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シャドウテイカー 黒の彼方10

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:9 校門を出たところで、佐貫《さぬき》は西尾《にしお》みちるの後ろ姿を見かけた。走って追いつくと、軽く肩を叩《たた》く。
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 校門を出たところで、佐貫《さぬき》は西尾《にしお》みちるの後ろ姿を見かけた。走って追いつくと、軽く肩を叩《たた》く。
「おお」
「……ああ」
と、曖昧《あいまい》な挨拶《あいさつ》を交わし、二人は並んで加賀見《かがみ》駅の方へ向かって歩き始めた。
今日は校内の設備点検で部活はない。そうでなければ、部活の掛け持ちをライフワークにしている佐貫が、授業を終えてそのまま帰ることはまずなかった。
「……」
「……」
彼らは口をつぐんだまま歩いていった。はたから見れば気まずい沈黙《ちんもく》が続いているようにしか見えないが、二人にとってはこれが普通だった。もともと彼らはさほどお喋《しゃべ》りな性格ではない。裕生という天性の「聞き役」がそばにいないと、彼らはひどく寡黙《かもく》になるのだった。
佐貫とみちるはクラスでも性格が似ていると言われている。わりと仲いいよな、程度の関係にしか見られていないが、当人たちはお互いを心の友と見なしている。もちろん、二人でいる時は口数が少ないので、それを確認しあうことは絶対になかったが。
「……それで?」
と、佐貫は言った。
「え?」
「なんかあったろ。掃除《そうじ》の時間に」
佐貫は佐貫で、さりげなく朝からみちるが探《さぐ》りを入れていることに気づいていた。プールの掃除から帰ってくると、みちるの様子《ようす》がいつもと違っている。話を聞く機会を待っていたのだった。
「やっぱり分かっちゃうか」
みちるはため息を一つついて、ぽつりぽつりと語り始めた。妙なことから雛咲《ひなさき》葉《よう》に話を聞かなければならなくなったこと、ホームルームが終わってから、一年の教室に行ってみたが葉《よう》は帰ったあとだったこと。
「お前、なに考えてんだ」
聞き終わった佐貫《さぬき》は呆《あき》れ顔で言った。
「自分から言ったんだよな?」
みちるは答えなかった。さすがの佐貫もみちるの「初恋」の話までは聞いていない。ただ、口を滑《すべ》らせてしまうような状況だったことは理解した。
「……どうする?」
それは「助けが要るんだったら俺《おれ》も協力するぞ」という意味だったが、みちるは首を横に振った。
「どうにかする」
と、彼女は言った。
「あたしが引き受けたんだし」
「そうか。もし……」
それは「もしなにかあったら言ってくれ」という申し出だった。みちるは頷《うなず》いた。
「ありがとう」
駅前に近づくにつれて、人通りが増えてきた。加賀見《かがみ》駅は私鉄とJRが両方とも通っている乗り換え駅で、駅前では再開発が進んでいる。デパートとデパートの間にある細い路地を抜けると、加賀見駅の改札口が見えた。佐貫は加賀見駅から私鉄で一駅離れたところに住んでいる。
「お前んち、駅の方じゃないだろ。なんでこっち来たんだ」
と、佐貫は言った。
「駅で姉さんと待ち合わせなのよ。今日、こっちに帰ってくるから」
あれ、と思いながら佐貫は横断歩道を渡る。なんとなくみちるの答えに引っかかっていた。
「お前の姉さんて、推薦《すいせん》で東京の女子大入ったんだよな。一人暮らししてるんじゃなかったか」
「してるけど」
「大学って今が休みなのか?」
一瞬《いっしゅん》、みちるは答えをためらったようだった。
「違うみたい」
「じゃあ、何しにこっちに」
その時、派手《はで》なマーブル模様の柄《がら》のシャツを着た、金髪の大男がどこからかすっと現れた。シルバーの指輪《ゆびわ》をはめた異様にごつい手には、なぜか書類のはさまったバインダーが握られている。
「よお、ちょっと聞きてえことあんだけどよ」
二人とも男の方を見なかった。駅前でこんな風に近寄ってきて、こんな風に話しかけるのはキャッチセールスに決まっている。
「つか、五分でいいんだけど。な?」
それにしても口の悪いキャッチだ、と佐貫《さぬき》は思った。せめて敬語ぐらい使え。二人は改札口の方へ歩いていこうとした。
「んん? ちょい待て、そこの小太り君」
佐貫の顔色が変わる。隣にいたみちるも思わずはっと息を呑んだようだった。「デブ」系のすべての単語は佐貫への禁句だ。高校に入ったばかりの頃《ころ》、「太ってない、がっちりしてるだけだ」と主張して、ケンカになったことがある。彼は足を踏《ふ》ん張って、大男の顔をにらみつけようとして——。
「やっぱそうだ。なんつったっけ君は。タヌキ?」
