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シャドウテイカー リグル・リグル02

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:第一章 「蠕動《ぜんどう》」    1 皇輝山《おうきざん》天明《てんめい》は暗闇《くらやみ》の中で目を開けた。夜中に一
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第一章 「蠕動《ぜんどう》」
    1
 皇輝山《おうきざん》天明《てんめい》は暗闇《くらやみ》の中で目を開けた。
夜中に一度はこうして目が覚めてしまう。薄《うす》い布団をかぶったまま、彼は身動き一つしなかった。やがて少しずつ目が慣《な》れてくる。
彼が横たわっているのは三畳ほどの独房で、扉や窓には何十枚もの細長い金属板がブラインドのように斜めに貼《は》りつけてある。彼が収容されているのは拘置所《こうちしょ》——まだ刑の確定《かくてい》していない被告人《ひこくにん》が収容される監獄《かんごく》だった。
天明は数日前に警察《けいさつ》の取《と》り調《しら》べを終えて、ここで裁判が始まるのを待っている。一ヶ月前、彼は故郷の町で多くの人命を奪う事件を起こしていた。おそらく死刑を免《まぬが》れることはできないだろう。捜査には全面的に協力したが、天明は警察にまったく改悛《かいしゅん》の情を見せていない。
そのような態度を見せたところで、取り返しが付かないというのが彼の考えだった。自分に向けられる人々の憎悪も、遠からず迎える死も全《すべ》て覚悟している。
(もう、悪い夢は終わった)
すでに自分は死んでいるような気さえしていた。奇妙なことに四十数年の人生の中で、今ほど安らかな気持ちになったことはなかった。
(ん……?)
再び目を閉じようとした天明は、ふと部屋のどこかから誰《だれ》かの視線《しせん》を感じた。
かり、と窓を引っかく音が聞こえる。窓は曇《くも》りガラスとブラインドの二重構造になっているが、今は風通しのためにほんの少しだけ開いている。そこに何者かの横顔のシルエットがくっきりと浮かんでいた。
天明ははっと息を呑《の》む。この拘置所は数年前に改築され、十数階建てのビルに生まれ変わっていた。彼の独房も地上七階にある。窓の外に誰かが立つということはありえない。しかも、その横顔は人間のものとしては奇妙に小さかった。
(カゲヌシか?)
と、彼は冷静に思う。驚《おどろ》きはしていたものの、恐れてはいなかった。
カゲヌシ、という怪物がこの世界にいる。それらは人間の秘めたねがいに応じて現れ、その人間と契約を結ぶ。カゲヌシは人間を餌《えさ》としており、餌を食って成長するにつれて、契約者の精神をも乗っ取っていく。一ヶ月前まで、天明も龍子主《たつこぬし》というカゲヌシに取《と》り憑《つ》かれていた。彼が事件を起こしたのも、その龍子主《たつこぬし》が原因だった。
「……誰《だれ》だ?」
と、天明《てんめい》は尋《たず》ねた。窓の向こう側で、その顔がゆっくりと正面を向く。
「皇輝山《おうきざん》天明」
かすれた声で相手は言った。声の高さは若い女——いや、少女と言ってもいい年頃《としごろ》のものだった。
「お前はかつてカゲヌシとの契約者だったわね?」
天明は体を固くした。一体、何者なのか。
「俺《おれ》が答えると思うか?」
わずかな沈黙《ちんもく》の後で、相手は嘲《あざけ》るように言った。
「今のあなたに守るべき秘密があるの?」
それもそうか、と天明はぼんやりと思った。何者か分からないこの相手への警戒心《けいかいしん》も、その言葉で薄《うす》れた——もはやすべてが彼にとっては関係のないことだった。
「そうだ。龍子主の契約者だった。『同族食い』に食われたがな」
「そう」
相手はその話にはあまり関心がないらしい。天明は腑《ふ》に落ちないものを感じた。「同族食い」はカゲヌシの中でも忌《い》み嫌《きら》われている。当然、この相手の目的は「同族食い」を殺すことだと思ったのだが。
「鶴亀町《つるきちょう》に戻ってから、自分の住む場所の入り口に『サイン』を書かれたことはある?」
予想もしていなかった質問だった。
「サイン」はカゲヌシを識別《しきべつ》するためのしるしであり、カゲヌシは肉体のどこかに必ず固有の「サイン」を持っている。それを何者かが書いて回っているのは天明も知っている。確《たし》かに彼も滞在していたホテルの玄関で「サイン」を見かけたことがあった。
「ああ、あったが」
彼が答えると、すかさず次の質問が飛んできた。
「レインメイカーという名に聞き覚えは?」
「それは誰だ?」
相手は答えなかった。
「今の俺に対して隠す理由があるのか?」
天明は自嘲《じちょう》気味に言った。その「レインメイカー」に興味《きょうみ》があったわけではない。先ほどの言葉をそのまま返しただけのことだった。答えを期待してはいなかったが、しばらく待っていると相手は言った。
「……何者とも接触しようとしない、特別なカゲヌシ。サインを書いているのがレインメイカーよ。レインコートを着て、常に顔を隠しているはず」
「知らんな」
天明《てんめい》は目を閉じて体の向きを変えた。もう帰れ、という身振りである。聞いてはみたものの、彼に関係がある話でもなく、特に好奇心もそそられなかった。殺されるかもしれないとちらりと思ったが、態度を変えるつもりはなかった。
「それに『黒曜《こくよう》』を持っているかもしれない」
と、相手はさらに言った。
「『黒曜』?」
面倒《めんどう》くさそうに天明は聞き返す。
「カゲヌシ用の毒よ」
天明は闇《やみ》の中で再び目を開いた。
「心当たりがあるようね」
一瞬《いっしゅん》、天明は言うべきか否《いな》か迷った。しかし、あえて隠しておく理由も思いつかなかった。
「俺《おれ》と戦った人間が使っていた」
「それは誰《だれ》?」
「藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》というガキだ」
「……藤牧裕生」
と、相手は繰り返した。天明は初めて相手の動揺を感じた気がした。
「知っているのか?」
相手はその質問に答えなかった。知っているとすると、あの町の人間である可能性が高い。天明自身にもゆかりのある相手かもしれない。
「お前の目的はその『レインメイカー』か?」
天明はもう一度窓の方を見る——しかし、すでにそこには誰の姿もなかった。
「……レインメイカーも『同族食い』も加賀見《かがみ》にいるらしいわ」
暗がりの中で少女の声が流れる。深夜の路地《ろじ》に少女のものらしいシルエットがぼんやりと浮かび上がっていた。彼女は腕の支えのついた杖《つえ》を右手に持っている。そのすぐそばには背の高い男女が立っていた。
三人がいるのは深夜の路地で、遠くに拘置所《こうちしょ》の建物が見えた。
「これから加賀見へ行って、レインメイカーを捕まえましょう」
他《ほか》の二人は彼女の言葉に答えない。ただ、無言で立っているだけだった。
「その場合、『同族食い』が邪魔《じゃま》をしたら殺します」
男の方がその言葉に反応した。体をがたがた震《ふる》わせながら、今にも叫び出しそうに口を開いている。少女は杖を操《あやつ》って男のそばに寄り添うと、左手で彼の腕をつかんで、頭を引き寄せた。
「大丈夫よ」
彼女は男の耳元でささやいた。
「『同族食い』の契約者は殺さないから」
それから笑みを含んだ声で小さく付け加えた。
「できるだけ、ね」
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