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真夜中のサーカス60

时间: 2020-03-21    进入日语论坛
核心提示:火の輪くぐり四菜穂里の青果問屋へ戻ってくると、おかみさんが振舞ってくれた熱い甘酒をすすりながら、彼は店の旦那に鳥野の市場
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火の輪くぐり

菜穂里の青果問屋へ戻ってくると、おかみさんが振舞ってくれた熱い甘酒をすすりながら、彼は店の旦那に鳥野の市場のおしちのことを話した。
「おしちに、ひでえ|啖呵《たんか》切られっちまった。」
そういって事のなりゆきを話すと、旦那は面白そうに笑って、
「おまえ、おしちに、おしちさんっていったのか。」
といった。それで、そうだと答えると、
「それじゃ、おまえ、おしちが怒るのは当り前だ。」
と旦那はいった。
それが、漁師の若者にはわからない。訳を尋ねると、
「おしちってのは、おまえ、あの子の|綽名《あだな》でな、八百屋お七のお七だよ。あの子の本当の名前はナナ子っていうんだ。ナナは七だから、お七ってわけだ。あの子、年端もいかないくせに、妙に色っぽいところがあるだろう。そうかと思うと、おまえが食らったみたいな啖呵ぐらいは朝めし前っていう|御侠《おきやん》なところもある。ちょうどヤッチャ場にいるんだから、ありゃあ八百屋お七だということになった。それで、わしらは、おい、お七、なんて、からかってんだよ。だけど、おまえがお七といったら、あの子、頭にかっと血が昇るよ。わしらにだって、結構ぷりぷりしてるんだから。ところが、わしらには、あの子がぷりぷりするところがまた面白いんでね。ますます、おい、お七ってことになるわけだ。」
旦那はそういったが、若者には、ナナ子がお七といわれるだけでどうしてそんなに腹が立つのか、そこのところが|腑《ふ》に落ちなかった。それを旦那に尋ねると、
「そりゃあ、おまえ、八百屋お七っていえば罪人だもの。」
ところが、若者は、どだいその八百屋お七という女が何者なのかを知らないのである。それをいうと、旦那は|呆《あき》れたように、
「おまえ、八百屋お七を知らんのか。」
といったが、おしちといえば鳥野の市場のおしちしか彼は知らない。
「八百屋お七といえば、おまえ、江戸の本郷駒込の八百屋の娘で、十六のときに好きな男に会いたい一心で火つけの罪を犯しちまう。それで、鈴ヶ森で|火焙《ひあぶ》りになった女だよ。これは実際にあった話だそうだ。」
旦那はそういって教えてくれた。
午後に、もう一回、|片荷谷《かたにや》という町へ野菜を運ぶと、それでその日の仕事はお仕舞いになった。彼は、その日の手間賃を貰うと、晩めしを食うつもりで駅前の鯨屋へいったが、|暖簾《のれん》をくぐって、|鱈《たら》の|粕汁《かすじる》の匂いを嗅いだ途端に魔が射して、胃をこわして以来、控えていた酒を、つい一杯ということになってしまった。その一杯で、呆気なくゼンマイがほどけてしまった。
何軒目かの屋台の飲み屋で、彼はおかしな犬の話を耳に|挟《はさ》んだ。その屋台店のおかみが、夕方、路地で七輪に炭を|熾《おこ》そうとして、まるめた新聞紙に火をつけて|団扇《うちわ》で|煽《あお》いでいると、どこからともなく現われた赤犬が七輪のそばへ寄ってきて、綺麗なチンチンをしたという話である。
「へえー、あんまり寒いから、ちょいと火に当ててくださいってわけかね。」
客のひとりがそういうと、
「そうかねえ。だけど、チンチンってのは、食うものをねだるときにするんじゃないの?」
と、おかみはいった。
「そうか。じゃ、べつに、おかしくもなんともないじゃないか、その犬。」
「ところがね、その犬、いまにも七輪の上をぴょんと跳びそうな恰好するのよ。火がぼうぼう燃えてるのに。」
「その火の上をかい。」
「そうなのよ。跳びますよっていうみたいな恰好、してみせるのよ。それで、今度はチンチンする。」
「……なんだい、そりゃあ。」
「あたしも初めは、妙なことをすると思ってみてたんだけど、そのうちに、|奴《やつこ》さん、なんか食うものをくれるんだったら跳んでみせてもいいが、どうするって、こっちへ話を持ち掛けてるんだと気がついたのよ。」
相手になっていた客は笑い出した。
「だって、そうとしか思えないんだもの。」
「で、どうしたい。」
「ところがね、新聞紙がみんな燃えちゃったら、奴さん、つまらなさそうにすたすたとどっかへいっちゃったわ。」
漁師の若者は、その話を聞いていて、その犬というのはきっとあの片耳の赤犬のことだと思った。すると、朝、北の踏切であの赤犬とばったり出会ったときのことが思い出されて、彼はなんとなく落ち着かなくなった。
こんな話を聞いていたら、折角の酔いが醒めてしまう。彼はそう思い、急いで酒の残りを飲み干して、その店を出た。
彼は、もう大分酔っていた。|眩《まぶ》しいほどの星空で、滅法寒い晩だったが、彼にはさほど応えなかった。彼はふと、銀子を訪ねてみようかと思った。酔えば銀子が憎くなる。けれども、憎くなればなるほど会いたくなる。とても顔をみないではいられなくなる。
彼は、浜通りへ降りて、銀子の家の戸を敲いた。やがて、曇り|硝子《ガラス》に人影が揺れて、
「誰かし?」
と銀子の母親の声がした。
「俺だし。銀子の婿になる男だし。」
有難いことに、酒のおかげでこんな高飛車なことがいえる。彼はいい気分だった。
「銀子なら、いね。」
途端に母親の声が変った。
「こんな時間に、いねはずねえべさ。ここを開けてけれって、おふくろさん。」
「いねったら、いね。おらは知らん。」
声がきこえなくなったかと思うと、家のなかの明りが消えた。
彼は、大きなしゃっくりをして、雪氷の上をよろめいた。なにをいってやがる。銀子はいる。俺は知っとる、と彼はぶつぶついった。
「そっちがいつまでもそんな態度なら、こっちにだって考えがあるぞ。見損うな。俺を誰だと思ってんだ。八百屋お七を知らねえかってん……。」
彼は急に口を|噤《つぐ》んで、ちょっとの間、|棒杙《ぼうぐい》のようにそこに立っていた。キルティングの防寒服のポケットの底で、マッチが指先に触れてきた。彼は、そっとあたりを見廻しながら、
「八百屋お七を知らねえかってん……。」
今度は、そっと、|呟《つぶや》くようにそういった。
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