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シャドウテイカー フェイクアウト27

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:3 最初に火の手が上がったのは、鶴亀《つるき》神社へ通じる坂道の途中《とちゅう》だった。ガソリン輸送《ゆそう》のためのタ
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 最初に火の手が上がったのは、鶴亀《つるき》神社へ通じる坂道の途中《とちゅう》だった。ガソリン輸送《ゆそう》のためのタンクローリーが、なんの前触れもなく路面の数メートルほど上に現れ、ずしりと道路に落ちて来た。誰《だれ》一人として下敷《したじ》きにならなかったのは僥倖《ぎょうこう》と言う他《ほか》はない。ちょうど直前の横断歩道で、人の列が寸断されていたおかげだった。
重い地響《じひび》きに振りかえった人々が、その銀色の大きな車輌《しゃりょう》が一体どこから現れたのか首をひねり始めた瞬間《しゅんかん》——唐突《とうとつ》に合金製の屋根が吹《ふ》き飛び、巨大な火柱《ひばしら》がタンクローリーを包んだ。車の両側にいた人々は、それぞれが炎とは反対側に向かって走り出した。
無数の炎のつぶてが四方八方に飛び散っていく。その一部が鶴亀山《つるきやま》の群生した灌木《かんぼく》に燃《も》え移り、たちまち炎の範囲《はんい》は山のふもとを中心に広がっていった。
その頃《ころ》、鶴亀山の裏手にある狭《せま》い山道でも、同様に炎が上がり始めていた。こちらの方は人気《ひとけ》がまったくなかったので、しばらくの間気づく人間もいなかった。
この山から出るための道は今や完全に閉ざされていた。後は無理にでも斜面の林を通り抜けるしかなかったが、互いに細かく絡《から》み合った灌木の間を下るのは容易ではなく、しかも炎と一緒《いっしょ》に発生した煙《けむり》がふもとの林をぐるりと覆《おお》い隠《かく》しつつあった。
事実上、鶴亀山は陸の孤島と化していた。
 皇輝山《おうきざん》天明《てんめい》はステージの上に仁王立《におうだ》ちになり、満足げにふもとの炎を見つめていた。あの道路の地下には広い坑道が通っており、そこに昨日のうちにタンクローリーを一台「瞬間《しゅんかん》移動」させておいた。それをたった今、地下から再び地上へ戻した。彼はマントの中で遠隔操作《そうさ》のスイッチを握りしめている。タンクローリーを道路に出現させた後で、タンクに取りつけておいた発火装置に点火したのだった。
龍子主《たつこぬし》はどんなに質量のあるものでも移動させることができる。しかも、能力の発動には回数の制限もない。きわめて役に立つ力だった。
もっとも、制約もいくつかはある。移動させられる範囲は十メートル程度であり、移動前と移動後の場所を天明の頭の中で明確《めいかく》にイメージできなければならなかった——要するに一度は「見た」場所でなければ移動させることはできない。また、能力はあくまで移動のみで、タンクのガソリンに発火させるのも天明自身が行わなければならなかった。
(さて、これからが本番か)
その時、夏祭りの実行委員の一人がステージの上の天明に近づいて来た。
「今、ふもとで火事が起こりました。申《もう》し訳《わけ》ありませんが、ショーは中止にして、今すぐ避難《ひなん》していただきたいのですが」
「避難とおっしゃいましても、あの道路は燃えているようですが」
落ち着き払って天明が言うと、初老の委員は汗を拭《ふ》きながら言った。
「鶴亀山の裏手には山道があります。そちらの方に今誘導《ゆうどう》いたしますので」
天明は笑いをこらえるのに苦労した——その山道の方も今頃《いまごろ》燃えているはずだが。
「ちょっと待って下さい。山道は狭《せま》すぎてそう多くは人が通れませんよね。わたしが逃げるとして、ここにいらっしゃる他《ほか》の方々はどうなりますか」
相手はぽかんと口を開けて天明を見ていた。まったく予想もしていなかった質問らしい。こいつはバカか、と天明《てんめい》は思った。
「ですから、わたしだけ先に逃げるつもりになれないということですよ。せっかくステージにおりますし、火事の誘導《ゆうどう》をお手伝いしましょう」
「……ああ」
ようやく天明の言葉を理解したらしく、男は感動したようだった。