「……佐貫です」
裕生《ひろお》の兄の雄一《ゆういち》だった。家に遊びに行った時、何度か顔を合わせたことがある。
「そのネタ、前にも使いました」
「あー、わりいわりい。俺《オレ》ァ人の名前|憶《おぼ》えんの苦手《にがて》でよ」
ギャグじゃないのか、素《す》で間違えたのか、と激《はげ》しくツッコみたいところだったが、半袖《はんそで》から伸びた長い腕を見て佐貫は口をつぐんだ。
間近で見ると、見事に筋肉が引き締《し》まっていた。おそらく打撃《だげき》系の攻撃の方が得手《えて》だろうが、この筋肉なら柔道の有段者とも渡り合えるかもしれない。裕生の話ではまともに武道を習っていたことはないそうだが、身のこなしにもまったく隙《すき》がない。佐貫も運動神経が鈍いわけではないが、この男が相手では五秒と保たない気がする。
「で、そっちの彼女……なんだ、西尾《にしお》の妹じゃねーか。そういやあいつからメール来たけど、西尾もこっち帰ってくんだったよな?」
「……はい」
そう答えるみちるの表情になぜか苦《にが》いものが混じる。
「ふ————ん」
雄一はかりかりと顎《あご》をかきながら首をひねる。
「俺《おれ》はフィールドワークやってっけどよ、君んとこの姉貴《あねき》はなにしに」
俺と同じこと言ってる、と佐貫が思った瞬間《しゅんかん》、
「……先輩《せんぱい》」
と、背後から声がかかった。三人が同時に振り向くと、ベージュのロングスカートと水色のカーディガンを着た、十八、九の女性が立っていた。手には小さめのボストンバッグを下げている。すれ違う人が振り向くほどの美人だった。
去年、茶道《さどう》部の部室で、何度か佐貫も顔を合わせたことがある。みちるの姉の西尾|夕紀《ゆき》だった。
「あ、姉さん」
と、みちるは言い、
「こんにちは」
と、佐貫《さぬき》も言ったのだが、二人とも見事に無視された。彼女は藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》の方だけを見ている。
「おー。西尾《にしお》か。偶然だなオイ。今、お前の話してたんだぜ」
雄一は前歯を見せてにかっと笑う。どちらかは差し歯のはずだが、それを知らなくとも相手を怯《おび》えさせるには十分な迫力だ。しかし、夕紀《ゆき》の反応は違った。
「え? や、やだ。なんの話してたんですか?」
ぽっと頬《ほお》を赤らめながら、恥ずかしそうに目を伏せる。
「いやー、まだなんにも。お前、ちょっと痩《や》せたか? そういや顔見んの久しぶりだよな。ってかお前が私服着てっとこ初めて見たかもな」
雄一が遠慮《えんりょ》なく夕紀を眺め回すと、彼女の顔がさらに紅潮《こうちょう》した。
「……あの、ヘンですか?」
「ん? あー、いいんじゃね? 似合ってんよ」
佐貫にはものすごくやる気のない誉《ほ》め言葉に思えたが、
「そうですか……よかった」
と、夕紀ははにかむように微笑《ほほえ》んだ。
佐貫は事態の本質を見切った気がした。そういえば去年、裕生《ひろお》が茶道《さどう》部に入部した頃《ころ》、西尾夕紀について、
「『藤牧《ふじまき》先輩《せんぱい》の弟だから』って、すごく親切にしてくれるんだよ」
と、嬉《うれ》しそうに話していた。そりゃお前の兄貴《あにき》は野獣《やじゅう》みたいなもんだからな、大事にしないと後が怖《こわ》いんじゃないか、と内心思ったものだが、今の態度を見ると、そうではなかったのではないか。
この美女は、野獣が好きなのではないか。
好きな相手の弟なら、親切にするのも当たり前である。
「行こう、姉さん」
あからさまに不機嫌《ふきげん》な顔でみちるが言う。
「みちるちゃん、ちょっと待って」
それから雄一に向き直ると、夕紀は早口で言った。
「メールにも書きましたけど、わたし、先輩に話したいことがあるんです」
「あー、そういやそうだったな。なんの話だ? 言え」
夕紀はあたりを見回す。ここではちょっと、という意味だろう。そういうことか、と佐貫は思った。どうして大学を休んでまで加賀見《かがみ》に戻ってきたのか——雄一を追ってきた、ということなのだろう。みちるが言いたがらなかった気持ちも分かる。姉の好きな相手がよりによって元「加賀見《かがみ》最強の漢《おとこ》」では、憂鬱《ゆううつ》にもなるだろう。
「あー、ここじゃアレか。じゃあ、今度うち来な。昼間|誰《だれ》もいねえから」
佐貫《さぬき》はみちるの顔に自分と同じ驚愕《きょうがく》が浮かぶのを見る。一体、この男はなにを考えているのか。ひょっとしてなにもかも分かった上で、誰もいない自宅にこの美人を連れこもうとしているのではないだろうか。
「姉さ……」
青ざめたみちるがなにか言いかけたが、夕紀《ゆき》は大きく頷《うなず》いていた。
「はい……じゃあ、後で連絡していいですか」
「おう、携帯《けいたい》にかけろや」
