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シャドウテイカー アブサロム40

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:3 中庭に戻ってきた裕生《ひろお》たちは、茜《あかね》から蔵前のことを聞いた。三人のほかにはあたりには誰もいない。ボルガ
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 中庭に戻ってきた裕生《ひろお》たちは、茜《あかね》から蔵前のことを聞いた。三人のほかにはあたりには誰もいない。ボルガは植えこみの中にうずくまっていた。
「……逃がしちゃった。あいつを殺すチャンスだったのに」
茜は血の気の失《う》せた顔で呟《つぶや》いた。紫色の唇がかすかに震《ふる》えている。もう体力の限界を超えているはずだった。
「ごめんね。ウソついて」
茜は裕生たちに「校門の近くに敵《てき》がいる」と告げて、中庭を離《はな》れさせていた。しかし、校門には誰もおらず、茜の携帯に電話しても繋《つな》がらなかった。不審《ふしん》に思った裕生たちが戻ってきたのだった。
「天内《あまうち》さんはこれからどうする?」
と、裕生は尋ねた。話を聞いた限りでは、蔵前は姿を消したに違いない。この大学に現れることはもうないだろう。
「警察《けいさつ》に話すよ。はっきり憶《おぼ》えてないけど、あいつがあたしになにかしたんだったら、警察にも記録《きろく》とかが残ってると思う……カゲヌシのこととか、裕生ちゃんたちのことは言わないけど」
裕生は頷《うなず》いた。そのような前科があると分かれば、少なくとも警察は蔵前を探して事情を聞こうとするはずだ——そう簡単《かんたん》に見つかるとは思えなかったが。
問題はボルガをどうするかだった。彼女は自分の手で復讐を遂げることを望んでいるはずだ。このカゲヌシは瀕死《ひんし》の重傷を負っているが、「アブサロム」の左腕を持った蔵前を追うのに役に立つ。ボルガを殺すことを茜が承知するはずがない。
(でも、このままにはしておけないし)
とにかく、どうにか説得しようと裕生が思った時、茜が裕生たちの顔を見上げた。
「葉《よう》ちゃん、あのね、頼みがあるんだけど」
ちゃんづけでいきなり呼びかけられたせいか、葉の顔に微妙な戸惑いが浮かぶ。
「なんでしょうか」
「ボルガを殺して」
と、茜は言った。
「え?」
裕生《ひろお》と葉《よう》が同時に聞き返す。なにかの聞き違いかと裕生は思った。
「最初からあたしの復讐《ふくしゅう》だったの。死ぬのはあいつ一人でいい。でも、これ以上ボルガと一緒《いっしょ》にいようとしたら、誰《だれ》かを殺さなきゃいけない。カゲヌシの傷は人間を食べないと回復しないから……あたしのパパとママを食べたみたいに」
いつのまにか、茜《あかね》の目から涙が溢《あふ》れかけていた。
「あいつは新しいカゲヌシを探すって言ってた。そのためにまた人も殺すと思う。もしあたしがこれ以上ボルガといたら、あいつと同じになっちゃう」
茜は生身《なまみ》のまま蔵前《くらまえ》を探すつもりなのだろう。彼女にも危険は分かりきっているはずだ。しかし、復讐などしてはいけないと裕生には言えなかった。蔵前は茜のものをあまりにも多く奪いすぎている。
「ボルガ、おいで」
茜が両手を広げると、植えこみから現れたボルガがよろよろと彼女に近づいていった。彼女はしっかりとその傷ついた体に抱きつく。
「お前が悪いわけじゃないんだけど、もう一緒にいられないの」
くぐもった声で彼女は言った。おそらく理解していないに違いない。ボルガは神妙に主人の言葉に耳を傾《かたむ》けていた。
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「今まで一緒《いっしょ》にいてくれてありがとう……本当にごめんね」
茜《あかね》が声を振り絞《しぼ》って泣き始めた。戸惑ったように、ボルガが折れ曲がった翼《つばさ》でぱたぱたと彼女の背中を撫《な》でた。
「……本当に、いいんですか」
誰《だれ》にともなく葉《よう》が呟《つぶや》いた。茜はボルガに抱きついたままでこくんと頷《うなず》いた。
「早くして。お願い」
葉が深く息を吸いこんだ瞬間《しゅんかん》、裕生《ひろお》は彼女の手をしっかりと握った。「黒の彼方《かなた》」を解放すれば、葉の意識《いしき》はまた完全に眠ってしまう。離《はな》れないようにしなければならなかった。
彼女もその手を握り返してくる。一瞬、ちらりと二人の目が合い——葉が困ったように視線を逸《そ》らした。
そして、彼女は口の中でカゲヌシの名を呼んだ。
「『ねがい』によっては、カゲヌシ同士が対立することもありえます」
葉が「黒の彼方」の言葉を発している。
「カゲヌシたちは一枚岩ではありません。そこにつけ入る隙《すき》がある」
裕生は無言でその話を聞いている。すでにボルガの死体はどこにもない。「黒の彼方」によって食い尽くされていた——天内《あまうち》茜はベンチの上で意識を失っている。すでに電話で救急車を呼んである。誰《だれ》かがここに現れる前に葉を起こしたかったが、「黒の彼方」は興《きょう》に乗ったように話し続けていた。
「これからは私たちはそれを見極めていかなければなりません。特にあなたとは、今後とも協力していくべきですね。お互いのためにも」
「『黒の彼方』」
耐えきれなくなった裕生は口を開いた。
「ぼくからお前に言っておく」
「なんでしょうか」
「お前はぼくたちの敵《てき》だ。必ず、この子の体から出て行ってもらう。そして、ぼくはお前を絶対に信用しない。ぼくはお前が考えてるほど甘くない」
葉の顔に嘲笑《ちょうしょう》が浮かんだ。
「人間は無力ですよ。わたしたちとは違ってね」
裕生は首を横に振って、きっぱりと言った。
「新しく契約を結んだお前は、人間であるぼくを殺せない。そして、ぼくがこの子の名前を呼べば、お前は影《かげ》の中に戻ってしまう。お前への主導《しゅどう》権はぼくにあるんだ」
長い沈黙《ちんもく》が流れた。
「なるほど」
不意に猫撫《ねこな》で声が影《かげ》をひそめた。
「あなたは思ったよりも手強《てごわ》いようです。下手《へた》な芝居は打たない方が身のためですね……ただ、間に合うと思いますか」
「え?」
「わたしたちの種族は常に『契約』を遵守《じゅんしゅ》しなければならない。だから、確《たし》かにわたしは人間に危害を加えることはできなくなった。しかし、それは契約者が契約者である間だけです。わたしが成長してこの娘の自我を取りこめば、契約など必要なくなります。その日は遅かれ早かれ、必ず訪れる」
裕生《ひろお》は足元の「黒の彼方《かなた》」を見る。今日だけで二匹もの同族を食ったこのカゲヌシは、少し体が大きくなっているように見えた。
「わたしたちは雛咲《ひなさき》葉《よう》をめぐっては敵《てき》同士であり、他《ほか》のカゲヌシに対しては味方同士です。あなたは人間でありながらカゲヌシと戦い、わたしとも知恵比べを続けることになる。最も命を危険に晒《さら》しているのはあなたです。それを憶《おぼ》えておくことですね」
救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえた。もう話すべきことはなにもない——彼は彼女の名前を呼んだ。
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