「ありがとうございます。しかし、一体どこへ誘導したものか……」
天明は目の前のグラウンドに向かってさっと手をかざした。
「もちろん、この公園ですよ」
「おい、あれ燃えてるぞ!」
佐貫《きぬき》はフェンスに飛びつきながら叫んだ。裕生《ひろお》たちがそちらを見ると、道路をふさぐように停《と》まっているタンクローリーから巨大な火柱《ひばしら》が上がっていた。坂道のこちら側に残っている人々が、神社へ向かって走って来ていた。
「……ねえ、あんなところにあんな車あったっけ」
と、みちるが言った。
裕生もそれは不思議《ふしぎ》に思っていた。さっき葉《よう》と話している時にも、あの道路は視界に入っていた。あんな風にトレーラーが走ってくれば見えた気がする。それに、あの坂道は今は歩行者天国になっている。あんな風に車が進入できるはずは——。
「……瞬間《しゅんかん》移動」
と、裕生はつぶやいた。ひょっとすると、あれは龍子主《たつこぬし》が「能力」を使ってどこかから移動させたものではないのか。だとしたら、あの火事を起こしたのは天明ということになる。
『ただいま鶴亀山《つるきやま》のふもとで火災が発生しました。この場所から移動するのは大変危険ですので、消火活動が終わるまでここから絶対に動かないようお願いいたします……』
ステージの上では天明が穏《おだ》やかな声で人々に向かって話しかけている。
「……どういうことなんですか」
裕生の隣《となり》で葉がつぶやく。裕生はぎりっと歯がみした。
「あいつが火事を起こしたかもしれない」
その時、佐貫がフェンスから離《はな》れて山の頂《いただき》を見上げた。裕生もつられて見ると、山の反対側からも煙《けむり》が上がっている。
「山のあっちも燃えてるってことは、多分山道に火をつけたんだな。この山から誰《だれ》も出られないぞ」
一同は沈黙《ちんもく》した。天明が犯人だとしたら、一体なにをしようとしているのだろう。
「裕生、どうする?」
「分からない。でも、とにかくステージにいこう。ここにいてもしょうがないし、もしあいつがなにかしようとしたら止めないと」
四人はフェンスに沿って小走りに進み始めた。天明《てんめい》のいるステージは彼らのいる場所から対角線上《たいかくせんじょう》にある。グラウンドを大きく迂回《うかい》することになるが、中央の人混みを突っ切っていくよりも時間はかからないはずだった。
『皆さん、この公園が臨時《りんじ》の避難《ひなん》場所です。火が消えるまでの辛抱ですから、できるだけお子さんや女性はその場に座らせてあげて下さい』
天明はとうとうと喋《しゃべ》り続けていた。的確《てきかく》な指示のせいか、人々の間では今のところ大きな混乱は起きていない。
「……ああやって喋るのがあいつの目的ってことはないよな?」
佐貫《さぬき》の声が背後《はいご》から聞こえ、裕生《ひろお》は黙《だま》ってうなずいた。
『鶴亀山《つるきやま》公園は安全ですので、この放送が聞こえる場所にいらっしゃる方は、公園の方へ移動して下さい』
(みんなをここに集めてるんだ)
と、裕生は思った。現に公園の入り口からは続々と人が入って来ている。
「あのね、藤牧《ふじまき》」
いつのまにか、隣《となり》をみちるが走っていた。走るのに面倒《めんどう》だと思ったのか、下駄《げた》を脱いで両手に持っている。
「昨日、あたしバイトの帰りに、鳥居《とりい》のそばであの大きな車とすれ違ったんだ」
裕生は無言で先を促《うなが》した。
「あれとおんなじ車が、他《ほか》にもう一台あったと思うんだけど」
不意に裕生の中で全《すべ》てが繋《つな》がった——ふもとで起こった火事。公園に集められた人々。どこかへ消えたタンクローリー。
「……大変だ」
彼は立ち止まって振りかえる。
「葉《よう》!」
びくっと彼女は立ち止まった。
「はい」
「『黒の彼方《かなた》』を出して!」
「え、でも……」
葉はためらった。その理由は裕生にも分かる。今、この状態《じょうたい》で「黒の彼方」を出してもこちらの思惑《おもわく》通りに動いてくれるとは限らない。
「このままじゃ皆殺しにされる!」
『だいぶ、人も集まって参りましたね。皆さんは大変素直です。実に素晴《すば》らしい。退屈しのぎと言ってはなんですが、皆さんに三つばかりマジックをお見せしましょう』
天明《てんめい》は上機嫌《じょうきげん》で言う。その言葉に思わず裕生《ひろお》たちもステージを凝視《ぎょうし》した。
『まず一つめ……龍子主《たつこぬし》』
