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シャドウテイカー 黒の彼方28

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:23 裕生は葉を抱きかかえたまま、「ヒトリムシ」の死体が散らばっている水面から顔を出した。力いっぱい空気を吸いこむ。肺の中
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23
 裕生は葉を抱きかかえたまま、「ヒトリムシ」の死体が散らばっている水面から顔を出した。
力いっぱい空気を吸いこむ。肺の中がひりひりするようだった。しばらくそうしていると、葉が身じろぎした。
「大丈夫?」
裕生は彼女の顔を覗《のぞ》きこもうとする。しかし、その時にはもう裕生の腕を振り払って、一人で水の中に立っていた。彼女はプールサイドに立っている「黒の彼方」のほうをじっと見ている。
「……雛咲《ひなさき》?」
裕生は呼びかけたが、返事はない。プールサイドにいた双頭の犬《いぬ》が跳躍《ちょうやく》し、葉の体のすぐそばに着水する。
「うわっ」
激《はげ》しい音と共に水柱《みずばしら》が上がる。裕生《ひろお》は頭から水をかぶり、ぬるついたプールの底で足を滑らせてもう一度水中に沈んだ。慌てて立ち上がった時には、プールの中にいるのは裕生一人だった。あれだけ浮かんでいた「ヒトリムシ」の死体もどこにもなくなっていた。
プールサイドを見ると、黒い怪物と一緒に葉《よう》が立っていた。
「雛咲《ひなさき》!」
彼女は裕生の方を見ようともしていなかった。服や髪からぽたぽたと水をしたたらせながら、彼女は黒い犬《いぬ》とともに校舎の方へ去っていった。
(どうしたんだろう)
ばしゃばしゃと水をかき分けて、プールサイドへ向かいながら裕生は思う。まるで彼の声が聞こえていないようだった。
 裕生は再び旧校舎の三階に向かった。他《ほか》に葉のいる場所を思いつかなかったし、志乃《しの》や夕紀《ゆき》がどうなったのかも気がかりだった。
三階の廊下には、あの「ヒトリムシ」の死体はきれいになくなっていた。割れたガラスが床に散らばって、鈍《にぶ》い光を放っているだけだった。
(同族食い)
あの「黒の彼方《かなた》」という怪物はそう呼ばれていた。あの怪物が死体を食べてしまったのかもしれない。
「……黒の彼方」
思わず裕生は呟《つぶや》いていた。さっき聞いた時、どこかで聞き覚えがある気がしたのだが、当たり前の話だった。裕生が入院している時、書いていたあの物語——。
「題名じゃないか」
書きあがってから、裕生がその題名をつけたのだ。彼自身が考えた言葉だった。
(それがどうして、あの怪物の名前なんだろう)
その時、廊下の奥からかすかなうめき声が聞こえてきた。裕生は床に注意しながら、音のした方へ走る。そこには例の黒い犬と葉がいた。葉は床に腰を下ろしている。
「えっ」
裕生は自分の目を疑った。葉の体の下には志乃がいた。葉は志乃に馬乗りになって、彼女の首を締《し》めているところだった。
「なにやってるんだよ!」
裕生は走り寄ると、葉を志乃から引き剥《は》がした。志乃は完全に意識《いしき》を失っているらしいが、息はあるようだった。
「生かしておけば、また他《ほか》のものと契約を結ぶかもしれませんから」
低い声で葉は言った。
「雛咲《ひなさき》、なに言って……」
裕生《ひろお》の背筋に冷たいものが走る。裕生は葉《よう》の正面に回って、彼女の顔を覗《のぞ》きこんだ。なんの表情も読み取ることができなかった。
「わたしは『黒の彼方《かなた》』。この契約者がわたしに与えた名前」
「雛咲はどうなったんだよ」
「彼女は眠っています。わたしはあの虫を取りこむことによって、少しだけ力を取り戻しました。この娘が自力で目を覚まさない限り、わたしを元のように封じることはできない」
淡々と「黒の彼方」は言った。葉の足元に、本体である双頭の犬《いぬ》は満足げにうずくまっている。裕生はめまいを起こしそうになった。この怪物は最初から、葉が自分を呼び出す瞬間《しゅんかん》を待っていたのだ。
「雛咲を返せ」
と、裕生は言った。
「わたしを呼んだのはこの娘のねがいですよ」
「どうしてそれが『黒の彼方』なんだよ」
「それがこの娘の最も大切な記憶《きおく》だからです」
裕生ははっと息を呑《の》んだ。「黒の彼方」は抑揚《よくよう》のない声で話し続ける。
「この娘を蝕《むしば》んでいた孤独には名前がありません。しかし、この娘のねがいには名前がありました。あなたの書いた物語が、この娘の孤独を癒《いや》す唯一《ゆいいつ》のもの」
裕生の体がひとりでに震《ふる》え始めた。一字一句|憶《おぼ》えていると言う葉の言葉が蘇《よみがえ》る——自分が作った物語なのに、裕生は題名すら憶えていなかった。そんな物語を彼女は心の支えにしてきたのだ。
「あなたはこの娘のねがいを忘れている。だから、もう目覚めさせることができない」
