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シャドウテイカー 黒の彼方13

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:12「あの、大丈夫ですから」もう十回ぐらい聞いた、と裕生《ひろお》は思った。「ダメだよ。誰《だれ》かに付き添ってもらうよう
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「あの、大丈夫ですから」
もう十回ぐらい聞いた、と裕生《ひろお》は思った。
「ダメだよ。誰《だれ》かに付き添ってもらうようにって、さっき言われたじゃないか」
裕生もさっきから同じ答えを返している。葉《よう》と裕生は加賀見《かがみ》団地に向かって歩いている。葉のおでこには大きなバンソウコウが貼《は》られている。そのせいか、なんとなく普段《ふだん》より子供っぽく見えた。
「荷物、自分で持ちますから」
大きめの葉のバッグは、裕生が肩にかけている。
「いいって。別に重くないし」
裕生は結局、午後の授業を早退した。志乃《しの》と話した後、教室に戻ったところで携帯《けいたい》にみちるから連絡が入った。慌てて保健室に行くと、葉がベッドに座っている。中庭で意識《いしき》を失って頭を打ったので、念のため早退して病院へ行くと言う。
葉の自宅には両親がいない。近所に住んでいますし家族みたいなもんですから、と裕生が付き添いを申し出たのだった。保健室を出る時、保健医に裕生だけが呼び止められた。
「彼女のことなんだけど」
と、中年の保健医は真顔で言った。
「怪我《けが》は大したことないと思うけど、あまり体の調子がよくないみたいね。食欲もあまりないって言ってたから、気をつけてあげて」
しょっちゅう顔を合わせているので逆に気づかなかったが、言われてみれば最近少し痩《や》せた気がする。制服が夏服になったので印象が変わったのかもしれないと思っていた。
「傷、まだ痛む?」
「もう平気です」
葉は首を振る。額《ひたい》の白いバンソウコウが揺れた。病院では特に異常はないと言われたらしいが、少し足取りが鈍くなっている。裕生は彼女のペースに合わせて、ゆっくり歩いた。
二人は加賀見団地の入り口に辿《たど》り着いた。マッチ箱のような無骨なコンクリートの建物が、細い道路の両側にずらりと並んでいる。コンクリートの手すりの向こうで、無数の洗濯《せんたく》物がはためいている。
時間帯のせいなのか、人通りはほとんどない。子供の頃《ころ》から見慣《みな》れている風景だったが、目に付かないところで少しずつ変わってきている。建物が古くなるにつれて、コンクリートの壁《かべ》に汚れが目立つようになり、壁に書かれた棟《とう》の番号は薄《うす》くなりかかっている。雨戸が閉まったままの空《あ》き部屋も増えていた。
裕生《ひろお》たちの住む棟のすぐ脇《わき》に、団地の子供たちが遊ぶための小さな公園がある——「小さい」というのは、今だからそう見えるだけかもしれない。鉄棒もブランコもすべり台も、昔はもっと大きかった気がする。それらの遊具はどれもペンキが剥《は》げかかり、赤く錆《さ》びが浮いている。最近、遊んでいる子供もあまり見かけない。加賀見《かがみ》団地の中で、忘れられた場所になりつつあるようだった。
「子供の頃、ここでよく遊びましたね」
突然、ぽつりと葉《よう》が言った。彼女が自分から話しかけてきたのは久しぶりの気がした。
「そうだね」
ゾウをかたどったすべり台の脇に、向かい合って座る二人乗りのブランコが見えた。
「雛咲《ひなさき》、子供の頃あのブランコを怖《こわ》がってたね」
と、裕生は言った。
「……そんなことないですよ」
と、葉はむすっとした顔で言った。
「え、でも兄さんがサービスのつもりで、雛咲乗せて力いっぱい揺さぶったじゃない。本気出したからブランコがぎしぎし言ってて、最初は雛咲も喜んでたけど、あんまりすごい勢いだから怖がっちゃって」
「怖がってません」
「でも泣いてたよ。二度とこのブランコ乗らないって」
「泣いてないです」
