この世界に忽然《こつぜん》と現れた「それ」が、一体全部でいくつあったのか、詳《くわ》しいことは誰《だれ》にも分かっていない。
大きさはちょうど大人《おとな》が胸に抱けるぐらい、真ん中を押しつぶした楕円体《だえんたい》だった。その手触《てざわ》りは硬く、中に何もないと思わせるほど軽い。そしてどこをひっくり返しても塗《ぬ》りつぶしたように黒かった。
人々は必ず一人でいる時に「それ」を発見する。疲れきった体を引きずって自宅のドアを開ける時、深夜に誰もいない部屋の中で振り返る時、眠い目をこすってベッドから起き上がった時——。
そして、一様に首をかしげながら、「それ」をまじまじと覗《のぞ》きこんだはずだ。この世界の誰も「それ」が何なのかを理解することはできない。
彼らは顔を近づけ——「それ」の表面にびしりとヒビが入るのを見る。ほとんどの人々は驚《おどろ》いて手を離《はな》したはずだ。そして、その場から逃げ出そうとするだろう。だが、すべては手遅れになっている。「それ」の内部から現れるものを、この世界に存在しえないものを、彼らは見ることになる。
そして、ほどなく彼らは知ることになる。自分たちが選ばれた者であり、「それ」を呼び寄せた者でもあることを、自分たちが「契約者」となることを。
そして、彼らは最後に知る。
すでに自分が人間ではないことを。
大きさはちょうど大人《おとな》が胸に抱けるぐらい、真ん中を押しつぶした楕円体《だえんたい》だった。その手触《てざわ》りは硬く、中に何もないと思わせるほど軽い。そしてどこをひっくり返しても塗《ぬ》りつぶしたように黒かった。
人々は必ず一人でいる時に「それ」を発見する。疲れきった体を引きずって自宅のドアを開ける時、深夜に誰もいない部屋の中で振り返る時、眠い目をこすってベッドから起き上がった時——。
そして、一様に首をかしげながら、「それ」をまじまじと覗《のぞ》きこんだはずだ。この世界の誰も「それ」が何なのかを理解することはできない。
彼らは顔を近づけ——「それ」の表面にびしりとヒビが入るのを見る。ほとんどの人々は驚《おどろ》いて手を離《はな》したはずだ。そして、その場から逃げ出そうとするだろう。だが、すべては手遅れになっている。「それ」の内部から現れるものを、この世界に存在しえないものを、彼らは見ることになる。
そして、ほどなく彼らは知ることになる。自分たちが選ばれた者であり、「それ」を呼び寄せた者でもあることを、自分たちが「契約者」となることを。
そして、彼らは最後に知る。
すでに自分が人間ではないことを。