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シャドウテイカー フェイクアウト13

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:3 鶴亀《つるき》神社の大鳥居《おおとりい》は鶴亀山の中腹にある。室町《むろまち》時代まで鶴亀山は鉱山だったらしく、埋も
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 鶴亀《つるき》神社の大鳥居《おおとりい》は鶴亀山の中腹にある。
室町《むろまち》時代まで鶴亀山は鉱山だったらしく、埋もれたままの古い坑道が未《いま》だにいくつも残っているという話だった。
鳥居をくぐると広い参道があり、左側には二階建ての社務所《しゃむしょ》と、神輿《みこし》を納めておく神輿|殿《でん》が並んでいる。右手には神社に併設している鶴亀山公園がある。参道を進むと長い石段に突き当たり、そこを上ったところに神を祀《まつ》る本殿があった。この神社が一年でにぎわうのは正月と夏祭りで、宮司《ぐうじ》はその二つの時期の前後が最も忙《いそが》しくなる。
神輿殿の入り口の前で、烏帽子《えぼし》に狩衣《かりぎぬ》を身につけた宮司が祝詞《のりと》を読み上げている。その後ろでみちると葉《よう》が神妙な顔つきで立っている。二人とも白衣と緋袴《ひばかま》といういでたちで、手にはほうきとはたきを持っていた。
今日のみちるたちの仕事は神輿殿の掃除だった。祭りの前に神輿とそれが納められている建物を清めることになっているらしく、そのための儀式《ぎしき》を行っているのだった。
みちるはちらりと隣《となり》に立っている葉を見る。首から白衣の襟《えり》にかけての線《せん》が、きりっとした色気《いろけ》を漂《ただ》よわせている。手足の白さに緋袴の鮮《あざ》やかな色が映《は》えた。
(……この子、似合ってるなあ)
みちるに比べると確《たし》かに華奢《きゃしゃ》なのだが、それでもスタイルは決して悪くない。さっき着付けを手伝った時も、思ったより女らしい体つきで驚《おどろ》いてしまった。自分の姿を見下ろすと、多少複雑《ふくざつ》な気分になる。みちるも決して似合わないというわけではないだろうが、葉ほどは似合っていない——と思う。
その時、宮司が祝詞を読み終わった。もう一度拝礼して、儀式は終了した。
「じゃあ、後はここの掃除をお願いします」
儀式に使った三宝《さんぽう》や八脚案《はっきゃくあん》を片づけながら、宮司はみちるたちに言った。宮司は来山《きやま》という三十代|半《なか》ばの線の細い男だった。温厚な人柄《ひとがら》という評判で、みちるから見てもいかにも神主《かんぬし》にふさわしく見えた。
「できれば私も手伝いたいんですけど、これから来客があるから」
と、済まなそうに来山は付け加えた。
「別にいいですよ。さっきお聞きした手順でいいんですよね」
はきはきとみちるが答える。神輿殿《みこしでん》の掃除も正確《せいかく》には儀式《ぎしき》の一部で、神職《しんしょく》にある巫女《みこ》や神主《かんぬし》が行わなければならないらしい。本来はアルバイトのみちるたちがやるべきではないが、本職の巫女が病気|療養中《りょうようちゅう》で人手《ひとで》が足《た》りないのだった。
「あなたの方も大丈夫ですか」
来山《きやま》は葉《よう》に微笑《ほほえ》みかける。
「はい……大丈夫だと思います」
硬い声で葉は答える。
「雛咲《ひなさき》さんでしたっけ。珍《めずら》しい苗字《みょうじ》ですよね」
と、来山は言った。
「ご親戚《しんせき》にこの神社にゆかりのある方が、どなたかいらっしゃいませんでしたか? どこかで聞いたお名前の気がするんですが」
「あの……父がここによく来てたらしいです。結婚式もここで挙《あ》げたみたいだから」
みちるはかすかに目を瞠《みは》る。彼女が両親について話すのを聞いたのは、これが初めてだった。失踪《しっそう》した両親のことなど、触れたくないに違いない。
「ああ、そうでしたか。じゃあ、どこかでお会いしたのかもしれないな」
葉の家庭|環境《かんきょう》についてみちるから聞いていたせいか、来山はそれ以上|尋《たず》ねなかった。そろそろ客の来る時間だからと社務所《しゃむしょ》の方へ去っていった。
来山を見送ってから、みちるは明るい声で言った。
「じゃ、さっさと終わらせようか」
葉は黙《だま》ってうなずいた。
