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真夜中のサーカス40

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:鞭《むち》の音一前網の海浜ホテルにゆうべの男を置き去りにして、美羅野の三業地へ帰ってくる途中、小太郎は菜穂里の大通りで人
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鞭《むち》の音

前網の海浜ホテルにゆうべの男を置き去りにして、美羅野の三業地へ帰ってくる途中、小太郎は菜穂里の大通りで人をひとり|撥《は》ねてしまった。
四つの女の子を撥ねてしまった。
どうしてそんなちいさな子供を撥ねたりなんかしたのか、小太郎は自分でもわけがわからない。スピードを出しすぎていたわけではなかった。前をよくみていなかったわけでもなかった。浜通りでは、いまだに平気で道路を横断する人がすくなくない。とても脇見などしていられない。
日曜日の夕方で、菜穂里の商店街はいつもより人通りが多かった。小太郎は、いつでもブレーキが踏めるように気を配りながら走っていた。それなのに、どうして子供を撥ねたりなんかしてしまったのか。
最初にきたのは、メロンほどの大きさの黄色いゴムボールだった。それが左手の歩道から不意に車の前へ転がってきた。小太郎は、当然ブレーキを踏んだ。途端に、前のバンパーに、どすっという、なにやら|憶《おぼ》えのない衝撃を感じた。
ゴムボールが弾んだとしても、こんな重たい手応えがあるはずがない。変だと腰を浮かしてみると、車の鼻先に女の子が仰向けに倒れている。それで、あ、撥ねた、子供を撥ねた、と思ったが、どうしてそんなことになったのか、小太郎にはわけがわからなかった。その子がいつ道路へ飛び出してきたのか、全く気がつかなかったのだ。
アスファルト道路は、さっきの通り雨でまだ濡れていた。そこに女の子が仰向けに倒れて、両足を上に上げていた。その黒いタイツを|穿《は》いた二本の脚が、ひきつけを起こしたようにびりびりと|顫《ふる》え、それから棒を倒すようにぱたんとアスファルトの上に落ちると、片方の足から赤い靴が脱げて歩道の方まで転がった。すると、その靴を飛び越えて、男がひとり、倒れた子供に駈け寄った。
小太郎は、そこまでを車のなかで腰を浮かしたまま見て取った。バンパーにどすっという衝撃を受けてから、男が飛び出してくるまで、全くあっという間の出来事であった。それから、小太郎は急いで車の外に出た。
「おや、女だよ。」
そういう声が耳に飛び込んできた。随分びっくりしたような声だったが、それが倒れている子供のことではなくて、自分のことをいっているのだということが、小太郎にはわかった。いまどき、女が車を運転することに驚く人はいないが、子供を撥ねた車を運転していたのが女だったということに、みていた人たちは驚いているのだ。けれども、
(美羅野の芸者だ。小太郎だ)
そういう男の声はきこえなかった。菜穂里にも|馴染《なじ》みの客がいないわけではないが、そういう旦那衆はいまごろ道をぶらついているわけがない。それに、髪をネッカチーフで縛ってスラックスを穿いているから、知らない人は誰も芸者だとは思わないだろう。
男は、倒れた子供を|膝《ひざ》の上に抱き上げて、顔を|覗《のぞ》き込んでいた。三十年配の工員風の男だったが、
「おい、サト、お父ちゃんの顔をみろ。お父ちゃんの顔をみろ。」
そう叫んでいたので、撥ねた子供の父親だとわかった。父親と一緒だったのに、なぜこの子は不意に車の前へ飛び出したりなどしたのだろう。小太郎は頭の隅でちらとそう思ったが、そのとき強くゆさぶられた女の子の耳から急にとろとろと太い血の筋が流れ出たのをみて、あ、と思わずちいさな悲鳴を上げた。「救急車を呼べ。」と誰かが叫んだ。
路上の|父娘《おやこ》と小太郎のまわりには、いつのまにかまるい人垣が出来ていた。
「いやいや、救急車なんかよりは、その車で直接病院へ運んだ方が早い。」
別の誰かがそういった。
「そうだ、それがいい。」
「相手は子供だ、勝負が早いぞ。」
「急いで、急いで。」
そんな声が人垣のあちこちから起こった。
車で人を傷つけた場合、その事故を起こした者はまずなによりも怪我人を病院に運ぶ義務がある、ということぐらいは、小太郎だって知っている。小太郎は我に返って、急いで自分の車に戻った。うしろのドアを開けると、子供を抱いた父親が人々に押されるようにして乗り込んできた。
小太郎は車を出そうとして、この町の病院がどこにあるのか知らないことに気がついた。
「病院はどこです?」
窓を開けて尋ねると、
「この先の交差点を左へ折れると、坂の途中に愛光会っていう病院があるから、そこへいきなよ。」
すらすらとそういって教えてくれる人がいた。小太郎は車を走らせた。
「おい、サト、しっかりしろ。」
父親は大声で子供を励ましていたが、交差点を折れた途端、だしぬけに、「停まって!」といった。小太郎はあわててブレーキを踏んで、どうしたのかと振り返った。父親は子供の胸に手のひらを当てて、耳を澄ますようにじっと宙に目を据えていたが、やがて急に背を反らして、
「動いている!」
と叫ぶようにいった。それから彼は、初めて車が停まっていることに気がついた。彼は驚いたように小太郎をみた。
「早く……早くここを開けてくれ。」
「……でも、ここはまだ病院じゃありませんよ。」
小太郎がそういうと、
「じゃ、どうして停めたんだい。」と彼は噛みつくようにいった。「走ってくれ、早く!」
小太郎はまたあわてて車を走らせながら、さっき「停まって!」と彼がいったと思ったのは、「停まった!」といったのを聞き違えたのかもしれないと思った。愛光会という病院はすぐわかった。車寄せに入ると、もう誰かが連絡してくれたのだろう、玄関のむこうの廊下を数人の看護婦がこっちへ駈けてくるのがみえた。
「停まった! 停まってしまった!」
そういう父親の声に振り返って、小太郎は思わず息を呑み込んだ。彼が子供の胸に手のひらを当てたまま、凄い目つきで自分の顔をじっとみつめていたからである。小太郎は、そんなに激しい憎しみの|籠《こ》もった人間の目をみたことがなかった。
「あんたが、殺したんだ。」
彼は、小太郎の目を食い入るようにみつめながら、低いがはっきりした声でいった。
「殺してやる。あんたを殺してやる……。」
外側からドアが開き、看護婦たちの甲高い声が飛び込んできた。
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