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シャドウテイカー フェイクアウト21

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:3「お疑いの方もおられるかもしれません。『本当にこの男に透視する力があるのか』とあなたはどう思われますか?」いつも通り天
(单词翻译:双击或拖选)
「……お疑いの方もおられるかもしれません。『本当にこの男に透視する力があるのか』と……あなたはどう思われますか?」
いつも通り天明《てんめい》は言い、客の一人に手持ちのマイクを向ける。かすかにざりっと雑音が入った。
「あァ? 俺《おれ》か?」
と、その男が言った。
「そう、あなたです」
天明は頭につけたインカム式のマイクで話している。今日、選《えら》ばれたのは最前列でひときわ目立つ背の高い男だった。金色《きんいろ》に染《そ》めた髪、派手《はで》なシャツ、黄色《きいろ》いレンズのサングラスの奥から鋭《するど》い目が光っていた。
一時間近く続いた「皇輝山《おうきざん》天明ショー」はクライマックスを迎えていた。客席はほとんど満席に近い状態《じょうたい》で、そのうちのかなりの人数が以前にもこの「ショー」を見たリピーターだった。「ショー」の前半は天明が扱っているさまざまな商品の紹介で、客が期待しているのは「影《かげ》」から相手を見抜く透視術だった。
「ま、百パーセントインチキだな」
と、長身の男が言った。
戸惑《とまど》ったようなざわめきが会場の中に広がっていった。これほど正面切って否定する客も珍《めずら》しい。しかし、天明は逆に内心でほくそ笑《え》んでいた。誰《だれ》がどう見てもこのあたりをうろついている元不良というところである。この手のタイプは物事をなんでも白黒で判断する癖《くせ》があり、全部拒絶するか全部受け入れるかのどちらかの反応を取りがちだ。
要するに、天明にとっては最も扱いやすいタイプなのである。
「では、わたしの力を証明しましょう。ステージに上がっていただけますか?」
と、天明は言った。一瞬《いっしゅん》、男の目が不快そうに光った。当然、ここでは「あんで俺がんーなことしなきゃなんねんだよ」や「インチキに手ェ貸す気はねーんだよ」などの頭ごなしの拒否が予想される場面だった。
だが、天明が用意した次の言葉を畳《たた》みかけようとすると、
「いっすよ」
と、男はあっさりうなずき、自分から白い箱形《はこがた》のステージへと上がっていった。いささか肩すかしを食らったが、すぐにただの気まぐれだろうと思い直した。
いつもと同じく、天明は客をステージの中央に立たせる。背後《はいご》のホリゾントに彼の影が巨人のように浮かび上がった。それについてこの客はなにか反応するだろうと思ったが、彼は自分の立っているステージの足下《あしもと》をじっと見つめている。
「どうかなさいましたか?」
どんどん、と男はサンダルでステージを踏みしめる。
「このステージの下、なにが入ってんスか?」
一瞬《いっしゅん》、天明《てんめい》の頬《ほお》がぴくりと引きつったが、笑顔《えがお》はそれ以上崩《くず》さなかった。
「いやいや……あまり大きな声では言えませんが、ただの倉庫ですよ。別に落とし穴があるわけではありませんので、安心して下さい。あ、よろしかったら後でこっそりお見せしましょうか?」
「あ、すんません。続きどうぞ」
男はぴっと手を挙《あ》げて言った。
「とりあえず、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「んん、さっき受付でも書いたけど」
男はぽりぽりと頭をかきながら言った。
「藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》。住んでんのは……」
「おっと! その先を言われるとわたしの仕事がなくなってしまいます!」
