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シャドウテイカー 黒の彼方22

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:19 葉はそのまま学校を出て、加賀見《かがみ》の町をあてもなく彷復《さまよ》っていた。いつのまにか長い時間が過ぎて、気がつ
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19
 葉はそのまま学校を出て、加賀見《かがみ》の町をあてもなく彷復《さまよ》っていた。いつのまにか長い時間が過ぎて、気がつくと夕方になりかけていた。
今日中に飯倉《いいくら》志乃《しの》を探し出さなければならなかった。明日になれば、自分の中に巣食っている「それ」は彼女の周りの人々を殺すと言っていた。それが脅《おど》しなのかどうかは分からないが、彼女にそれを試してみる勇気はない。
(雛咲はカゲヌシにとりつかれてるの)
彼女の足取りが重くなった。裕生《ひろお》にも知られてしまった。もう彼のそばで、すべてを秘密にしたまま一緒《いっしょ》にいることはできない。
(……裕生ちゃん)
今でも心の中では裕生をそう呼んでいた。時々、油断するとその呼び名が出てしまいそうになる。わざわざ呼び名を改めたのは、彼女にとってはちゃんとした理由がある——中学に入って、裕生の方が彼女の呼び名を変えたからだった。
それまでは呼び捨てで「葉《よう》」と呼ばれていた。その優《やさ》しい声の響《ひび》きが彼女は大好きだった。「雛咲《ひなさき》」と呼ばれると、今でもそれが自分ではないようで寂しい。でも、裕生が呼び名を変えたのに自分だけ昔のままの呼び名ではいけないと思った。
葉は律儀《りちぎ》な性格だった。「先輩《せんぱい》」に変えたからと、きちんと言葉|遣《づか》いも改めた。それなのに、裕生は時々言葉遣いだけは元に戻していいとムリなことを言う。そんなことをすれば、昔の呼び名が出てしまう。「結構です」と断らざるを得なかった。
彼女にとって、本当に大切なものは数えるほどしかない。この数年、団地のあの部屋の中で過ごしてきた日々には、なにもいい思い出はなかったと思う。両親が帰ってくるかもしれないという思いを捨てられなかった。それだけのことだった。
志乃《しの》を探し出してすべての用事を済ませたら、そのままこの町から出なくてはならない。彼女が見つからなかったとしても、ここから離れておいたほうがいいだろう。ひょっとしたら裕生たちにも危害を加えずに済むかもしれない。
あの部屋にも帰らなくても構わない。団地には裕生がいるかもしれない。顔を合わせるかもしれないと思うと、それだけでも辛《つら》かった。どうせ、あそこにあるものも要《い》らないものばかりで——。
「……あ」
彼女は完全に足を止める。一つだけ、どうしても取りに行かなければならないものがあった。
 加賀見《かがみ》団地に着いた時には、もうほとんど日が暮れていた。葉は最上階の裕生たちの部屋の窓を確認する。明かりは点《つ》いていなかった。裕生はいないのだろう。
(わたしを探してくれてるんだ)
そう思うと胸が痛んだ。彼女はこっそりと一階のドアの鍵《かぎ》を開ける。そのまま自分の部屋に行き、机の上に置いてあった黒いアタッシュケースを手に取った。ケースは父親の置いていったもので、これだけはどうしても持っていかなければならなかった。
彼女はそれを抱えて自分の部屋を出る。
真っ暗な居間に戻った時、さっきと微妙に空気が違うことに気づいた。ここにいるのが自分ひとりではないような気がした。
「雛咲」
一瞬《いっしゅん》、自分が呼ばれたことに気づかなかった。窓のほうに目を向けると、そこには裕生《ひろお》が立っていた。
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