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シャドウテイカー アブサロム26

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:8「んっ」天内《あまうち》茜が小さく呟《つぶや》いて、切符を手にしたまま自動改札口の前で立ち止まる。大学生らしい若い男が
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「んっ」
天内《あまうち》茜が小さく呟《つぶや》いて、切符を手にしたまま自動改札口の前で立ち止まる。大学生らしい若い男が、邪魔《じゃま》だと言いたげな顔つきで隣《となり》の改札から外へ出て行った。
「どうしたの?」
と、後ろから裕生が尋ねる。茜は無言のまま切符を改札口に入れて、出口へ向かって走り出した。
慌《あわ》てて後を追った裕生は、外へ出る階段の下で茜に追いついた。
「あの子の近くに誰かいる」
「誰かって?」
しかし、茜は答えずに不安定なサンダルで階段を駆《か》け上がっていった。
駅の階段を出ると大通りにぶつかる。広い横断歩道をはさんで、道路の反対側に東桜《とうおう》大学に併設する教会の建物が見える。教会の脇《わき》の狭い道を進むと、大学の正門にたどり着くはずだった。
外に出た茜《あかね》は、どう見ても赤信号の道路に飛び出していこうとする。
「危ない!」
思わず裕生《ひろお》は彼女の腕をつかまえた。半分車道に降りかけていた茜の右足が宙に浮く。
「なにすんの!」
「今行ったら轢《ひ》かれるよ」
四車線の広い道路を、車がひっきりなしに通っている。飛び出したら事故に遭《あ》うのは間違いなかった。
「なに言ってんの。あの子、どんどん遠くに行ってるんだよ。他《ほか》のカゲヌシと一緒《いっしょ》に」
「え……」
裕生は絶句した。誰《だれ》か、というのはカゲヌシのことだったのだ。確《たし》かにそうでなければ茜に分かるはずがない。
(追われてるのかもしれない)
彼女が相手の存在に気づいているならまだいい。もし、追われていることにも気づいていなかったら、彼女の命が危ない。「黒の彼方《かなた》」は五感が鈍い。
「……雛咲《ひなさき》」
反射的に車道へ飛び出そうとした裕生のすぐ鼻先を、トラックが走り抜けていった。
「ちょっと!」
今度は茜の方が裕生をつかまえた。
「なにやってんの! 危ないって!」
裕生は我に返った。自分が行ったところでなにができるというわけではないのだが、葉《よう》が危ないと思うと冷静ではいられなかった。
(くそっ)
彼の目の前の車道を、何台もの車が連なって通りすぎていく。信号が変わるまでは、道路を渡れそうもなかった。
「アブサロム」と名乗った男は、道端の一台の黒いワゴンの前で足を止めた。
「これに乗ってもらえるかな」
男は葉を振り返る。少し離《はな》れてナンバープレートを見ていた葉は、慌《あわ》てて目を逸《そ》らした。
「無駄《むだ》だよ」
と、男は笑いながら言った。
「この車は盗んだものだし、念のためナンバープレートも他《ほか》のものに換えてある」
葉《よう》は黙《だま》って車に近づいた。この男について分かっていることと言えば、外見だけだった。
(……でも、顔は見せてる)
名前も名乗らない。行き先も告げない。移動手段にも念を入れている。それなのに、なぜか目の前に現れた。もし、東桜《とうおう》大学の学生か職員《しょくいん》なら、外見から特定できてしまうはずだ。彼女の存在を察知できるのであれば、顔を見せずに連絡をする方法もあったはずだ。
恭《うやうや》しく男が助手席のドアを開けた。
「どうぞ。ぐずぐずしていると、追いつかれてしまう」
彼女は一瞬《いっしゅん》足を止めそうになった。やはり、裕生《ひろお》と茜《あかね》が追ってきているのだ。彼女もこの「アブサロム」の存在に気づいているかもしれない。しかし、この男の方も彼女の存在を察知できることになる。
今は従うしかない。葉は男を警戒《けいかい》しながら、背を屈《かが》めて助手席に入ろうとする。