客のくすくす笑いを聞きながら、天明はホリゾントに映った雄一の影《かげ》のところまで歩いていった。そして、静かに雄一の影に触れる——会場が期待で静まりかえっているのが分かった。
「今日の朝はどなたも新聞をお読みにならなかったようですね?」
インカム式のマイクに彼は語りかけた。
「そっスね」
あまり関心がなさそうな声で彼は答えた。
「高校生の弟さんはともかく、サラリーマンのお父さんやあなたは読まれた方がいいのでは?」
「……親父《おやじ》は夜に新聞読む習慣《しゅうかん》なんで」
いささかひねくれた言い方だったが、当たったことを間接的に認めている。会場に拍手が広がった。
「あなたはどうですか? うーん。あなたは大学生……大学の名前は東桜《とうおう》ですね? 服の趣味《しゅみ》は変わっているが、なかなかのエリートだ」
「えっ? 服?」
虚《きょ》を衝《つ》かれたように雄一は自分のシャツを見下ろした。なんでそこに反応するんだ、と天明は思った。
「まあ、それはともかく。東桜大学はいささかここからは遠い。普段《ふだん》は一人暮らしで、今は夏休みで帰省している。そんなところでしょう?」
雄一はしばし沈黙《ちんもく》し、しぶしぶうなずいてみせた。さっきよりも大きな拍手が巻き起こった。
「今、実家におられるのはお父さんと弟さん。あなたを入れても三人だ。お母様は……これは触れるべきではないかもしれないが、すでにお亡《な》くなりになっておられるようだ」
一瞬《いっしゅん》、くるりと雄一《ゆういら》が天明《てんめい》を振りかえった。奇妙に感情の感じられない目だった。
「ま、確《たし》かにお袋《ふくろ》は死んだけど」
おお、と会場のどこかから感嘆の声が洩れた。続いて起こる拍手を手で制して、天明は話を続けた。
「あなたはずっと団地で育って来られた……ずいぶん古い団地ですね。あなたが住んでいるのはかなり端の方の棟《むね》のようだ。すぐ近くに公園が見える。加賀見《かがみ》団地、でいいのかな。そこがあなたのふるさとというわけだ」
「そっスね」
軽くうなずきながら雄一は言った。
「小学校から高校まで、あなたは同じ町で育って来た」
「あ、俺《おれ》の部活とか分かんねえかな?」
「どうやら、中学生あたりまであなたはかなり有名だったようですね。見たところ、かなりケンカも強そうだ」
天明は雄一の質問を無視して続けた。
「十五、六|歳《さい》でなにか大きな転機が訪れたようだ……以来、すっかり心を入れ替えたのではないですか? いかがです?」
「ま、合ってますよ」
ほとんど投げやりな口調《くちょう》で雄一は答える。観客《かんきゃく》の歓声と拍手はさらに高まったが、天明はこの男の態度《たいど》にどこか不吉《ふきつ》なものを感じ取っていた。少し早いが、そろそろ落としどころだと感じた。
「あなたはなかなか立派な青年だ。明日の日本を背負《せお》うためにも、これからは新聞を毎日お読みになることですね」
天明はホリゾントを離《はな》れて雄一へ近づき、ぱっと空中に片手をかざした。彼の頭上の空間に新聞が現れて、手の中にぽとりと落ちて来た。
「今、お渡ししたかったので、持って来てしまいました……お帰りになってから、新聞受けを確認《かくにん》なさって下さい」
天明は新聞を雄一に差し出す。ステージに上げてから初めて、彼の両目が驚《おどろ》きで大きく開いた。会場が割れんばかりの拍手で沸《わ》き、ようやく天明はほっとした。
「……チラシははさまってないんスね」
新聞を手にした雄一は、驚いた表情のままでぽつりとつぶやいた。
「後で差し上げてもよろしいですよ」
拍手に混じって会場から笑いが起こった。
「どうですか? まだ『百パーセントインチキ』だとおっしゃいますか?」
天明《てんめい》が勝ち誇ったように言うと、雄一《ゆういち》はうーん、とうなりながら首をひねった。
「いやァ、今のはスゲエ。マジで驚《おどろ》いたわ」
「いえいえ。これは人間なら本来|誰《だれ》でも持っている能力を——」
「他《ほか》のトリックは全部分かったけどよ、今の新聞出したトリックだけ後でこっそり教えてくんねーか? マジであれだけは分かんねえ」
