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シャドウテイカー アブサロム33

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:6「嘘《うそ》」茜はどうにか言葉を絞《しぼ》り出した。彼女は肩で息をしながら、がっくりと首を折る。ひどいめまいがした。こ
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「…………嘘《うそ》」
茜はどうにか言葉を絞《しぼ》り出した。彼女は肩で息をしながら、がっくりと首を折る。ひどいめまいがした。このまま眠ってしまいたかった。
「違う……違う……違う!」
我に返ることができたのは、腰の傷の痛みのせいだった。彼女は顔を上げて、「アブサロム」に向かって叫んだ。
「ボルガはそんなことしない! 嘘つき!」
男が唇《くちびる》の端《はし》を歪《ゆが》めて笑った。
「妹の死体が残ったのは、両親二人で満たされたからだ。もし、そうでなければ」
「うるさい!」
茜は水を操《あやつ》るボルガの能力を発現させた。窓の外で降り続いている雨は、無尽蔵に活用できるボルガの武器だった。窓の外に透明な球体が生まれ、回転しながら瞬《またた》く間に膨《ふく》らんでいった。
「……死ね」
奔流《ほんりゅう》が会堂の中に殺到する。横一直線に走る水柱が、部屋の中央にいた男に襲《おそ》いかかった。しかし、床と一体化している男の体はぴくりとも動かない。水柱の奥で男はまだ笑みを浮かべている——その程度か、と言っているように茜《あかね》には思えた。
(これで終わりじゃないからね)
男に浴びせられた水は、周囲に飛び散ることはなかった。物理法則を無視した動きで、床の上で半ば金属と化している男の体を包んでいく。やがて、それは彼を頭の上まで覆《おお》う透明なドームとなった。
ボルガの攻撃《こうげき》すらしのぐアブサロムを、たかが水の力で倒せるとは茜も思っていなかった。しかし、力で倒すことができないなら、溺《おぼ》れさせてしまえばいい。仮にあの男が水の牢獄《ろうごく》から抜け出そうとしても、ボルガには彼の動きに合わせてこのドームを動かすことができる。地上でこの男は溺死《できし》することになるのだ。
茜はアブサロムが、自分の肉体の金属化を解くものと思っていた。そうすればこの男の体を床から切り離《はな》して、完全に体の自由を奪うつもりだった——しかし、いつまで経《た》っても彼はその場から動こうとしなかった。
「えっ」
突然、透明のドームが中心から濁《にご》り始める。男の姿が鈍色《にびいろ》の中に溶けた。ボルガが作り上げたはずの水のドームは、みるみるうちに鈍い光沢《こうたく》を発する金属の塊《かたまり》になっていった。
(水も変えられるなんて)
茜は「絶対ぼくに勝てない」という男の言葉の意味を知った。茜が水を操《あやつ》ったところで、彼に触れた瞬間《しゅんかん》、こちらには制御《せいぎょ》不能な金属となってしまう。
突然、金属のドームに亀裂《きれつ》が入る。茜が反応する暇もなく、鈍色の塊がばらばらに四散した。細かい破片が窓際《まどぎわ》まで飛び、茜は顔を覆《おお》って目を閉じた。ほんの数秒のことだったが、再び目を開けた時には男の姿が消えていた。
「ここだ」
すぐ隣《となり》から声が聞こえた。茜ははっと顔を上げる。手を伸ばせば触れられるほどの距離《きょり》に男が立っていた。彼女はボルガを呼ぼうとする。しかし、その前に男の足元に転がっているものに気づく。すでに半身が金属と化したボルガが、床の上でもがいていた。片方の翼《つばさ》と体の右半分は、同じ色の床とすでに一体化している。
「……嘘《うそ》」
すべてを一瞬でやってのけたのだ。ふと、両頬《りょうほお》が冷たい手のひらでしっかりと固定される。片膝《かたひざ》をついた男が、茜の顔を両手で挟《はさ》んでいた。
「他《ほか》の二人は動かない方がいいね」
茜から目を離さずに男は言う。彼の背後に回りこもうとしていた裕生《ひろお》は、その一言で足を止めた。
「……彼女を死なせたくはないだろう?」
男の肩越しに、唇を噛《か》んでいる裕生《ひろお》の姿が見える。今の人質《ひとじち》は葉《よう》ではなく茜《あかね》自身だった。これでは葉も「黒の彼方《かなた》」を出せない。
「君の持っている武器は、それだけではなんの役にも立たないんだよ」
憐《あわ》れむように男は言った。
「それに、怪我《けが》を負った君は歩くこともできない。ぼくはこうして君を捕まえるだけで良かったんだ」
彼はまるでキスをするように、顔を近づけてくる。そして、限界まで見開かれた彼女の両目の奥を覗《のぞ》きこみながら言った。
「とても綺麗《きれい》な目だ。この目をずっと探していたんだ」
茜の目からぽろぽろと涙が流れた。しかし、それは恐怖ではなく怒りのもたらしたものだった。
「……天内《あまうち》茜。妹の代わりに自分が死ねばよかった、とは思わないか?」
(……ボルガ)
茜は口の中で呟《つぶや》いた。まだ、彼女のカゲヌシは死んだわけではない。自由を奪《うば》われただけだ。茜は両手を上げて男の腕をつかんだ。死人のように冷たい腕だった。
(つかまえたのはあたしの方よ)
人間の体には血液が走っている。血液は——水だ。真水以外に操《あやつ》ったことはないが、原理的には可能なはずだ。この男の全身に流れる血液の動きを止める。自分が金属に変えられるのが速いか、この男が死ぬのが速いか——これが最後の賭《か》けだった。
茜はボルガの力を呼び出した。
なにも起こらなかった。確《たし》かに男の体内にあるはずの水は動きを止めたはずだ。彼女はそのように働きかけた。
「無駄《むだ》だよ」
と、男が茜の耳元にささやく。
「……どうして」
血液の循環《じゅんかん》を止められて動ける人間がいるはずがない。しかし、答えを聞くことはできなかった。いつのまにか頬《ほお》から離《はな》れていた男の右手が、彼女の首筋に振り下ろされていた。茜の意識《いしき》がたちまち遠ざかっていった。
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