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海嶺221

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:一七 三人を乗せた磯舟が、児《ち》ケ水《みず》の岸に着くのを見届けず、岩吉は船室に降りて行った。今の男たちの言葉を、他の
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一七
 三人を乗せた磯舟が、児《ち》ケ水《みず》の岸に着くのを見届けず、岩吉は船室に降りて行った。今の男たちの言葉を、他の六人に告げるか、告げまいか、階を降りながら迷っていた。嘘かも知れないのだ。六人をその嘘で悲しませたくはなかった。
(しかし、本当かも知れぬ)
考えて見ると、この荒波の上を、伊達《だて》や酔狂《すいきよう》でモリソン号に近づいて来る訳はない。話しかたから言っても、あの三人のうちの二人は武士であったような気もする。
(もしかすると……)
岩吉は、一昨日佐多浦で事情を聴取してくれた、あの中年の役人のおだやかな顔を思い浮かべた。あの役人は、確かに自分たちを迎え入れようとしてくれた。が、薩摩藩は、江戸|直轄《ちよつかつ》の浦賀|奉行《ぶぎよう》の例にならって、モリソン号を打ち払うことに決めたのかも知れない。それであの役人が、ひそかに今の三人を差し向け、危機を知らせてくれたのではないか。
(とすると……)
俄《にわか》に岩吉の足から力が脱《ぬ》けた。
船室の前に立つと、賑《にぎ》やかな話し声が聞こえ、笑い声がした。ひときわ大きな声は、久吉の笑い声であった。岩吉はドアをあけた。誰もが船室の窓にへばりつきながら口々に言っていた。
「うれしいなあ」
「うれしかーっ」
「もうすぐ迎えに来るたい」
「今度こそ故里に帰れるんやなあ」
入って来た岩吉に気づく者はない。誰もが只《ただ》狂喜していた。
「何や、どうしたんや」
岩吉の声に、六人がふり返った。
「舵取《かじと》りさん。あれ見て見い!」
音吉が喜びにあふれた声で、窓の彼方《かなた》を指さした。岩吉は音吉ののぞいていた窓に額をつけた。
「おっ! あれは!」
児ケ水の切岸の上に、青と白の幔幕《まんまく》が張りめぐらされているのが見えた。岩吉は全身から血が引いていくのを覚えた。
「のう、舵取りさん。鹿児島のお役人や、ミスター・キングたちを迎える準備かのう」
庄蔵の顔も輝いている。
「やっぱり佐多浦のお役人の言うたとおりや。三日目にちゃんと迎えに来るわ」
久吉は大声で笑った。笑うまいとしても笑いがあふれて来るようであった。岩吉は幔幕を見て、今しがた聞いた磯舟《いそぶね》の三人の言葉が、真実であることを悟った。
(あれは……陣幕《じんまく》や。戦《いくさ》の幕や)
だが、岩吉は、それをすぐに口に出すことは出来なかった。岩吉は只《ただ》、音吉、久吉、庄蔵、寿三郎、熊太郎、力松の顔を順々に見た。岩吉の目に涙が盛り上がった。その岩吉の膝《ひざ》をゆすって音吉が言った。
「ほんとうにうれしいな。な、舵取《かじと》りさん。わしの夢は正夢《まさゆめ》やったで」
音吉は岩吉が喜びの余り涙ぐんでいるのだと思いこんだのだ。岩吉の口がわなわなとふるえた。六人は岩吉の涙に誘われて、洟《はな》をすすりあげた。久吉が言った。
「喜びに涙は不吉や。泣くのは陸に上がってからでええ」
岩吉はたまらなくなって顔を上げた。
「あのな……」
岩吉の顔が歪んだ。
「何や、舵取りさん?」
音吉が不意に不安な顔色になった。
「もう、駄目《だめ》や!」
血を吐くような声であった。
「駄目? 何が駄目なんや」
久吉がきょとんとした。岩吉は拳骨《げんこつ》で涙をふり払い、思い切って言った。
「みんな喜んでいるのに、言いたくはないが、あれはな、鹿児島の役人を迎える準備ではあらせん。陣幕《じんまく》や」
「何!? 陣幕とな! では、戦《いくさ》の準備となっ!?」
庄蔵が大声で聞き返した。
「そうや。今……大砲がこの船を撃つと言う知らせが……来たばかりや」
岩吉は磯舟の三人から聞いた話を手短に話し、顔を伏せた。も早《はや》誰の顔も見ることができなかった。
「ほ、ほんとか!? 舵取りさん!」
音吉の声がかすれた。
「そんな馬鹿な!」
久吉が怒鳴った。
「迎えに来てくれる約束はどうなったと!?」
寿三郎の顔が蒼白《そうはく》だった。