黒ずくめの服を着た天明の隣《となり》に、なんの前触れもなく大きな黒い蜥蜴《とかげ》が現れた。まるで置き物のようにぴくりとも動かない。グラウンドを戸惑《とまど》い気味の沈黙《ちんもく》が包んだ——突然現れた不気味な物体を、どう受け取ったらいいか分からないのだろう。次の瞬間《しゅんかん》、どこかから戸惑い気味の拍手が起こり、やがてさざ波のように広がっていった。
「龍子主を出した! 早く!」
葉《よう》はこくりとうなずいた。その瞬間、裕生の胸にきざしたのは彼女への感謝《かんしゃ》だった。
(ぼくを信じてくれた)
嘘《うそ》をついたというのに。ふつふつと体の奥から勇気が湧《わ》いて来た。その信頼には応《こた》えなければならない。
「……くろのかなた」
と、葉がつぶやいた。
彼女の影《かげ》の中から大きな黒い犬が現れた。裕生ははっと息を呑《の》む。双頭《そうとう》の一つを失った「黒の彼方《かなた》」は一回り縮《ちぢ》んだように弱々しく見えた。
「お前は人間を助ける契約があるんだろう。ぼくをあのステージまで連れていけ」
黒犬はじっとその場に立っていた。「黒の彼方」に支配された葉の方もなにも言わない。裕生はその背中に乗って、最後の首にしがみついた。無惨《むざん》に食いちぎられた「眠り首」の跡に肘《ひじ》が触れた。
唐突《とうとつ》に「黒の彼方」が高く吠《ほ》えた。体の奥底《おくそこ》に響《ひび》くような重い声がグラウンド中に響き渡り、人々はさっと裕生たちを振り返った。
「黒の彼方」は咆哮《ほうこう》とともに人の群れに突っこんでいった。たちまち人々は悲鳴を上げながら左右に割れた。その背後《はいご》に浴衣《ゆかた》のすそをからげた葉が続く。
「わたしはお前を許さない」
むしろ静かな声で葉は言った——「黒の彼方」の言葉だと分かっていたが、葉本人に言われた気がした。
「分かってるよ」
と、裕生は言った。
 ふと、天明は異変に気づいた。人を背中に乗せた黒い犬が、見物客を左右に割るようにしてステージに向かって走って来る。それは藤牧《ふじまき》裕生と「黒の彼方」であり、その背後には雛咲《ひなさき》葉もいた。
「おっ」
天明は苦笑《にがわら》いをした。思ったよりもずっと早く、裕生たちは天明の意図を悟ったようだった。どうやら急がねばならないらしい。
「この蜥蜴《とかげ》は龍子主《たつこぬし》。わたしの守り神です。次はもっと大がかりなマジックをお見せしましょう」
天明《てんめい》は龍子主に呼びかける。昨日のうちにタンクローリーをもう一台、このグラウンドの地下の坑道に「移動」させてある。
(出せ)
突然、土まみれのタンクローリーが地面から数メートル上に現れた。ちょうど「黒の彼方《かなた》」の頭上だった。ずん、と音を立てて巨大な車体が落下する。本来なら見物客の上に落としてやるつもりだった。それならば確実《かくじつ》に何人かは死んだはずだ。
しかし、黒犬もその契約者も、タンクローリーが現れた瞬間《しゅんかん》に地面を蹴《け》って横に跳んでいた。うろたえてバランスを崩《くず》しそうになったのは犬の背中に乗った裕生《ひろお》の方だった。
「黒の彼方」はすぐに体勢を立て直してまた走り出した。
みるみるうちに「黒の彼方」がステージに迫ってきた。天明は素早《すばや》く思考を巡《めぐ》らせる——あの傷ついたカゲヌシと戦ったところで負ける気はしないが、まだ自分にはするべきことがある。
黒の彼方は地面を蹴り、ステージへ向かって跳躍《ちょうやく》した。その刹那《せつな》、天明と龍子主はステージから「瞬間移動」で姿を消した。
「あれっ」
ステージに上がった裕生は声を上げた。そこは完全に無人になっていた。見物客も驚《おどろ》いているのか、こちらを指さしながら口々になにか囁《ささや》き合っている。
「下です」
いつのまにか隣《となり》に立っていた葉《よう》——「黒の彼方」が言った。グラウンドを見ると、裕生たちと入れ替わるように、龍子主を従えた天明がにやにや笑いながら彼を見上げていた。
「いつのまに……」
裕生ははっと我に返った。天明は今までよりもタンクローリーに近い場所にいる。彼はマイクに飛びついて叫んだ。
「そこのタンクローリーも燃《も》える! みんな逃げて!」
グラウンドが水を打ったように静まりかえり——そして、名状《めいじょう》しがたい大混乱が起こった。
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