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シャドウテイカー アブサロム39

时间: 2020-03-27    进入日语论坛
核心提示:2 東桜《とうおう》大学の図書館は閑散としていた。貸し出しカウンターの奥で、中年の司書があくびをかみ殺している。すでに午
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 東桜《とうおう》大学の図書館は閑散としていた。
貸し出しカウンターの奥で、中年の司書があくびをかみ殺している。すでに午後の三時近くになっていたが、今日の利用者は実質上のゼロだった。さっきまで学内に警察《けいさつ》が入っており、授業が行われていなかったせいである。
昨日、構内で白いガスが発生する騒《さわ》ぎがあり、その現場検証がさっきまで行われていたからだ。ガスの正体は単なる水蒸気で、校舎の屋上にあった給水タンクに原因があるらしいのだが、詳しいことはまだ分かっていないという。
不意にカウンターの向こうに誰《だれ》かが立った。司書は相手が誰であるか気づいて目を瞠《みは》った。
「あれ?」
メタルフレームの眼鏡《めがね》をかけた青年が立っている。週五日で働いているアルバイトだった。背は高く目鼻立ちも整っているが、決して目立つタイプではない。服も髪もいたって地味だった。近頃《ちかごろ》では珍しく礼儀《れいぎ》正しい若者で、司書は好感を持っている。
「今日は五時からだったよね?」
時計を見ながら司書は言った。蔵書の移動をするので、臨時《りんじ》に出勤してもらうことになっていたが、少し早すぎる。
申し訳ないんですが、と青年は少し疲れた声で言った。
「……実は家族が事故で他界しまして。これから、実家に帰ることになりました」
司書は慌《あわ》ててカウンターの前から腰を上げた。
「そうですか……それはご愁傷《しゅうしょう》さまです」
と、言いながら、彼の家族についてほとんど何も知らないことに気づいた。父親が牧師だったという話を聞いた気もするが、思い違いかもしれない。はっきりと思い出せなかった。家族、というのが一家全員なのか、そのうちの一人なのかも聞きかねた。
「ご実家は確《たし》か……」
「北海道です」
彼は戸惑った。これも初耳だった気がする。毎日顔を合わせているし、よく話もしているはずなのに。そういえば、彼が今どこに住んでいるかも本人から聞いた記憶《きおく》がない。青年が自分について話すことを巧《たく》みに避《さ》けていた、とはもちろん考えなかった。彼の話を聞かず、自分の話ばかりしていたのかもしれないと恥じた。
「そういう事情だったら、電話の連絡でもよかったのに」
「……いえ、ちょっと忘れ物があったもので。申し訳ないですが、しばらく欠勤させてください」
彼はカウンターの反対側にある「関係者以外立ち入り禁止」のプレートのかかった部屋へ向かった。職員《しょくいん》用のロッカーがおいてある控え室だった。少し足元がふらついている。ショックを受けているせいだろうと司書は思った。
「蔵前《くらまえ》君」
と、司書は青年に呼びかけた。彼はゆっくりと振り向く。
「大丈夫かい? 具合が悪そうだけど」
彼は弱々しく微笑《ほほえ》んだ。
「いいえ。ありがとうございます」
 さっきまで降っていた雨は止《や》んでいた。図書館を出た蔵前は、足早に裏門へ向かって歩き出した。彼は大きなショルダーバッグを抱えている。中には衣類と細々《こまごま》とした生活道具が入っている。彼は東京ではどこにも住居を持たず、空き家を転々としていた。万が一の場合に逃亡しやすくするためでもあったが、それ以上に「住む」という営みに関心が持てなかったからだ。持ち物はあの図書館の職員用のロッカールームに置いている。「サイン」が彼の住まいではなくこの大学に描かれたのは、そもそも彼の住まいがなかったせいだろう。
(どうして家族が死んだ、と言ったんだろう)
言い訳はなんでもよかったはずだ。病気で休むと言った方が、注意を引かなかったかもしれない。ここを永遠に離《はな》れるつもりであることには変わりないが。
