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真夜中のサーカス12

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:魔術二その客は、離れへ足を踏み入れるなり、ほう、というような声を洩らして、案内の女中の顔をみた。それから、色の生っ白い顔
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魔術

その客は、離れへ足を踏み入れるなり、ほう、というような声を洩らして、案内の女中の顔をみた。それから、色の生っ白い顔を|鮪《まぐろ》漁船のレーダーのようにゆっくり左右に振りながら、あたりの空気をくんくん|嗅《か》いだ。
やっぱり、匂うのかしらん、と女中は情けなく思った。匂ってはいけないと、せっかく朝から戸障子を閉め切って置いたのに。
この望洋館という宿は、その名のごとく長い水平線が弓なりに|撓《たわ》んでみえる高台にあって、眺望は申し分ないのだが、ただ一つ、どうかすると目の下の魚市場から腥い匂いが風に運ばれてくるところが難点である。町の住人なら、鼻が馴れてしまっているからなんともないが、宿に泊る旅行者たち、とりわけ都会からきた客たちは、匂いの濃い日など窓を開けた途端に|噎《む》せかえってしまう。
「……匂いますか。」
女中は、ちょっとべそをかくような顔をしてみせた。
「匂うねえ。」
けれども、客はそう不快だという顔もしていない。むしろ、なにか珍しい匂いを嗅ぎ当てたとでもいうふうに、目を輝かせている。それで女中は、そうか、これはあの手の客なのだと思った。
あの手の、というのは、大方の客たちが厭がるような匂い、たとえば生の魚や畑のこやしの匂いなどを逆に有難がったり、そばにいい道があるのにわざと野の露を踏み歩いて妙にしんみりしたり、なにかといえば履物を脱いで裸足になってはしゃいだり、わざわざ庭下駄を履いて裏の雑木林まで出かけていって、木の幹に|放尿《ほうによう》して悦に入ったりする、風変りな客たちのことである。
ところが、おかしなことだが、近頃その手の客が増えているのだ。東京など大きな都会からきた客に多い。女よりも男の客に多い。男も中年層に多い。きょう着いたその客も、東京からきた中年の男の客である。
玄関の|間《ま》を通って奥の部屋に入ると、客はますます目を輝かせて部屋のなかを見廻し、そのままつかつかと床の間の前へいって、
「これだ。」
と、ちいさく叫ぶようにいった。
「やっぱり、これだ、この匂いだった。……しかし、これはまたなんと沢山な花を……。」
なんのことかと思うと、古壺に活けてある|金木犀《きんもくせい》のことだ。すると、さっき客が匂うといったのは、この花のことだったのか。
金木犀の花は、米粒ほどの黄色い花だが、一輪だけでも香水のような強い芳香を放つ。きょうは東京の客が泊るというので、臭気止めのつもりで、裏の雑木林のむこうの谷から、花をぎっしりつけた太目の枝を一本|伐《き》ってきて貰って、古壺に投げ入れて置いたのである。
ただそれだけのことで、女中はもう忘れていたが、客はなおもしげしげと眺めて、
「豪勢だなあ。初めてだよ、こんな見事な木犀をみるのは。」
それから、ふっと自信を失ったように振り返って、
「……これ、木犀だろう?」
「そうですよ。金木犀です。」
みればわかりそうなものだが、疑り深い客は、ぎっしり咲き|揃《そろ》って黄色い塊になっている花の群れに鼻を寄せて嗅いでみてから、
「本物だ。こいつぁ|凄《すげ》えや。」
と|呆《あき》れたようにいった。
念入りなお世辞で、お茶を|淹《い》れながら女中は尻がこそばゆくなった。この町では、誰でも金木犀の花を臭気止めぐらいにしか思っていない。けれども、いまさら、それは臭気止めで、ともいえなくて、
「……下手くそで、お恥ずかしいです。」
