に声を合わせて笑うことができなかった。ギュツラフは、今日、イギリス戦艦ローリー号からこのモリソン号に乗り移った。ローリー号は、モリソン号に先立って那覇《なは》の港を出帆した。その行き先を、ギュツラフは誰にも語ってはいなかった。それは、国の機密に関する事柄《ことがら》だったからである。ローリー号は今、小笠原《おがさわら》諸島に向かっている筈《はず》だった。小笠原諸島は、イギリス人が発見し、一応イギリスの占領下にあった。ローリー号は、小笠原諸島の測量調査に出かけたのである。その結果小笠原諸島が永遠に英領になるか、否かが決まる筈であった。そうしたことを語り得ぬというだけで、ギュツラフは四人との間に、一つの溝《みぞ》を感じていた。だが、決定的な溝は別にあった。
ギュツラフは、不意に、その溝を超えたい思いに駆られた。熱情的なギュツラフは、自分でも思いがけぬことを、突如《とつじよ》として言ったり、したりすることが、度々《たびたび》あった。ギュツラフは口を固く閉じてうつ向いた。口まで出かかった言葉を抑えようと思ったのだ。
「どうしました? ミスター・ギュツラフ」
いち早くギュツラフの様子に気づいたキングが声をかけた。ギュツラフは暗くかげる目を上げて、ゆっくりと一同を見まわした。
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