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シャドウテイカー 黒の彼方14

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:13 団地ではどこのキッチンもつくりは同じだ。流しに立っていると、使っている道具は違うのに、妙な既視感《きしかん》を覚える
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13
 団地ではどこのキッチンもつくりは同じだ。流しに立っていると、使っている道具は違うのに、妙な既視感《きしかん》を覚えることがある。裕生は葉の家のキッチンにいて、料理に使った道具を洗っているところだった。
裕生の料理は手早い。慣《な》れない場所での料理だったが、ほとんど準備を終えていた。鍋《なべ》がガスコンロにかけられている。もう少しで米も炊《た》けるところだった。
律儀《りちぎ》に食事を作っているのは、雄一《ゆういち》に言われたからだけではない。倒れた葉を奥の部屋に寝かせてから、裕生はキッチンに入った。食欲がないらしいという話も聞いていたし、なにか今夜食べるものがあるのか、見ておこうと思ったのだった。
調理台の上に大きな鍋があった。
蓋《ふた》を開けた裕生《ひろお》は思わず首をひねった。ぐたぐたに煮こまれたなにかがそこにあった。原型をとどめていない材料がほとんどだったが、かろうじてウィンナーと豆腐《とうふ》が入っていることだけは確認できた。なんの料理なのか、そもそもこれが料理と呼べるのか、裕生には分からなかった。
その上、冷蔵庫にも入れずに放置されていたせいか、鍋《なべ》の中身はかすかな異臭《いしゅう》を放っていた。迷った末に彼はビニール袋に鍋の中身をすべて空《あ》けてしまった。料理が一通り終わったら、捨てに行くつもりだった。
今、裕生が作っているのは肉じゃがだった。多分《たぶん》、葉《よう》はあの謎《なぞ》の料理を今夜も食べるつもりだったのだろう。それを勝手に捨ててしまって、何もせずに帰るのは気が引けた。
裕生は落とし蓋をめくって、最後の味見をする。
「……うん」
そして火を止めると、葉の様子《ようす》を見に行くためにキッチンを出た。
 雛咲《ひなさき》家は裕生の家と間取りはまったく変わらない。居間には藤牧《ふじまき》家と同じようにテレビと座卓があり、窓際ではレースのカーテンが揺れている。きちんと整理されて、掃除《そうじ》も行き届いている。しかし、誰《だれ》かの別荘に来たような、よそよそしい感じがする。人が生活している匂《にお》いがほとんどない。葉は掃除をしているだけで、この部屋にいることはほとんどないのだろうと思った。
自分たちの部屋と同じ建物の中にあるとは思えない、寂しい部屋だった。何年もの間、ここに一人で住んできたのかと思うと胸が痛んだ。
葉の部屋は六畳の和室だった。飾りのないベッドと机があり、畳には白いラグマットが敷《し》いてある。やはりきちんと整理されているが、ここだけは人の寝起きしている気配《けはい》がする。あまり見てはいけないと思いながら、裕生はぐるりと部屋の中を見回す。
(あれ?)
裕生は机の上に目を止めた。この部屋には不釣合《ふつりあ》いな、黒いアタッシュケースが置かれている。多分《たぶん》、葉の父親の持ち物に違いない。どうやら鍵《かぎ》がかかっているらしい。裕生は思わずケースを持ち上げてみる——ひどく軽い。ひょっとすると、なにも入っていないのかもしれない。
(どうしてこんなところにあるんだろ)
裕生が首をひねった時、突然背後から葉の声が聞こえた。裕生はびくっと体を震《ふる》わせてケースから手を離す。振り返ると、葉はベッドに横たわったまま、体を裕生の方に向けている
「ごめん、つい触っちゃって……」
と、言いかけて裕生は口をつぐんだ。葉は目を閉じたままだった。
「……雛咲?」
耳を澄《す》ませたが、規則正しい呼吸が聞こえるだけだった。裕生はベッドに屈《かがみ》みこんで、間近《まぢか》で葉《よう》の顔を見る。今のはただの寝言だったらしい。額《ひたい》のバンソウコウに前髪がかかっている。それを払おうと指を伸ばすと、顔の前で揃《そろ》えていた葉の両手が動いた。
「うあ」
裕生《ひろお》は情けない声を上げる。温かい葉の手ががっちりと裕生の手をつかんでいた。反射的に手を離そうとした瞬間《しゅんかん》、彼女の口がもごもごと動いた。
(おててつないで)
裕生の体から力が抜けた。あきらめたように自分の右手を葉に預けて、裕生はベッドの脇《わき》に座りこんだ。目が覚めるまでそばにいようと思った。
カーテン越しに窓の外を見ていると、裕生はとめどなく自分の考えの中に沈んでいった。入院している時、こんな風によく窓の外を眺めていた。あの時はベッドにいるのが自分で、その脇にいるのが葉だった。
学校帰りの葉とぽつりぽつりと話しているうちに、彼女がベッドに伏せて眠ってしまったことがある。あれは学校の入学式があった頃《ころ》だったと思う。葉の両親はまだいなくなっておらず、みちるともまだ出会っていなかった。
