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シャドウテイカー アブサロム02

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:1 太陽はすっかり傾いている。デパートの屋上に人影《ひとかげ》はまばらだった。隅の方に寂《さび》れたペットショップと自動
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 太陽はすっかり傾いている。デパートの屋上に人影《ひとかげ》はまばらだった。隅の方に寂《さび》れたペットショップと自動販売機があるだけで、一日を通じて訪れる客はほとんどいない。
フェンスのそばに制服を着た少女が立っている。表情はいささか乏しいが、かわいらしく整った顔立ちである。
彼女は黒目がちの瞳《ひとみ》をフェンス越しの足元へと向けている。このデパートがこのあたりで一番高い建物で、加賀見《かがみ》駅周辺を見渡すことができる。駅の出口から現れる人々は皆夏の装いだった。季節はもう七月になっていた。
「……いない?」
彼女——雛咲《ひなさき》葉《よう》は呟《つぶや》く。誰《だれ》かに問いかけるような口調だったが、他《ほか》には誰もいない。コンクリートの上に、黒く長い影が伸びているだけだった。
先月から、彼女の中には何か得体《えたい》の知れないものが巣食っている。名前を持たないこの「生物」は、便宜上《べんぎじょう》「カゲヌシ」と呼ばれている。人間に取りついたカゲヌシたちはその宿主《やどぬし》と契約を結ぶ。「脆《もろ》き者」と呼ばれる宿主は、カゲヌシに名を与え、カゲヌシはその人間の秘めた欲求と結びついて「ねがい」をかなえる。
それと同時に、この怪物たちは人間を捕食する。それを養分《ようぶん》として成長するのだが、彼女に巣食っている怪物は例外だった。他のカゲヌシを捕食する性質を持っている。
葉がこのカゲヌシ——双頭の黒い犬に与えた名前は「黒の彼方《かなた》」だった。
(やっぱり、分からないんだ)
彼女は唇をかんだ。彼女の中にいるこのカゲヌシは、同族に比べて五感が著《いちじる》しく不完全だった。カゲヌシは独特の「気配《けはい》」を発しており、本来は互いにその位置を察知できるらしい。現に先月出会ったカゲヌシ——「ヒトリムシ」は葉たちの存在に気づいていた。
しかし、「黒の彼方」の感知能力は、ほとんど偶然にしか働かない。こちらからカゲヌシを探すのは難《むずか》しかった。
「……飯倉《いいくら》先輩《せんぱい》」
と、葉は呟く。ヒトリムシがとりついていたのは、部活の先輩の飯倉|志乃《しの》だった。葉が気づくまでにヒトリムシはすでに三人の人間を殺していた。ヒトリムシを倒すことはできたが、志乃は自殺してしまった。もう少し早く気づくことができれば、一人も犠牲者《ぎせいしゃ》を出さずに済んだかもしれない。
他《ほか》にもカゲヌシにとりつかれた人間がどこかにいるはずだった。「黒の彼方《かなた》」に餌《えさ》を与えることは、他の人間をカゲヌシから解放することに繋《つな》がる——そう思っていたのだが。
(帰らないと)
これ以上、ここから見ていても仕方がない。彼女はフェンスから離《はな》れようとして、ふと立ち止まった。
「……あ」
ぞくりと奇妙な戦慄《せんりつ》が全身を駆《か》け抜ける。自分の体が空っぽの器《うつわ》になってしまったような、痛みにも似た強い飢餓感《きがかん》だった。彼女はしっかりと目を閉じる。
この一週間ほど、彼女は定期的に襲《おそ》ってくるこの苦痛に悩まされていた。これがなんなのかは彼女もよく知っている——「黒の彼方」が餌を欲しているのだ。
胸元を押さえたまま、荒い呼吸を繰り返す。少し顔が赤くなっているかもしれない。やがて、その衝動《しょうどう》はまるで波が引くように消えていった。ほっとしかけた時、不意に頭の中で声が聞こえた。
『この町にいては見つかりませんよ』
彼女は思わず体を震《ふる》わせる。確《たし》かに何度かあてもなく他のカゲヌシを探しに出かけることはあったが、必ずここに戻ってきていた。彼女には家族はいないが、一人でこの土地を離れるつもりはない——幼馴染《おさななじみ》の裕生《ひろお》と、そう約束しているからだ。
『周囲の人間を危険にさらすだけです』
一瞬《いっしゅん》、葉《よう》はかっとした。この怪物は以前にも「餌を見つけなければ周囲の人間を殺す」と彼女を脅《おど》したことがある。
「……わたしが呼ばなければ、出てこられないくせに」
カゲヌシは人間との「契約」に縛《しば》られている。人間はカゲヌシに名を与え、カゲヌシはその人間の「ねがい」をかなえる。もし彼女が名を呼ばなければ、この怪物を外に出さずにおくこともできるかもしれない——もっとも、「発作」にどこまで耐えられるのか分からなかったが。
『わたしはあなたです。名前を呼ばなくとも、いつもそばにいます』
平板な声が彼女に語りかける。
『それに放っておいても、わたしたちは少しずつ混ざり合っています。いずれ、あなたがわたしを呼ぶ必要もなくなります。わたしたちが完全に一つになれば』
「……黙《だま》って」
それ以上は聞きたくなかった。葉にもおぼろげながら分かりかけていた——この「黒の彼方」の当面の目的は、宿主《やどぬし》である葉の意識《いしき》を完全に乗っ取ることなのだ。
葉は足を引きずるようにして、ゆっくりとエレベーターに向かって歩き出した。
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