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シャドウテイカー アブサロム22

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:4 裕生は玄関先で立ち止まった。なんとなく葉に呼ばれた気がした。「どうしたの?」廊下に立っていた茜《あかね》は振り返る。
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 裕生は玄関先で立ち止まった。なんとなく葉に呼ばれた気がした。
「どうしたの?」
廊下に立っていた茜《あかね》は振り返る。
「なんでもない……と思う」
気のせいだろう。裕生は玄関に入ってドアを閉めた。
「おじゃまします」
靴《くつ》を脱いで廊下に上がると、湿った埃《ほこり》の匂《にお》いがかすかに漂《ただよ》っていた。あまり掃除《そうじ》をしていないのか、人の気配《けはい》がしない家だった。裕生はどこかでここと似た部屋に入ったことがある。
(……雛咲《ひなさき》の部屋だ)
葉が住んでいる団地の部屋に似ていた。裕生は廊下の真ん中で立ち止まる。目の前に茜が入っていったドアがある。勝手に奥に入るのもよくない気がして、裕生はそのドアを開けようとする。その途端《とたん》、
「今、着替えてるからちょっと待ってて」
くぐもった声が聞こえて、裕生《ひろお》は電気に触れたようにあわててノブから手を離《はな》した。
「適当に見てていいよ」
適当に、と言われても困る。裕生は奥のリビングへ行こうとして、ふと足を止める。
開いたドアから、ベッドと机とチェストが見える。女の子の部屋らしい。出窓の上にぬいぐるみが並んでいる。気になったのは、ぬいぐるみに見覚えがあったからだ。
「……ボルガ」
と、裕生は呟《つぶや》いた。茜《あかね》と一緒《いっしょ》にいるカゲヌシに、このキャラクターはよく似ていた。そういえば、テレビで見たことがあるような気がする。昔のアニメのキャラクターだった気がする。
裕生は部屋の中に一歩足を踏み入れようとして、かすかな異臭を嗅《か》いだ。見下ろしたフローリングの床に、テープで人型が描かれていた。
思わず裕生は後ずさりする。背中が総毛立っていた。
「そこで、小夜《さよ》が死んでたの」
背後で声が聞こえて、裕生は振り向いた。Tシャツとジーンズに着替えた茜が立っている。ここは人が殺された場所だと改めて裕生は実感した。茜はそのただ一人の生存者なのだ。
「現場検証の後《あと》も、警察《けいさつ》の人に言って残してもらったんだ」
裕生は床から目を逸《そ》らすことができなかった。右手を軽く挙げたような体勢だった。中学生にしても、さほど背は高くなかったらしい。その時の様子《ようす》が生々しく目に浮かぶようだった。
「そこにね。小夜の血で書いてあったんだ。『お前のかわりに、わたしが死ねばよかった』って」
裕生は東桜《とうおう》大学で茜が口にした質問を思い出した。なにを意味しているのか、彼女も知らないのだろう。
「犯人が書いたの?」
「多分《たぶん》ね」
淡々とした声で茜は言った。
「あたし、犯人は絶対に殺す」
 茜はこのマンションで起こった事件について、知っていることを話してくれた。裕生も先月|加賀見《かがみ》で起こった出来事を順を追って話した。会ったばかりの人間に葉《よう》の秘密を話していいものか迷ったが、もう茜には「黒の彼方《かなた》」を見られている。隠《かく》しておいても意味がなかった。
「じゃあ、裕生ちゃんたちも大変だったんだね」
話を聞き終えた後で、茜は頷《うなず》きながら言った。
「……裕生ちゃん?」
「だって名前、藤牧《ふじまき》裕生でしょ。だから裕生ちゃん。ダメ?」
「あんまり……」
「じゃ、それでいいよね」
「……」
少し人の話を聞かないところはあるものの、天内《あまうち》茜《あかね》は決して悪い人間ではなさそうだった。激《はげ》しく違和感を覚えたが、呼び方のことは諦《あきら》めて裕生《ひろお》は話題を変えた。
「その写真、お父さんとお母さんだよね」
二人は仏壇《ぶつだん》のそばに座っている。家族のスナップ写真が仏壇に飾られているが、位牌《いはい》は一つだけしかない。彼女の両親は「行方《ゆくえ》不明」ということになっているからだろう。
「天内さんはお父さん似なんだ」
彼女の父親は背が高く、眼鏡《めがね》をかけていることを除けば顔立ちは茜によく似ている。しかし、茜はかすかに眉《まゆ》をしかめた。
「そうかな……まあ、性格はあんまり似てなかったと思うけど」
沈黙《ちんもく》が流れた。あまり父親のことは話したくないらしい。そのことには触れない方がよさそうだった。
ふと、茜はジーンズのポケットから丸いものを取り出す。大学の屋上て裕生が渡した鉄球だった。
「さっき返すの忘れちゃったから」
裕生は手を伸ばしてそれを受け取ろうとすると、茜が付け加えた。
「それ、人間の目のオブジェだと思うよ」
「えっ」
裕生は思わず手のひらから落としそうになった。ただのいびつな鉄球にしか見えなかったが、言われてみれば大きさといい形といい人間の目にそっくりだった。
「この犯人は、何年か前から色んなところで女の子を殺してるかもしれないの。その中には、目を持っていかれた人もいるんだって……目になにか執着があるのかもしれないって、警察《けいさつ》は言ってた」
裕生はぞっとした。彼女は家族が死んだ晩、二つの卵を見たと言っていた。一つは犯人のもとに来た卵なのだろう。犯人もカゲヌシの契約者なのは間違いない。話を総合すると、殺人鬼がカゲヌシと契約してしまったということになる。
