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シャドウテイカー アブサロム09

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:1「失礼します」教授室に入った瞬間《しゅんかん》、玉置《たまき》梨奈《りな》は自分の顔が不機嫌《ふきげん》になっていくの
(单词翻译:双击或拖选)
「失礼します」
教授室に入った瞬間《しゅんかん》、玉置《たまき》梨奈《りな》は自分の顔が不機嫌《ふきげん》になっていくのが分かった。
(よりによってこいつか……)
東桜《とうおう》大学の助教授以上の職員《しょくいん》はそれぞれ専用の個室を持っている。社会学部の丸橋《まるはし》教授の部屋は、去年新しく建てられた教授棟の三階にあった。
ドアのすぐ近くに応接セットがあり、そこでテーブルの上に足を投げ出して、タバコを吹かしている若い男がいる。
梨奈は自分の方へ漂《ただよ》ってくる紫煙《しえん》を軽く払う。挨拶《あいさつ》しようかどうしようか迷っていると、
「あ、どーも」
男はぴしっと手を挙げる。派手《はで》なシャツに金髪とピアスとサングラス。どう見ても一昔前のヤクザだった——しかし、れっきとした学生である。世間では東桜大学といえば良家子女の集まるカソリック系の「エリート校」ということになっているが、これほど学風にそぐわない学生を彼女は他《ほか》に知らない。
「丸橋先生は?」
「師匠《ししょう》はメシ買いに行きましたよ。俺《おら》ァ午後は講義《こうぎ》ないんスけど、誰《だれ》か来るまで留守番しててくれって言われたんスよ」
師匠ってなに、と心の中で梨奈《りな》は思う。彼女は丸橋ゼミの四年生で、就職活動用のグレーのスーツを着ている。午後から会社説明会に行く予定だった。
「あ、そうだ。タマキリさんが来たら、レポート受け取っとくようにって」
「あたしの苗字《みょうじ》は玉置《たまき》。いつになったら憶《おぼ》えんの」
フルネームは「タマキリナ」だから、一文字はみ出しただけなのだが、その呼び方だけは異様に腹が立つ。なんとなく下品な響《ひび》きのせいかもしれない。
「あ、すんません。人の名前憶えんのが苦手で」
にかっと歯を見せて男——藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》は笑った。四年生たちの間では、「丸橋組の鉄砲玉」と陰で言われている。まだ二年生であり、上級生のゼミに参加したところで単位など取れないのだが、「単位はいいっスから、見学だけでもヨロシク」と頼《たの》みに来たのだった。ゆくゆくは研究者になるんだと公言していて、実際見た目に反してかなり優秀《ゆうしゅう》な学生らしい。
丸橋《まるはし》教授はこの学生を気に入っており、自分の手伝いをさせながら個人的に課題《かだい》を与えている。四年生のゼミにも時々参加しているのだが、見た目に迫力がある上、ヤンキー丸出しの口調《くちょう》で妙に鋭《するど》い指摘をするので、他《ほか》の学生からは恐れられている。
「んじゃ、レポートいただけますかね」
タバコを灰皿に押しつけて、手を出した雄一《ゆういら》に、梨奈《りな》はしぶしぶ手渡す。
「参考にしたいんで、ちょっと見ていっスか?」
と、言いつつ答えを待たずに、レポート用紙をめくり始める。ヤクザに追いこみをかけられる町工場の社長の気持ちが、今の梨奈には分かる気がした。その場で教授に読まれるよりも嫌《いや》な気分だ。
「タマキリさん、これ、ヤバくないスか」
文章を目で追いながら雄一は言う。もう訂正する元気もなかった。
「……なにが?」
「つーか、これから社会|調査《ちょうさ》やるんスよね? 標本《ひょうほん》調査って書いてあるけど、標本の抽出《ちゅうしゅつ》方法が書かれてねえし……このテーマだとケース・スタディかな? 調査方法ぐらいちゃんと書いとかねえと、師匠《ししょう》、納得しねーかも」
「……」
雄一の指摘はほとんど梨奈には理解できなかった。彼女は単位なんか取れればいいという考えで、決して真面目《まじめ》な学生ではない。就職《しゅうしょく》活動にかこつけてゼミもしょっちゅうサボっている。今日提出したレポートは、卒業|論文《ろんぶん》のテーマと内容の報告だった。他の学生はとっくに提出しているが、梨奈だけは遅れていた。
「うーん。これじゃ、なんか今日の午前中にやっつけましたって思われっかもなー」
梨奈はむっとした。正しい指摘が人を怒らせることもある。本当に今日の午前中、大学の図書館で適当に書き上げたものだった。
「余計なお世話でしょ。いいから渡しといてよ」
「でもいいんスか? こんなん提出して。あんま師匠怒らせると、タマキリさんが」
「あたしは玉置《たまき》梨奈! 変なところで切らないでよ!」
「すんません」
雄一は謝《あやま》ったが、梨奈の怒りはまだ収まらなかった。
「だいたいあんたね、口の利《き》き方とかすっごい失礼だし。あんたの親、一体どういう教育」
「俺《おれ》の親がどうかしましたか」
雄一のドスのきいた声がびしっと耳を叩《たた》き、梨奈は口をつぐんだ。今までとはまるで顔つきが違う。表情のない目に梨奈は怯《おび》えた。
それでも残った怒りをかき集めて、梨奈は吐き捨てるように言う。
「……とにかく名前ぐらい憶《おぼ》えなさいよ!」
そして、ほとんど逃げるようにドアから出て行った。
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