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シャドウテイカー フェイクアウト22

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:4 天明は雄一が出ていくのを見送ってから、会場の隅の方へ歩いていった。最後列の端の席に、二つの人影《ひとかげ》がぼんやり
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 天明は雄一が出ていくのを見送ってから、会場の隅の方へ歩いていった。最後列の端の席に、二つの人影《ひとかげ》がぼんやり見えている。避難《ひなん》の誘導《ゆうどう》があるというのに、いつまで経《た》ってもその二人の客は出ていかなかった。
雄一を龍子主《たつこぬし》に食わせることを思いとどまったのも、その二人がこちらを見ていたからだ。天明のいた箱形《はこがた》のステージの下には、常に龍子主を潜《ひそ》ませている。用意させたものを取り出すのも、その能力を使ってのことだった。あの雄一はステージの下になにかあることまで気づいていた。見逃《みのが》すにはあまりにも勘《かん》がよすぎた。「本番」が明日でなければ、消していただろう。
しかし、今は目撃者《もくげきしゃ》の前で人を殺すのはまずい。人間などどうでもいいが、まだ明日に大事な用が控《ひか》えている。
「どうかなさいましたか?」
と、天明はその二人に向かって言う。ようやく二人の顔を確認できる距離《きょり》まで近づいていた。一人は小柄で、もう一人はがっちりした太め——二人とも見覚えがある。
「いや、ちょっとお話が聞きたくて残ってたんすよ」
と、太めの方が言った。
「俺《おれ》たち、皇輝山《おうきぎん》文書について色々|調《しら》べてるんですけど……」
「そんな口実は要《い》らないな。佐貫《さぬき》峻《たかし》、だったか」
天明《てんめい》がずばりと言うと、相手はぐっと詰まった。
「その隣《となり》のお前も昨日神社にいたはずだな。俺に聞きたいのはそんなことじゃないだろ?」
沈黙《ちんもく》が流れた。二人は暗がりの中で、ちらっと顔を見合わせた。
「佐貫、やっぱり嘘《うそ》が通用するような人じゃないよ。それに、ぼくたちの顔はもう知られてるし」
小柄な方が佐貫に向かって言った。確《たし》かに龍子主《たつこぬし》の五感を通じて、昨日の戦いの様子《ようす》は把握《はあく》している。あの場にいた全員の顔は分かっていた。
「ぼくは藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》です。初めまして」
そう言いながら、小柄な方がきちんと頭を下げた。
「本当のことを話します。ぼくの幼なじみに取りついているカゲヌシを、あなたのカゲヌシの力で殺して欲しい……そう思って来たんです」
「おい、裕生」
佐貫が渋《しぶ》い顔で言ったが、裕生はそれを手で制した。
天明は二人の顔を凝視《ぎょうし》する。真実を話している可能性もあるが、それ以上に罠《わな》を仕掛けている可能性がある。最初の佐貫の嘘は、見破られることを想定している気がした。こちらが見破ったら、「さすがですね。それでは本当のことを話します」と、さらに別の嘘を口にする——騙《だま》しのテクニックの一つだった。
もしこの少年たちがそれを意識的《いしきてき》に使っているのだとしたら、相当の警戒《けいかい》が必要な相手ということになる。
「龍子主に殺して欲しいのは、あの『同族食い』か?」
裕生はうなずいた。
「ぼくはあの女の子……葉《よう》を人質《ひとじち》に取られています。今日もあいつに命令されて、表向きはあのカゲヌシの契約者であるあなたを探りに来ました。でも、あなたのカゲヌシはあいつを傷つけることができた。ぼくはあいつを倒す時が来たんじゃないかと思ってるんです」
「……」
天明は直感的に裕生の話に嘘を感じ取っていた。全《すべ》てが出任せではないが、話の一部に嘘を織《お》り交ぜている。だから多少の真実味があるのだ。問題はどの部分が嘘なのか、今は判断ができないことだった。
「俺の龍子主があいつを完全に倒せると思うのか?」
「あいつはもともと他《ほか》のカゲヌシを察知する能力が低い。だから、あなたのカゲヌシが近づいていくのも気づいてなかったでしょう? それに、首を一つ食われた今は武器を使うこともできない。あなたが都合《つごう》のいい場所を指定してくれれば、ぼくがそこへ連れていきます。不意打ちで倒せるんじゃないですか」
「なるほど」
と、天明《てんめい》は言った。龍子主《たつこぬし》から得た情報と合致している——あのカゲヌシが同族を察知する能力が低いこと、食ったあの首に武器があったらしいこと。
「それで、あのカゲヌシを倒したらお前は俺《おれ》をどうするつもりだ」
「どうもしません。ぼくはあのカゲヌシが死んで、葉《よう》が解放されればそれでいいんです。ぼくたちは普通の生活に戻りたいだけなんだ」
そういうことか、と天明は思った。あの娘《こ》はこの少年の恋人なのだ。
「俺が応じた場合のメリットはなんだ? わざわざ危険を冒《おか》してあいつを殺す意義は?」
