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シャドウテイカー リグル・リグル10

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:2「あたしってさ」と、みちるが言った。「ああ」と、佐貫《さぬき》は相槌《あいづち》を打った。彼は少し苛々《いらいら》しな
(单词翻译:双击或拖选)
「あたしってさ」
と、みちるが言った。
「ああ」
と、佐貫《さぬき》は相槌《あいづち》を打った。彼は少し苛々《いらいら》しながら病室のベッドに横たわっている。折れた右腕はギプスで固められていた。苛立っているのは重いギプスの違和感のせいもあるのだが、一番の原因はみちるだった。
みちるは隣《となり》の空きベッドに腰かけて、憂《うれ》い顔で自分の膝《ひざ》のあたりを見つめている。
「……話の続きは?」
沈黙《ちんもく》にこらえきれなくなって佐貫が言った。みちるははっと我に返る。
「あ、ごめん……あたしってさ」
「ああ」
佐貫は相槌を打つ——みちるは再び黙《だま》ってしまった。
さっきからその繰《く》り返しである。もう何回「あたしってさ」を聞いたのか憶《おぼ》えていなかった。
(なんなんだよ、一体)
佐貫は内心つぶやいた。こんな風《ふう》にみちるが佐貫に話をためらうことは滅多《めった》にない。なんでも話せる間柄《あいだがら》だった。
そろそろ佐貫は心配になり始めていた——これだけ話すのをためらうということは、かなり大変なことなのではないだろうか、と思っていると、
「……藤牧《ふじまき》たちの役に立ってるのかな」
と、ようやくみちるが言った。
「はあ?」
思わず佐貫は聞き返す。みちるがなにを言っているのか理解するのに時間がかかった。
「なに言ってんだお前」
「ほら、佐貫とはよく性格似てるって言われるけど、あたしは佐貫みたいに変なこと調《しら》べるのが得意じゃないし、藤牧《ふじまき》は『黒の彼方《かなた》』が出た後で雛咲《ひなさき》さんを呼び戻す役目があるでしょ? 考えたらあたしはなにもないんだよね」
そんなに悩むようなことじゃねえだろ、と佐貫《さぬき》は言いかけたが、彼女の沈んだ面持《おもも》ちを見て口をつぐんだ。彼女にとっては悩むようなことらしい。
「今日《きょう》だって万が一ってことであたしが外に残ったけど、佐貫は怪我《けが》しちゃったし。藤牧もあたしが声かけたせいで、もう少しで危ないところだったし。それに結局助けも呼べなかったし……」
昼間、みちるは佐貫の緊急《きんきゅう》コールを受けて、すぐに葉《よう》のいる団地へ電話をかけた。しかし、たまたま葉は近所へ買い物に出ていて留守だった。仕方なくあの家へ様子《ようす》を見に近づいていったところに、二階の窓を開けようとしている裕生《ひろお》の姿が見えたのだという。
「でも、それってお前のせいじゃなくて、俺《おれ》のせいもあるんじゃないのか? なんかあったら雛咲さん呼んでくれって言ったのは俺だし。それにあの状況で窓んとこに仲間がいたら、普通声かけちゃうだろ」
みちるはそれでも気が晴れないようだった。そもそも、こんなことをみちるが気にしているのは、あの家に入る時に彼女を外《はず》したことに端《たん》を発している気がする。確《たし》かに無神経な言い方をしてしまったかもしれない、と佐貫は思った。
ここに温厚な裕生がいれば、うまくフォローしてくれるだろうが、いない人間に期待しても仕方がなかった。佐貫は咳払《せきばら》いをした。
「あー、でも、西尾《にしお》にはなんていうかガッツあるよな」
「……」
「昼間は変な言い方して悪かったけど、お前みたいに友達のために体張れる奴《やつ》ってなかなかいないと思うぜ。裕生だって絶対|感謝《かんしゃ》してるって」
「……そうかな」
「そうだろ。しょっちゅうそう言ってるし」
「でも、役に立ってないことには変わりないかも。やる気ばっかりで空回《からまわ》りってことだよね、それって」
みちるは深いため息をついた——フォロー失敗、と佐貫は思った。
それにしても、どうしてここまで自信を失っているのか理解できない。ただの考えすぎとしか思えなかった。
「あの……」
聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。佐貫とみちるは同時に廊下の方を見る。病室のドアの前に葉が立っていた。
「どうしたの、雛咲さん」
「……藤牧|先輩《せんぱい》、来てますか?」
「来てないけど、さっき喫煙室《きつえんしつ》で見たよ」
「今、見に行ったけどいないんです」
佐貫《さぬき》とみちるは顔を見合わせる。あのリグルの契約者・船瀬《ふなせ》千晶《ちあき》が佐貫の頭をよぎった。彼女はなぜか裕生《ひろお》を狙《ねら》っている。カゲヌシの契約者と知られた今、こんなに人気《ひとけ》の多い場所に現れるとは思えなかったが——。
「あたしも捜《さが》す!」
みちるはベッドから立ち上がった。
「行こう、雛咲《ひなさき》さん」
みちるは早足で病室から飛び出していった。葉《よう》も戸惑《とまど》いながらその後を追う。
(なんであいつ、裕生のことになるとあんなに取り乱すんだろ?)
