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シャドウテイカー フェイクアウト28

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:4 見物客は我先にと公園の出口へ向かって走り出した。あっという間に恐怖が人々を覆《おお》い尽くし、彼らは目的も行き先も持
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 見物客は我先にと公園の出口へ向かって走り出した。あっという間に恐怖が人々を覆《おお》い尽くし、彼らは目的も行き先も持たない群れと化していた。
「神社の境内《けいだい》へ逃げて下さい!」
と、裕生《ひろお》は続けて叫んだ。ふと、携帯が鳴っていることに気づく。佐貫《さぬき》からだった。
『バカ、神社じゃ狭《せま》すぎる! 第一あっちにも人がいるだろ!』
電話の向こうから人々の悲鳴が聞こえる。
「じゃあ、どこへ……」
『鶴亀山《つるきやま》の頂上へもいくように言え!』
裕生は電話を切らずにそのままマイクに向かって叫んだ。
「境内《けいだい》に入り切れなかったら、鶴亀山へ上がって下さい!」
人々は裕生の声を背中に受けながら、一人残らず公園から出ていった。気がつくと後に残っているのは天明《てんめい》と裕生たちだけだった。
ふもとの方から消防車のサイレンが聞こえる。おそらく消火活動が行われているのだろう。今、この公園から火災を発生させるわけにはいかない。消防車は下で足止めされており、ここの火を消せる者は誰《だれ》もいないからだ。
龍子主《たつこぬし》を従えた天明がいつのまにかタンクローリーの上に立っていた。ステージの上の裕生たちに向かって、こっちへ来い、と手招きをしている。
「いかない方がいいと思いますが」
葉《よう》の口を借りた「黒の彼方《かなた》」が言う。
「いくよ。当たり前だろ」
裕生はステージから飛び降りた。地面に降りた途端《とたん》、ガソリンの臭《にお》いが漂《ただよ》って来た。
(うっ)
思わず裕生は顔をしかめた。タンクローリーに一歩近づくたびに、その臭いはさらに濃《こ》くなる。ふと、裕生は地面が完全に液体に覆《おお》われていることに気づいた。一体なにが起こっているのか確《たし》かめるまでもない。天明はタンクに穴を開けて、このグラウンド全体にガソリンをぶちまけている。
車の上にいる天明は自分の両手をマントの中に隠《かく》している。おそらく火を隠し持っているに違いない。その気になれば、天明はこの公園を裕生たちごと火の海に変えられる——。
「……あの蜥蜴《とかげ》の傷」
ふと、背後《はいご》で葉がつぶやいた。
「『黒曜《こくよう》』を使ったのはあなた方ですか」
思いがけない言葉に、裕生は肩越しに「黒の彼方」と葉を振りかえった。
「『黒曜』?」
「わたしたち『同族食い』の血から作られた毒です。あの蜥蜴の体にはそれを使われた跡がある。どこで手に入れたのですか」
裕生は黙《だま》っていた。レインメイカーと会ったことは「黒の彼方」には伏せておきたかった。
「まあいいでしょう。あなた方はわたしをあの蜥蜴に殺させて、『黒曜』であのカゲヌシを始末する、そういうつもりだったのですね」
裕生《ひろお》にはそれにも答えようがなかった。そこまで知られた以上、「黒の彼方《かなた》」を出し抜くのがさらに難《むずか》しくなったことを彼は悟った。ふと、葉《よう》が耳を寄せて、彼の耳元に囁《ささや》いた。
「わたしは『黒の彼方』。他《ほか》のカゲヌシとは違います。それをお忘れなきよう」
裕生の背筋に冷たいものが走った——それでも、彼はどうにか沈黙《ちんもく》を守った。
 裕生はタンクローリーから十メートルほど離《はな》れたところで足を止めた。彼の背後《はいご》にいる黒犬と契約者もそこで立ち止まる。