「メリットはありません。でも、あなたはもともと『同族食い』を殺すつもりだったんでしょう? それに、もしあなたが断ったら、ぼくは『黒の彼方《かなた》』に『皇輝山《おうきざん》天明があの蜥蜴《とかげ》のカゲヌシの契約者だった』って報告します。そうなったら、今夜にでもあいつはあなたに復讐《ふくしゅう》しようとするでしょう。方法は言えませんが」
裕生《ひろお》が口にしているのは稚拙《ちせつ》な脅迫《きょうはく》だった——しかし、今夜という言葉に天明は反応した。もし本当だとすると、今夜はまずい。なにをするつもりかは分からないが、明日の「本番」を前に派手《はで》な騒《さわ》ぎに巻きこまれるわけにはいかない。そのために色々と準備をして来たのだ。
ふと、天明の頭に閃《ひらめ》くものがあった。いっそ、明日の「本番」で一緒《いっしょ》に片づけるのはどうだろう。まとめて倒してしまえばいいではないか。
「いいだろう。今夜の襲撃《しゅうげき》を止《と》めろ。そして、明日の鶴亀《つるき》神社の祭りにヤツをおびき出すんだ」
「お祭りに?」
驚《おどろ》いたように裕生が聞きかえした。
「明日、俺はイベントを開く予定になってる。お前らは高校生だろ? 恋人や友達と祭りにいっても別に不自然じゃない。その後、鶴亀山の頂上あたりに連れて来い。あそこなら人もいないだろうし、俺も土地勘があるからな」
「でも、急にできるかどうか……」
「できなければ構わない。ただ、その今夜の襲撃とやらを止めてくれたら、こちらもその礼をする準備があるってことだ。あのカゲヌシを殺してやるよ」
お前らも一緒だけどな、と天明は心の中で付け加えた。
「……やってみます」
と、裕生はうなずいた。
「ところで、あのカゲヌシと娘の名前は?」
と、天明《てんめい》は尋《たず》ねる。一瞬《いっしゅん》、裕生《ひろお》はためらってから口を開いた。
「カゲヌシの名前は『黒の彼方《かなた》』。契約者は雛咲《ひなさき》葉《よう》」
天明は大きく目を見開いた。
 どうしたんだろう、と裕生は思った。
明らかに天明は驚《おどろ》いた顔をしている。「黒の彼方」を知っているはずはないので、葉の名前に反応したことになる。
「あの……葉を知ってるんですか?」
おそるおそる裕生は尋ねた。ここまでの話はそれなりにうまくいっていたと思うが、内心ではいつこちらの目的を見破られるかと思って冷や汗をかいていた。今、なにか決定的なミスを犯してしまったのかもしれない。
佐貫《さぬき》も隣《となり》で緊張《きんちょう》しているのが分かる。どういう風に話を持ちかけるか考えたのはほとんど佐貫だった。最初に嘘《うそ》をついて見破らせるのも彼のアイディアである。
「いや、そうじゃない。知り合いに雛咲という男がいたんでな。多分、そいつの娘だろう。娘が一人いるという話だった」
「葉のお父さんを知ってるんですか?」
裕生はここへ来た目的も忘れて言った。
「葉の両親は四年前にいなくなったんですけど」
と、言いかけて裕生ははっとした——四年前。天明が『皇輝山《おうきぎん》文書』を発見したのと同じ時期だった。
「それも知っている。雛咲|清史《きよし》は学生時代の俺《おれ》の同級生だ。あいつの結婚式は鶴亀《つるき》神社で挙《あ》げたんだ。もちろん、それも俺が執《と》り行った」
そういえば、そんな話を聞いた気もする。葉の父親は娘と同じように無口だった。家にいる時に近所の子供が遊びに来ても、親しく話しかけてくるような人ではなく、いつも奥の部屋で難《むずか》しそうな本を読んでいた記憶《きおく》がある。あまり裕生の印象には残っていなかった。
「あなたは二人がいなくなった理由を知ってるんですか?」
「そこまでは知らん。いなくなる前にも何度か会っているが、詳しいことは話さなかったからな」
裕生は納得《なっとく》できなかった。この男はなにかを知っている。さらに質問しようと口を開いた時、佐貫が軽く彼の足を踏んだ——話題がズレてるぞ、と言いたいらしい。裕生はようやく我に返った。
「……とにかく、『黒の彼方』をおびき出せそうだったら、俺に連絡しろ……緊急の携帯の番号だ。ここにかければ必ず繋《つな》がる」
天明は手帳に番号を書いてから、そのページを破って裕生に手渡した。
「分かりました」
天明《てんめい》は裕生《ひろお》をじっと見守っている。なんとなく落ち着かない気分になってきた。ここは早く退散した方がいいかもしれない。
「じゃあ、ぼくたちはこれで」
佐貫《さぬき》を促《うなが》して裕生は立ち上がる。二、三歩歩きかけたところで、突然天明の声が聞こえた。
「お前は俺《おれ》と手を結ぼうとしているが、昨日は俺の龍子主《たつこぬし》を殺そうとしたよな?」
裕生は飛び上がりそうになったが、どうにかそれを抑えてゆっくりと振り向いた。心臓《しんぞう》が音を立てて脈打っている。
「あの時は仕方なかったんです。あなたの龍子主が『黒の彼方《かなた》』じゃなくて葉《よう》の方を狙《ねら》ったから」
「そうか。そうだったな」
妙に親しげな口調《くちょう》に裕生は戸惑《とまど》った。顔にはかすかな笑《え》みさえ浮かんでいるように見える。一体なにを考えているのか分からない、底知れない相手だった。
「じゃあ、失礼します」
裕生たちは会場の外へと歩いていった。
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