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シャドウテイカー リグル・リグル03

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:2 今年《ことし》の加賀見《かがみ》の夏は早く終わった。藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》はコンビニの外へ出ると、目を細め
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 今年《ことし》の加賀見《かがみ》の夏は早く終わった。
藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》はコンビニの外へ出ると、目を細めてサングラス越しに空を見上げた。九月に入ってから確実《かくじつ》に太陽の光が弱くなっていた。
店舗《てんぽ》の前は駐車場《ちゅうしゃじょう》になっていて、その向こうに都心へ向かう広い国道がある。大型のトラックが二つの車線《しゃせん》を行き交っていた。雄一はたった今買ったばかりのタバコのセロファンを破いて、一本口にくわえた。
そのまま火を点《つ》けようとして、ふと動きを止める。
目の前を一台のバイクが通りすぎていった。彼の記憶《きおく》のどこかを刺激《しげき》する眺めだった。
「……お」
思わず自分が出てきたコンビニの建物を振り返る。別の会社のコンビニに変わったので気が付かなかったのだが、四年前、バイクを盗んで警察《けいさつ》に追われたあげく、ガラスを突き破って突っこんだのはこの店だった。
(あの頃《ころ》、俺《おれ》はバカだった)
ふう、と雄一はため息をついた。警察へ迎えに来た父親から、弟の裕生《ひろお》が重い病気にかかっていること、たった今手術を受けていることを聞かされたのだった。
(もうあの頃の俺じゃねえ)
あれ以来、きちんと高校に通うようになり、今は大学で研究者を目指している。どこから見ても「真《ま》人間」になったと彼は自負していた。
ただ、筋肉質の長身に金髪とピアス、紫色《むらさきいろ》の派手《はで》な柄《がら》のシャツ、シルバーの太いネックレス——周囲の人間も気を遣《つか》って指摘しなかったが、外見だけは昔とあまり変わらなかった。
彼の通っている東桜《とうおう》大学は都心にあり、加賀見には夏休みで帰省しているだけだった。そろそろ大学では後期の授業が始まろうとしていたが、今のところ雄一には加賀見を離《はな》れる気はなかった。
その理由の一つは雄一の発案で藤牧家に住むようになった雛咲《ひなさき》葉《よう》だった。一ヶ月ほど前から、彼女の身に異変が起こっている。原因ははっきり分からないが、徐々《じょじょ》に記憶《きおく》が失われているらしい。雄一と話す限りでは特に問題はないようだが、病院の診察では症状は止まっていないらしい。
それに、もう一つ理由がある。
「……ん?」
その時、一人の男の子が自転車を立ちこぎしながら駐車場《ちゅうしゃじょう》へ入ってきた。小学校の高学年ぐらいで、メガネをかけた痩《や》せた少年だった。自転車はごみ箱の前でつんのめるように停止する。前のかごには重そうなバッグが入っているところを見ると、これから塾《じゅく》へでも行くところらしい。
雄一《ゆういち》は火を点《つ》けていないタバコを胸ポケットの中へ放りこんだ。
「よう、小学生」
雄一は笑顔《えがお》で声をかける。コンビニの中へ入ろうとしていた彼は、凍りついたように立ちすくんだ。よくある反応なので雄一はあまり気にしていない。可能な限りフレンドリーに話しかけたつもりである。
「今ヒマか? もしよかったらちっと協力して欲しいんだけどよ。五分ぐらいで終わっから」
と、言いながら雄一は小脇《こわき》に抱えていたバインダーを彼の方へ差し出す。バインダーにはフィールドワークのための調査《ちょうさ》用紙がはさまっている。
「俺《おら》ァ東桜《とうおう》大学二年の藤牧《ふじまき》ってモンだ。今、論文書くために、ここらへんの小中学生の噂話《うわさばなし》を聞いて回ってる。知ってる範囲《はんい》でいいから、教えてくんねーか?」
「……」
彼は困惑《こんわく》と不安と驚《おどろ》きが複雑に入り交じった表情で雄一の顔を見上げていたが、やがてがくがくとうなずいて見せた。
