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シャドウテイカー リグル・リグル14

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:3 裕生は市民病院の建物から外へ出た。入り口の自動ドアにまで車を横付けするためのロータリーがある。裕生は自動ドアのすぐ外
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 裕生は市民病院の建物から外へ出た。入り口の自動ドアにまで車を横付けするためのロータリーがある。裕生は自動ドアのすぐ外で立ち止まると、深いため息をついた。
(これっていう話は聞けなかったな)
と、裕生は思った。一番肝心な清史がどこでなにをしていたのかが、結局分からずじまいだった。『皇輝山文書』についても大した情報は得られなかった。自分がカゲヌシに操《あやつ》られていたことも、まったく憶《おぼ》えていないらしい。
(でも、西尾《にしお》には話しとかないと)
一応、そういう約束になっている。
みちるにメールを打つと、三十分後に近所の公園で待っているという返事がかえってきた。病院から待ち合わせ場所までは歩いて十分もかからない。
まだ時間はあるが、改めてどこかへ寄り道するほどの余裕はない。中途半端だった。
どうしようか迷っているところへ、一台のタクシーが病院の入り口の前で停《と》まった。タクシーから降りてきたのはツネコと葉だった。
一瞬、裕生は建物の中へ戻ろうとした。ツネコに会ったところで問題はなかったが、葉と顔を合わせるのが恥ずかしかった——しかし。
「なにしてるの。こんなところで」
ツネコにあっさりと見つかってしまった。隣《となり》にいた葉《よう》が裕生《ひろお》を見た途端《とたん》にびくっと立ちすくんだ。そして、耳まで真《ま》っ赤《か》になって顔を伏せてしまう。そうなると裕生の方も意識《いしき》しないわけにはいかなかった。葉の柔らかな体の感触がリアルに蘇《よみがえ》りそうになり、必死にそれを頭から追い出した。
「あ……その、昨日《きのう》一緒《いっしょ》にいた友達の見舞《みま》いに来ました。午後から手術があるって聞いたんで」
「あら、そうだったの。それは……」
ふと、ツネコは口をつぐんだ。少し距離《きょり》を置いて目を逸《そ》らし合っている裕生と葉を見比べる。
「あんたたち、どうかしたの?」
「いえ、別になんでもないです」
緊張《きんちょう》のあまり裏返りそうな声を、どうにか抑えながら答えた。とたんにツネコの目がすっと細くなった。
「……本当に?」
裕生は反射的に昨日のツネコとの会話を思い出す。自分に危機《きき》が迫っているのを感じた。
「ほ、本当ですよ」
「……そうかしら」
ツネコは裕生ではなく葉の方を見ていた。
「葉、なにがあったの?」
「別になんでもないです」
思ったよりもきっぱりと彼女は答える。しかし、相変わらず下を向いたままだった。おそるおそる顔を上げようとして、裕生と目が合ったとたんにまた元のように俯《うつむ》いてしまう。
裕生は思わず唾《つば》を呑《の》みこんだ。これではなにかありましたと大声で叫んでいるようなものだ。
「あ、ちょっとぼく葉と話があるんですけど、先に行ってもらえますか」
裕生はツネコの返事を待たずに、葉の手を引っ張って入り口から少し離《はな》れたイチョウの木の陰へ連れていった。ちらりと病院の入り口を見ると、ツネコが仁王立《におうだ》ちで腕組みをしながら裕生をにらみつけている。
「あのさ、葉……」
葉の顔を覗《のぞ》きこむと、彼女は上目遣《うわめづか》いで裕生を見た。
「さっきのことなんだけど」
裕生は口ごもった。とにかく謝《あやま》ろう、と思った時、
「……ごめんなさい」
と、葉は言った。
「え?」
「わたしが変なこと言ったから。だからあんな」
裕生《ひろお》はびっくりして首を振った。
「別に変じゃないよ。ぼくの方こそ、なんの力にもなってないし」
「そんなことないです」
と、葉《よう》が強く言った。
「わたし、先輩《せんぱい》がいなかったら、とっくにこの世界からいなくなってました。まだこうしていられるのも、先輩がいてくれるからなの」
「さっきのあれはその……」
「分かってます。わたしが取り乱したから、励ましてくれたんです……なにか意味があるわけじゃなくて。大したことじゃないんです」
裕生にというより、自分に言い聞かせているようにしか見えなかった。
彼は黙《だま》ってしまった。違うと言えば深い意味があったことになってしまうし、そうだねと言えば何の意味もないことになってしまう。どちらもふさわしくない気がしたが、かといって自分の気持ちをどう言い表したらいいか分からなかった。
「そろそろ行きます。叔母《おば》さんが待ってるから」
と、葉は言った。もう普段《ふだん》の彼女に戻っている。
裕生も時計を見ると、待ち合わせの時間が迫っていた。
「ぼくもそろそろ行かないと遅刻するかも」
「どこに行くんですか?」
「西尾《にしお》の家のそばの公園。西尾が今日《きょう》来られなかったから、そこで会って今日のこと話すんだよ」
ふと、裕生はさっき清史《きよし》に『皇輝山《おうきざん》文書《ぶんしょ》』を手渡したことを思い出した。ひょっとすると、なにか思い出してくれるかもしれない。
「もし、葉のお父さんがぼくに話があるみたいだったら、すぐに連絡してくれる? 病院に戻るから」
葉はうなずいて、持ち歩いている手帳を取り出した。
裕生の言ったことを忘れないように書いておくつもりらしい。ぎっしりと文字の書きこまれたページをめくり、何も書かれていないページを開いた。
(あ……)
裕生はもう少しで上げそうになった声を必死で抑えた。葉はなにも気付かずにペンを走らせている——やがて、ぱたんと手帳を閉じた。
「それじゃ、なにかあったら連絡しますから」
そう言い残して、葉はツネコの方へ早足で戻っていった。
二人が建物の中へ入っていくのを見届けてから、裕生も向きを変えて待ち合わせ場所の公園を目指した。
(大したことじゃないんです)
裕生《ひろお》は歩きながら葉《よう》の言葉を反芻《はんすう》した。
「……嘘《うそ》だよな、やっぱり」
葉が手帳のページをめくった時、一瞬《いっしゅん》だけ前のページの最後の書きこみが見えた。
見間違いでなければ、そこにはこう書かれていた——。
 裕生ちゃんが抱きしめてくれた。うれしい。
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