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シャドウテイカー 黒の彼方19

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:17 警察署《けいさつしょ》に裕生《ひろお》を迎えに来たのは雄一《ゆういち》だった。しばらくの間、刑事となにやら話していた
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 警察署《けいさつしょ》に裕生《ひろお》を迎えに来たのは雄一《ゆういち》だった。しばらくの間、刑事となにやら話していたが、やがて廊下《ろうか》で待っていた裕生に近づいてきた。
「とりあえず今日は帰っていいってよ」
と、言いながら肩を叩《たた》いた。二人は玄関に向かう。
「ここも変わってねえなあ」
普段《ふだん》と変わらない声で雄一は言った。
「警察には何度も来てっけど、迎えに来たの初めてだな」
裕生はなにも言わなかった。事情|聴取《ちょうしゅ》を受けてひどく疲れていた。虫が消えた後、すぐに彼は警察に通報した。あの屋上で見たものについて、裕生は包み隠《かく》さず話した。虫が死体を燃やして食っていたことや、「ヒトリムシ」と名乗ったもののことも。
話を聞いていた刑事はあえて否定はしなかったが、ただ「今日は疲れてるみたいだから、少し休んでもらってから話を聞いてもいいんだよ」と言った。どうやら、警察は単なる放火だと考えているらしかった。死体が残っているわけではないから、当然かもしれなかったが、むっとした裕生はつい火事の現場で同じ虫を見た話をしてしまった。
刑事の顔色が変わった。どうして火事の現場を君が知ってるのかね、という話になり、上がりこんで部屋の中を見たことも話さざるを得なかった。その後は事情聴取というより、ほとんど説教に近いものだった——人の家に上がりこむのは法律で禁止されているんだよ、君は想像力が豊かなようだけれど、などなど。
頭のおかしいオカルトマニアだと思われたのか、ひょっとすると放火事件の犯人だと疑われているかもしれない。刑事は雄一にも裕生の言ったことを話したのだろう。
二人は警察|署《しょ》の外へ出て、加賀見《かがみ》団地へ向かって歩き出した。雨はすでに止《や》んで、厚い雲の間から傾きかけた太陽が見えた。裕生は屋上での出来事を思い出した。あの時、裕生に迫っていた虫の群れは、雨を避《さ》けるように引いていったように見えた——もし、雨が降り出さなければどうなっていただろう。
「親父《おやじ》もすぐ帰ってくるってよ。なにがあったのか知らねえけど、無事でよかったな」
雄一は珍しくしんみりした声で言った。
「大変だったみてえだな。なんだ、謎《なぞ》の昆虫軍団が人間を食ってたんだって?」
「どうせ信じてないくせに」
「いや、お前がウソついたなんて思ってねえよ」
「でも、どうせ頭がおかしいとか思ってるんだろ」
雄一《ゆういち》は突然、人差し指でぴしっと弟の額《ひたい》を弾《はじ》いた。
「いたっ」
「兄貴の俺《おれ》が今までお前の話を信じなかったことがあるか」
「……」
雄一は真剣な顔で言った。正直なところ、あったような気もしたが、自信たっぷりにそう言われると反論できなかった。
「俺は疑ってるわけじゃねえ。ただ、お前の話がヘンだって思ってるだけだ」
「……同じだよ」
「ってか、お前なんか隠《かく》してんだろ? 俺、警察《けいさつ》にウソついてるヤツはすぐ分かんだぞ。自分の経験《けいけん》でな」
裕生《ひろお》は言葉に詰まった。確かに虫のことは話したが、葉《よう》のことには一言も触れていない。あの場にいた理由については、「学校をサボったので人気《ひとけ》のないところにいた」と話しただけだった。
