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シャドウテイカー フェイクアウト29

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:5 龍子主《たつこぬし》は「黒の彼方」を横倒しにして覆《おお》い被《かぶ》さっていた。「殺せ」と、笑顔《えがお》で天明《
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 龍子主《たつこぬし》は「黒の彼方」を横倒しにして覆《おお》い被《かぶ》さっていた。
「殺せ」
と、笑顔《えがお》で天明《てんめい》は命じた——そこへ、誰《だれ》かが水音を立てながら一直線《いっちょくせん》に近づいて来た。振り向くと契約者である葉が走って来るところだった。
(イチかバチか「本体」の加勢に来たのか)
虫の息の「黒の彼方」をその場に残して、天明は葉に向き直った——彼女を食えばいずれにせよ戦いは終わる。彼は龍子主をその場に残して走り出した。むろん、相手が自分を攻撃《こうげき》できないことは分かっていた。
走って近づくと見せかけて、天明は瞬間《しゅんかん》移動で一気に距離《きょり》を縮《ちぢ》めた。思った通り、彼女は速度を緩《ゆる》めて天明の体を柔らかく突き飛ばす。しかし、減速した彼女の真上にはすでに龍子主が移動していた。
顎《あご》をいっぱいに開いて落ちてきたカゲヌシを、彼女は体をねじるように回転させてかわそうとする。しかし、わずかに引っかかった下顎の牙《きば》が浴衣《ゆかた》の肩口を引っかけてびりっと裂いた。露《あら》わになった二の腕に鮮血《せんけつ》が流れる。
彼女は帯の背中に差しこんであった、鉄パイプのようなものを引き抜いて逆手《さかて》に握りしめる。回転の勢いをそのまま利用しつつ、龍子主の脇腹《わきばら》にその武器の尖《とが》った先端《せんたん》をずぶりと食いこませた。
びしゃりと音を立てて水面に落下した龍子主は、今まで天明が一度も耳にしたことのない甲高《かんだか》い鳴き声を上げた。それが悲鳴であることを悟った彼は、すぐさま自分のもとへ龍子主を呼び戻す——目の前に現れたカゲヌシの脇腹からそのパイプを引き抜くと、先端が注射器の針のように斜《なな》めに切られているのが見えた。穴の部分からはわずかに黒い液体がしたたっていた。
「やってくれたな」
天明《てんめい》は顔をゆがめた。これの中身は先日|裕生《ひろお》が使った「毒」に違いない。あの連中の誰《だれ》かが、それを仕込んだ武器を作り上げたのだ。
彼は意識《いしき》を集中し、龍子主《たつこぬし》との同調《どうちょう》を高める。彼のカゲヌシは激《はげ》しい苦痛を感じてはいるが、体躯《たいく》の大きさが幸いして、致命傷には至っていなかった。
葉《よう》は距離《きょり》を置いたまま天明たちの様子《ようす》をじっと窺《うかが》っている。彼はその背後《はいご》に瞬時《しゅんじ》に移動する。
「これで終わりか?」
相手が振り向く前に、その小柄な体をがっちりと押さえこんだ。裕生たちがこちらの方へ走って来る。彼らが到着する寸前、天明は葉の体ごと龍子主のそばへ戻った。
「動くな!」
と、天明は叫んだ。少女の白い喉元《のどもと》に、さっき龍子主に刺さっていた武器を突きつけた。裕生たちはしぶしぶ立ち止まった。天明は佐貫《さぬき》が肩から下《さ》げているバッグに目を留《と》めた。他《ほか》の二人はこのような武器が入りそうなものを持っていない。
「いいバッグだな、おい」
次の瞬間、佐貫のバッグは天明の足下《あしもと》に移動していた。裕生がなにか叫ぼうとして、咳《せ》きこんで背中を丸める。その代わりに彼の背中をさすりながら、みちるが叫んだ。
「その子を放しなさいよ!」
天明は彼らの顔に浮かんでいる焦燥《しょうそう》と絶望の色を見て取った。おそらく、もう自分に抵抗する武器も策もないのだろう。