ぷくっと葉の頬《ほお》がふくれた。子供の頃の葉の姿と重なる。裕生は可笑《おか》しくなった。昔から、葉はこんな風に強情《ごうじょう》を張るところがある。裕生は少しからかってみたくなった。
「あれ、雛咲が小学校あがるちょっと前だよね? しまいにはあの兄さんがおろおろしてさ、ぼくのところにどうにかしてくれって頼《たの》みに」
「違うの! あの時は裕生ちゃ……」
そこまで言いかけて、葉は慌てたように口を閉じる。それから、普段《ふだん》の顔つきに戻って言った。
「あの時、一緒《いっしょ》に乗ってくれる約束だったのに、先輩《せんぱい》が降りちゃったんです」
「あれ、そうだっけ」
裕生は遠い記憶《きおく》の断片を探《さぐ》る。そういえば、お前も乗ると重いから降りろ、と雄一《ゆういち》に命令された気がする。しかし、それはどちらかというと裕生《ひろお》ではなく雄一《ゆういち》の責任ではないだろうか。第一、泣いたことには結局変わりがない。慰《なぐさ》めるのに一苦労した気がする。おうちに帰ろう、送っていくから、と裕生が言って、それでようやく。
(おててつないで)
急に幼い葉《よう》の声が耳元で蘇《よみがえ》って、裕生はどきりとした。
あの時、べそをかいている葉の手を握って、団地まで連れて帰ったのだった——まだ、葉と裕生のどちらの家にも母親が待っていた。
そして、今はもういない。
「消えますよね」
突然、葉の口からそんな言葉が零《こぼ》れた。思わず裕生は彼女の顔を見る。
「なにが?」
「ぜんぶ」
葉は奇妙にはっきりと答えた。
「消えちゃうんです。前からあったものも、まだあるものも。空も、人も、風も、みんな、全部なくなって、わたしだけ残るんです」
「……雛咲《ひなさき》」
葉の両親はなんの前触《まえぶ》れもなくいなくなってしまった。ちょうど裕生が病院にいた時期だ。朝、彼女が学校へ出かけて、帰ってくると母親がおらず、そしていくら待っても、父親も会社から帰ってこなかった。
それ以来、「雛咲」の表札がかかった団地の部屋に、葉以外の人間が帰ってきたことはない。誰《だれ》にも行方《ゆくえ》不明の理由は分からなかった。夫婦ともどもなにかの犯罪に巻きこまれたという噂《うわさ》もあった。はっきりしているのは、その時以来葉の両親を見た者は誰もいない、ということだけだった。
「でも、本当はそうじゃなかったのかもしれないって思うんです。前にあったものなんか本当は何もなくて、錯覚《さつかく》だったのかも……だから簡単《かんたん》になくなっちゃう。この世界に最初からわたし一人だけなのかも」
裕生は言葉を失った。ずっと近くにいると思っていたのに、彼女のことをなにも知らなかった気がした。いつのまにか二人は立ち止まって向かい合っていた。
「……雛咲はずっとそんなこと考えてたの?」
ようやく、裕生はそれだけ言った。葉はこくりと頷《うなず》く。
「わたし、そう思うとかえって安心するんです。最初から一人だったら、あきらめがつくから。団地のあの部屋もいつなくなってもいい。大事なものは、持たないようにしてるから」
彼女は寂しげな笑みを浮かべる。裕生の胸がきりっと痛んだ。
ふと、葉は裕生の顔を見上げる。
「あ、でも、ひとつだけ……」
彼女がその先を言いかけた時、
「おーおーおーおーおー! なーにやってんだお前らは!」
聞き覚えのある大声が迫ってきた。そちらを見るまでもなく、誰《だれ》が来たのか分かった。見つめあっている二人の肩に、雄一《ゆういち》はぽんと大きな手を置いた。
「なんだなんだなんだ? 二人|揃《そろ》って珍しく学校フケやがったか? 今さらデビューか? ちょっと遅す——」
雄一はふと葉《よう》の額《ひたい》のバンソウコウに目を止めて、顔色を変えた。そしてがばと葉の両肩をつかむ。小柄《こがら》な葉の体は、それだけでほとんど地面から浮いてしまった。
「葉、誰にやられたか言え。今すぐそいつオトしてきてやっから」
「兄さん!」
裕生《ひろお》は慌てて葉から雄一を引き剥《は》がした。
「違うよ。学校で倒れただけだってば!」
彼は一通り事情を説明する。雄一はほっと安堵《あんど》の息を洩《も》らした。
「なんだ。気をつけろよまったく。心配すんじゃねーか」