葉を追ってあの病院に着き、そしてあの「ヒトリムシ」と名乗るあの「なにか」に出会った。あの声は知っている誰《だれ》かに似ていた気がする——深く考えるのが恐ろしかった。
「お前、なんで幽霊《ゆうれい》病院にいた?」
いきなり聞かれて、裕生はどきりとした。
「警察には学校サボったって言ったんだろ」
「ほんとにサボったんだよ」
「バーカ。なんでサボったんだって聞いてんだ。お前昼休みに急に出てったんだって? さっきタヌキから電話で」
「佐貫《さぬき》」
「んなことはどうでもいいんだよ! なんか様子《ようす》が変だったっつってたぞ。お前にかけても携帯《けいたい》の電源切ってっから、あいつ心配してわざわざ俺に電話してきたんだぜ」
そういえば、あの火事の現場に入る前に電源は切った気がする。佐貫ごめん、と裕生は心の中で謝《あやま》った。
「それにお前、勝手に田島《たじま》さんとこの部屋にも入ったらしいじゃねえか。あんな燃えカスみてえな部屋でなにしてたんだ?」
裕生は思わず立ち止まった。
「田島……?」
屋上で見た携帯のメールには田島と川相《かわい》、という苗字《みょうじ》があった気がする。それと、英語のテストのことで話があると。
「なんだよ、お前苗字も知らねえのか? あそこんちの娘、確か加賀《かが》高生だろ。俺より一コ下か二コ下かよく憶《おぼ》えてねえけどよ。とにかく、お前の先輩《せんぱい》だぞ」
「……その人がこないだの火事の時に、いなくなったんだよね?」
だとしたら、あの屋上で殺された誰《だれ》かと、あの火事の起こった部屋に住んでいた「田島《たじま》」という女の子は知り合いということになる。もう一人の「川相《かわい》」という人も無事だとは思えない。皆、加賀見《かがみ》高校の生徒ではないのだろうか。それに、あの「英語のテスト」という文面——。
今、学校で噂《うわさ》になっているカンニングのことではないのだろうか。
「そうそう……って、お前顔色悪いな。なんかあったんだろ?」
一瞬《いっしゅん》、裕生《ひろお》はすべてをぶちまけるところだったが、ぎりぎりで思いとどまった。裕生は葉《よう》のことを思い出していた。彼女があの病院にいたのは、偶然とは思えない。
あの屋上のドアの向こうにいた「ヒトリムシ」——誰《だれ》なのかはわからなかったが、知っている人間のような気がした。裕生は身震《みぶる》いする。葉があんなことをするはずはない。しかし、なんの関係もないとは思えなかった。
「兄さん、『ヒトリムシ』って知ってる?」
「ん、なんだいきなり……ひとりむし。ひとりむしか……どっかで聞いたことあんな。なんだっけ。なんかのなんかだな」
雄一《ゆういち》は意味不明のことを呟《つぶや》きながら、さかんに首をひねっている。はっきりとは分からないらしい。
「まあ、意味はなんとなく分かるけどな。『飛んで火に入る夏の虫』って奴《やつ》じゃねえか。蛾《が》とか蝶《ちょう》とかのこったろ」
「……ほんとに?」
「分かんねえ。うろ覚えだしな」
あの虫に羽根《はね》は生《は》えていなかった。蝶や蛾とは少し違っている気がする。それに、雄一の話を聞くまで、裕生は全然別の字を連想していた。一人の虫、と書いてヒトリムシ、だった。
 裕生たちの住んでいる団地の棟《とう》が見えてきた。あたりは薄暗《うすぐら》くなり始め、沈みかけた夕日が無骨なコンクリートの建物を赤く染めている。裕生たちの部屋には既に明かりが点《つ》いていた。
「お、親父《おやじ》帰ってきてんだな」
と、雄一が言った。
「行こうぜ。多分《たぶん》、心配してっから」
裕生は頷《うなず》いた。兄のあとに付いて行こうとして——ふと足を止めた。
「ん、どうした?」
雄一は振り向いたが、裕生が見ているのは児童公園の中だった。並んだ遊具から、長い影《かげ》が誘うように裕生たちに向かって伸びている。そして、二人乗りのブランコに葉が座っていた。
