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シャドウテイカー リグル・リグル25

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:4「葉《よう》!」自分にのしかかるように倒れてくる葉の体を、裕生《ひろお》は膝《ひざ》を付きながら受け止めた。慌てて彼女
(单词翻译:双击或拖选)
「葉《よう》!」
自分にのしかかるように倒れてくる葉の体を、裕生《ひろお》は膝《ひざ》を付きながら受け止めた。
慌てて彼女の背中を覗《のぞ》きこむと、ブラウスの右肩のあたりに赤黒い染みが広がりつつあった。裕生はその傷をポケットに入っていたハンカチで押さえる。しかし、溢《あふ》れ続ける血は一向《いっこう》に止まる気配《けはい》がなかった。
「くそ……」
裕生のつぶやきを聞きつけたように、葉がうっすらと目を開いた。
「……大丈夫だから」
大丈夫なはずがない。裕生は唇を噛《か》みしめた。
「喋《しゃべ》らない方がいいよ」
と、彼は言った。
(ぼくをかばってくれたんだ)
裕生はぎゅっと葉の体を抱きしめた。血を失っているせいか、少しずつ体温が下がっているようだった。
「……ちっ」
不意に舌打ちが聞こえ、裕生は顔を上げた。千晶《ちあき》が忌々《いまいま》しげな目で天井《てんじょう》を見上げている——いや、天井よりもずっと上を見ているかのようだった。
「たかが人間の与えたショックで活動を停止するなんて」
「……え?」
一体なにを言っているのか、裕生《ひろお》は分からなかった。
それから、彼女は銃口を再び葉《よう》に向けた。
「その子を外へ連れていきなさい」
「……なんのために」
「いいから早くしなさい。この子の頭に二発目を撃《う》ちこまれたくなかったら」
裕生は黙《だま》って葉を抱き上げる。軽い体だった。青ざめた顔の葉が恥ずかしそうに目を伏せる。そして裕生の袖《そで》のあたりを力なく掴《つか》んだ。
葉を抱いたまま裕生は外へ出て、団地の階段を降りた。建物の前の道路に出ると、青のリグルに操《あやつ》られた例の警官《けいかん》が立っていた。
「お前たちがなにをしても無駄《むだ》だと言っただろう?」
警官——青のリグルは薄笑《うすわら》いを浮かべて言った。
「そこへ置け」
裕生は地面に膝をついたが、葉の体を地面に下ろそうとはしなかった。自分たちの出てきたドアからここまで、点々と血のしずくが落ちているのが見えた。
(早く病院へ行かないと)
気が付くと裕生たちのすぐそばに、杖《つえ》を突いた千晶《ちあき》が立っていた。さっきと同じように裕生たちに銃口を向けているが、視線《しせん》は団地の階段に向けられている。どうやら四階の藤牧家《ふじまきけ》の玄関を見ているようだった。
(なんだろう)
と、思った時、藤牧家の壊《こわ》れたドアが開いた——室内から上半身裸の雄一《ゆういち》が姿を見せる。遠目から見ても体中に無数のすり傷や紫色《むらさきいろ》のあざがある。まるで膨《ふく》らませたように、顔のあちこちが腫《は》れ上がっていた。
(兄さん……)
裕生は肝《きも》を冷やした。数年前、ケンカに明け暮れていた頃《ころ》もここまで傷だらけになったことはない。あまりにもひどい姿で、今度は雄一に赤のリグルが乗り移ったのかもしれないと思ったほどだった。
「……え?」
しかし、雄一がぶら下げているものを見る限りでは、それは全くの勘違《かんちが》いだった。雄一は巨大な赤い幼虫を手にしている。それは雄一の手の中でぴくりとも動かない。
(か、勝ったんだ……)
さっき千晶が雛咲家《ひなさきけ》の居間でつぶやいた、奇妙な言葉の意味がようやく呑《の》みこめた。赤のリグルが雄一に倒されたことを察知したのだろう。
雄一は足を引きずるようにして、ゆっくりと階段を降りてくる。裕生たちのいる道路が薄暗《うすぐら》いせいか、兄はまだこちらに気づいていない。三階へ続く階段の踊《おど》り場《ば》を曲がりかけた時、裕生《ひろお》のそばにいた千晶《ちあき》が叫んだ。
「そこで止まりなさい、藤牧《ふじまき》雄一《ゆういち》!」
雄一は言われたように足を止めて、コンクリートの柵越《さくご》しに身を乗り出して裕生たちを見た。どうやら、裕生に抱きかかえられている葉《よう》にも気づいたようだった。
「なにしやがったテメエら!」
と、赤のリグルを振り回しながら叫んだ。
「動けなくしただけよ、それより」
千晶も大声を張り上げる。
「リグルを放しなさい」
「うちの弟たちにこれ以上なんかしやがったら、この気を失ってる虫にこいつを使うぞ」
雄一はポケットから「黒曜《こくよう》」の瓶《びん》を出して千晶に見せた。
一瞬《いっしゅん》、裕生はなぜか千晶が口元に笑みを浮かべたような気がした。
「お前の脅《おど》しなんか効かないわ」
突然、千晶は銃の引き金を引いた。裕生は目を閉じて葉の体に覆《おお》いかぶさった——銃声があたりにこだまする。
ゆっくりと目を開けると、彼のすぐ足元の地面から煙が上がっていた。
「ざけんな! このアマ!」
雄一《ゆういち》の怒声《どせい》が降ってくる。彼は瓶《びん》の栓《せん》を抜くと、赤のリグルに中の液体をかけた。幼虫の体から煙が立ちのぼり、同時にびくっと痙攣《けいれん》を起こした。どうやら、多少の被害は受けつつも目を覚ましたようだった。
(……え?)