二人が出ていった後、佐貫はベッドの上で考えこんだ。
裕生に頼まれるとイヤとは言えなかったり、どうでもいいことでうじうじ悩んだり、身の危険も省みずに無茶《むちゃ》なことをしてみたり——まるで恋する女の子のようである。
佐貫の顔ににやにや笑いが浮かんだ。自分の想像が可笑《おか》しかったのだ。
(西尾《にしお》が裕生を好きってありえねえよな。だって——)
ふと、彼は絶句した。「だって」の後がどうしても続かない。考えれば考えるほど、他《ほか》に説明のしようがなかった。
「……嘘《うそ》だろ、おい」
と、佐貫はつぶやいた。
「悪《わり》ィな、タヌキんとこに見舞《みま》いに行くとこだったんだろ?」
「佐貫」
「……ま、細けえこと気にすんな。佐貫の方はいいのか?」
裕生はうなずいた。佐貫の様子《ようす》を見に行く途中、廊下で雄一《ゆういち》に「話がある」と呼び止められたのだった。病院に清史《きよし》がかつぎこまれてすぐに雄一の携帯《けいたい》にかけたのだが、電源を切っているらしく繋《つな》がらなかった。
さっき伝言メッセージを聞いて、病院へやってきたのだという。
「別に急ぐわけじゃないし、後で行けばいいから」
裕生と雄一は病院の屋上で、紙コップのコーヒーを手に話をしている。屋上は金網《かなあみ》に囲まれたこぢんまりとした空間で、木のベンチや花の植えられたプランターがきれいに並べられていた。昼間なら入院|患者《かんじゃ》の憩《いこ》いの場所になるのだろうが、すっかり日が暮れた今は他に誰《だれ》もいない。
「いや、驚《おどろ》いたぜ。その船瀬って家にお前らが乗りこんでくとは思ってなかったからよ」
咎《とが》めているわけではないようだったが、裕生は多少気がひけた。俺《おれ》がどうにかするから任せておけ、と雄一《ゆういち》に言われた時には、分かった、と答えていた。
「ごめん。ぼくも気になったから、住所|調《しら》べて会いに行っちゃったんだよ」
「そうか」
兄はそのことにはあまり関心がなさそうだった。「話したいこと」というのは別のことなのかもしれない。
「任せろって言ってたけど、兄さんはどうするつもりだったの?」
「俺《おれ》か? そりゃお前……」
雄一はごくりとコーヒーを一口飲んだ。
「葉《よう》を連れてくに決まってるだろ」
「ええっ!」
裕生《ひろお》はぞっとした。あの家に葉を連れていったとしたら、カゲヌシ同士の戦いになっていたかもしれない。しかも、葉の意識《いしき》を取り戻せる裕生もいない状態である。
「なに驚《おどろ》いてんだ? 俺が聞いても葉の親父《おやじ》さんはシラ切ったじゃねーか。だったら、実の娘に会わせんのが一番手っ取り早いだろ? 俺の言ってることなんか間違ってるか?」
「……」
強引な気もするが、確《たし》かに間違いではないだろう——このことにカゲヌシが全く関係していないのであれば。兄が葉を連れていくよりも早く、自分たちがあの家に乗りこんでいったのは幸運だったかもしれないと裕生は思った。
「しかし、お前らも災難《さいなん》だったよな。いきなり襲《おそ》いかかってくるような、頭のおかしい奴《やつ》がいるとは普通思わねーもんな。まあ、俺がその場にいりゃボコって解決してたと思うけどよ」
(命がいくつあっても足りないよ、それ)
裕生は心の中で一人ごちた。今まで雄一には何度か事情を打ち明けようと思ってきたのだが、そのたびにためらってしまうのはこの強引かつ一本気な性格なためだった。
「ボコるって……向こうはこっちを殺そうとしてたんだよ。佐貫《さぬき》だってあんな大怪我《おおけが》したんだし」
「上等じゃねえか。返り討ちにしてやんよ」
雄一は凄惨《せいさん》な笑みを浮かべる。
「危ないよそれじゃ。向こうが兄さんより強かったらどうすんの?」
「まあ、タイマンならだいたい大丈夫だろ。飛び道具使われたら話は別だけだとな」
裕生はため息をついた。こんな物騒《ぶっそう》な考えの人がカゲヌシをことを知ったら、なにを始めるか分かったものではない。