やっと来たな、と天明《てんめい》は思った。
天明はタンクの屋根にしゃがみこんで、裕生に向かってにやりと笑いかけた。
「結局、どっちの味方なんだお前は。俺《おれ》たちか? それともそこの犬か?」
「ぼくは人間の味方だ。カゲヌシに味方なんかしない」
ひゅう、と天明は口笛を吹《ふ》いた。今にも噴《ふ》き出しそうなほど上機嫌《じょうきげん》だった。
「それで俺のショーを邪魔《じゃま》しやがったのか。とんだ嘘《うそ》つきだな、お前は」
「お前はなにがしたいんだよ」
と、裕生は言った。一瞬《いっしゅん》、天明の頭が空白になる。なぜか努力をして答えを捜《さが》さなければならなかった。
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「……皆殺しだ」
「なんのために?」
天明《てんめい》の眉《まゆ》がかすかにゆがんだ。
「なんとなくだ」
彼はそう言いながら、マントから右手を出した。手のひらに隠れるほどの大きさしかない、楕円形《だえんけい》の小さなライターを握りしめている——八尋《やひろ》の持っていたものだった。
彼はそれに火を点《つ》けた。
「ふもとのタンクローリーと同じように、こいつにも発火装置が取りつけてある。最初は爆発《ばくはつ》させてやろうと思ったが、お前らがここにいたヤツらを逃《に》がしちまったからな。ちょっと予定変更だ。なるべく広い範囲《はんい》にガソリンをまいて、その後で火を点ける。多分、その方が早く炎も燃《も》え広がるだろう」
「火を点けたってみんな逃げた後じゃないか。お前の計画はもう失敗したんだ」
よく見ると裕生《ひろお》の体は震《ふる》えている。ハッタリだとすぐに分かった。
「また嘘《うそ》か。お前はほんとに俺《おれ》にそっくりだよ。口から出る言葉は全部嘘ばっかりだ……とりあえず俺が火を点ければお前らは死ぬ。それに、ここから出た火が神社やそこらへんの林に燃え移らないと思ってんのか? お前らが頂上に逃がした連中も、煙《けむり》にまかれて死ぬだろうよ……せいぜい、直火焼《じかびや》きか燻製《くんせい》かの違いだけだな」
直火焼きか、燻製か。なんとなく口にした冗談《じょうだん》が無性に可笑《おか》しくなり、天明は背中を震わせてげらげら笑った。
「……違う」
と、裕生が言った。
「なにがだ?」
「ぼくはお前と違う」
「違わねえよ。この嘘つき坊主《ぼうず》——」
裕生の目の怒りの強さに、天明は気圧《けお》された。ふと、彼は数ヶ月前に「治療《ちりょう》」した難病《なんびょう》の少年のことを思い出した。あの少年もこんな怒りに燃えた目で自分を見ていた。
「ぼくは自分に嘘をついてない」
天明の頬《ほお》がかすかに震えた。まるで他人事《ひとごと》のように、自分の心のどこかがうずくのを感じた。
「……なんの話だ?」
「皆殺しはお前のやりたいことなんかじゃない。お前のカゲヌシのやりたいことなんだ! お前は自分に嘘をついてるんだ!」
天明はライターを握りしめたまま凍《こお》りついた。八尋の顔がはっきりと脳裏《のうり》に蘇《よみがえ》る——嘘つき、と言って彼女は死んだ。裕生がぴんと人差し指を天明に向けた。
「今、お前は嬉《うれ》しそうな顔をしてる。ぼくをバカにしてるから笑ってるんじゃない! 心のどこかで、自分の計画を止めてくれそうだからほっとしてるんだ!」
「黙《だま》れ!」
天明《てんめい》は我を忘れて立ち上がった——これもこの小僧の嘘《うそ》だ、と頭の中で声がする。しかし、その声が自分のものなのか、自分の隣《となり》にいるカゲヌシのものなのか判然としなかった。
(俺《おれ》は自分からこいつらをここへ呼んだ)
頭の片隅で別の声が聞こえた。
(どうして、昨日のうちに始末しなかったんだ?)
