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真夜中のサーカス43

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:鞭《むち》の音四流産のあと、信吉の妻の躯は、思わしくなかった。信吉は夜が味気なくなった。家のなかの空気はからからに乾き、
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鞭《むち》の音

流産のあと、信吉の妻の躯は、思わしくなかった。信吉は夜が味気なくなった。家のなかの空気はからからに乾き、妻の肌はかさかさになって粉を噴いていた。
子供の不慮の死は、家のなかをこんな砂漠みたいに荒してしまうものだろうか。しかも、自分たちはいちどに二人の子供を死なせたのだと、彼は思った。自分はサトを。妻は名もない、あるいは自分たちが待ち望んでいた男の子だったかもしれない腹の子を。
彼の心も乾いていた。けれども、躯は妻ほど潤いを失ってはいなかった。といっても、彼の小太郎に対するひそかな興味は、その苦い潤いを残している躯のせいではなかった。小太郎をみると、彼の胸には憎しみが|滾《たぎ》る。その憎しみと、人なかで若い売れっ妓をみえない鞭で|嬲《なぶ》る楽しみとで、|束《つか》の間でも乾いた心を慰めたかったのだ。
小太郎から会いたいといってくると、彼はいつも自分の勤め先の食堂を指定した。小太郎は、異様に目を光らせながらやってくる。なにかに|憑《つ》かれたような物狂おしい目だった。彼は、仲間たちの|羨望《せんぼう》のまなざしを浴びながら、小太郎をいかに邪険に扱うかに腐心した。それは、これまでに味わったことのない陰気な快感だった。
そんな彼のひそかな興味を、心から躯に移してしまったのは、むしろ小太郎の仕業である。ある日、小太郎は顔にある決意の色を|漲《みなぎ》らせて、こういった。
「私を、どうぞあなたの気の済むようになさって。私はもう、どうなってもいいの。」
彼は、とっさに小太郎の気持を測り兼ねたが、そのとき、心の動きとはうらはらに、自分の躯のなかになにやら熱い風のようなものが|捲《ま》き起こったのを、彼は感じ取っていた。彼は、そんな自分の躯の敏感さを恥じて、顔をすこし赤らめながらいった。
「馬鹿な。」
「いいえ。」と小太郎はかぶりを振った。「私は本気。」
「馬鹿な。」
と彼はもういちどいい、熱気で躯が|脹《ふく》らむのをおぼえた。唇が乾いて、
「今夜七時に。」
そういってから、いちど舌の先でちろりと|舐《な》めて、
「ゆっくり会おう、どこかで。」
この先、どうなることやらわからないが、ただもう頭上に鞭の音を響かせながらこの女を道連れにするほかはないと彼は思った。
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