「あー、よし。お前、『カゲヌシ』の噂って知ってるよな?」
「……ちょっとだけ」
小さな声で少年は答えた。
「どういうモンだって聞いたか?」
「なんか、人間の影《かげ》の中にいるバケモノで、人間を食べる……とかって」
雄一はうなずきながら聞いているが、肝心《かんじん》の調査用紙にはなにも書きこもうとしていない。以前は本当に論文を書くためにカゲヌシの噂を調査していたが、この一ヶ月の間、わざわざ加賀見《かがみ》に残って聞きこみをしているのは別の目的のためだった。
「カゲヌシを見たことがあるか? じゃなかったら、誰《だれ》か見た奴《やつ》を知ってるか?」
少年は不審《ふしん》げに首を横に振った。雄一の質問は噂とは関係がない——今の雄一が調《しら》べているのは、噂ではなくカゲヌシの実在そのものだった。
得体《えたい》の知れないバケモノなど、存在するはずがないと以前は思っていた。しかし、この都市伝説は不自然なところがある。誰かが真実を隠すために、無理に広めているような印象をどうしてもぬぐうことができなかった。
一ヶ月前、皇輝山《おうきざん》天明《てんめい》という男が殺人事件を起こしてから、その疑念はますます大きくなった。隣《となり》の鶴亀町《つるきちょう》でオカルトまがいのマジックショーを催《もよお》していた天明《てんめい》は、自分のスタッフを全員|惨殺《ざんさつ》し、さらに鶴亀神社の夏祭りに集まった人々をも大量のガソリンで焼き殺そうとしたのだった。
人々は夏祭りの会場で、天明のそばに巨大な蜥蜴《とかげ》の怪物が侍《はべ》っていたのを見たという。天明が「なんらかの」トリックを用いて登場させたということになっているようだが、雄一《ゆういち》は納得していなかった。夏祭りの数日前、彼はたまたま天明のセミナーに参加していたが、なにか人智《じんち》を超えた力が備わっているのを垣間《かいま》見た気がした。
その天明がさかんに口にしていたのが「カゲヌシ」だった。天明はそれを実在するものとして扱っていた。
「最近、まわりで急に人がいなくなったりとか、誰《だれ》かが死んだりとか、そういうことはねえか?」
と、雄一は言った。少年はちょっと考えてから、その質問にもぶるぶると首を振った。
(ま、さすがにそれはねえか)
雄一はほっとする。しかし、この数ヶ月、彼自身の周囲で異様な事件が立て続けに起こっていた。六月には高校時代の部活の後輩《こうはい》の飯倉《いいくら》志乃《しの》が、三人もの人間を殺した、と言い残して自殺した。七月には同じ大学のゼミに所属している玉置《たまき》梨奈《りな》が行方不明《ゆくえふめい》になった。そして八月には皇輝山《おうきざん》天明の事件。
そして、その全《すべ》ての事件の周囲には藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》と雛咲《ひなさき》葉《よう》がいる。そういえば、六月の事件が起こり始めたあたりから、裕生はやけにカゲヌシに関心を抱くようになっていた。「カゲヌシは実在するのか」と尋《たず》ねられたこともある。裕生たちがなにかの形で「カゲヌシ」に関《かか》わっている気がしてならない。
裕生たちは固く口を閉ざしているが、手をこまねいているのはあまりにももどかしい。そこで、自分なりに調《しら》べているのだった。
「……あの、そろそろ行かなきゃ」
少年の声に雄一ははっと我に返った。
「そっか。じゃあ、最後に一つだけ」
雄一はぐっとのしかかるように相手に顔を近づけた。
「『レインメイカー』って名前に聞き覚えねえか?」
初めて少年の表情が動いた。なにか知ってるな、と雄一は思った。
この一ヶ月、聞き回った結果得られたのは「レインメイカー」という名前だけだった。黄色《きいろ》いレインコートを着た男の噂《うわさ》で、カゲヌシの居場所を教えてくれる存在らしい。他《ほか》の地域でも広まっている噂だが、加賀見《かがみ》市近辺では異様に知名度が高い。
そして、レインメイカーの噂には奇妙なタブーが含まれている——自分が見たと言ってはいけない。自分が見たと話したら、レインメイカーに殺される。
「見たことあんのか?」
と、雄一《ゆういち》は低い声で尋《たず》ねた。
「誰《だれ》かが見たって、聞いた」