「葉《よう》じゃねえか。なにたそがれてんだろうな。あんなとこで」
彼女は裕生《ひろお》たちには気づいていない。
「兄さん、先行っててよ。ちょっと雛咲《ひなさき》と話があるから」
雄一《ゆういち》は弟の顔を覗《のぞ》きこんだ。妙に真剣な表情だった。雄一は他人のことに無駄に気が回る——告白でもするのか、と思った。
「なんだ? 告《こく》ってくんのか?」
例によって思ったことをそのまま口に出しただけだったが、裕生は完全に無視した。そして、公園の門をくぐっていった。
「……マジで告白か?」
雄一はしばらく後ろ姿を見送っていたが、やがて団地に向かって歩き出した。
 小柄な葉でも、子供用のブランコは窮屈《きゅうくつ》そうだった。裕生が近づいていくと、足音に気づいた葉がちらりと顔を上げた。
裕生は少し離れたところで足を止める。
「ブランコ、乗れますよ」
「……うん、そうだね」
「怖《こわ》くなんかないです」
葉は自分の足元を見ながら呟《つぶや》いた。それでも、手すりを固く握りしめている。何となく、裕生は子供の頃《ころ》に戻ったような気がした。
「ほんとに?」
「……ほんとうです」
かたくなな声に、少し裕生はおかしくなった。
「じゃあ、押していい?」
裕生がブランコに手を伸ばそうとすると、葉が避《さ》けるようにブランコから飛び降りた。二人は錆《さ》びた鉄のポール越しに向かい合う。
「わたしのあと、つけてたんですね」
裕生ははっと息を呑《の》んだ。どう言葉を返していいか分からなかった。
「そういうの、やめてください」
「……ごめん」
裕生が謝《あやま》ると、痛みをこらえているように葉の唇《くちびる》が震《ふる》えた。
「でも、なんか様子《ようす》が変だったから、心配だったんだよ」
「どうしてそんなことするんですか。先輩《せんぱい》はそんなことしなくてもいいのに」
かすれた声で葉は言った。
「でも……」
「絶対にやめてください」
葉《よう》は裕生《ひろお》を避《さ》けるように、ブランコの後ろを通って走り去ろうとする。行かせてはいけないと彼は思った。裕生は葉に駆《か》け寄って、後ろから彼女の肩をつかんだ。
一瞬《いっしゅん》、葉ははっと土の上に伸びた自分の影《かげ》を見下ろす——。
「やめて!」
葉は爪《つめ》を立てて、むしり取るように裕生の腕を振りほどいた。彼はその場に立ち尽くした。鈍い痛みが手の甲に走っている。あまりにも強い拒絶に、裕生は呆然《ぼうぜん》とした。
「……あ」
彼女の方が自分のしたことに驚《おどろ》いているようだった。その顔を見ているうちに、裕生の中で怒りが湧《わ》いてきた。
「雛咲《ひなさき》はあの病院になにしに行ったんだよ」
葉は辛《つら》そうに顔をそむけた。彼は葉の方に一歩近づいた。反対に葉は裕生から距離を置く。まるで近づいてはいけないというように。
「あの病院の屋上で人が殺されて、死体まで食われた」
裕生の声が震《ふる》える。葉が息を呑《の》むのが分かった。
「最近、このあたりでなにか変なことが起こってる。こないだの火事でも人がいなくなってる。いなくなった人は加賀見《かがみ》の生徒だった。多分《たぶん》、おんなじように食われたんだと思う——」
裕生は言葉を切って、彼女の方へさらに近づく。
「——『ヒトリムシ』に。自分でそう名乗ってた」
その言葉を聞いたとたん、葉はびくっと震《ふる》えた。
「やめて下さい」
「どうしてだよ」
「危ないんです。だからやめて」
「多分、学校で噂《うわさ》になってるカンニングと関係あるんだ。多分、それを知ってる人がいなくなってる。きっとこのあたりになんかがいるんだよ。雛咲だってなにか知ってるはず——」
「待って!」
突然、葉が鋭《するど》く言った。