二人が両開きの引き戸をいっぱいに開けると、がらんとした建物の中に神輿が二つ並んでいる。さらに三方の格子窓《こうしまど》も開け、換気しながらはたきをかけていった。ひやりとした湿った空気が少しずつ外へ流れていく。
それが終わると、みちるたちはほうきで土間を掃《は》き始めた。誘《さそ》った事情が事情なので心配していたが、葉は思ったよりも楽しそうに働いている。一心にほうきを動かしている姿は同性のみちるから見てもかわいらしかった。
「……どうかしましたか」
視線《しせん》を感じたのか、いつのまにか葉がみちるを見ていた。
「あ、うん……似合ってるなあ、って思って」
素直な感想を口にしてしまった。葉はびっくりしたように自分の体を見下ろした。
「ほんとですか?」
「うん。かわいいよ」
葉はにっこり笑って、くるっとその場で回ってみせた。みちるは目を瞠った。喜んでいるというより、これはもう浮かれている。
「どうしたの?」
みちるが笑いながら言うと、
「わたし、着物って着たことないから」
と、葉《よう》が答えた。はっとみちるは胸を衝《つ》かれる思いがした。みちるには母と姉がいて、二人とも着物の着付けを知っている。正月になるとみちるにも着物を着ろと薦《すす》められるのがうっとうしかったが、一人で暮らして来た葉にはそんな風に言ってくれる家族もいないのだ。
「あ、待って」
激《はげ》しく動いたせいか、葉の衿《えり》のあたりが少し乱れていた。みちるは葉の隣《となり》にしゃがみこみ、袴《はかま》の腰あきから手を入れて、白衣の衿の端をきゅっと引っ張ってやった。
下から見ると葉の顔が真《ま》っ赤《か》になっている。妹がいたらこんな感じなのかなあ、とちらっと思った。
「藤牧《ふじまき》に見せたいでしょ」
みちるはからかうように言った。そのとたん、葉のほうきがばたんと音を立てて地面に落ちた。驚《おどろ》いたみちるが顔を覗《のぞ》きこもうとすると、葉は力いっぱい首を曲げて見せまいとする。ほとんど泣きそうな表情になっていた。
「…………そんなことないです」
「あ……そ、そうなんだ」
ここまで恥《は》ずかしがられると、逆にからかう気が失《う》せた。
それにしても、葉の気持ちはここまで分かりやすいのに、よく裕生《ひろお》との間になにも起こらないものだと思う。葉が内気なせいもあるだろうが、ひょっとすると裕生には葉のことなどまったく眼中に入っていないのかも——。
(あれ?)
みちるは首をかしげた。
(あたし、今ちょっとほっとしなかった?)
もちろん考えすぎに決まっている。昔のことがあるから、すぐに妙な方に考えがいってしまう。それだけの話だった。
「ねえ、浴衣《ゆかた》も着たことないの?」
みちるは話題を変えた。
「子供の頃《ころ》に、ちょっとだけ」
「ふうん。あのさ……」
突然、みちるは背中にのしかかるような誰《だれ》かの視線《しせん》を感じた。はっと振り向くと建物の入り口に白いタキシードを着た細身の中年男が立っていた。
(皇輝山《おうきざん》……天明《てんめい》?)
以前にもこの神社で見かけた顔だった。感情のまったくこもっていない目で、代わる代わる二人を見ている。ぞくっとみちるの背筋に震《ふる》えが走る。反射的に彼女は葉《よう》を自分の背中に隠《かく》した。
「なにか御用ですか?」
かすれた声でみちるは言った。
「御用……?」
訝《いぶか》しげに男は聞きかえす。それから、突然にゅっと唇《くちびる》の端がつり上がる。一瞬《いっしゅん》、みちるにはそれが笑顔《えがお》だと分からなかった。それぐらい唐突《とうとつ》な変化だった。
「いや、こちらの宮司《ぐうじ》さんはいらっしゃいますか」
うってかわって明るい声で天明《てんめい》は言う。しかし、みちるはかえってこの男に不気味さを感じた。今の目つきは一体なんだったのだろう?
「……社務所《しゃむしょ》にいらっしゃると思いますけど」
「ああ、そうですか。これは失礼しました」
男はすっと向きを変えて、彼女たちの視界から姿を消した。
みちるはほっと息をついた。おそらく、来山《きやま》の「客」はあの天明なのだろう。だとしたら、来山が社務所にいるのは知っていたはずだ。どうしてわざわざここへ来たのだろう。まるで自分たちの様子《ようす》を見に来たようだった。
「……どうかしましたか?」
葉は不思議《ふしぎ》そうにみちるを見上げている。彼女は天明の様子には気づかなかったらしい。
「ううん。別に。続きゃっちゃおう」
と、みちるは言った。
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