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シャドウテイカー リグル・リグル23

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:2 拳銃に気づいたのは明らかに裕生の方が先だったはずだが、銃声への反応は雄一の方がずっと素早《すばや》かった。ほとんど反
(单词翻译:双击或拖选)
 拳銃に気づいたのは明らかに裕生の方が先だったはずだが、銃声への反応は雄一の方がずっと素早《すばや》かった。
ほとんど反射的と言える動作でタバコを捨て、裕生のシャツの襟《えり》をつかんでコンクリートの床の上に引き倒した。そして、自分もべったりと体を伏せる。
「な、なんで撃《う》ってくんだ! 菊地さん!」
と、雄一が叫んだ。
赤と青の二匹のリグルの姿が裕生の頭をよぎった。千晶《ちあき》の仕業《しわざ》に違いない。リグルを警官に仕込んで、この団地を襲《おそ》わせているのだ。
ふと、大柄《おおがら》な若い警官《けいかん》が棟《むね》の階段へ向かったことを思い出して、裕生《ひろお》は愕然《がくぜん》とした。
(ここへ上がってくる気なんだ)
彼は背を屈《かが》めたまま、ガラス窓を開けて居間へ飛びこんだ。玄関には確《たし》か鍵《かぎ》がかかっていないはずだ。案《あん》の定《じょう》、外の階段を裕生たちの住む四階へ向かって誰《だれ》かが駆け上がってきている。
「あの……」
座卓のそばにいた葉《よう》が不安げに声をかけてくる。
「後で!」
裕生は猛然と玄関に向かって走った。ほとんど滑《すべ》りこむようにして土間《どま》に膝《ひざ》をつくと、ドアの錠《じょう》をかけた。それとほとんど同時にがちゃがちゃとドアノブが回り、同時にドアが激《はげ》しく叩《たた》かれ始めた。裕生はあの船瀬家《ふなせけ》で似たような目に遭《あ》ったことを思い出した。
(赤のリグル)
ドア一枚|隔《へだ》てて外にいるあの大柄な警官を操《あやつ》っているのは、おそらく赤のリグルの方だと思った。あの時、操られているのは中年の女性だったが、今回は体格からしてまったく違う。あんな大男に襲《おそ》われたら、葉や自分はどうなるのか想像したくなかった。
(無傷で手に入れようとは思わない)
裕生は震《ふる》えながらドアチェーンをかけた。外開きのドアだから体当たりでは開かない。少しは時間がかかるはずだった。
騒々《そうぞう》しく音を発しているドアを残して、裕生は居間に戻った。さっきとは違って明かりが消え、窓にはカーテンも閉まっている。部屋の真ん中には雄一《ゆういち》と葉が座りこんでいた。
「なにがあったんですか?」
と、葉が言った。
「警官にリグルが潜《もぐ》りこんでる。ベランダの下と玄関に一人ずついるんだ」
「なんだ、リグルって?」
雄一が不審げに言ったが、裕生にはそれに答える余裕はなかった。
「警官は拳銃《けんじゅう》も持ってる。葉とぼくを捕まえに来たんだ。多分《たぶん》、怪我《けが》させてでもなんでもリグルをぼくらの中に入れるつもりなんだよ」
ドアを破られればあの大男が中へ入ってくる。おそらくあの男も銃を持っているのだろう。とても勝ち目はない。かといって、ベランダに出れば外から狙《ねら》い撃《う》ちされる。裕生は絶望的な気分でベランダへの窓と玄関のドアを交互に見比べた——。
「……あー、あのな。一応|確認《かくにん》してえんだけど」
雄一が裕生の顔を覗《のぞ》きこんだ。
「お前、警察に追われるようなことなんかやったのか?」
「やってないよ!」
裕生が叫び、葉も首を振った。
「じゃ、これがなんなのか最初っから分かりやすく説明してくんねーか? なに言ってんだか全然分かんね」
「最初から……」
裕生《ひろお》は言葉を失った。この数ヶ月の間に起こったことを「分かりやすく」説明できるはずがない。
「ん? なんか相当ややこしい話か? そんじゃ、俺《おれ》からの質問にいくつか答えてくれや。まあ、ちょっとしたアンケートみてえなもんだ」
普段《ふだん》、フィールドワークで小中学生に話しかける口調《くちょう》そのままだった。二人がうなずくのを確認《かくにん》して、雄一《ゆういち》は口火を切った。
「質問一。あいつらは本物の警察《けいさつ》か?」
「うん、多分《たぶん》。でも……」
「正気にゃ見えねえな。ってことは誰《だれ》かに操《あやつ》られてるってことか」
裕生たちはうなずいた。
「質問二。殴ったら正気に返りそうか?」
「無理かも……その、体の中に入りこんでて、直接人間を操ってるから」
雄一の口が半開きになり、ぴたりと動きが止まった。
「……今、体ン中、って言ったか?」
「うん」
「質問三……そいつらは人間か?」
一瞬《いっしゅん》、裕生はためらった。
「違う。大きな虫の怪物だよ」
初めて雄一は沈黙《ちんもく》した。ひどく難《むずか》しい表情を浮かべている。ようやく口を開きかけた時、外から拡声器のものらしいハウリングが聞こえた。続いて男の声が静かな団地に響《ひび》き渡った。