彼女はみちるに腕を引きずられながら、雄一《ゆういち》に何度も頭を下げながら去っていった。雄一はぶんぶん手を振って夕紀を見送っていたが、ふと独《ひと》り言のように呟《つぶや》く。
「……うーん。話ってなんだ?」
佐貫はぎょっとして雄一の顔を見上げる——この男はどこまで本気なのか。
「恋の告白じゃないすか」
佐貫は見たものをそのまま言葉にしただけだったが、ぶわっはっはっは、と雄一は爆笑《ばくしょう》しながらさかんに彼の背中を叩《たた》いた。誤魔化《ごまか》しではなく本気で笑っているようで、
「あーあ。お前、本当に面白《おもしれ》えなあ」
と、言いながら涙を拭《ふ》いている。どうやら、本当に何も気づいていないらしい。ダメだこれは、と佐貫が内心諦《あきら》めたところで、雄一は急にきりっとした顔になった。
「さて、タヌキ君よ」
「佐貫。しつこいですよ」
「うちの裕生《ひろお》はまるでダメ男だけどよ、お前は顔も広そうだし、抜け目もねえだろ。そんなグレート佐貫君に聞きてえことが」
「なんですか、急に」
「カゲヌシの噂《うわさ》、お前なら聞いたことあんだろ」
ああ、と佐貫は思った。雄一がこのあたりの噂話を聞いてレポートを書こうとしている、というのは裕生から聞いていたが、カゲヌシの話だとは思わなかった。
「『カゲヌシ』っていうのがほんとは怪物の名前っていうあれですよね。家の中に大きな卵みたいなもんが現れて、そこから出てきた怪物に影《かげ》を踏《ふ》まれると動けなくなって、そいつに食われて死ぬとか」
雄一はバインダーに挟まれた紙に書きこもうとしていたが、ふと不審《ふしん》げに顔を上げる。
「お前、その卵の話、どっから聞いた?」
「卵?」
「いや、人によって微妙に内容の違いはあんだけどよ、話に『卵』が出てくるのって相当レアだぞ。『卵』の話したのって俺《おれ》の知ってる限りだと、うちの近所に住んでる加賀《かが》高の一年だけだぜ」
佐貫《さぬき》は考えこんだが、誰《だれ》から聞いたのかは思い出せなかった。
「うーん。俺も学校の中で聞きましたよ。確か部活の……誰だっけな。結構、この話知ってるヤツいますからね」
こういう時に部活の掛け持ちが多いと逆に困る。どの部室で聞いたのだろう。
「加賀高の中で広まってんのかな? まあいいや」
さらさらとボールペンを走らせながら雄一《ゆういち》は言った。
「『結構知ってるヤツがいる』ってことは、お前の他《ほか》にもこのウワサ知ってるヤツがいるってことだよな」
「ええ。まあ」
「そいつァいい」
雄一はバインダーに挟まれた用紙を何枚か抜き取って、佐貫の手に押しつけた。
「その知ってそうなヤツにウワサの内容、聞いといてくんねえか。この用紙に書きこんで、裕生《ひろお》にでも渡してくれりゃいいからよ。『どうやったらカゲヌシから逃げられんのか』なんてのが採取できるとよりナイスだ」
「ええ?」
「お前みてえな切れモンじゃねえと頼《たの》めねえんだ。な?」
切れ者、と言われて悪い気はしなかった。それに、噂《うわさ》話を集めるというのは今までやったことがない。佐貫のマニアックな好奇心を刺激《しげき》した。
「分かりました。でも、集めた結果とか、俺にも教えて下さいよ」
「おう。そりゃ全然構わねーぞ。正直、だいぶ面白《おもしろ》くなってきたとこだ。いくつか対抗神話っぽい話も聞けたしな」
「対抗神話?」
聞いたことのない言葉だった。
「エドガール・モランってヤツが作った用語なんだけどな。まあ、こういうウワサが流れると、それを打ち消しちまうような、別の根も葉もねえウワサが流れんだよ。『こういうウワサは嘘《うそ》で、ほんとは誰々の陰謀《いんぼう》だ』みたいなウワサだ。UFOの目撃《もくげき》情報とかでもあんだろ? 宇宙人の乗りモンじゃなくて、ナチスの残党が作った秘密兵器だ、とかな」
「ふーん。で、『カゲヌシ』のナントカ神話って?」
「いや、それがよ」
にやにやしながら雄一は言った。
「人間が怪物に食われるってのがほんとにある話で、誰かがそれを『カゲヌシ』のウワサにして誤魔化《ごまか》してるってんだよ。笑っちまうだろ?」
「怪物がほんとにいるっていうんですか?」
雄一《ゆういち》は頷《うなず》いた。
「どっかにバケモンが住んでる世界があって、そこでバケモン同士の仲間割れがあったんだってよ。で、その生き残りがこっちに来てんだそうだ。そいつらは体を持ってねえから、まずはこっちの世界の人間に取りつく。で、取りついた人間を操《あやつ》って、他《ほか》の人間をとっつかまえて食ってると」
佐貫《さぬき》はぽかんと口を開けて雄一を見る。
「デンパの見本みたいっスね。それ、信じてる人がいるんですか?」
「バカみてえだろ?」
と、雄一は言った。
「んなバケモンいたら見てみてえよな。マジで」
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