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シャドウテイカー フェイクアウト30

时间: 2020-03-29    进入日语论坛
核心提示:6「黒の彼方」はほんのわずかな時間で龍子主《たつこぬし》の体を食い尽くしてしまった。天明はそのそばに倒れたままだった。「
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「黒の彼方」はほんのわずかな時間で龍子主《たつこぬし》の体を食い尽くしてしまった。天明はそのそばに倒れたままだった。「眠り首」は何事もなかったかのように、元の場所に戻っている。
やがて「黒の彼方」が向きを変え、裕生の方へ歩いて来た。錯覚《さっかく》ではないと気づいた時、下腹のあたりに冷たい恐怖を感じた——体の大きさが変わっている。龍子主ほどではないものの、今までと比べて二回りは大きくなっていた。
さっきとはうって変わって、「黒の彼方」の全身には精気が漲《みなぎ》っている。今まで食ったどのカゲヌシよりも、龍子主は多くの力をこの獣《けもの》に与えたようだった。
「あなたに礼を言います、藤牧《ふじまき》裕生!」
さっきと同じ場所に立ったままの葉《よう》が、彼に向かって叫んだ。
「あなたの小賢《こざか》しさが、最後にはわたしの失われた首と、昔のような体を取り戻してくれました」
裕生は葉の方へ一歩足を踏み出した。すると、彼女は一歩背後《はいご》へ飛びのいた。
「そして、三つ目の首もやがて揃《そろ》います」
ぎょっとして「黒の彼方」の肩を見る。「眠り首」の隣《となり》に「司令塔」があり、その横に奇妙な黒い突起が生《は》えていた。太さは人の手首ほどで、先端《せんたん》が丸くふくらんでいる。土中から顔を出したばかりの植物の芽《め》を思わせた。
「それ」は生きていることを主張するかのようにぴくぴくと痙攣《けいれん》していた。
「もう一つ、わたしはあなたに言わなければならないことがあります」
(しまった)
ふと、裕生は自分から離《はな》れている葉を凝視《ぎょうし》した。どうして今まで気がつかなかったのだろう。
(ここにはもう「助ける」人間はいない。それに)
「名を呼ばなければ、この娘《こ》は目を覚まさない。しかし、あなたは喉《のど》を痛めているようですね。それで声が出せるのですか?」
裕生は反射的に葉の名を叫んだ——いや、叫んだつもりだったが、口から洩れたのはかすれたささやき声だけだった。
「……さようなら、藤牧裕生」
馬鹿《ばか》にしきった態度《たいど》で、葉《よう》は裕生《ひろお》にお辞儀《じぎ》をした。
彼は水たまりを蹴り上げながら走り出した。彼女を捕まえなければならない。捕まえて名を呼ばなければならない。
葉の体と「黒の彼方《かなた》」も踵《きびす》を返して走り出した。一人と一匹の背中はグラウンドをまっすぐに横切っていく。やがて水たまりを抜け、乾いた土の上へ出て、グラウンドの外の芝生《しばふ》に足を踏み入れた。その先の金網のフェンスが裕生の目にもぼんやりと見えて来た。
(くそっ)
フェンスは三メートルほどの高さがあり、近くには出入り口もない。普段《ふだん》の葉だったらそこで追いつけるはずだった——「黒の彼方」に操《あやつ》られていなければ。
葉は速度を緩《ゆる》めることなくフェンスに迫っていく。そして、ぐっと膝《ひざ》をかがめて地面を蹴った。彼女の体が金網に沿うように跳《は》ね上がり、上辺の縁《ふち》に片手をついて軽々とフェンスを越えていった。「黒の彼方」もそれに続いた。
(あ……)
裕生の両足がずしりと重くなり、やがて完全に止まった。普通の人間に飛び越せる高さではない。葉と「黒の彼方」は金網の向こう側にすとんと着地した。そして、裕生の方を振りかえった。彼女の顔には勝ち誇ったような笑《え》みが浮かんでいる。
「追いかけっこは終わりですか?」
葉の口から「黒の彼方」の言葉が聞こえた。裕生は肩で息をしながら、相手の顔を見る。これ以上フェンスに近づいても意味がない。闇雲《やみくも》に追うだけでは絶対に捕まらない相手だった。
その時、みちると佐貫《さぬき》が裕生たちに追いついた。
「どこへいくつもりなの?」