拍手が途切《とぎ》れ、会場に不審《ふしん》げなざわめきが広がり始めた。経験《けいけん》から来る勘《かん》で、天明は危険を察知した。今すぐこの男をステージから降ろさねばならない。しかし、その時にはすでに手遅れになっていた。雄一はマイクに向かって叫んだ。
「俺《おれ》がトリックを説明する! 本物の力って自信があんなら、俺に喋《しゃべ》らせてみろ! マイクのコード抜いたり、警備員《けいびいん》呼んだりすんのはナシでよ!」
しん、と会場が静まりかえった。天明はしまったと思った。観客《かんきゃく》はこの雄一の発言を受け入れてしまった。彼の発言を妨害すれば、天明に「自信がない」ことになってしまう。とにかく話術で切り抜けるしかなかった。
雄一は軽く咳払《せきばら》いをしてから、今までとはうって変わって饒舌《じょうぜつ》に語り始めた。
「影《かげ》から人間の情報を読み取るってのは嘘《うそ》だな。あんたが俺に言ったことは、全部一時間もありゃ調《しら》べられることばっかりだぜ」
天明は余裕ありげに微笑《ほほえ》んだ。こういう場面では感情をあらわにした方が負けだ。
「なにを言ってるんですか? わたしはあなたのお名前も今聞いたばかりですよ」
「違う。俺ァこの会場の受付で、名前と電話番号を書いた。任意でいいって言ってたけどよ、そうやって記入した客の中から『影』を見る相手を選《えら》んでんだ。名前と電話番号さえ分かりゃ、住所調べて車飛ばして、聞きこみ調査《ちょうさ》すんのは簡単《かんたん》だろ。別のヤツが市役所で俺んちの住民票ぐらい取ってるかもしんねーな」
「ふざけたことを。わたしはこのステージから一歩も動いていませんよ」
「あんたのそのマイク」
雄一は天明のインカムを指さした。
「そいつにはイヤホンもついてる。それで外のスタッフから情報を受け取ってんだ」
天明が耳にはめたイヤホンの向こうから、八尋《やひろ》の舌打ちが聞こえた。続いて、落とすわよ、と彼女は言った。天明は軽くうなずいた。事態《じたい》を収拾させるためには、もはやなりふり構っていられない。
「あの受付の派手《はで》な姉ちゃんが怪《あや》しい気がすんな。あの姉ちゃんが司令塔になって、他のスタッフに調べさせた情報をまとめて、あんたに教えてんだ。あんたは耳から聞こえる話をそのまんま喋ってるだけだろ」
何者なのよこいつは、とイヤホンの向こうで八尋がうめくように言った。全部見抜いてるじゃない。
「それなら、どうやってお宅の新聞をここまで移動させることができるんですか」
「バカじゃねーか。俺《おれ》んちの新聞なんかわざわざ持って来る必要ねーんだよ。聞きこみにいったスタッフが、俺んちの新聞パクって見つからねえ場所に捨てりゃいいんだ。後はこっちの会場で同じ新聞用意すりゃトリック完成だ……第一、本当にうちの新聞受けから出したんだったら、チラシがはさまってねえのはおかしいだろ? 新聞の広告チラシってのは地域によって全然中身が違ってっから、こっちの会場じゃ用意できなかったんだ……まあ、空中に出したトリックだけは分かんねえけどな」
それから、にやりと笑って付け加えた。
「後、うちに今住んでんのは四人だ。一人家族が増えてる。そこまでは調《しら》べ切れなかったみてーだな」
天明《てんめい》は会場を見回した。相変わらず静かではあったが、雰囲気は大きく変わっていた。観客《かんきゃく》たちはひそひそと疑わしげに囁《ささや》き合っている。
「残念ながら、あなたがおっしゃっているのは全《すべ》てなんの証拠《しょうこ》もない仮説ですよ」
と、天明は静かに言った。そろそろだな、と思った。
「このような中傷をわたしは何度も経験《けいけん》して来た。あなたは勝手な思いこみを語っているにすぎない」
「じゃあ、俺んちの家の中にあるもんを取り寄せてみな。俺の部屋にある灰皿とかでいい。だったら信用して——」
<img src="img/fake out_177.jpg">
その時、ふっと会場が真《ま》っ暗《くら》になった。同時にマイクの電源も落ちる。