「あたしもあの時、ボルガがいなかったらなにされてたか分からないと思う」
と、茜が言った。
「犯人のカゲヌシはパパとママを……食べたけど」
一瞬《いっしゅん》、茜は言葉を詰まらせる。声が震《ふる》えていた。
「小夜《さよ》の体にはなにもしなかったし、あたしも殺さなかった。きっと、殺せなかったんだよ。ボルガが守ってくれたんだと思う」
そうかもしれないが、裕生はそこまでカゲヌシを信用することはできなかった。一ヶ月前に戦った「ヒトリムシ」は、契約者の精神を乗っ取ってしまったし、葉《よう》にとりついている「黒の彼方《かなた》」もそうしようとしている。
「でも、カゲヌシは人間を襲《おそ》うんだよ」
「この子は大丈夫。時々、機嫌《きげん》の悪そうな時はあるけど、あたしがそんなことさせない。他《ほか》のカゲヌシはよく知らないけど、この子はあたしの味方だよ」
確《たし》かに昼間の戦いでは、ボルガは完全に茜《あかね》の支配下に入っているようだった。葉と違って、途中で戦いをやめさせることもできた。しかし、カゲヌシが人を食うのは習性のようなものだと思っていた。
「そういえば、ボルガって、妹さんの部屋にあったぬいぐるみにそっくりだね」
「そっくりだと変なの?」
「そうじゃないけど……」
異世界から来たカゲヌシが、最初からあのキャラクターの姿だったとは思えない。カゲヌシは契約者の意志に応じて、形態を変えることができる。あの「ヒトリムシ」もそうだった。おそらくボルガもそれで姿を変えたのだろう。
「最初からこの形だったし。『ボルガ』ってあれの名前だけど、妹もあたしも好きなの。誕生日《たんじょうび》のプレゼントに、小夜《さよ》からボルガのぬいぐるみもらうはずだったんだ」
茜の「ねがい」は、妹を殺した者への復讐《ふくしゅう》なのは間違いない。多分《たぶん》、このボルガは彼女の「ねがい」の象徴《しょうちょう》なのだろう。
「ボルガにとりつかれてから、体調《たいちょう》がおかしくなったりしない?」
茜は不思議《ふしぎ》そうに裕生《ひろお》を見る。
「どういうこと?」
「どうって……雛咲《ひなさき》はたまに発作みたいなものに襲《おそ》われるみたいだから」
うーん、と言いながら茜は首をひねった。
「たまに頭とかお腹《なか》が痛くなったりするけど、それがそうなのかな。でもあたし、もともと生理痛ひどいよ」
「……」
裕生は顔をしかめた。そんなことを言われても、どう反応していいか分からない。
「ねえ、あの雛咲って子はこの子を殺そうとしてるんだよね?」
「……うん。まあ、そういうことになるけど」
「ダメ」
茜はきっぱり言った。
「この子はなんにも悪いことしてないよ。悪いことできるほど、頭もよくないし」
彼女はボルガをペットのようなものだと考えているらしい。そんな生易《なまやさ》しいものではないと裕生は思うが、はっきり否定できるほどの確信があるわけではない。彼が会ったことのあるカゲヌシは、このボルガを含めて三匹しかいなかった。
「あの大学にもう一匹カゲヌシがいるわけだよね。その目玉のオブジェ持ってた奴《やつ》」
彼女の言葉に、裕生《ひろお》は頷《うなず》いた。
「そいつは多分《たぶん》、うちの家族を殺した犯人」
裕生はもう一度頷く。茜《あかね》はにっこり笑った。
「じゃあさ、あたしが協力すればいいんじゃない」
「協力?」
「雛咲《ひなさき》って子はカゲヌシを殺す! あたしは犯人を殺す! どうこれ?」
「ちょっと、それは」
茜がカゲヌシにとりつかれている状況はなにも変わらない。第一、契約者が死んでしまっては、葉《よう》がカゲヌシを殺す意味がない。
「犯人だったら、警察《けいさつ》に連れていった方がいいと思うんだけど」
「証拠もないのに? それにカゲヌシと一緒にいる人間を、警察が捕まえておけるはずないよ」
裕生は言葉に詰まる。確《たし》かに彼女の言うとおりだった。「カゲヌシにとりつかれている」というのは、なんの証拠にもならない。
「でもだからって殺したりしたら、ぼくたちも人殺しになる」
「殺すのはあたし。裕生ちゃんたちは関係ない。それに、あの犬《いぬ》っぽいのは、カゲヌシが近くにいても分からないでしょ。あたしらと協力した方が絶対いいと思うけど?」
茜は笑顔《えがお》で彼を見ている。裕生は思考をめぐらせた——ここで協力を断っても、彼女は一人で東桜《とうおう》大学で犯人を捜すはずだ。それなら、自分たちも一緒《いっしょ》にいた方が、まだいいような気がする。それに茜が犯人を殺すのを止めるなら、その場にいなければならない。
「……うん。そうだね」
葉には明日迎えに行った時に話そうと思った。
「じゃあ、握手」
返事を待たずに茜は裕生の手を握った。そして、
「ボルガ!」
と、いきなり叫んだ。彼女の足元から、青い塊《かたまり》がにゅっと飛び出してきた。
「うわっ」
思わず裕生は飛びのいた。気がつくとダイニング・テーブルの上に、大きな青い鳥らしきものが乗っている。どこまでが首なのか分からない、ずんぐりした体つきはふくろうに似ている。迫力のないくりっとした瞳《ひとみ》が裕生のすぐ目の前にあった。
「あいさつしなさい」
茜が命じると、ボルガは翼《つばさ》を畳んだまま、体を前後に揺らした。どうやら、おじぎをしたつもりらしい。
「よろしく!」
と、言ったのはもちろん茜《あかね》の方だった。裕生《ひろお》は彼女に見えないように、かすかにため息をついた。
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