「その話、誰《だれ》から聞いたんですか?」
「え?」
「そのカンニングの話、誰から聞いたんですか?」
今までとは逆に、裕生は葉に気《け》おされていた。泣きそうだったさっきの表情とはまるで違っている。
「すごく大事なことなんです。誰が先輩《せんぱい》に話したんですか?」
裕生はごくりと唾《つば》を飲みこんだ。誰も話したわけではなく、メールを見ただけだった。しかし、なにも答えることができなかった。
「……やっぱり、そうだったんですね」
やがて、葉《よう》は答えを聞いたかのように呟《つぶや》いた。
「なに言ってるんだよ、雛咲《ひなさき》」
「もういいです。だいたい分かりました」
彼女は背を向けて歩き出した。後を追おうとすると、葉が振り向いた。なんの表情もない、底冷えのする目だった。彼の知っている葉はこんな顔をしない。
「わたしに近づかないでもらえますか?」
と、彼女は言った。
「じゃないと、死にますよ——病院にいた人みたいに」
裕生《ひろお》は凍《こお》りついたように動けなくなった。駆《か》け出した葉を、彼は見送ることすらしなかった。あの「ヒトリムシ」の姿と葉が重なる。生まれて初めて、彼は葉に怯《おび》えていた。
    *
 電話の向こうの相手は沈黙《ちんもく》していた。
「もう大丈夫です」
明かりの点《つ》いていない部屋の中に、彼女のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。その手には電話の受話器が握られていた。
『……どういうことなの?』
ためらうような声が聞こえてきた。
『あのね、樋口《ひぐち》さんたちと連絡を取ろうと思ったんだけど』
「できないと思います」
彼女にとっては当たり前の話だった——もう、あの三人はこの世のどこにもいないのだから。
『一体、なにをしてるの?』
「先輩《せんぱい》のためになることです」
『樋口さんたちになにかしたの?』
「先輩の秘密は守られました」
彼女は相手の質問には答えなかった。同じ答えを繰り返すだけだ。
『今はわたしだけの秘密じゃない。あなたの秘密でもあるんでしょう』
初めて彼女は言葉に詰まる。あえぐように唇《くちびる》が開いた。
『わたし、誰《だれ》かに話そうと思ってる。最初からそうすればよかった』
「先輩」
彼女の中に巣食っているものが、かすかに蠢《うごめ》いた。秘密を守ること、それが彼女のねがいであり、そのねがいを守るために彼女の中にいるものは目覚める。
「誰《だれ》にも話したりしてませんよね?」
押さえがたい衝動《しょうどう》がこみ上げてくる。怒りというよりは苛立《いらだ》ちに近い。そしてなによりも、耐えがたい飢《う》えを伴っていた。秘密を守るたびに、その渇望《かつぼう》は大きくなる。彼女に巣食っているものは成長を続けており、常に新しい餌《えさ》を望んでいる。
「もし誰かに話してたら、その人もいなくなりますよ」
『わたしはいなくならないの?』
怯《おび》えた声が彼女の衝動を募《つの》らせる。この相手を黙《だま》らせるには、食い殺すしかないかもしれない。すでに秘密を知っている者も、これから知るかもしれない者も、彼女の中にいる者が望む限りは殺す必要がある。
『わたしも消すことができるんでしょう? 樋口《ひぐち》さんたちを消したみたいに。だってそれは、もうわたしの秘密じゃない。あなたの秘密なのよ』
電話口の向こうで、先輩《せんぱい》は話し続けている。彼女は無言で受話器を置いた。
暗い部屋の中で、彼女はがくりと膝《ひざ》を折る。
秘密を守ること——それが彼女のねがいなのは間違いない。しかし、誰かを餌に選ばなければならない。もう、あまり時間は残っていなかった。
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