裕生はベッドの上で、ノートとシャーペンをいじくっていた。見舞《みま》いに来た父親が買いこんできた文房具の中に、何故《なぜ》か無地の小さなノートが混じっていた。勉強に使うには不向きで、裕生は暇《ひま》つぶしになにか書いてみることにした。
最初はただ自分の見た夢を書き留めようとしただけだった。
 黒い海がありました。
その少年は、波に揺られてただよっていました。
 裕生はそこでシャーペンを止める。自分を主人公にしたお話を書いているようで、なんだか恥ずかしかった。どうしよう、と思った時、ふとベッドに顔を伏せて眠っている葉が目に入る。
考えてみれば、別に夢の内容をそのまま書かなくてもいい。
いっそ、主人公を変えてみようと思った。
女の子がいい、と裕生は思った。ちょっと視点も変えてみよう。
 黒い海がありました。
海のむこうにちいさな島があります。その島には、女の子がすんでいました。
 なんとなく、これなら書けそうな気がした。葉が眠っていることを確認しながら、彼はさらに続きを書いた。
 気がついたときから、女の子はずっとひとりだったので、名前がありませんでした。
だから、コトバも知りませんでした。
ある日、海の向こうから砂浜にいままで見たこともないものが流れつきました。
それは、
 彼は考えながらページをめくる。書いている裕生《ひろお》にもなんなのか分からなかった。だから、そのまま書くことにした。
 見たことがないものなので、女の子にはなんだか分かりませんでした。
サカナでもケモノでもトリでもありませんでした。
 微妙にバカっぽい文章の気もしたが、まあいいやと思った。誰《だれ》かに読ませるつもりもないのだから。
 女の子が近づいていくと、そのなにかはきゅうに声をあげました。
女の子はおどろいてにげてしまいました。
かみつかれるかと思ったのです。
だけど、ほんとうはそうではありませんでした。
そのなにかは、女の子を呼んでいたのです。
(……それからなんだっけ)
団地の一室で、葉《よう》の手を握りながら現在の裕生は考える。どれぐらい時間が経《た》ったのか分からなかったが、外の日はだいぶ傾《かたむ》いたようだった。
 その時書いたのはそこまでだった。葉が目を覚まして、ノートの中身を読みたがったのだ。
他《ほか》の人に見せないでよ、と言いながら書いたところまでを彼女に見せた。
葉は裕生の書きなぐった文章を読んでいたが、やがて、
「おもしろい」
と、真剣な面持《おもも》ちで言った。
「つづき、書いて」
「うん。いいよ」
軽い気持ちで裕生は答えた。とにかく時間は有り余っていた。それからは気が向くと話の続きを書いていた。流れ着いてきた「なにか」と主人公が仲良くなるという展開にした気がする——はっきりとは思い出せない。確か、ちゃんとした結末もつけられなかったはずだ。
というのも、退院前にノートがどこかに行ってしまったからだ。どうやら、看護婦《かんごふ》がゴミと間違えて捨ててしまったらしい。手術前の検査や診察で病室を空《あ》けることが多く、ばたばたしていた頃《ころ》だった。
「……えっ」
ベッドの上から葉《よう》の声が聞こえて、裕生《ひろお》は我に返った。右手が突然自由になる。
「あ、雛咲《ひなさき》」
振り向くと、葉がベッドの上に跳ね起きていた。これ以上ないほど目を見開いて、きょろきょろとあたりを見回している。
「具合、大丈夫? 頭痛くない?」
葉は首を横に振った。
「玄関で倒れたから、ここまで運んできたんだよ。貧血みたいだったから、とりあえず様子《ようす》見てたんだけど」
葉はベッドの上に投げ出されたままの裕生の右手を見ている。それと自分の両手を何度も見比べた。
「わたし、なにか言ってました?」
消え入りそうな声で葉は言った。
「おて……」
裕生は口をつぐんだ。それを言ってしまうのは酷《こく》というものだ。
「え。なにも言ってないよ」
「ほんとですか?」
裕生は嘘《うそ》が苦手《にがて》である。あまり追及されるとボロが出るかもしれない。とりあえず話題を変えることにした。
「雛咲、なんか夢見てた?」
かっと葉の顔が赤くなった。
「……見てません」
他人のことは言えないが、葉も嘘は苦手だと裕生は思う。立ち上がって時計を見ると、この部屋に入ってから一時間近く経《た》っていた。
「時間もあったし、一応ごはん作ったよ」
「すいません」
葉もベッドから降りた。
「お腹《なか》すいてる?」
「……あまり。でも、いただきます」
彼女の顔色はあまりよくない。最近、食欲がないらしいという話を思い出した。葉は部屋の真ん中に立ち、白いYシャツの襟元《えりもと》に手を添えて裕生《ひろお》を見上げている。どうかしたの、と聞こうとした時、
「あの……着替えますから」
「あ、ご、ごめん」
裕生は慌てて部屋を出る。居間に戻った時、裕生はふと葉《よう》の作った謎《なぞ》料理のことを思い出した。ゴミ袋に入ったまま、キッチンに置きっぱなしになっている。今のうちに捨ててしまった方がいいかもしれない。
「雛咲《ひなさき》、ちょっと外行ってくるから」
裕生はゴミ袋を手に、スニーカーをはいて外へ出た。
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