それと同時に会場の後ろのドアが開いて、巫女装束《みこしょうぞく》姿《すがた》の八尋《やひろ》が拡声器を手に現れた。彼女は普段《ふだん》通りの甲高《かんだか》い声で叫んだ。
「誠に申《もう》し訳《わけ》ございませんが、このホールの配電盤《はいでんぱん》にトラブルが発生いたしました。火災が発生する危険性がございますので、お客様はこちらの指示通りにすみやかにご退場下さい……」
「何者だ、お前は」
と、暗がりの中で天明《てんめい》は言った。今までとはうって変わって下品な口調《くちょう》だった。
「俺《おら》ァ通りすがりの元ヤンの大学生。あんたがさっき言った通りだって」
ステージの上から見ると、会場のほとんどの客は退去を終えていた。隅の方にいくつか人影《ひとかげ》が見える程度である。
「にしても電源かよ。つまんねえごまかし方だなァ。この詐欺師《さぎし》が」
天明のスタッフがこのホールの電源を落としたのは分かっていた。「火事」云々《うんぬん》というのは単なる口実だろう。それが証拠《しょうこ》に、いつまで経《た》っても消防車は到着しない。
雄一《ゆういち》はひらりと床《ゆか》に飛び降りて、ステージの上の天明を見上げる——しかし、そこには誰《だれ》もいなかった。
「お前、どうして俺《おれ》の嘘《うそ》をバラしたんだ?」
天明の声が背後《はいご》から聞こえた。ぎょっとして雄一が振りかえると、天明は誰《だれ》もいない客席の中に立っていた。
「俺は確《たし》かに嘘をついてる。しかし、俺は今の透視術で、この町の人間から金品を受け取ってない。だから正確《せいかく》には『詐欺』とは呼べないな。警察《けいさつ》も俺の罪を問うことはないはずだ。それはお前にも分かってるだろ?」
「嘘は放っておけねえだろ。そんだけの話だ」
そう言いながら、頭の中では天明の不可解な移動のことを考えていた。雄一の頭上を通りこして、十メートル近くステージからジャンプしたことになる。しかもまったく音を立てずに。
瞬間《しゅんかん》移動でもしない限り、ありえない。
「まったく、このトリックを一目で見破るとはな。お前にも十分に人を騙《だま》す素質が備わってると思うが、嘘をつこうと思わないのか?」
「人を騙すのはあまり好きじゃねえ。んなことしなくてもやってけっからな」
「それはお前が強いからだな。嘘を必要としない珍《めずら》しい人間だからだ」
「人を持ち上げるついでにテメエを正当化すんじゃねえよ、ボケが」
「誰かを騙さなければ、手に入らない強さもある。誰でも少しずつ嘘をつく。お前がつかなくても、お前の周りの人間は少しずつ嘘《うそ》をついているはずだ。そういう人間の気持ちが分からない限り、お前の強さに頼る人間はいない」
「ワケ分かんねえ」
と、言いながら、雄一《ゆういち》は裕生《ひろお》のことを思い出していた。自分に嘘をついていた弟は、結局雄一にはなにも事情を説明しようとはしなかった。
「お前は俺《おれ》と正反対の存在だ。俺は嘘と同化している。俺自身が一つの嘘と言っていい」
「勝手にほざいてな。帰らせてもらうわ」
雄一はひらひらと手を振って、椅子《いす》と椅子の間を歩き始めた。
「……もう、俺には人間などどうでもいい」
不意に雄一の首筋の毛がぞわっと逆立《さかだ》ち、彼は反射的に飛びのいた。無意識《むいしき》のうちに両足を肩幅ほどに開いて、脇《わき》を締《し》めながら両拳《りょうこぶし》を上げる——明らかに戦うための構えだった。
(……ん?)
雄一はすぐに構えを解《と》いた。我に返ると特になにも起こっていなかった。一瞬《いっしゅん》、この上なく明確《めいかく》な殺意をぶつけられた気がしたのだが。
天明《てんめい》は客席の間から、じっと雄一を見ていた。
「……帰らないのか?」
ちっと舌を鳴らして、雄一は歩き出した。
ふと、ここで起こったことを多分|誰《だれ》にも話さないだろうと彼は思った——自分が体験《たいけん》したものがなんなのか、うまく説明できる自信がなかった。
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