かすかに少年の声は震《ふる》えている。レインメイカーの名前を出した途端《とたん》、彼は今までとは比べものにならないほど怯《おび》え始めていた。今までにも同じような反応に何度か出会ったことがある。少なくともそのレインメイカーは、加賀見《かがみ》近辺にいるのではないかと思う。裕生《ひろお》も黄色《きいろ》いレインコートの男を見たことがあると言っていた。「カゲヌシ」の真相を確《たし》かめるには、このレインメイカーとの接触が必要だと雄一は考えていた。
「分かった。その『誰か』はどこで見たんだ?」
少年は口をつぐんでしまう——たくさんの子供たちに話を聞いてきたが、それについて具体的に答えてくれる相手には一度も出会ったことがない。
(またダメか)
雄一が諦《あきら》めかけたその時、
「……病院」
と、少年が言った。雄一は大きく目を見開いて、さらにぐっと身を乗り出した。
「どこの病院だ?」
まともな返事を得ることができたのは初めてだった。
「あの……よく知らないけど、幽霊《ゆうれい》病院で見たって」
幽霊病院。雄一の実家がある加賀見団地のすぐそばにある、十年ほど前に廃院《はいいん》になった産婦人科だった。加賀見市に住んだことのある人間なら誰でも知っている。雄一も高校生の頃《ころ》、肝試《きもだめ》しで行ってみたことがある。
「見たのはいつだ?」
「十日ぐらい前。通りかかった時に、建物の中にいるのを、一瞬《いっしゅん》見たって……でも、見間違えかも」
話の内容から察するに、見たのは「誰か」ではなくこの少年自身なのだろう。タブーに触れるのを恐れているに違いない。そうでなければ怯える必要はないはずだった。
「他《ほか》に知ってることはなんかねえか?」
意気込んで尋ねると、少年はかすかに体を引いた。機会《きかい》さえあれば今にもこの場から逃げ出しそうだった。
「ほ、他にはなにも……」
かつん、と背後でかすかに地面を叩《たた》く音が聞こえた。なぜか背筋にぞくりと震えが走る。雄一は弾《はじ》かれたように少年から体を離《はな》し、音の聞こえた方へ向き直った。
緑色《みどりいろ》のワンピースを着た髪の長い女が立っている。最初に目についたのは長く伸ばした銀髪だった。つやのある細い髪がふわふわと風にそよいでいる。どうやら足が悪いらしく、腕支え付きの金属製の杖《つえ》を握りしめている。一瞬《いっしゅん》、散歩中の老女だと思った。
「なにをしているんですか?」
と、咎《とが》めるように彼女が言った。張りのある澄《す》んだ声に改めて女の顔を見ると、老女ではなく若い娘だった。顔にはしわ一つない。ふっくらした頬《ほお》に黒目がちの瞳《ひとみ》。どことなく人形を思わせる顔立ちである。
ふと、誰《だれ》かに似ている気がした。
「なにって……ただのアンケートだぜ?」
「本当ですか?」
またか、と雄一《ゆういち》はうんざりしながら思った。こうして子供たちを呼び止めて話をしていると、しょっちゅうあらぬ誤解を受ける。警察《けいさつ》を呼ばれそうになったのも一度や二度ではない。
「嘘《うそ》じゃねえよ。なあ?」
少年に合意を求めると、一瞬迷ってから彼はうなずいた。
「はい……あの、でももう行かないと」
彼は小声で言い、そそくさとコンビニの中へ入っていってしまった。一瞬引き留めようか迷ったが、もうこれ以上聞き出せる話もなさそうだった。
「あー、どうもありがとよ。小学生」
と、礼を言いながら背中を見送った。
「あの子からレインメイカーの噂《うわさ》を聞いてたんですか?」
と、銀髪の少女は言った。雄一は表情を殺したまま彼女を見返す。
「なんの話だ?」
「さっき言っていたでしょう。『レインメイカー』って」
「ずいぶん前から聞いてたんだな。人の話を」
雄一はこの少女に対する警戒心を強めていた。そういえば足が悪いはずなのに、近づいてくる足音もまったく聞こえなかった。
「ごめんなさい」
彼女は素直に謝《あやま》った。
「知ってんのか? レインメイカーの噂」
「『黄色《きいろ》いレインコートを着て、カゲヌシの居場所を教えてくれる』んでしょう? わたしも興味《きょうみ》があるの」
(ナニモンだ、こいつ)
そう思った瞬間、
「わたし、船瀬《ふなせ》千晶《ちあき》です」
と、彼女は言い、額《ひたい》にかかった髪をかき上げながら雄一を見上げる。自分も名乗るべきか雄一は迷った。この少女にはなにか奇妙なところがある。しかし、際立《きわだ》った外見のせいでそう感じているだけなのかもしれない。
「……俺《おれ》は藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》。東桜《とうおう》大学に通ってる」