彼と一体化していた「アブサロム」はあの廃ビルで消失した。呼びかけにも答えない。気配《けはい》も感じられない。
考えてみれば、あのカゲヌシと融合《ゆうごう》していたのは二ヶ月の間だけだった。得がたい体験《たいけん》だったと言える。父親を除けば、他者とこれほど長く一緒《いっしょ》にすごしたことはない。
(元に戻るだけだ)
彼が姿を隠《かく》していたのは、契約者という弱点を突かれるのを防ぐためであり、それ以上の意味はない。自分たちが生き延びる可能性を高めるための合理的な判断、だったはずだ——。
しかし、それでもどこかで動揺を抑えきれない自分がいる。二度と取り戻せないものを惜しむ苦い気持ち。
ふと、彼はバッグのサイドポケットの角ばったふくらみに触れた。そこには父親の遺《のこ》した聖書が入っている。
(……アブサロムよ)
彼は心の中で呟《つぶや》いていた。
(わたしがお前に代わって死ねばよかった)
それがもう一人の分身への、偽らざる彼の感情だった。
 構内を通り抜けるには中庭が一番の近道だった。蔵前《くらまえ》は校舎と校舎をつなぐ渡り廊下へ近づいていった。中庭へ入るには、その下をくぐらなければならない。
不意に中庭から二つの人影《ひとかげ》が現れた。十五、六歳の少年と少女で、どちらも服は泥だらけだった。蔵前はかすかに眉《まゆ》をしかめる。
藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》と雛咲《ひなさき》葉《よう》だった。
二人は小走りにすれ違っていった。蔵前には目もくれなかったし、立ち止まろうともしなかった。こちらの顔が知られるはずはない、と蔵前は思う。「アブサロム」が死んだ今、彼とカゲヌシを結びつけるものはなにもない。他《ほか》に手がかりもなく、仕方なくまたこの大学へやって来ただけだろう。
蔵前は中庭に足を踏《ふ》み入れる。ベンチや植木が配置され、学生たちの憩《いこ》いの場所になっている。その中央にはひときわ大きな銀杏《いちょう》の木があり、鉄のベンチが木の幹を丸く囲んでいる。
銀杏の木へと近づいていった彼は、根元にあるベンチに十七、八の長い髪の少女が座っていることに気づいた。コンビニで売られているようなぺらぺらの安いレインコートを羽織《はお》っているが、その下は病院の患者衣だった。痛みをこらえるように下腹のあたりを押さえて、首を前に垂らしている。
(……天内《あまうち》茜《あかね》)
彼は驚《おどろ》かなかった。裕生たちがいるのだから、彼女が近くにいてもなんの不思議《ふしぎ》もない。
本当は今すぐこの娘を殺してしまいたかった。彼女にファックスを送ったのは、東桜《とうおう》大学におびき寄せるためだった。しかし二つの邪魔《じゃま》が入ってしまった——あの「同族食い」を引き連れた少女と、カゲヌシの「サイン」を描いて回る者。それらが現れなければ、天内茜は今頃《いまごろ》この世にいなかっただろう。
カゲヌシを失った今、死体の残るかたちで天内茜を殺すのは得策ではない。いつ裕生たちが戻ってくるとも限らない。
(いつかまた会いに来よう)
心の中だけでそう呼びかけて、彼は彼女の前を通りすぎようとした。
「無視することないんじゃないの」
と、不意に茜《あかね》が言った。思わず立ち止まって振り返る。さすがに動揺を隠《かく》すのに努力を必要とした。彼女はいつのまにか顔を上げていた。
「はい?」
「あんたがアブサロムとの契約者でしょ」
「なんの話ですか?」
「隠しても分かるよ。あたしには」
知っているふりをしているわけではないらしい。確信《かくしん》があるようだった。
蔵前《くらまえ》はここから逃げ出すことを考える。この重傷では、茜は追って来られないはずだ——。
その瞬間《しゅんかん》、彼は背後になにかがいることに気づいた。地面に鳥らしきものの影《かげ》が長く伸びている。しかし、その翼《つばさ》は半分折れ曲がり、胴体も抉《えぐ》り取られたようにぼこりとへこんでいた。重傷を負ったボルガだった。
「ぼくを殺すつもりか」
「そっちこそあたしを殺すつもりだったんでしょ。お互いさまだよ。あんたが中庭に来るのが分かったから、裕生《ひろお》ちゃんたちにはウソついてここからいなくなってもらったの。止められると困るからさ」
