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シャドウテイカー フェイクアウト15

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:5 掃除を終えたみちると葉《よう》は、神輿殿の戸を閉めた。「宮司《ぐうじ》さん、来ないね」みちるは社務所《しゃむしょ》の
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 掃除を終えたみちると葉《よう》は、神輿殿の戸を閉めた。
「宮司《ぐうじ》さん、来ないね」
みちるは社務所《しゃむしょ》の方を振りかえる。さっき来た皇輝山《おうきざん》天明とまだ話を続けているのかもしれない。様子《ようす》を見にいこうか迷ったが、あの男とはあまり顔を合わせたくなかった。
「とりあえず、ほうきとか片づけようか」
葉は黙《だま》ってうなずいた。掃除の道具は本殿の裏の倉庫から持って来たものだ。二人は参道を奥へ進み、本殿へ通じる石段を上がり始めた。
葉はみちるの斜《なな》め後ろから歩いて来る。足袋《たび》と草履《ぞうり》に慣《な》れていないせいか、足取りは慎重《しんちょう》だった。
「そういえばさっき言いかけて忘れてた」
と、みちるは前を向いたまま言った。
「雛咲《ひなさき》さん、ここのお祭り来る?」
しばらく間が空いた。石段を踏む二人の草履の音だけが響《ひび》く。
「分かりません」
「藤牧《ふじまき》と一緒《いっしょ》だったら来る?」
葉の足音がやんだ。みちるが振り向くと、彼女はほうきを胸の前に抱えて俯《うつむ》いていた。
「……それなら、多分」
「じゃあさ、お祭りの日に浴衣《ゆかた》着ない?」
「……え?」
葉《よう》は驚《おどろ》いたように顔を上げる。
「うちの母親って娘に着物着せるのが好きでさ。ほとんど毎年あたしと姉さんの浴衣《ゆかた》買ってたから、結構数あるのよ。でも今年は姉さんいないし、もともとあたしは別に着るの好きじゃないのね。雛咲《ひなさき》さんが着てくれるって言ったら、多分うちの母親も大喜びすると思うんだけど。なにしろ若い女の子に着付けするの大好きだから」
みちるは慎重に言葉を選《えら》んでいた。
「…………」
無表情に近かった葉の顔に、みるみるうちに喜びの色が広がっていく。みちるの方もなんだか嬉《うれ》しくなって来た。ああ言ってよかった、と彼女は思った。
「ここのお祭りに来ないんだったら、しょうがないんだけどね。もしよかったら考えといて」
「ありがとうございます」
葉はかわいらしい笑顔《えがお》で礼を言う。一瞬《いっしゅん》、みちるはなぜか胸が締《し》めつけられるような思いがした。彼女の幸せを祈らずにはいられなかった。
「きっと藤牧《ふじまき》も喜ぶよ。うん」
みちるは背を向けてまた石段を上がっていき、一足先に上まで辿《たど》り着いた。石段を上がり切ったところには、門柱のように二匹の狛犬《こまいぬ》が置いてある。その間を通り抜けると、石畳《いしだたみ》の広い境内《けいだい》には本殿《ほんでん》と鐘楼《しょうろう》があった。参拝客は誰《だれ》もおらず、あたりは静まりかえっている。
「西尾《にしお》さん」
背中から声をかけられた。
「なに?」
「先輩《せんぱい》のこと、どう思いますか」
一瞬、みちるは口を開けたまま硬直した。
想像もしていなかった質問に完全に不意を衝《つ》かれていた。
「ふ、藤牧のこと?……ど、どうって……」
なんか言わなきゃ、と頭のどこかから声がした。葉は無言で彼女の答えを待っている。こほん、とみちるは咳払《せきばら》いした。
「あー、まあ、藤牧は友達だよ。結構長い付き合いだけど、なんか昔からぼーっとしてて、特徴ないっていうか……あ、もちろん悪い人じゃないよ? 顔とかも別に悪くないし。まあ雛咲さんの方がよく知ってるだろうけど。あたしから見てなんかってわけじゃないなあ」
我ながらなにを言っているのかよく分からない。そこへ、さらに追《お》い討《う》ちをかけられた。
「昔、好きだったでしょう」
「え…………」
今度こそ頭の中が真っ白になった。
「先輩が入院してた頃《ころ》。西尾さん、毎日お見舞《みま》いに来てた」