天明は確《たし》かに混乱していた。ふもとの方ではさっきからずっと消防車のサイレンが聞こえている。そのせいで、グラウンドのあちこちから聞こえる水音に気が付くまで、しばらく時間がかかった。
「な……?」
我に返った天明はグラウンドを見回した。回転するノズルが地下からいくつも顔を出して、大量の水を撒《ま》いている——スプリンクラーが作動していた。
ふと、裕生《ひろお》のいる場所とは別の方向から、かすかな足音が聞こえた。はっと振りかえると、タンクローリーから一番近いノズルの後ろに佐貫《さぬき》がしゃがみこんでいた。彼はノズルの向きを調節《ちょうせつ》し、タンクの屋根にいる天明に向かって水流をぶつけて来た。
手首に重い衝撃《しょうげき》を感じ、火の消えたライターが右手から離《はな》れた。
その瞬間《しゅんかん》、二つのことが同時に起こった。「黒の彼方《かなた》」がタンクローリーの上の龍子主《たつこぬし》に向かって跳躍《ちょうやく》し、裕生が地面に落ちていくライターに向かって走り出した。
天明はすぐに自分のすべきことを悟った——一動作でライターを取り戻し、同時に「黒の彼方」の攻撃《こうげき》を避《さ》ける。
天明は龍子主の背中に手を触れる。むき出しになった「黒の彼方」の牙《きば》が迫ってくる直前、天明たちは姿を消した。
——瞬間移動。
ぴしゃりと音を立てて、天明たちはガソリンの池の中に降り立った。そこがライターの描く放物線《ほうぶつせん》の終点だった。当然、裕生はまだ到着していない。突然現れた天明たちに目を丸くしている。
自分が手を離したライターを受け取ろうと、天明は手を伸ばした。しかしその時、裕生の背後《はいご》から別の影《かげ》が現れて彼を追い抜いた。
現れたのは雛咲《ひなさき》葉《よう》だった。彼女は人間離れした脚力で跳躍し、天明に体当たりをする。彼は水面を一回転しながら滑《すべ》っていった。天明はすぐに体を起こした。次の攻撃が当然予想されたが、葉は今までと同じ場所に立っているだけだった。
(どうして手加減した?)
あれほどの動きが可能なら、致命傷を与えることもできたはずだ。天明は起き上がりながら、濡《ぬ》れて重くなったマントを脱いだ。
八尋《やひろ》のライターが落ちたあたりを見ると、派手《はで》に転んでいる裕生《ひろお》の姿が見えた。少しガソリンが口の中に入ってしまったらしく、膝《ひざ》を突いたまま激《はげ》しく咳《せ》きこんでいる。しかし、手の中にはライターがある。少しでもガソリンから遠ざけるためか、握りしめた手を高く掲げていた。
天明《てんめい》は傍《かたわ》らに移動して来た龍子主《たつこぬし》に触れる。正確《せいかく》な場所さえ分かっていれば、手の中にあるライターを取り戻すのはたやすい。
突然、裕生は天明を振りかえり、険《けわ》しい表情を浮かべた。こちらの意図を察したはずがないと天明は思った——しかし、次の瞬間《しゅんかん》裕生はライターを口の中に入れていた。そして、顎《あご》を上に向けて無理矢理《むりやり》にごくりと喉《のど》を動かした。
「あのガキ……」
さすがの天明も唖然《あぜん》とした。呑《の》みこまれては正確な位置が分からない。しかし、小型のライターとはいえ呑みこむのは死にものぐるいだったようで、裕生は両手で胸を押さえていっそう激しく咳きこんでいる。
このガソリンに火を点《つ》けるのは難《むずか》しくなった——最初の計画通り、タンクローリーの発火装置を作動させれば天明も焼け死んでしまう。どうすべきか頭をめぐらせていると、「黒の彼方《かなた》」が宙を飛んで龍子主に迫って来た。
(あいつを始末するのが先決だな)
天明は「黒の彼方」に向き直った。
 裕生は腹筋を震《ふる》わせながら咳を続けている。ガソリンを少し飲みこんでしまったらしく、胃の中のものを全部戻してしまいそうだった。
ふと気が付くと隣《となり》に葉《よう》が立ち、「黒の彼方」の本体と龍子主の戦いをじっと見つめていた。
戦いに参加しないのか、と裕生は言おうとしたが、内緒話《ないしょばなし》のようなかすれた声しか出なかった。どうやら喉を痛めてしまったらしい。