みちるも息を切らせつつ、フェンスの向こうの葉に叫んだ。
「あなたには関係のないことです」
「関係あるよ。雛咲《ひなさき》さんを返して!」
葉の口元にくっきりと嘲笑《ちょうしょう》が浮かんだ。
「この娘《こ》がいなくなった方が、あなたにとっては都合《つごう》がいいのではないですか?」
「な、なんの話よ」
みちるはうろたえた声を上げた。彼女の頬《ほお》はかすかに赤くなっている。
「あなたはそこにいる……」
「うるさい!」
尋《たず》ねたのは彼女自身だったが、なぜかみちるは相手の言葉を突然|遮《さえぎ》って、取り乱したように叫んだ。
「そんなことない! それにもし都合がよくても、あたしはそんなこと望まない!」
もう裕生にその会話はほとんど耳に入っていなかった——こちらから葉たちを追うことはできない。だとしたら、
(戻って来させればいい)
裕生《ひろお》はポケットから楕円形《だえんけい》のライターを出した。その場にいた全員が裕生を見る。さっきまで天明《てんめい》の持っていたライターだった——呑《の》みこむふりをしてポケットにしまったものである。いくら小ぶりとはいえ喉《のど》の奥まで流しこむ自信はなく、仕方なく手の中に隠《かく》して天明を「騙《だま》した」のだった。
(絶対使わないと思ったんだけど)
彼は心の中でつぶやいた。
(……ここで使うことになるなんて)
それから、自分のジーンズの裾《すそ》に火を点《つ》ける。芝生《しばふ》が燃《も》えないように注意を払わなければならなかった。ガソリンはこのあたりまで流れては来ていないが、それでも火事の範囲《はんい》をこれ以上広げたくなかった。
ふくらはぎまで炎に包まれるのを確認《かくにん》して、裕生はライターを芝生に放った。
「ちょっと、なにやってんのよ藤牧《ふじまき》!」
慌《あわ》てふためいたように走り寄るみちるを、裕生は無言で押し返した。彼はフェンスの向こう側だけを凝視《ぎょうし》している。ガソリンの混じった水で濡《ぬ》れているせいか、炎の舌はたちまち彼の膝《ひざ》あたりまではい上がった。服が燃えているというのに、体は恐怖で冷たく固まっている。
裕生の額《ひたい》から脂汗が流れ始めた。無理か、と思った時、葉《よう》の顔が怒りと焦燥《しょうそう》でゆがんだ。そして、「黒の彼方《かなた》」がフェンスの向こうから戻ってきた。
「……契約を悪用して欲しくありませんね」
と、葉が言った。
「わたしは確《たし》かに人の命を救わなければならない。しかし、カゲヌシとの戦いに無縁《むえん》な人間まで救わせるつもりですか」
しかし、「黒の彼方」はこちらへ戻って来ている——これもまた契約に含まれているに違いない。目の前の人間が死の危険に晒《さら》された場合、葉と「黒の彼方」との契約は自動的に発動するのだろう。
しかし、葉は相変わらずそこに立っているままだった。彼女はさらに言葉を続けた。
「もっとも、あなた一人を助ける程度なら、この体まで戻る必要はありませんが」
裕生の頭が真っ白になった。足首のあたりがじりじりと熱《ねつ》で焦《こ》げているのが分かる。彼の下半身はすでに炎に包まれている。裕生は歯を食いしばって耐えた。
(……くそ)
結局、なにもかも無駄《むだ》だった。そう思いかけた時、
「じゃ、二人ならいいんだ」
と、みちるが言った。裕生は驚《おどろ》いて彼女の顔を見る。彼女はいつのまにかライターを拾い上げて、浴衣《ゆかた》の片袖《かたそで》にあてがっている。
(え……?)
裕生《ひろお》が反応する前に、彼女は自分の片袖に火を点《つ》けた——浴衣はたちまち燃《も》え始めた。みちるは炎に包まれている右腕をちらりと無関心に見やって、それから葉《よう》の方を向いた。
「これで分かるでしょ?」
彼女は静かな声で呼びかけた。まるで「黒の彼方《かなた》」ではなく、葉本人に向かって話しているかのようだった。
「あたしはそんなこと望まない……あたしはそんな人間じゃないから」
葉の顔が一際《ひときわ》けわしく歪《ゆが》んだ。
しかし次の瞬間《しゅんかん》、彼女の体もフェンスのこちら側へと飛び越えていた。そして「黒の彼方」と肩を並べて、裕生たちの方へ近づいてきた。
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