「黒の彼方」がカゲヌシを食っている。
今までにも何度か見てきた光景だった。裕生は葉の手をしっかりと握りしめたまま、その様子《ようす》をじっと窺《うかが》っている。手を握っているのは、「黒の彼方」が逃亡しないようにするためだった。
(あの虫のカゲヌシを全部食いつくしたら、おそらくわたしは元に戻ります)
昨日《きのう》、「黒の彼方」は確《たし》かにそう言っていた。「元に戻る」というのは、おそらく以前失った三つ目の首が生《は》えてくるということなのだろう。
完全体に戻れば、葉への影響《えいきょう》がさらに深刻になるのは間違いなかった。
やがて、白のリグルを食いつくした「黒の彼方」が裕生たちの方へ向いた。裕生ははっと息を呑《の》んだ。
さっきの「眠り首」の傷はきれいに消えて、リグルの電撃《でんげき》で受けた火傷《やけど》も治っていた。体もほんの少し大きくなったように見える——しかし、三本目の首は相変わらず生えていなかった。
「まだ、完全体じゃないんだ」
裕生は傍《かたわ》らの葉の体に問いかけた。しばらく、「黒の彼方」の返事はかえってこなかった。
「……妙《みょう》ですね」
と、「黒の彼方」はつぶやいた。
「力は完全に取り戻したというのに、このようなことが……」
それを聞きながら、裕生はほっと胸を撫《な》で下ろしていた。
そして、葉の名前を呼んだ。
今までにも何度か見てきた光景だった。裕生は葉の手をしっかりと握りしめたまま、その様子《ようす》をじっと窺《うかが》っている。手を握っているのは、「黒の彼方」が逃亡しないようにするためだった。
(あの虫のカゲヌシを全部食いつくしたら、おそらくわたしは元に戻ります)
昨日《きのう》、「黒の彼方」は確《たし》かにそう言っていた。「元に戻る」というのは、おそらく以前失った三つ目の首が生《は》えてくるということなのだろう。
完全体に戻れば、葉への影響《えいきょう》がさらに深刻になるのは間違いなかった。
やがて、白のリグルを食いつくした「黒の彼方」が裕生たちの方へ向いた。裕生ははっと息を呑《の》んだ。
さっきの「眠り首」の傷はきれいに消えて、リグルの電撃《でんげき》で受けた火傷《やけど》も治っていた。体もほんの少し大きくなったように見える——しかし、三本目の首は相変わらず生えていなかった。
「まだ、完全体じゃないんだ」
裕生は傍《かたわ》らの葉の体に問いかけた。しばらく、「黒の彼方」の返事はかえってこなかった。
「……妙《みょう》ですね」
と、「黒の彼方」はつぶやいた。
「力は完全に取り戻したというのに、このようなことが……」
それを聞きながら、裕生はほっと胸を撫《な》で下ろしていた。
そして、葉の名前を呼んだ。