「もう約束も何も……あらせん」
岩吉の言葉に、力松が吠えるような声で叫んだ。
「帰りたかーっ! 帰りたかーっ!」
その声に、一同が泣いた。が、やがて岩吉は立ち上がり、
「わしは……ミスター・キングに、あの陣幕《じんまく》が戦《いくさ》のしるしやと言うて来る」
と、泣き声から逃れるように船室を出て行った。
(信じられせん、信じられせん)
音吉はうつろな目で、児《ち》ケ水《みず》の幔幕《まんまく》に目をやった。
「音! ほんとやろか。ほんとにお上《かみ》は、わしら日本人を、撃つんやろか」
久吉が音吉の肩を揺さぶった。寿三郎が床を叩《たた》いて叫んだ。
「わしらが何の悪いことをしたとかぁーっ! 何をしたとかぁーっ!」
「何のために、五年間、今日まで辛抱《しんぼう》してきたんや」
久吉が打ちなげいた。
(信じられせん。何でわしらを撃つんか)
音吉はゆらゆらと首を横にふった。
大砲が火を噴いたのは、それから間もなくであった。モリソン号は急きょ錨《いかり》を上げ、帆を張ったが、あいにくと風が落ちた。しかも、潮は満ち潮であった。岩場の多いこの辺《あた》りで、満ち潮に遭《あ》うことは、砲火にさらされるよりも恐怖であった。船員たちは、激しい怒りに耐えながら、必死に岩場を避けた。無風のために、モリソン号は押しこめられるように、数マイルも湾内をさかのぼった。そのモリソン号を薩摩藩《さつまはん》の武士たちが岸に群がって高みの見物をしていた。
やがてモリソン号は、引き潮に乗りじぐざぐに湾外に向かって走り始めた。西岸に近づくと西岸から砲弾が飛び、東岸に近寄ると東岸から弾丸が唸《うな》った。
モリソン号がようやく佐多浦の沖に近づいたのは、午後三時をまわっていた。時々雨が激しく降り、甲板《かんぱん》に音をたてて過ぎた。
長くつらい一日が暮れた。雨が止み、暗闇《くらやみ》があたりを覆《おお》った。庄蔵、熊太郎、寿三郎は、船室に骸《むくろ》のように横たわっていた。今、甲板には岩吉、久吉、音吉、力松の四人が立ち並んで、黒ぐろと横たわる日本の国土を見つめていた。モリソン号に向けて砲火が遠く闇の中に赤かった。
(あれが日本や、あれが日本なんや)
音吉の目に又しても涙がこみ上げて来た。
「おっかさーん! おとっつぁーん!」
年少の力松が、砲火が光る度《たび》に狂ったように叫んだ。その声が風にむなしく散る。他の三人は、只《ただ》黙って力松の声を聞いていた。いや、心の中で、誰もが力松と同じく叫んでいた。もはや二度と会うことのない父に、母に、妻に、わが子に、兄弟に、それぞれが身を引きちぎられる思いで別れを告げていた。
(父《と》っさまーっ! 大事になーっ! 母《かか》さまーっ! 達者でなーっ! おさとーっ! 幸せになーっ!……お琴ーっ! さようならーっ!)
音吉は顔をくしゃくしゃにして、胸の中で叫んだ。小野浦の白い砂浜が言い様もなく懐かしかった。
力松はまだ、砲火が見える度に泣き叫んでいた。それは誰もとどめようのない悲痛な声だった。その力松の泣き声に、音吉はふっと、
(お上《かみ》って何や? 国って何や?)
と、呟《つぶや》いた。傍《かたわ》らに声もなく泣いていた久吉が、不意に嗚咽《おえつ》を洩《も》らした。そして叫んだ。
「もうやめぇ——っ! もう撃つのはやめぇ——っ!」
尚も火を吐く砲口に、久吉はたまりかねて叫んだ。その声を聞きながら、岩吉は思った。
(……わしは、生みの親にさえ捨てられた。今度は国にさえ捨てられた)
お絹の白い横顔、走りまわる岩太郎の姿が、闇《やみ》の中に浮かんでは消えた。そして自分を拾って育ててくれた養父母のやさしい顔が大きく浮かんだ。
やや経ってから、岩吉はぽつりと言った。
「……そうか。お上がわしらを捨てても……決して捨てぬ者がいるのや」
その言葉に音吉は、はっとした。
(ほんとや、ハドソンベイ・カンパニーのドクター・マクラフリンのようにわしらを買い取って、救い出してくれるお方がいるのやな)
音吉は、今岩吉が何を言おうとしているかわかったような気がした。砲火を吐きつづける暗闇を見つめながら、
(みんな……みんな……もうわしらのような目には、あわんようになあーっ)
と、心の中に祈った。
大砲は尚《なお》も、遥《はる》かに遠ざかったモリソン号を威嚇《いかく》するように、赤い火を噴きつづけていた。
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