と女中はいった。
「下手くそ? なにが?」
「お茶をどうぞ。」
客は、ようやく金木犀の前を離れてきた。
「あの金木犀の活け方がですよ。」と女中はいった。「もっと丁寧に活ければよかったんですけれど、時間がなくて……。伐ってきたのをただ投げ込んだだけですから。」
「いや、あの方が自然でいいよ。なんとも豊かな感じで……。伐ってきたって、どこから伐ってきたの?」
「このすぐ裏の谷からです。」
「あんたが?」
「いいえ。私は|鉈《なた》がうまく使えませんから。番頭さんに頼んだんです。」
「鉈でねえ……。|勿体《もつたい》ないなあ。」
たかが木の枝を勿体ないとは、貧乏性な客である。女中はおかしくなって、笑ってしまった。
「だけど、あんな太い枝を伐っちゃったら。」と、客は床の間を振り返っていった。「樹が枯れちゃうだろう。こんなに花を沢山つける樹なんだから、勿体ないよ。」
「こんな枝の一本や二本伐ったって、樹は枯れやしませんよ。大きな樹なんですから、根元がこんな。」
と、女中は両手の親指と人差指で幹の太さを|拵《こしら》えてみせた。
客は目をまるくした。
「そんな木犀があるのか。」
「ありますよ、沢山。数え切れないくらい。」
「……それがみんな、こんなに花を咲かせているの?」
「はい。いまごろがちょうど満開でしょうかねえ、金木犀は。この町の裏山へ登れば、もっと沢山ありますよ。」
客は音を立てて吐息した。
「驚いたねえ。|羨《うらや》ましいなんてもんじゃないな、これは。世界が違うって感じだ。僕の東京の家の庭にもね、木犀が五本あるんだよ。ところが、こいつに花が咲かない。何年待っても、一と粒も咲かない。」
「樹がまだ若いんじゃないんですか?」
「いやそうじゃない。車の排気ガスのせいだ。」
そういわれても、女中にはぴんとこなかった。このあたりでは夏の海霧のことをガスといっている。|海霧《ガ ス》は作物を不作にすることがあるが、金木犀の花まで枯らすことはない。
「よほど|質《たち》の悪いガスなんですねえ。」
「質が悪い。その質の悪いガスのために、いまや東京のあらゆる植物は枯死の危機に曝されているわけだ。こんな豊かな木犀をみてると、人間まで生き返ったような気持になるよ。」
いうことがどうも|大袈裟《おおげさ》だと思っていたら、宿帳の職業欄に著述業と書いたので、女中はなるほどと納得した。以前、この県から国会に出ていた代議士が二度目の選挙で落選した直後、どういうものかこの宿へお忍びで静養にきたことがあったが、うっかり宿帳を頼むと、「はいはい、なんでも書きますよ。」と変にかすれた猫撫で声で、職業欄に著述業と書いた。十日ほど滞在して、昼は岩浜へ魚釣りに出かけ、夜は酒を飲んで|卓袱《ちやぶ》|台《だい》を敲きながら大袈裟なことばかりいっていた。
この町にも、前には県会議員を一期か二期勤めて、その後はぱったり落選つづきという、いまは衰えた網元の旦那が二人いるが、弁天下の浜茶屋で板前修業をしている弟から聞いたところによると、二人は夜な夜な現われて|大形《おおぎよう》なことばかり|喋《しやべ》り散らしているという。この二人が選挙に出るときの職業は、揃って著述業である。
落選した政治屋は、どうしてみんな著述業になるのか。著述業といえば本書きだそうだが、この二人も、前の落選代議士も、どんな本を書いたものやら誰も知らない。
それはともかく、女中としては、著述業といえばいうことが大袈裟で、理屈っぽくて、酒飲みで、なにを飯の種にしているものやら、暇と金にはあまり不自由なさそうな、どうも正体が知れなくて親しみの湧かない客だと心得ている。
案の定、その客も、
「新聞を……この土地の新聞をみせてくれないか。夕食は、なるべくこの土地でとれたものばかりにしてほしいな。それに、地酒を三本ほど。」
といった。
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