『……加賀見《かがみ》団地の住民の皆さん。わたしは加賀見団地前派出所勤務、菊地《きくち》アキオ巡査部長であります』
裕生たちはぎょっとして窓の方を振り向いた。
「あれもその……虫が喋《しゃべ》らせてんのか?」
と、雄一が言った。裕生はうなずくしかなかった——菊地という警官は青のリグルに操られているに違いない。
『ただいま、指名手配中の強盗殺人犯と見られる少年が、人質とともにこの団地内に潜伏中《せんぷくちゅう》です。県警からの増援が到着するまで、住民の皆さんには厳重《げんじゅう》な警戒をお願《ねが》いいたします。まず、家中の明かりを消し、カーテンを閉めて、決して窓には近づかないで下さい。少年はピストルを所持しており、窓際《まどぎわ》の人影《ひとかげ》は狙《ねら》われるおそれがあります』
裕生が顔をしかめた。
「殺人犯ってぼくのこと?」
「いや、俺《おれ》かもな……どっちにしろ、外を見んなってことか」
と、雄一《ゆういち》がつぶやいた。
『また、玄関の鍵《かぎ》を閉め、訪問者には決してドアを開かないで下さい。また、犯人の少年はこの団地の住民の一人と見られています』
「なに言ってるんだろ?」
裕生《ひろお》は首をひねると、雄一が舌打ちをした。
「顔見知りが助けてくれって言ってきても、ドアを開けんなって言ってんだよ。これで俺らが近所に逃げこんでも、ドアを開けてくれるヤツはほとんどいねえだろうな。外でなにが起こってんのかも見てねえわけだし」
「……あ、そうか」
部屋の外に出ている人間はすべて「犯人」の可能性があることになってしまう。この話を信じる人間が多ければ多いほど、裕生たちは孤立することになる。
「こんな嘘《うそ》、みんな信じるかな」
「説得力はあんじゃねーか? さっきの銃声聞いて慌てて外を見る。立ってるのは団地をよくパトロールしてる制服|警官《けいかん》。そこへ来てこの嘘だ……多少ヘンだって思うヤツはいるだろうけど、本物の警察に確認《かくにん》取ろうとするヤツはなかなかいねえんじゃねえか? うちのドアを破って、俺らを始末する間ぐらいなら」
その時、玄関の方からめきっとなにかが折れ曲がるような音が聞こえた。裕生たちは思わずドアを振り返る。
「すっげ。素手《すで》でドアノブ折る気だぞ」
雄一は感心したように言った。もう時間はない——しかし、雄一はまだ落ち着き払っている。
「で、話の続きだ。質問四、リグルに弱点はねえのか?」
裕生は例の「黒曜《こくよう》」を雄一に差し出した。
「なんだこれ?」
「リグルに効く毒だよ。でも、直接体にかけないと効かない。あ、でも相手に飲ませれば体から出てくるかも。西尾《にしお》はそうやって自分からリグルを……」
「あー、悪《わり》ィ。余計な説明はいいや。混乱すっから」
そう言いながら雄一は小瓶を受け取って、ズボンのポケットに入れながら立ち上がった。
「よし! 話はだいたい分かった。質問は以上!」
「えっ」
裕生と葉《よう》は同時に声を上げた。ほとんどなにも話していないのと同じだ。裕生も慌てて立ち上がって、兄の腕をつかんだ。
「分かったって、こんなの説明のうちに……」
「なにをすりゃいいのか分かったからいいんだよ。俺《おれ》は外の大男の相手をする。裕生《ひろお》はその隙《すき》に葉《よう》連れて団地から逃げろ」
「ムチャクチャだよそんなの……」
雄一《ゆういち》は本気でカゲヌシと素手《すで》で戦うつもりなのだ。しかし、雄一は裕生の胸倉《むなぐら》をつかんで叫んだ。
「寝言いってんじゃねえ! 考えようによっちゃお前の方がよっぽど危ねえだろが。外で待ってるオッサンをどうにかしなきゃなんねーんだぞ?」
玄関のドアが今までにない大音声《だいおんじょう》を上げた。外側のドアノブがシリンダーごともぎ取られたらしく、内側のドアノブが土間に落ちていた。かちゃんとデッドボルトの動く音が聞こえ、外に向かってドアが開く——。
裕生は声にならない悲鳴を上げた。
しかし、ドアはわずか数センチ開いただけで動きを止める。さっき裕生がかけたチェーンがひっかかっていた。
細めに開いたドアの向こうに、警察《けいさつ》の制服を着た大男がいた。筋肉で盛り上がった四角い体は、人間というより攻撃《こうげき》前に立ち上がった羆《ひぐま》のように見えた。ドアよりも男の身長は高く、裕生たちからはかろうじて目元が見えるだけだった。雄一よりも間違いなく十センチは背が高い。
左右の眼球はまったく別の方向を向いている。顔に浮かべているのが笑いなのか殺意なのか、歯をむき出しにして口の端にかすかに泡を立てていた。
「ま、確《たし》かに人間にゃ見えねーな」
と、雄一はつぶやいた。それから、裕生の肩にぽんと手を乗せる。
「とにかくお前はお前の仕事をやれ。分かったか?」
裕生は無言でうなずいた——この場は雄一に任せるしかないようだった。
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