「えっ」
シートの上に落ちている灰色のものに、彼女の目は吸い寄せられた。例の丸い球体だった。
(どうしてここに)
藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》が拾ったというあの鉄球は、今は裕生が持っているはずだった。似てはいるが、別のものなのかもしれない。そう思った瞬間、葉は後頭部に重い衝撃《しょうげき》を感じた。目の前が暗くなる。奇妙な冷静さで、殴《なぐ》られた、と思った。
『わたしを呼びなさい』
と、「黒の彼方《かなた》」の声がする。しかし葉は従わなかった。「黒の彼方」を呼び出せば、自分の身を救うことはできるかもしれない。しかし、呼び出した後に彼女が気絶してしまえば、「黒の彼方」を制御することはできなくなる。
(……いや)
人間を殺してしまうかもしれなかった。誰《だれ》かに体を支えられた感触がある。しかしそれもつかの間で、彼女は完全に意識《いしき》を失ってしまった。
 車道の信号が赤に変わる。車の流れが途切《とぎ》れかけていた。
「……まだ動いてない?」
と、裕生は茜に尋ねる。茜が言うには、葉たちは横断歩道を渡ったずっと先のほうで、一度止まったということだった。
「うん……あ、ちょっと待って。また動き出した。急いだ方がいいかも」
その瞬間、横断歩道の信号が青に変わる。道路の両側でせき止められていた人々がゆっくりと動き出した。裕生はその先頭を切るようにして飛び出した。
(雛咲《ひなさき》)
頭の中は遠ざかっていく葉のことでいっぱいだった。異変に気づくことができたのは、横断歩道を半ば渡ってからだった。背後から茜《あかね》の声が聞こえた気がした。
振り向くと茜はまだ歩道の上で、腰に手を当てたまま立っていた。その脇《わき》を横断歩道を渡る人々がすり抜けていく。
「なにやってるんだよ!」
さすがに裕生《ひろお》は大声を出した——葉《よう》が移動している、と言ったのは茜だったはずだ。さっきは彼女も道路に飛び出しそうだったのに。
「急がないと……」
裕生の声が途切《とぎ》れた。茜の顔が苦痛に歪《ゆが》んでいる。青いワンピースの腰のあたりに、丸い染みが広がりつつあった。
「えっ」
茜はぺたんとアスファルトの上に腰を下ろしてしまった。慌《あわ》てて彼女のところまで駆け戻る。
「どうしたの!」
裕生は自分も膝《ひざ》をつきながら言った。茜はがたがたと体を震《ふる》わせている。傷口を押さえた指と指の間から、赤いものが滴《したた》っていた。
「……多分《たぶん》、刺された」
苦しげな声で茜は答える。
「誰《だれ》がそんな」
「分かんない……後ろからだったから」
彼は周囲を見回した。茜と自分を立ち止まった人々が遠巻きに見ている。カゲヌシの気配《けはい》はここから離《はな》れた場所にあった。ということは、カゲヌシではない者が茜に傷を負わせたということになる。
(人間の仲間がいるんだ)
にわかには信じられないが、それ以外には考えられなかった。
血で濡《ぬ》れた生地《きじ》が彼女の足にぺったりと貼《は》りついている。影《かげ》のように血だまりが広がりつつあった。
「裕生ちゃんは先に行きなよ。早くしないと……」
「でも……」
裕生はためらった。葉が一体どうなっているか気がかりだが、明らかに茜の傷は深い。それに、まだ茜を刺した人間がこの近くにいるのだ。その時、いつのまにか点滅していた横断歩道の信号が赤に変わった。止まっていた車が走り出し、流れが元に戻る。
「……あ」
彼は呆然《ぼうぜん》と道路の反対側を見つめる。その瞬間《しゅんかん》、がくんと茜が首を折って、裕生にもたれかかってきた。これで自分たちと葉は完全に引き離されてしまった。
(……雛咲《ひなさき》)
裕生《ひろお》は歯を食いしばった。彼女を一人にしてしまった自分の馬鹿《ばか》さ加減が悔しかった。しかし、今は茜《あかね》を病院に連れていかなければならない。裕生は震《ふる》える手で自分の携帯を出した。
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