雄一は葉の柔らかい頬《ほお》をむにっとつまんだ。ぴしりと裕生がその指を払う。さっきの深刻な話が嘘《うそ》のように、葉は穏《おだ》やかな表情になっている。
「で、お前は葉《よう》を送ったら学校戻んのか?」
と、雄一《ゆういち》が裕生《ひろお》に聞いた。
「ううん。早退届出したし、ちょっと葉の様子《ようす》見て、家に帰るつもりだけど」
「そーか。お前、しばらく葉んとこで待ってろ。ウチに近寄るな」
「は?」
「西尾《にしお》がこれからウチに来るんだよ」
「西尾……ってまさか西尾|先輩《せんぱい》?」
裕生はどきっとした。そういえば、加賀見《かがみ》に戻ってくるかもという話を、みちるから聞いていた。
「せっかくだから久しぶりに一発茶でも点《た》てようかと思ってよ。俺《おれ》の茶道具、まだ押し入れに入ってんよな? まさか俺の備前《びぜん》の茶碗《ちゃわん》、捨ててねえだろうな」
「捨ててないけど……」
裕生はそこではじめて、兄が茶菓子らしい包みを持っていることに気づいた。多分《たぶん》、茶席のために買ってきたのだろう。
「まあ、盆略点前《ぼんりゃくてまえ》だからあんましこだわんねえけど」
「ちょっと待ってよ。西尾先輩がなにしにうちに来るの?」
夕紀《ゆき》は確かに雄一を尊敬しているようだったし、兄が夕紀と連絡を取り合っていることは知っている。しかし、二人きりで会うことはあまりなかったはずだ。
「俺に話があるんだってよ。なんだろうな、話って」
兄は屈託《くったく》なく笑っている。
裕生の胸にもやもやと疑念が湧《わ》いた。そういえば夕紀は「裕生くんは藤牧《ふじまき》先輩みたいなお兄さんがいていいよね」と、口癖《くちぐせ》のように言っていた。「藤牧先輩は本当に頼《たよ》りになる人だと思う」という言葉も聞いた気がする。夕紀は本気でそう言っているようだったので、本当に兄弟やってると色々シャレにならないですよ、とは言いかねた。
「心あたりとかないの?」
「全然。とにかく、人前じゃ話せねえって感じでよ。なんか最近、電話でもアイツもじもじしてるっつーか、緊張《きんちょう》してるっつーか」
「……」
この時になってようやく、裕生は佐貫《さぬき》やみちると同じ結論に達したのだった——あれはただの信頼《しんらい》とか尊敬の言葉ではなかったのではないだろうか。
「ま、いいや。聞きゃ分かんだろ。とにかくそういうことだから」
三人は団地の階段の前に来ていた。裕生たちは一番上の階に、葉は一階に住んでいる。突然、雄一はびしっと二人に向かって人差し指を向けた。
「葉は大人《おとな》しく寝ろ! 裕生はなんかメシ作ってやれ!」
そして葉《よう》が返事する間も、裕生《ひろお》が反論する間《ま》も与えずに、
「じゃあな————!」
と、言いながら、コンクリートの階段を二段飛ばしでばたばたと駆《か》け上がっていく。そして、最上階のドアがばたん、と音を立てて、それっきり静かになった。
(……なんなんだろう、あの人は)
あまり考えても仕方がない気もした。それよりも夕紀《ゆき》は本当に兄に告白しに来るのだろうか。どういう会話が交わされるのか、見たいような見たくないような複雑な気持ちだった。
「…………あの」
急に話しかけられて、裕生は葉を振り返った。彼女は鍵《かぎ》を出して、一階のドアを開けようとしている。
「え?」
「食事、自分で作りますから」
背中を向けながら葉は言った。ドアが開く。ひょっとして、部屋の中に入らないでほしいという意味かもしれないと思った。考えてみれば、女の子の一人暮らしの部屋だ。幼馴染《おさななじみ》とはいえ、気軽に上がれると思うほうがどうかしていた。
「雛咲《ひなさき》、あのさ」
裕生は部屋に上がるか上がらないかよりも、さっきの葉の話が気になっていた。もう一度あの話をしておいた方がいいような気がする。
「あの、さっき言ってたことなんだけど」
玄関の土間に足を踏《ふ》み入れたまま、葉は動かなかった。
「ぼく、思うんだけど……雛咲?」
突然、膝《ひざ》ががくんと折れて、葉は玄関に倒れてしまった。
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