「嘘《うそ》だ!」
裕生は冷え切った葉の肩をつかんだ。無性に悔《くや》しかった。いつもそばにいたのに、どうして彼女の気持ちを汲《く》むことが出来なかったのだろう。
「雛咲!」
裕生は呼びかける。しかし、彼女の様子《ようす》に変化はなかった。
「『黒の彼方』です」
あざけるような笑い声が彼女の唇《くちびる》から洩《も》れる。裕生は歯を食いしばった。
「……違う」
裕生は必死で頭をめぐらせる——葉のねがいを忘れている。だったら、思い出せばいい。あの物語が彼女の一番大事な記憶だったと言うなら、その中に彼女を目覚めさせる方法もあるはずだ。
「無駄ですよ」
裕生《ひろお》の考えを察《さっ》したように、彼女の口を借りた怪物が言う。
「今、この娘は自分の名前も忘れています。あなたが誰《だれ》なのかもわかっていない」
「うるさい!」
黒い海の真ん中に島がある。そこに名前のない少女が一人で住んでいる。彼女は流れついたなにかと出会う。そして、そのなにかから言葉を教わる。しかし、自分の名前だけが分からない。そんなものはなかったからだ——。
しかし、その先がどうしても思い出せなかった。
「そろそろ、わたしも行かなければなりません」
裕生は唇を噛《か》みしめる。焦れば焦るほど、頭の中は真っ白になっていく。
「そんなことさせない」
一人にはさせないと言ってから、まだ何時間も経《た》っていない。こんな風に彼女を失うわけには行かなかった。
「邪魔《じゃま》をすれば、あなたもこの場で死にます」
その途端《とたん》、彼女の傍《かたわら》らの獣《けもの》がゆっくりと起き上がった。牙《きば》と牙の間から、低い唸《うな》り声が聞こえる。裕生はそれでも彼女の体を捕まえたまま、動こうとしなかった。
「諦《あきら》めなさい。命だけは助けます」
裕生は双頭の怪物に視線を落とした——そして、不意に思う。
(どうして「黒の彼方《かなた》」なんだろう)
なにか理由があったはずだった。言葉を教える者はなにをしたのだろう。彼女にあらゆるものの名前を教えたはずだ。しかし、もともと名前のないものの名前は教えようがない。だとしたら——。
 あなたには名前がなかった。
だから、自分が誰なのかを知らない。
あなたに名前がなかったら、わたしが名前を差し上げます。
「あ……」
まるで光のように、裕生の中に言葉が流れこんだ。
ひとりでに彼の両目から涙が落ちた——それが物語の続きだった。どうして、こんな簡単《かんたん》なことを今まで忘れていたんだろう。
彼は傷の痛みも、傍らの双頭の犬《いぬ》のことも、彼女を乗っ取っている別の意識《いしき》のことすらほとんど忘れた。葉《よう》のことだけが彼の頭にあった。
「君には名前がなかった」
自分の書いた物語そのままに、彼は語りかけた。ほとんど聞き取れないほど、その声はかすれていた。
「だから、自分が誰《だれ》なのか知らない」
裕生《ひろお》は葉《よう》の両|頬《ほお》をはさみ、彼女の顔を間近に引き寄せた。幕のかかったような瞳《ひとみ》の奥で、かすかに動くものがあった。
「君に名前がなかったら、ぼくが名前をあげる」
彼は大きく息を吸いこんだ。もう、迷いはなかった。体の震《ふる》えはいつのまにか止まっていた。
「君の名前は雛咲《ひなさき》葉」
 その瞬間《しゅんかん》、雷《かみなり》に打たれたように彼女の体が震えた。唇《くちびる》が触れるほど近くから、彼は声の限りに叫んだ。
「葉!」
無意識《むいしき》に裕生はその名を口にしていた——子供の頃《ころ》、いつもそう呼んでいたように。
彼女は力を失って、その場に倒れこんだ。裕生はその体を抱きとめる。傷が軋《きし》むように痛んだが、彼は腕を離そうとはしなかった。
あたりを見回すと、旧校舎の廊下《ろうか》にいるのは裕生と葉だけになっていた。あの黒い怪物の姿は、もうどこにもなかった。
ふと、頬に冷たい指の感触を感じた。葉がいつのまにか目を開けていて、彼の涙の跡を不思議《ふしぎ》そうに撫《な》でていた。
「どうしたんですか?」
普段《ふだん》と同じ、愛想のない声で彼女は言う。それから、自分が裕生の腕の中にいることに気づいたらしい。慌てて起き上がろうとしたが、裕生は彼女を離そうとしなかった。
「君は誰《だれ》?」
「え……雛咲ですけど。あの、ちょっと」
もがく葉を無視して、彼は目を閉じる。そして、安堵《あんど》のため息を洩《も》らした。この先、どうなるかは分からない。しかし、必要ならば何度でも葉の名前を呼ぼうと思った。
やがて、葉は裕生の腕の中で大人《おとな》しくなった。裕生が目を開けると、耳まで真《ま》っ赤《か》にしながら顔をそむけている。
「……あの、わたしたち、ここでなにしてるんですか?」
「なにって……」
説明をしかけた裕生ははっとした。もう一度、あたりを見回す——廊下には確かに二人しかいなかった。
志乃《しの》の姿が消えていた。
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