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シャドウテイカー アブサロム27

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:9 目を開けた時、葉《よう》は椅子《いす》の中に体を埋めていた。そこは大きな暗い部屋だった。コンクリート造りの建物の中で
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 目を開けた時、葉《よう》は椅子《いす》の中に体を埋めていた。
そこは大きな暗い部屋だった。コンクリート造りの建物の中で、床には薄《うす》汚れたタイルが敷《し》き詰められている。右手にはカーテンの閉まった窓があり、わずかな隙間《すきま》から入ってくる外の光が、部屋の中をかすかに照らしている。照明はついていなかった。
葉は弾《はじ》かれたように立ち上がる。彼女が眠っていたのは、壁際《かべぎわ》に置かれた一人がけの大きなソファだった。彼女は長方形の部屋の端にいるらしい。部屋のところどころに、広い部屋を支えるための丸い柱が見える。
よどんだ空気と湿ったコンクリートの匂《にお》いが、ここが長い間使われていないことを物語っている。閉鎖《へいさ》されたホールの中にいるようだった。
なにかの動く気配《けはい》がする。振り向くと、あの「アブサロム」と名乗った男が柱の一本にもたれているのが見えた。
「……つかまっている人は?」
男は部屋の中央を指差す。葉《よう》が目を凝《こ》らすと、ぼんやりとベッドのようなものが置かれているのが見えた。そこに誰《だれ》かが眠っているらしい。男は柱から一歩も動こうとしない。自分の目で確《たし》かめろ、と言っているようだった。
葉は一歩足を踏《ふ》み出した。
「あるところに、一人の飢えた少年がいた」
男が口を開いた。葉は振り返ったが、彼は彼女を見ていなかった。彼女がまた一歩進むと、また声が聞こえた。
「少年は自分の飢えがなんなのか知らなかった。少年は自分の飢えに苦しみながら、人並みの生活を送り、人並み以上の深い愛情を受けて成長していった」
葉はもう一度ちらりと男を見たが、もう立ち止まらなかった。ベッドにいる人質《ひとじち》の方が気がかりだった。彼女に聞かせてはいるが、男が口にしているのは独り言のようなものだ。
「なんの不満もないはずの暮らしの中で、やがて少年は気づいた。なぜ人並みの生活に満足できないのか? それは、彼が人間ではなかったからだ」
ベッドはなんの飾りもない古いパイプベッドで、誰かが床まで届くほどの大きなシーツを、頭までかぶって横たわっている。葉はシーツをたぐり寄せるように引っ張っていった——やがて、マットレスの上のものが現れた。彼女の手からシーツが落ちる。
「少年は自分がなにに飢えているのかにも気づいた。彼がずっと求めていたものは」
「これはなに?」
震《ふる》える声で葉は叫んだ。
生まれてから一度も見たことがないものが横たわっていた。そこには全裸《ぜんら》の若い女がいた。あの学生証の写真と同じ顔だった。しかし、女の顔も胴体も手足も、どの部分も鈍い光沢《こうたく》を放っていた。
「文字通りの『|鉄の乙女《アイアン・メイデン》』だよ。人質になった彼女だ」
男は笑みを含んだ声で言う。ベッドの上にあるのは、人の形をした金属の精巧な塊《かたまり》だった。今この瞬間《しゅんかん》にも絶叫《ぜっきょう》しているかのように、大きく口を開いている。葉はその皮膚《ひふ》に触れる。冷たい鉄の感触が伝わってくるばかりだった。
葉は確信した。これが「アブサロム」の能力に違いない。この人を鉄に変えて殺したのだ。まだ生きているかのように言ったのは、葉をおびき寄せるためで——。
突然、葉の背筋を冷たいものが駆《か》けのぼる。女の体が小刻みに震《ふる》えていた。薄《うす》く開いた鈍色《にびいろ》のまぶたから、まるで涙のように真新しい血が流れ出した。
「お……あ……」
突然、口の形をした穴の奥から、女の声がかすかに流れてきた。
(生きてるんだ)
葉は悲鳴を上げかけた自分の口を両手でふさいだ。こんな状態だというのに。
「鉄に変えたのは、表面だけなんだ。昆虫みたいに、内臓《ないぞう》は柔《やわ》らかいままだよ。おかげで出血も止まって、今もちゃんと息をしている。肋骨《ろっこつ》と横隔膜《おうかくまく》の動きが制限されるから、呼吸に負担がかかるらしいけどね。いずれにせよ、もうほとんど意識《いしき》はない」
葉《よう》はよろよろとベッドのパイプによりかかる。なにかにつかまっていなければ立っていられなかった。
「その少年がずっと求めていたのは、人間の苦痛と死だ。彼は人間に苦痛を与えることを目的とした生物なんだ。彼にとっては捕食、と言い換えてもいいかもしれない」
彼はベッドの前に跪《ひざまず》くと、女の右手に自分の手を重ねた。よく見れば、女の全身には無数の傷がある。両足のくるぶしは半ば切り取られかけていた。
「彼は「捕食」を繰り返すようになった。『アブサロム』に取りつかれる前に十四人殺した。警察《けいさつ》に疑われたことはただの一度もない。取りつかれた後にも五人殺している。いや」
男の右手を中心に、あっというまに鈍色《にびいろ》が覆《おお》っていく。ベッドのマットレスも彼女の体と一体化して一つの金属の塊《かたまり》になった。犠牲者《ぎせいしゃ》の声が途切《とぎ》れ、彼女の目から流れていた血液まで表皮と同じ金属に変わる。
「これで六人だ」
「やめて!」
葉は一歩下がる。「黒の彼方《かなた》」を呼び出すつもりだったが、彼女が口を開く前に男は素早《すばや》く動いた。床に落ちていたシーツを広げて彼女にふわりとかぶせる。
一瞬《いっしゅん》、視界を奪《うば》われた葉はすぐにその意図を察した。しかしシーツを振り払う前に、すでに身動きが取れなくなっていた。彼女を包んでいるシーツと、彼女の周囲の床は一体となった金属に変化していた。
「まだ話があるから、君をまだ『|鉄の乙女《アイアン・メイデン》』にはしたくない」
葉は必死に体を動かそうとする。しかし、指一本彼女の自由にはならなかった。まるで自分が一本の立ち木になった気がした。たった一枚の布で「アブサロム」は葉の体を絡《から》め取っていた。
「『同族食い』を呼び出すこともできるけど、ぼくが君の心臓《しんぞう》を鉄に変えるほうが速いよ」
ぎしりと音が聞こえる。男はベッドの端に腰かけたようだった。
「これで君もぼくの客だ」
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