結局、雄一は名前を明かした——千晶《ちあき》は首をかしげる。
「大学生? でもなんだか……」
すまなそうに目を背《そむ》けて、彼女はぼそっと付け加えた。
「……ヤクザみたい」
「なに言ってんだお前。人間ってのは見た目で判断しちゃ……」
ハッと雄一は口をつぐむ。以前にも誰《だれ》かと似たような同じ会話を交わしたことがある。あれは確《たし》か——。
(葉《よう》だ)
ようやく思い当たった。目鼻立ちはまるで違うし、身長も葉よりはずっと高い。それなのに、どことなく似た雰囲気を漂わせていた。
「わたし、最近このあたりに引っ越してきたんです。あなたは加賀見《かがみ》に住んでるんですよね?」
ああ、と雄一はうなずいた。
「大学遠いから家は出たけどな。加賀見育ちだ」
ふと、雄一はさっきタバコを吸《す》い損《そこ》ねたことを思い出した。胸ポケットから少しよれたタバコを出すと、火を点《つ》ける。
「どのあたりに住んでるんですか?」
ちょうど煙を吸いこんでいた雄一は、無言で団地のある方角を指さした。あっちの、と言おうとすると、
「加賀見団地ですか?」
と、千晶が言った。雄一は自分が指さした方角を見る。この場所から団地の建物が見えるわけではない。
「このへん、知ってんのか?」
「わたしも子供の頃《ころ》は加賀見に住んでましたから」
彼女は笑顔《えがお》で言った。話していると普通の女の子と変わりはない。なにかおかしいと思ったのも、ただの思い過ごしのような気がしてきた。
「じゃ、ここらの学校に人んだな。年は?」
「高一。加賀見高校に編入《へんにゅう》することになってるんです」
(葉と同じか)
つい頭の中で比べてしまう。
「ここでなにしてんだ?」
「今、お父さんと待ち合わせしてて……もうすぐ来るはずなんですけど」
ふと、雄一は葉の両親のことを思った。四年前、弟の裕生《ひろお》が手術した日——そして雄一が逮捕《たいほ》された日は、葉《よう》は団地へ向かう葉とばったり会っている。最後に葉が父親と話したのはその直後だったという。
あの時、葉がなにか言いたげだったのを憶《おぼ》えている。裕生《ひろお》の手術があるということを伝えようとしていたらしい。もし葉の話を最後まで聞いていたら、病院へ行くことになったに違いないし、その場合は葉と一緒《いっしょ》にいったん団地へ戻っていただろう。
(もしあの時、俺《おれ》も団地についてってたら)
葉の父親に会っていたかもしれない。彼らの失踪を止められたとは思わないが、少なくともバイクでコンビニのガラスを突き破るよりはマシなことをやれた可能性がある。
その時、千晶《ちあき》が口を開いた。
「……あ、お父さん来た」
雄一は彼女の視線《しせん》の先を追う——スーツ姿の中年の男が道路を渡ってくるところだった。年齢《ねんれい》は四十代半ば、ひょろりと背が高く、神経質そうな面長《おもなが》の顔にはメタルフレームのメガネをかけていた。
「……」
雄一の口からぽとりとタバコが落ちる。しかし、雄一は口を開けたまま、自分たちの方へ近づいてくる男を見つめていた。
「お父さん、遅い」
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と、千晶《ちあき》は言った。
男は娘の目の前に立つと、凍りついたままの雄一《ゆういち》を怪訝《けげん》そうに見つめた。
「この人は?」
と、男は千晶に言った——雄一の記憶《きおく》の中の声とまるで同じだった。ほんの少し頬《ほお》がこけ、髪の毛にもまばらに白いものが混じっているが、年月を考えればほとんど変わっていないと言っていい。
「待ってる間、ちょっと話し相手になってもらってたの。藤牧《ふじまき》雄一さん」
その名前を聞いても、男は眉《まゆ》一つ動かさなかった。雄一に軽く頭を下げる。
「こんにちは。船瀬《ふなせ》です」
「……フルネームで聞いていいスか?」
やっとのことで雄一は言った。船瀬は一瞬《いっしゅん》戸惑《とまど》ったようだったが、
「船瀬|智和《ともかず》といいますが」
人違いだ、と雄一は自分に必死に言い聞かせていた。
しかし目の前に立っているのは、葉《よう》の父親の雛咲《ひなさき》清史《きよし》だった。
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