「契約者が近づけばさらに不利です。他《ほか》に方法がない以上、あの状態《じょうたい》で戦うしかありません」
彼女は裕生の言いたいことを察したかのように言った。
裕生もカゲヌシ同士の戦いをなすすべもなく見守るだけだった。
司令塔である天明が参加した今、「黒の彼方」は前回以上に苦戦していた。「眠り首」が失われている以上、接近戦を挑《いど》む他はない。しかし、天明と龍子主は相手の攻撃《こうげき》を細かい瞬間移動によって回避《かいひ》し、「黒の彼方」の死角に移動して攻撃する戦法を取っているようだった。
しかも、龍子主の前に天明が出て来ることがある。そのたびに「黒の彼方」は止まらざるを得なかった。
(自分を盾《たて》に使ってるんだ)
と、裕生は思った——「黒の彼方」が人間を襲《おそ》わないと気づいているのだ。
突然、空中に現れた龍子主《たつこぬし》が落下しながら黒犬の首を狙《ねら》う——かろうじて避《よ》けたものの、背中の部分を蜥蜴《とかげ》の顎《あご》がえぐった。
「……うっ」
葉《よう》の口からうめき声が洩《も》れた。体の向きを変えて黒犬が噛《か》みつこうとした瞬間《しゅんかん》、再び龍子主は消える。
「藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》」
いつのまにか葉の顔がすぐそばにあった。「黒の彼方《かなた》」は耳に噛みつかれ、無理矢理《むりやり》に振りほどこうとしているところだった。
「わたしを恨《うら》んでいますか」
耳元から声が聞こえる。裕生は答えなかった。
「わたしは生き残ろうと必死でした。あらゆる他《ほか》の生物と同じように。あなた方と同じように」
苦しげに葉が言った。「黒の彼方」の動きは目に見えて鈍《にぶ》くなっていた。相手から距離《きょり》を置いたところを瞬間移動で引き寄せられ、ぎりぎりのところで相手の歯をかわした。
「なにが言いたいんだよ」
声を絞り出すように裕生はすぐそばの相手に囁《ささや》いた。
「わたしを助けてもらえませんか?」
そう言って、葉はふらりとよろめいた。もう「黒の彼方」に跳躍《ちょうやく》する力も反撃《はんげき》する力も残っていないようだった。かろうじて相手に致命傷を与えられるのを避《よ》けているだけだった。
不意に天明《てんめい》がにやにや笑いながら裕生を見た。これが終わったら次はお前らだ、と言いたげな目つきだった。
「お願《ねが》いです」
裕生は歯を食いしばって目を閉じた。確《たし》かにカゲヌシが人間に取りつくのは、カゲヌシ自身のせいではない。この生物なりに生き残ろうとしているだけだった。
彼は深いため息をついて——それから、首を横に振った。
「駄目《だめ》だよ」
彼はかすれた声でつぶやいた。それだけで喉《のど》がひりひりと痛んだ。
「悪いけど、やっぱり駄目だ」
不意に「黒の彼方」の本体と葉の体が同時にがくりと崩《くず》れ落ちた。裕生は慌《あわ》てて彼女の体を支えるためにしゃがみこむ。
「……裕生」
背後《はいご》から佐貫《さぬき》とみちるが近づいてきた。
「そろそろだな」
と、佐貫が裕生の耳元に囁く。彼は肩から下《さ》げたスポーツバッグのジッパーに手をかけていた。裕生は無言でうなずきながら、「黒の彼方」を凝視《ぎょうし》していた。這《は》いずって逃げようとしている黒犬を、蜥蜴《とかげ》が上から押さえこもうとしているところだった。
裕生《ひろお》が立ち上がりかけた刹那《せつな》、
「……やはりあなたが持っていましたか」
と、葉《よう》の声が聞こえた。今までの苦しげな様子《ようす》が嘘《うそ》のように、彼女の体が跳《は》ね上がった。そして佐貫《さぬき》のバッグから、素早《すばや》く「黒曜《こくよう》」の詰まった例の武器を一本引き抜いた。
「えっ」
三人はなんの反応もできなかった。葉——「黒の彼方《かなた》」は一歩飛びのくと、底冷えのする目で裕生を睨《ね》めつけた。
「あなたが断ったことを決して忘れない。契約が不要になった時、あなたを真っ先に殺す」
裕生の全身が総毛立《そうけだ》った。
そして、葉は「本体」に向かって走り出した。
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