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真夜中のサーカス47

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:赤い|衣裳《いしよう》四ヒデは、恥ずかしそうに目を伏せて、うしろの人に押されながら改札口を出てきた。良作は、売店のそばで
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赤い|衣裳《いしよう》

ヒデは、恥ずかしそうに目を伏せて、うしろの人に押されながら改札口を出てきた。良作は、売店のそばでそれをみていて、駅舎を出たところで追いつくと、うしろから「おい。」と声をかけてやった。ヒデはびっくりしたように立ち止まり、|眩《まぶ》しそうに彼を仰いで、
「おら、きちゃった。」
といったが、その目にみるみる涙が盛り上ってきた。彼は、自分の肉親は勿論、こんなふうにして人を出迎えるのは初めてであった。こんなとき、どういえばいいのかわからなくて、目をしばたたきながら、
「ごくろさん。」
と彼はいった。
ヒデは、髪を相変らず少女のように三つ編みにして、黒い男物のようなキルティングの防寒服に膝の出た鼠色のズボンを穿き、重そうな風呂敷包みを一つ手に提げていた。その風呂敷包みをもぎ取るようにして、「いこ。」と彼は歩き出した。角のない風呂敷包みは、みた目よりもずっと重かった。その重さで、結び目が小石のように固くなっていた。
「なんだい、これは。」
と、彼はヒデを振り返った。ヒデは小走りに追いついてきて、栗と米、といった。
「栗は、半分が親方さんとこの土産で、半分が|兄《あん》ちゃんの食べる分。」
それはわかるが、米はどうしたのかと思うと、おふくろがただで世話になるわけにはいかないからといって持たせたのだという。
「苦労性だからな、|母《かつ》ちゃは。」
彼はそういって笑ったが、顔が変に歪んでくるのに気がついて、
「母ちゃ、元気か。」
と前を向いたまま訊いた。
「元気。」
もともと病人のことだから、元気といえば病気がそう進んだ様子もないというほどの意味で、彼は黙って|頷《うなず》いた。ヒデを出してよこしたくらいだから、幾分具合がいいのだろう。
彼は、前から考えていた通り、広場をまっすぐ横切っていって、鯨屋に入った。ちょうど昼飯時で店は込んでいたが、運よくテーブルの隅から立つ客があって、二人はそこへ並んで掛けた。
「なんでも好きなものを食べれや。」
彼は、ヒデの耳にそう囁いて、金のことなら心配するなと目顔でジャンパーの胸を|敲《たた》いてみせた。ヒデは、ちょっとの間、壁に|貼《は》り出してあるメニューを見上げていたが、目移りがして決め兼ねるのか、
「おらはなんでもいい。|兄《あん》ちゃんが食べるものでいい。」
と小声でいった。
店の天井には、|秋刀魚《さ ん ま》を焼く煙が籠もっていた。なんでもいいなら秋刀魚がいいと彼は思った。山の村にいると、魚はほとんど食うことがない。たまに行商人が持ってくるのは干物ばかりで、生きのいい生魚はみることもできない。ヒデも、秋刀魚の塩焼きなど、まだいちども食ったことがないはずである。
「はい、サ、サ、サンマで御飯、二人前。」
どもりの主人が調理場へ叫んだ。
今朝は思わぬ早起きをしたせいか、彼はいつもの昼よりひどく腹が空いていた。それで秋刀魚定食ができてくると、ヒデに、さあ、食べれと声をかけたきり、あとは自分で食うことに熱中したが、食べ終るのはヒデの方が早かった。
「もう食ったんか。」
彼は途中で箸を休めていった。ヒデはちょっと首をすくめた。
「朝からなんにも食べてなかったんだもん。」
秋刀魚も頭と太い骨だけ残して、はらわたもきれいに食っていた。
「秋刀魚、|旨《うま》かったろう。」
「うん、旨かったけんど……。」
ヒデはちょっと眉を顰めて、片手で|喉《のど》を|掴《つか》んでみせた。彼は苦笑した。
「はらわたが|苦《にが》かったんだろう。」
「苦いんじゃなくて、ちくちくする。|棘《とげ》でも刺さったみたいに。」
そんなら骨が引っかかったんだと彼は思った。喉に魚の骨が引っかかったときは、飯を|噛《か》まずに呑みくだせばいい。けれども、ヒデの|丼《どんぶり》にはもう飯が一と粒もなかったので、
「ほれ、この飯を口に入れて、おろ呑みにするんだ。思い切って、ぐっとおろ呑みにするんだ。」
そういって自分の丼を渡した。山の村では、物を噛まずに呑み込むことをおろ呑みといっている。おろおろしながら物を食うと|碌《ろく》に噛まないことになるから、おろ呑みだろうか。
ヒデは、彼の丼に残っている飯を何度も頬張っては、おろ呑みした。そのたびに、目を白黒させるので、彼はあたりを見廻しながらそっと背中を敲いてやったが、骨がやっととれたときは、もう飯はあらかたなくなっていた。
「俺だって、この町へきたばかりのころは」と、彼は鯨屋を出てから、恥ずかしがっているヒデを慰めた。「よく喉に骨を引っかけて笑われたもんだ。馴れないうちは、誰だってそうさ。町の人たちが栗を食うと舌を荒らすようなもんだ。」
大通りを抜けて浜通りに出ると、途端に、ヒデが、今朝まだ暗いうちに空耳のように聞いたあのひたひたという音とそっくりな足音を立てていることに、彼は気づいた。みると、やっぱりくたびれたズック靴を履いている。すっかり磨り減ったゴム底が、アスファルトをひたひたと敲いている。
「道理で……。」
と、彼は思わず呟いた。
「……なに?」
「いや、なんでもない。」
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