みちるは天を仰《あお》ぎたい気持ちになった——思いっ切りバレてるよ。まあきっと分かりやすかったよなあ。
しかし、口の方は勝手に最後の抵抗を試みていた。
「あれね。だってあたし、あの頃《ころ》クラス委員だったから。学校のプリントとか届けなくちゃいけなかったし、他《ほか》にいくっていう人もいなかったし」
葉《よう》はなにも言わずに、ただみちるを見上げている。責めている様子《ようす》はない。ただ、悲しげな目をしていた。
もうダメだ、とみちるは思った。もともと嘘《うそ》をつくのは苦手《にがて》なのだ。かっと頬《ほお》が熱《あつ》くなった。
「ああもう! 確《たし》かにそうです。そういう時期がちょっとありました! 絶対秘密だからねこれ。ほんっっっとに恥《は》ずかしいんだけど!」
ほとんどやけになってみちるは叫び、肩で大きく呼吸をする。そう言えば、このことを他人《ひと》に話したのは初めてだった。あの頃、気づいていたのも葉だけのはずだ。そう思うと、不思議《ふしぎ》と彼女への親しみが増した。
「でも、ほんとに藤牧《ふじまき》が入院してる間だけなの。退院して学校に通うようになったら、そういうのどこかへなくなって普通に仲よくなれた。最初に好きになった人って、そういうことあると思うよ。藤牧の初恋の人なんか、うちの姉さんだしね」
「えっ」
しまった。これ言っちゃいけなかったか。
「もちろん、今は姉さんのことなんとも思ってないと思うよ。そばで見ててなんとなく分かるんだ。うちの姉さん、藤牧のお兄さんと付き合ってるけど、藤牧もそのこと喜んでるし」
「……先輩《せんぱい》のどこが好きだったんですか」
うーん、とみちるは考えこんだ。そう言えばみちるは裕生《ひろお》が「不治《ふじ》の病《やまい》」だと思いこんでいた。それを自覚しているのに、明るく振《ふ》る舞《ま》っているように見えた。
「ちょっと誤解してたんだよね。初めて会った時、ベッドで寝てた藤牧がすごく悲しそうに見えたの。自分が辛《つら》いこととか、誰《だれ》にも言わないでじっと我慢《がまん》してるみたいな……」
みちるははっとした。最近の裕生もそんな風に見えることがある。あの頃はただの「誤解」だったと思う。しかし、今はどうなのだろう。
「ねえ、なんでそんなこと聞くの?」
と、みちるは言った。
「ひょっとして今もあたしが好きとか思ってた?」
「……分かりません」
みちるは首をひねった。葉の性格からいって、「先輩にちょっかいを出さないでください」などと釘《くぎ》を刺すつもりだとは思えない。
(不安なんだ、きっと)
これだけ葉《よう》の気持ちははっきりしているのに、一緒《いっしょ》に住んでいるのに裕生《ひろお》の態度《たいど》が煮え切らない。結局、裕生の気持ちが誰《だれ》に向いているのか知りたいのではないだろうか。
「雛咲《ひなきき》さんはもう一緒に住んでるんでしょ。藤牧《ふじまき》はあなたのこと大事にしてると思うけど……」
「そうじゃないんです。それはもういいんです」
葉は首を横に振った。
「わたし、いつまで先輩《せんぱい》と一緒にいられるか分からないから」
「え?」
思わずみちるは聞きかえした。
「空も、人も、風も……」
葉は低い声で歌うようにつぶやいた。
「全部消えて、わたしだけ残る」
「……どういうこと?」
ふと、みちるは以前に葉の悩みを聞き出そうとした時のことを思い出した。うやむやになってしまったが、あの時彼女の様子《ようす》がおかしかったのは、結局どうしてだったのだろう——。
「あっ」
その時、葉が声を上げた。両目をいっぱいに開いて、みちるの肩越しになにかを見ている。顔色は真《ま》っ青《さお》になっていた。
(ん?)
みちるは何気《なにげ》なく振りかえり、突然現れた「それ」を見た。あまりにも非常識《ひじょうしき》な大きさに、最初は銅像かなにかだと思った。しかし、それは確《たし》かに動いていた。首をみちるたちに向け、ゆっくりと胴体をくねらせながら四肢《しし》を動かしている。
巨大な黒い蜥蜴《とかげ》が、二人に向かって歩いて来ていた。
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