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真夜中のサーカス11

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:魔術一去る五日の未明、港ですこし変った出来事があった。波止場のはずれに|繋留《けいりゆう》中の、当町海岸通り字|砂窪《す
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魔術

去る五日の未明、港ですこし変った出来事があった。波止場のはずれに|繋留《けいりゆう》中の、当町海岸通り字|砂窪《すなくぼ》十一番地岩場角太郎さん所有のハエナワ漁船第八福寿丸が、夜が明けてみると、沈没していた。船長はじめ乗組員は全員上陸していたので無事だったが、沈没原因については誰も思い当るふしがないといっている。但し、沈没船から流れ出たと思われる重油が港の海面にひろがっていたので、巡視艇うみどりに依頼して港内に中和剤を|撒布《さんぷ》した。
なお、当夜船の宿直番に当っていた見習甲板員の少年某は、漁に出るとき借りたマンガ雑誌十数冊を返しに近くの女友達を訪ねて、そのまま夜通し話し込んでいたために、危うく難を免れた。
 週刊新聞の菜穂里タイムス十一月九日号に、そんな記事が載っている。
第八福寿丸はなぜ沈没したのだろう。四日の夜から五日の未明にかけて、海は別段|時化《し け》だったわけでもなく、たとえ時化だったにしても船は防波堤の内側に繋留されていたのである。無論、港内だから、船底を損じるような|暗礁《あんしよう》など、あるわけもない。
第八福寿丸は、四日の夕方、沖の漁を終えて帰港し、魚市場で水揚げしたのち、波止場のはずれに繋留された。まもなく、船長以下乗組員たちは、独り者の少年某にあとを|托《たく》して上陸したが、彼等にとってはそれが船の見納めになってしまった。
菜穂里タイムス十一月九日号の関連記事によると、少年某は夜十時過ぎ、|寂寥《せきりよう》に堪え兼ねて、「ほんのちょっとのつもりで」某女のもとへ赴いている。けれども、結果は、ついついそこで夜明しをすることになってしまった。
第八福寿丸が沈没しているのを最初に発見したのは、この少年某と、某女である。そのとき少年某はすこし酒気を帯びていた。某女は名残りを惜しんで少年を送ってきたのだろう、二人が寄り添い、|縺《もつ》れ合うようにして波止場の方へ消えていくのを、付近を|警邏《けいら》中の港警察署員が目撃している。
ところが、波止場のはずれまできてみると、少年某の乗る船がいない。そのとき、少年某は、てっきり船に置いてけぼりを食わされたと思った。船は自分を置いてどこかへ出港したのだ。そう思った。ちえっ、半人前だと思って馬鹿にしている。
酔いにまかせて、
「船長の馬鹿野郎。」
と|呶鳴《どな》ると、不意に目の前の海面から|羽撃《はばた》きの音がして、降って|湧《わ》いたように鴎が数羽飛び立った。
驚いて、しゃがんでまだ暗い海面に目を凝らすと、なんと海中から、船のメインマストの先がにょっきり出ている。それが明け初めた空を背に、まるで十字架を傾けたようにくっきり浮かんでみえている。
二人は重ねて驚いた。船はそこに沈んでいるのだ。とても信じられないようなことだが、留守中に船は沈んだのだ。
少年は、連れに背中を押されるようにして、ふらふらと港警察署の玄関を入った。それから、港はちょっとした騒ぎになった。
第八福寿丸は、なぜ沈没したのだろう。それは誰にもわからない。船長や乗組員、それに少年某までが、自分が上陸するまでの船にはなんの異状もなく、沈没した原因としてはなに一つ思い当ることがないといっている。
第八福寿丸が沈むところをみた者も、そんな気配を感じた者も、ひとりもいない。付近を警邏していた巡査たちも、べつに船火事らしい火も煙もみなかったし、転覆するような水音も聞かなかったといっている。
とすれば、船はこの世の誰も知らぬまに、ひっそりと沈んでいったのだろう、まるで物の|怪《け》が船底の栓を抜いたかのように。但し、これは船底に、たとえば風呂|桶《おけ》の栓のようなものがあるとすればの話だが——。
いったい、第八福寿丸になにが起こったか——これがここしばらくは町の人々の話の種になるだろうと、その菜穂里タイムスの『すこし変った出来事』を伝える記事は結んである。
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