葉《よう》は公園の中を歩き回っていた。
確《たし》かに裕生は公園でみちるに会うと言っていた——どこかにいるはずだった。
ほとんどの場所を調《しら》べつくして、後に残ったのは公園の一番奥にある寂《さび》しい木立《こだち》の中だけだった。そこへ続く遊歩道の前に立った時、葉《よう》いだ。
(こんなところに二人っきりで……)
一瞬、頭に浮かびかけた想像を、葉は慌てて払い落とした。そんなことを考えるのは二人への侮辱《ぶじょく》のような気がした。
葉は遊歩道へと足を踏み入れた。道の上まで張り出すように伸びた木々の枝が太陽の光を遮《さえぎ》って、昼間だというのに薄暗《うすぐら》かった。陰気な雰囲気のせいか、散歩をする人もまったくいない。
さっきの疑問がまたむくむくと頭をもたげてきた。ここにいるのだとしたら、どうしてわざわざここを選んだのだろう。
(裕生《ひろお》ちゃんとはただの友達のはず)
以前、みちるは今の裕生に対して特別な感情はないとはっきり言っていた——初恋の相手というだけで。
自分にそう言い聞かせていた葉は、はっと息を呑《の》んで立ち止まった。
(わたし、なにを考えてるんだろう)
仮に裕生とみちるが付き合っているからといって、それを葉に咎《とが》める資格があるわけではない。裕生は彼女のものでもなんでもないのだから。それに、以前は裕生になにか特別な関係を望んでいるわけではなかったはずだ。近いうちに葉は葉自身ではなくなってしまう。望んでも仕方がないと諦《あきら》めていたはずだ。こんな風《ふう》に欲深ではなかったはずなのに。
(わたし、いつからこんな……)
ふと、抱き合っている裕生と自分の姿が頭に浮かんだ。
今日《きょう》からだ。
葉は雷に打たれたように立ちすくんだ。今までずっと押し隠していたものが、今朝《けさ》のあの一瞬《いっしゅん》に動き出してしまった——。
「どうしたの、それ!」
突然、裕生の叫び声が耳に入った。まるで自分に向けられた言葉のように、葉は体を震《ふる》わせた。遊歩道でも行くことのできない奥の木立《こだち》から聞こえた気がした。
葉は声のする方へ歩いていった。
ほどなく古いベンチが見えてくる。裕生とみちるはそこにいた。手前にみちるの背中が、その奥に裕生が見えて——。
「あ……」
葉の声はほとんど悲鳴に近かった。
二人はしっかりと抱き合っていた。
葉はくるりと向きを変えて、一目散《いちもくさん》に走り出した。
確《たし》かに裕生は公園でみちるに会うと言っていた——どこかにいるはずだった。
ほとんどの場所を調《しら》べつくして、後に残ったのは公園の一番奥にある寂《さび》しい木立《こだち》の中だけだった。そこへ続く遊歩道の前に立った時、葉《よう》いだ。
(こんなところに二人っきりで……)
一瞬、頭に浮かびかけた想像を、葉は慌てて払い落とした。そんなことを考えるのは二人への侮辱《ぶじょく》のような気がした。
葉は遊歩道へと足を踏み入れた。道の上まで張り出すように伸びた木々の枝が太陽の光を遮《さえぎ》って、昼間だというのに薄暗《うすぐら》かった。陰気な雰囲気のせいか、散歩をする人もまったくいない。
さっきの疑問がまたむくむくと頭をもたげてきた。ここにいるのだとしたら、どうしてわざわざここを選んだのだろう。
(裕生《ひろお》ちゃんとはただの友達のはず)
以前、みちるは今の裕生に対して特別な感情はないとはっきり言っていた——初恋の相手というだけで。
自分にそう言い聞かせていた葉は、はっと息を呑《の》んで立ち止まった。
(わたし、なにを考えてるんだろう)
仮に裕生とみちるが付き合っているからといって、それを葉に咎《とが》める資格があるわけではない。裕生は彼女のものでもなんでもないのだから。それに、以前は裕生になにか特別な関係を望んでいるわけではなかったはずだ。近いうちに葉は葉自身ではなくなってしまう。望んでも仕方がないと諦《あきら》めていたはずだ。こんな風《ふう》に欲深ではなかったはずなのに。
(わたし、いつからこんな……)
ふと、抱き合っている裕生と自分の姿が頭に浮かんだ。
今日《きょう》からだ。
葉は雷に打たれたように立ちすくんだ。今までずっと押し隠していたものが、今朝《けさ》のあの一瞬《いっしゅん》に動き出してしまった——。
「どうしたの、それ!」
突然、裕生の叫び声が耳に入った。まるで自分に向けられた言葉のように、葉は体を震《ふる》わせた。遊歩道でも行くことのできない奥の木立《こだち》から聞こえた気がした。
葉は声のする方へ歩いていった。
ほどなく古いベンチが見えてくる。裕生とみちるはそこにいた。手前にみちるの背中が、その奥に裕生が見えて——。
「あ……」
葉の声はほとんど悲鳴に近かった。
二人はしっかりと抱き合っていた。
葉はくるりと向きを変えて、一目散《いちもくさん》に走り出した。