「……どうしてぼくだと分かったんだ?」
「『アブサロム』を呼んでみたら?」
と、茜が言った。
蔵前はかすかに頬《ほお》を引きつらせる。あの黒犬《くろいぬ》が食い殺したはずだ。
「呼べば分かるよ」
彼はしばらく茜の顔を見つめていたが、やがて低い声で呟《つぶや》いた。
「……『アブサロム』」
アスファルトに長く伸びた蔵前の影《かげ》が揺れる。突然、にゅっと誰《だれ》かの手が現れた。まるで救いを求めるように空に向かって伸びて、ごろりと地面に転がった。アブサロムの左腕だった。手のひらには六芒星《ろくぼうせい》のマークが描かれている。
「左手を食い残しておいたのか」
と、蔵前は言った。
「この左腕がぼくの影に戻るのを待って、『サイン』の発する気配《けはい》を追ってきた。そういうことだな」
自分の声がかすかに震《ふる》えているのが分かる。胸がちりちりと焦《こ》げるように痛む——アブサロム。ぼくの分身。それを殺した者たち。
「死ぬ前になにか言い残すことはない?」
ボルガの嘴《くちばし》が背後でかちりと鳴る。初めて蔵前《くらまえ》が迎える生命の危機《きき》だった。殺される側はこのような状況に置かれるのかと、他人事のように彼は思った。ふと、脳裏に十代の頃《ころ》のあの夏の日がよみがえった。初めて人を殺しかけた日。あれはもう十年も前のことだ。
「ぼくに見覚えはないか?」
「ないよ。あたしが好きじゃないタイプだってことは分かるけどね。背が高くて、メガネかけてて。あたしのパパによく似てるよ」
「君は父親が嫌いなのか?」
「余計なお世話だよ。あんたに関係ない」
少し茜《あかね》の声が頼りなくなった。思わず蔵前は微笑《ほほえ》んだ。彼女と両親との結びつきが弱かったのは、そういう事情があったのだ。
「多分《たぶん》、それは違うよ。君は父親が嫌いなんじゃない。ぼくに似ていたから、父親を遠ざけるようになったんだろう。無意識《むいしき》のうちにね」
「……え?」
彼女の瞳《ひとみ》に訝《いぶか》しげな色がある。澄《す》んだ瞳だった。昔と何も変わらない。
「十年前に住んでいた町のことを憶《おぼ》えているか? 自分の家の隣《となり》に教会があったことは? 君はあの頃、誰《だれ》に一番なついていたのか憶《おぼ》えていないのか?」
茜の表情が凍《こお》りついた。体が小刻みに震《ふる》え始める。
「君はあの日の記憶《きおく》を失ったと聞いたよ。ぼくが殺そうとした人間で、殺しそこねたのは君だけだ。この十年、ぼくはずっと君のことを探してきた」
天内《あまうち》茜は彼にとって特別な存在だった。今まで必要を感じたことはなかったが、自分をここまで追いつめた彼女なら相応《ふさわ》しいだろう。彼は口を開いた。
「ぼくの名前は蔵前|司《つかさ》」
殺そうとした相手に自ら名乗るのは、これが初めてだった。
「蔵前……司?」
口の中で彼女は呟《つぶや》いた。彼の名前が彼女の記憶を揺さぶっているらしい。長い沈黙《ちんもく》の後で、彼女はぽつりと呟いた。
「……司おにいちゃん」
「そう。久しぶりだね」
蔵前は微笑んだ。こうして顔を合わせるのは十年ぶりだった。茜は微動だにしない。衝撃《しょうげき》のあまり気を失いかけているらしかった。もう、ボルガを動かす余裕などないだろう。彼の言葉が耳に入っているかどうかも怪しかった。
「君たちはぼくの分身を奪った。いつか必ず、その報《むく》いを受けてもらう」
単なる憎しみとも異なる、奇妙に充実した殺意が彼の体に満ちていた。茜たちは今まで彼が殺してきたような「獲物《えもの》」ではなく、自分と対等な「敵《てき》」だった。全力で倒すべき敵を得た蔵前《くらまえ》は、もはや孤独ではなかった。彼は初めて生きる目的を持った——それは半身を奪った者に対する復讐《ふくしゅう》だった。
「まだ誰《だれ》にも見つかっていないカゲヌシの卵があるはずだ。ぼくは新しいアブサロムを見つける。新しい力を得たら会いに戻ってくるよ」
突然、蔵前は走り出した。ボルガは追ってこなかった。
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