千晶の笑みがさらに大きくなった。
裕生ははっとした——今の発砲はただの挑発だ。
「兄さん、虫を捨てて!」
と、裕生が叫んだ。人間に潜《もぐ》りこんでいないリグルは電撃《でんげき》を使える。ここで兄が意識《いしき》を失えば、赤のリグルの次の「乗り物」にさせられてしまう。
そして、ほんの数秒のうちにさまざまなことが起きた。
裕生の言葉に反応した雄一が、踊《おど》り場《ば》からリグルを道路に投げた。彼の手からリグルが放たれた瞬間《しゅんかん》、カゲヌシの体からばちっと青い火花が散った。
「うわっ!」
雄一が手を押さえながら背後によろける——すでに手を離《はな》した後だったせいか、大した怪我《けが》ではなさそうだった。赤のリグルは千晶のすぐそばの地面に落ちてきた。
ほっとした裕生のこめかみに、まだ生温かい銃口が押しつけられた。千晶が殺意をたたえた目で裕生《ひろお》をにらんでいた。
「お前にはうんざりしたわ」
銃口越しに彼女の手の微妙な動きが伝わってくる——撃《う》たれる、と思った瞬間《しゅんかん》、裕生の腕の中で葉《よう》がつぶやいた。
「……黒の彼方《かなた》」
二人の真下の地面から、一瞬のうちに黒犬が浮かび上がってきた。裕生は葉を抱いたまま犬の背に乗るような形になる。同時に葉の体が動き、片腕を裕生の首に、もう片腕を犬の首に巻きつけた。
「黒の彼方」は地面を蹴《け》った。拳銃《けんじゅう》を構えていた千晶《ちあき》の杖《つえ》を、前足で払ってバランスを崩《くず》させた。そしてそのまま十メートルほど走って距離《きょり》を置く。
「やめて!」
背後で千晶の叫ぶ声が聞こえる——黒犬の口元を見た裕生は、彼女の悲鳴の意味を悟った。「黒の彼方」は赤のリグルをくわえている。走りながら拾い上げたに違いない。
くるりと「黒の彼方」が一八〇度向きを変えた。振り落とされそうになった裕生は慌てて首にしがみついた。
「続けて電撃《でんげき》の能力を使うことはできないようですね」
葉の口から「黒の彼方」の言葉が発せられる。彼女はぎこちないしぐさで犬の背から降りた。急に動いたせいか、肩の傷からの出血はさらにひどくなっていた。
犬の口の中でリグルはまだ震《ふる》えていた。
「契約者にこのような傷を負わせた者を、決して許さない」
淡々とした声で「黒の彼方」は言った。激怒《げきど》した時、むしろ静かにこのカゲヌシは語るくせがある。以前、裕生も同じような憎しみの言葉を投げかけられたことがあった。
「わたしは決して許さない」
黒犬の顎《あご》に力がこもる。赤のリグルは「黒の彼方」の口の中でばらばらにかみ砕《くだ》かれていった。
「あ……」
千晶が絶望的な声を上げながら拳銃を構える。「黒の彼方」が裕生と葉をかばうように二人の前に立った。
「ううううるるるるる!」
その時、どこかから突拍子《とつぴょうし》もない大声が聞こえた。
(……この声)
千晶の背後にある暗闇《くらやみ》から、黄色《きいろ》い塊《かたまり》がゆらりと現れた。団地の公園のある方角だった。近づいてくるにつれて、それが黄色いレインコートだと分かる。マスクと大きなゴーグルで完全に覆《おお》われた顔。
「……レインメイカー」
と、裕生《ひろお》はつぶやいた。
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