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シャドウテイカー アブサロム24

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:6 明け方に雨は止《や》んだが、晴れ間は見えなかった。裕生《ひろお》がやって来るのが見えた時、ツネコの店の前で待っていた
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 明け方に雨は止《や》んだが、晴れ間は見えなかった。
裕生《ひろお》がやって来るのが見えた時、ツネコの店の前で待っていた葉《よう》は思わず駆《か》け寄ろうとした。しかし、一緒《いっしょ》に現れた天内《あまうち》茜《あかね》の姿に戸惑って足を止める。
「おはよう、雛咲《ひなさき》」
と、裕生が言った。
「おはよー。元気になった?」
天内茜が笑顔《えがお》で言ったが、葉は答える気になれない。昨日、「死ね」と言い放った時と同じ笑顔だった。
朝になると、葉の体調は元に戻っていた。ツネコの店から裕生の携帯に電話すると、裕生は「ちょっと話があるから、今から行く」とだけ言って切ってしまった。
「……どういうことですか?」
と、裕生に向かって尋ねる。
「昨日、天内さんと会って話したんだけど」
「だから茜でいいってば」
と、彼女は口を挟《はさ》む。なれなれしい、と葉は思った。なんとなく胸がざわざわする。
「あたしが二人を手伝うって話になったの」
茜が手短に説明する。東桜《とうおう》大学には茜の家族を殺したカゲヌシがいるらしい。それを倒すまで、彼女とボルガが葉たちに協力する。ところどころで、「あたしは犯人を殺すから、二人はカゲヌシの方をやっちゃって」などと物騒《ぶっそう》な説明が入った。そのたびに裕生がなにか言いかけるのだが、結局彼女はほとんど口を挟《はさ》ませなかった。
「昨日の晩、あたしらの間でそういう感じにまとまりました」
と、茜《あかね》が胸を張る。葉《よう》は黙《だま》っていた。どうも茜を信じる気になれない。それに彼女の関係ないところで、裕生《ひろお》が話を進めてしまったのが不愉快だった。「黒の彼方《かなた》」の契約者は自分なのに。
(……昨日の晩)
と、葉は心の中で呟《つぶや》いた。
「先輩《せんぱい》、どこに泊まったんですか」
葉はあくまで裕生に話しかける。しかし、裕生が口を開きかける前に、
「あたしんちです。行くところないみたいだから、泊めてあげたの」
と、茜が答えた。
「結構、二人で遅くまで起きてたよねー」
茜は「ねー」のところで、裕生に向かって首をかしげる。カールした髪がふわっと揺れた。うん、まあ、と戸惑ったように裕生も頷《うなず》いている。
葉の頬《ほお》がぷくっとふくれた。
(心配してたのに)
その表情の変化に、茜が目を瞠《みは》った。
「あれ、ひょっとして気にしてる? 言っとくけど、一緒《いっしょ》の部屋で寝たわけじゃないよ。小学生じゃないんだし。なんかされたらあたしもいやだし」
「そ、そんなことするわけないだろ」
慌《あわ》てたように裕生が言った。
「……」
葉の顔がかっと赤くなる。裕生と茜になにかあると思ったわけではなかった。
(……小学生)
一昨日《おととい》の晩、藤牧《ふじまき》家に泊まろうとした時、「裕生と一緒の部屋で寝る」のがまさに葉の望みだった。「お前は小学生だ」と面と向かって言われたようでショックだった。葉はまじまじと茜を見る。青い花柄のミニのワンピースがよく似合っている。背も高いしスタイルもよかった。茜と比べれば、確《たし》かに自分は小学生と言われても言い返せない気がする——別に本当に言われたわけではないのだが。
(小学生)
むすっとした顔で立っていると、裕生は彼女の腕を取って茜から少し距離《きょり》を置いた。そして、聞こえないように小声で話しかけてきた。
「雛咲《ひなさき》が疑うのも分かるけど、一緒に行動した方がいいと思う。ぼくもあの人のこと、全面的に信じてるわけじゃない。でも、雛咲の役に立つのは確かだよ」
裕生《ひろお》はどうやら、葉《よう》が単純に茜《あかね》を信用していないと思っているらしい。
「『黒の彼方《かなた》』は、敵の場所が分からないけど、あの人がいればそれも心配ない。それに本当に東桜《とうおう》大学に犯人がいたとしたら、あの人本気で犯人を殺しかねないよ……昨日のこと考えると。そうなったら誰《だれ》かが止めなきゃならないし」
「……」
納得《なっとく》のいく説明だったが、葉は裕生の話に集中できなかった。二人のいる場所から、茜が退屈そうに立っているのが見える。葉は「わたしは子供っぽいですか」と裕生に聞いてみたかった。しかし、そんな質問自体が子供っぽいことも分かっている。
言いたかったことを葉はぐっと呑《の》みこんだ。とにかく、そんなことを気にしている場合ではない。
分かりました、と言おうとした時、
「ねー、裕生ちゃん、話終わった?」
葉ははっと息を呑んだ。
「……裕生ちゃん」
昔、葉が使っていた呼び名だった。今は口にしないように我慢《がまん》している、彼女にとっては大事な言葉だった。
(どうしてその名前で呼ぶの)
全然親しくもないくせに。会ったばかりのくせに。
「雛咲《ひなさき》、どうかした?」
裕生が不思議《ふしぎ》そうに葉の顔を見ている。雛咲、と呼ばれるのが無性に悲しかった。どうしてあんななれなれしい人と一緒《いっしょ》にいられるんだろう。
(ひょっとして、本当に仲がよくなったのかも)
胸がずきりと痛んだ。
「いやです」
自分でもびっくりするような、硬い声で葉は言った。裕生は目を瞠《みは》った。
「わたし、一人で行きます」
「え? なに言ってんの、雛咲」
雛咲、と呼ばれるたびに腹が立った。
「先輩《せんぱい》はあの人とどうぞ!」
葉は駅の方に向かって走り出した。その背中に裕生の声が突き刺さる。
「雛咲!」
その呼びかけに、ますます彼女は足を速めて大通りへ出て行った。
 裕生は慌《あわ》てて葉の後を追った。新大久保《しんおおくぼ》の駅の改札に彼女の姿は見えなかった。JRに乗ったわけではないらしい。裕生《ひろお》は完全に葉《よう》を見失っていた。
追いついてきた茜《あかね》に裕生は尋ねた。
「雛咲《ひなさき》がどこに行ったか分かる?」
茜なら居場所が分かるはずだ。彼女は意識《いしき》を集中するように目を閉じた。
「……結構《けっこう》、遠くに行っちゃったよ。タクシーつかまえたんじゃない」
裕生はため息をついた。どうして葉が突然怒り出したのか、彼にはわからなかった。
「どうしたんだろ」
なにか自分が傷つけるようなことを言ったのかもしれない。裕生が考えこんでいると、そばにいた茜が呟《つぶや》いた。
「かわいいねー、あの子。裕生ちゃんは幸せだ」
「え?」
「ううん。なんでもない。大丈夫だよ。あの子も東桜《とうおう》大学に行ったんでしょ。あたしたちも追いかけようよ」
茜の言葉に、裕生も頷《うなず》いた。「一人で行く」と葉は言っていた。行き先は東桜大学のはずだった。
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