「『同族食い』、この契約者の娘、お前らの武器、全部|俺《おれ》が握っている」
そう言いながら、天明は一抹《いちまつ》の寂《さび》しさのようなものを感じた。心のどこかに、本当にもう終わりなのか、とため息混じりにつぶやく自分がいた。
「そして、お前らの命も俺が握っている。この山にいる人間の命もだ」
天明は三人の顔を順番に見て言った。
「どれから殺して欲しい? 「黒の彼方《かなた》」か、この娘か、お前らか、他の人間どもか……相談《そうだん》して決めてもいいぞ」
しん、と彼らを静寂《せいじゃく》が包みこんだ。消防車のサイレンはいつのまにかやんでいる。ずっと続いていたスプリンクラーの散水がようやく終わり、混ざり合ったガソリンと水が、グラウンドに巨大な池を作っていた。
「相談しないのか?」
天明はかちかち、と歯を鳴らしながら笑った。
「それなら最初は——」
ふと、彼は口をつぐんだ。どこかから自分以外の笑い声が聞こえた気がした。天明は裕生たちの顔を見たが、誰《だれ》も笑っていなかった。ふと、自分の腕の中に抱えた少女が、肩を震《ふる》わせていることに気づく。
顔を覗《のぞ》きこもうとすると、突然彼女は顎《あご》を上げた。唇《くちびる》の端が裂けるほどの笑顔《えがお》に天明《てんめい》は慄然《りつぜん》とした。彼女は目と口を大きく開けて、グラウンド全体に響《ひび》き渡るほどの大きな甲高《かんだか》い声で笑い始めた。
(……葉《よう》?)
裕生《ひろお》はみちるに背中を支えられながら、呆然《ぼうぜん》と彼女を見つめていた。彼女の体を操《あやつ》っているのが「黒の彼方《かなた》」である以上、笑っているのはあの瀕死《ひんし》のカゲヌシということになる。
「黙《だま》れ!」
天明が葉の体を突き飛ばした。彼女はガソリンの混じった水たまりに膝《ひざ》を突いたが、それでも同じ調子《ちょうし》で笑い続けている。
「龍子主《たつこぬし》、『同族食い』から殺《や》れ!」
と、笑い声をかき消すように叫んだ。しかし、蜥蜴《とかげ》のカゲヌシは動かなかった。
「……龍子主?」
「騙《だま》し合いはわたしの勝ちです」
笑い声に混じって、葉の口から言葉が洩《も》れた。
「わたしは他《ほか》のカゲヌシとは違う。知りませんでしたか? だから決して取りこまれない。こちらから取りこむことはあっても。ハハハハ!」
彼女はゆっくりと膝を伸ばして立ち上がり、裕生の方を向いた。
「『黒曜《こくよう》』を持って来てくれて助かりました。しかもわざわざ、それを体内に打ちこむ武器まで作ってくれた!」
龍子主の体がぶるぶると小刻みに震《ふる》えている。その震えは徐々に大きくなり、体の中でなにかが跳《は》ねているかのように見えた。
「わたしの『眠り首』は、体内からの刺激《しげき》に反応して目を覚まします。例えばわたしの血のようなものに! 『黒曜』のようなものに! もうひとつのわたしよ、目を覚ますがいい! もうひとつのわたしの首!」
裕生は大きく目を見開いた。
(ドッグヘッド)
龍子主の震えが限界を突破する。うろこに覆《おお》われた腹が爆発《ばくはつ》するように破れ、四方に飛び散った。黒い肉片とともに、中から丸いものがごろごろと転がり出てきた。
その場にいた全員が息を呑《の》む。それは黒い血にまみれた犬の首だった。龍子主に食われたはずの「眠り首」に間違いない。その目はらんらんと輝《かがや》き、口からはせわしなく白い息が洩れている——生きていた。
(ドッグヘッドに気をつけろ)
裕生《ひろお》はぼんやりと思いかえした。
(このこと、だったんだ)
腹のあたりを押さえながら、天明《てんめい》がゆっくりと仰向《あおむ》けに倒れていった。まるで入れ替わるように、「黒の彼方《かなた》」がよろけながら立ち上がる。その首が天を仰ぎ、勝利の雄叫《おたけ》びを上げた。
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