(やっぱり、兄さんには話せないよな……)
裕生が結論を下したところで、
「それで話なんだけどな」
と、雄一《ゆういち》が切り出した。
「なに?」
裕生《ひろお》はそう言いながら、手に持っていた紙コップを口に運ぼうとする。その瞬間《しゅんかん》、雄一が言った。
「……カゲヌシのことだ」
もう少しでコップの中身を全部吹き飛ばすところだった。雄一は目を細めて、動揺する裕生の様子《ようす》をじっと観察《かんさつ》している。
「な、なんのこと?」
「カゲヌシは実在するんじゃねーのか? お前はそれを知ってんだろ?」
うすうす感付いているとは思っていたが、こうもストレートに切り出されるとは思ってもみなかった。
「そ、そんなことあるわけないよ」
「そうか? でも、レインメイカーは実在するだろ?」
レインメイカー、という名前が出てきたことに裕生は心底|驚《おどろ》いた。
「……兄さんもレインメイカーと会ったの?」
雄一の口元にかすかな笑みが浮かぶ。裕生は自分がうっかりと秘密を洩《も》らしてしまったことに気づいた。
「やっぱりお前は会ったんだな。場所はあそこの幽霊《ゆうれい》病院か? どういうヤツなんだ?」
(……幽霊病院?)
そこにレインメイカーがいる、という話は裕生も初耳だった。彼は必死に頭をひねった。雄一はカゲヌシについて様々《さまざま》な噂《うわさ》を集めている。「レインメイカー」という名前もその過程でどこかから得たものだろう。そして、裕生から聞き出そうとしているということは、詳しい事情は特に知らないということになる。
(やっぱり、話した方がいいのかな)
この上ない心強い味方になってくれることは間違いないのだが。
「一つ聞きたいんだけど」
と、裕生は言った。
「もしカゲヌシっていう怪物がいたとしたら、兄さんはどうするの?」
「んなこと決まってんじゃネーか」
雄一はぐっと右|拳《こぶし》を裕生に突き出すと、指を一本ずつ立てながら言った。
「探す・見つける・ボコる。それで倒すと」
「……素手《すで》で?」
「ま、基本的にはな」
雄一は胸を張った。
「倒れなかったら?」
おそるおそる裕生《ひろお》は聞き返す。雄一《ゆういち》はこともなげにまた指を立てて言った。
「そうしたらまたボコる・ボコる・ボコる……ん、どうかしたのか?」
裕生はめまいを起こしそうになった。多分《たぶん》、この人は本気でやるだろう。そして間違いなく真っ先に死ぬ。それだけは見たくなかった。
「……やっぱり、兄さんには話せない」
沈黙《ちんもく》。裕生はぎゅっと目を閉じた。怒鳴《どな》られるか殴られるか、どちらにせよ怒りを買うだろうと思ったが、
「ま、そんなとこだろうな」
と、あっさり言った。
「え……?」
「お前と俺《おれ》じゃやり方が違うしな。まあ、ダメもとで聞いてみただけだ。でも、俺は俺で勝手に動くからな。それはやめろって言われてもやめねえ。で、俺が必要になったらいつでも言え。裕生もそうだし、そこで聞いてるお前らもそうだぜ」
雄一は病院の建物への入り口を振り返る。いつのまにか、ドアの陰からみちると葉《よう》が顔を出していた。二人はおずおずと裕生たちの方へ歩いてくる。
「……どうしたの?」
と、裕生は尋《たず》ねる。
「どうしたのって、藤牧《ふじまき》がいなくなったから心配して捜《さが》してたの」
みちるはむすっとした顔で言った。
「あー、悪《わり》ィ。俺が借りてたんだ」
雄一はそう言いながら、じっと葉を見ていた。葉は居心地《いごこち》悪そうに視線《しせん》を逸《そ》らす。
葉が秘密を抱えていることも、当然雄一は感付いているに違いない。
「じゃ、俺は行くからな」
と言って、雄一はドアの方へ歩いていった。
裕生たちは無言でその背中を見送った。
(ごめん、兄さん)
と、裕生は心の中で謝《あやま》った。
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