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シャドウテイカー アブサロム05

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:4「帰ってこないかもしれないって言ってたじゃない」裕生たちは座卓のまわりに座っている。「いや、そのつもりだったんだがな。
(单词翻译:双击或拖选)
「帰ってこないかもしれないって言ってたじゃない」
裕生たちは座卓のまわりに座っている。
「いや、そのつもりだったんだがな。順を追って話すが」
吾郎《ごろう》はそう言いながら、ポケットからなにかを取り出して、葉《よう》の方へ滑らせる。どこかの店のマッチらしい。裕生《ひろお》が覗《のぞ》きこむと「喜嶋《きじま》バー」と、印刷されている。
「なに、それ」
「……わたしの叔母《おば》がやっているお店です。新宿《しんじゅく》の」
複雑な表情で葉は言い、吾郎の顔を見上げる。
「そう。今日、雄一《ゆういち》と二人で行ってきた。葉ちゃんがうちに住むかもしれないって話になってるだろう。まさかご親戚《しんせき》に話もしないでそうするわけにいかないと思ってな」
葉の叔母らしい人なら何度か見かけた記憶《きおく》がある。挨拶《あいさつ》ぐらいしか交わした記憶《きおく》はないが、和服のよく似合う背の高い女性だったと思う。話をしに行くのは雄一の提案だろうが、吾郎にしては珍しく責任ある行動だと裕生は思った。
「……喜嶋さんっていうんだ」
「そう。喜嶋ツネコさん。いやあ、気の強い人でな。なんでもご主人をなくされてから、一人でバーを切り盛りしておられるそうだ。実に素敵《すてき》な人だった。葉ちゃんにはあまり好かれていないと言っていたが」
初耳だった。裕生はちらりと葉を見る。少し困ったように俯《うつむ》いている。
「別に嫌いじゃないです」
そういえば、彼女の口から親戚の話が出ることはほとんどない。両親が行方《ゆくえ》不明になっても一人暮らしを続けているのは、親戚との折り合いのせいもあるのかもしれない。
「叔母さん、なんて言ってましたか?」
と、葉が尋ねた。
「それが……」
吾郎はかすかに眉根《まゆね》を寄せた。
「ダメだそうだ。一緒《いっしょ》に住むなんてとんでもないと言われてしまったよ」
「え……」
「絶対に二人っきりになる夜があるはずだ。万が一自制がきかなくなったらどうするつもりだとね。その心配はないと何度も説明したんだが」
裕生は思わずどきっとした。まさに今夜はもう少しで「二人っきりになる」はずだった。
「ケダモノの巣に可愛《かわい》い姪《めい》を住まわせるわけにはいかない、だそうだ」
はっはっは、と吾郎は力なく笑った。さすがに裕生はむっとする——いくらなんでも、そこまで言うのは失礼だと思った。
「……ひどいです」
と、葉が呟《つぶや》いた。
「うむ。葉ちゃんもそう思うか」
吾郎《ごろう》はタバコをくわえて、ポケットを探る。ライターを探しているらしい。ポケットの中のものをすべて座卓に出したが、結局見つからないようだった。裕生《ひろお》は黙《だま》って「喜嶋《きじま》バー」のマッチを渡す。
「まったく、俺《おれ》のストライクゾーンは二十五歳以上だとあんなに説明したのに」
ぱちり、とマッチをすって吾郎はタバコに火を点《つ》けた。
「……ちょって待って」
と、裕生は言った。
「誰《だれ》のストライクゾーン?」
「だから俺だ」
「ぼくのことじゃないの」
「いや、お前のことも信用ならんと言っていたが、あれは主に俺のことだろう」
「どういうこと?」
「だから、ツネコさんには何度も俺のストライクゾーンについては説明したんだ。むしろ、ツネコさんこそ父さん的にはど真ん中ストレートだと」
吾郎は余韻《よいん》に浸るような微笑《ほほえ》みを浮かべる。裕生はいやな予感がした。
「聞いたところでは今、恋人がいるわけでもなし、ぜひ一度デートをしていただきたいと言ったんだが、それがどうも火に油を注いだらしくてな」
「父さん」
思わず頭を抱えたくなった。あなたの姪御《めいご》さんをうちに住まわせようと思うんですが、という話を進めながら、どうです、今度デートしませんか、とナンパしていたらしい。
「当たり前だよ、話がおかしくなるの」
「そうか? 最初はそこそこいい感じで話は進んでたんだが、お前に電話かけたあたりで急に雲行きがおかしくなったんだ。よく分からんのだが、なにか誤解《ごかい》をしたらしくてな。『息子《むすこ》にあんなアホなことを言う人間がこの地上のどこにいる!』と言われてしまったよ」
裕生はさっきの父との会話を思い返した——どう考えても葉《よう》の保護《ほご》者に聞かせていい内容ではない。
「ここにいる、とつい答えたら、『あんたはケダモノか!』だそうだ。怒った顔もまた素敵《すてき》だったな」
葉は固まったまま、座卓の一点を見つめている。彼女はさっきの電話の内容を知らない。「なんの話ですか」と、今にも聞かれるかもしれないと裕生はひやひやしていた。
「ひょっとして、その顔のあざ……」
「ああ、これか。ツネコさんに思いっきり平手打ちされてな……いや、手首のスナップも見事なもので」
吾郎はにこにこ笑っている。そんなところを誉《ほ》められても、喜嶋《きじま》ツネコという人は嬉《うれ》しくはないだろう。
「そして、もう片方は店を追い出されてから雄一《ゆういち》にやられた。手加減はしてくれたようだが、あの馬鹿力《ばかぢから》ではなあ」
頬《ほお》をさすりながら吾郎《ごろう》は言った。要するにまともに進んでいた話を、吾郎一人がぶち壊《こわ》しにしたのだろう。殴《なぐ》るのはどうかと思うが、雄一が怒る気持ちも分かる。
「まあ、親が子供を殴るよりはいいだろう。悪いのは俺《おれ》だしな」
吾郎の考えは徹底《てってい》している。自分の好きなことをするが、絶対に自己弁護《べんご》はしない。今頃《いまごろ》、雄一は後悔しているのではないかと裕生《ひろお》は思った。
「あ、そうそう。帰り際《ぎわ》、ツネコさんからお前への手紙を託されたんだが」
「ぼくに?」
「万が一のことが起こった場合について、お前に伝えておきたいことがあるそうだ」
裕生は手紙の入っているらしい封筒を受け取った。裕生には挨拶《あいさつ》を交わした記憶《きおく》しかない。わざわざ手紙にするような用事があるのだろうか。いぶかしく思いながら裕生は中を開く——一枚の和紙が出てきた。広げてみると、
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