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シャドウテイカー リグル・リグル32

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:「船瀬《ふなせ》はこの世界での最初のカゲヌシの契約者だった」と、清史《きよし》はつぶやいた。裕生《ひろお》と清史は駐車場
(单词翻译:双击或拖选)
 「船瀬《ふなせ》はこの世界での最初のカゲヌシの契約者だった」
と、清史《きよし》はつぶやいた。裕生《ひろお》と清史は駐車場《ちゅうしゃじょう》のマイクロバスの陰に座っていた。気を失ったままの葉《よう》は、裕生の腕の中で穏《おだ》やかな呼吸を繰り返している。
「黒の彼方《かなた》」はすでに彼女の影《かげ》の中に戻っていた。
「船瀬は『レインメイカー』に取《と》り憑《つ》かれて姿を消し、次にわたしが『リグル・リグル』に取り憑かれた。わたしもまた、この世界では最初期のカゲヌシの契約者だった。君の手術があったあの日、わたしの前に卵が現れたんだ」
清史はそこになにかが見えているかのように、暗い目で自分の両手を見下ろしていた。
「……どうして、カゲヌシが葉の顔をしていたんですか?」
「あれはリグルのわたしへの配慮《はいりょ》だ。わたしとカゲヌシの繋《つな》がりはずっと不安定だった。わたしの自我の大半はすぐにカゲヌシに飲みこまれたが、葉について触れられるとすぐに目を覚ましてしまう」
裕生はあの船瀬家での出来事を思い出した。葉の話になったとたん、清史は演技をつづけることができなくなってしまった。
「リグルは生まれてすぐに妻を食った……わたしはレインメイカーを追うことにしたんだ。どうしてもレインメイカーに会わなければならなかった」
そこまで言い終えた時、清史の顔がゆがんだ。
「リグルはわたしに協力したが、あの船瀬の娘を巻きこんでしまった……他《ほか》にも何人もの人間を利用し、そして食ってきた。カゲヌシに取り憑かれていたとはいえ、契約者であるわたしも責任を取らなければならない」
裕生はなにも言えなかった。四年間はあまりにも長い——葉の母親や千晶《ちあき》を始めとして、膨大な数の人間がリグルの犠牲になってきたはずだったはずだ。
「それでも娘のもとに戻るのがわたしの願《ねが》いだった。昔のように暮らすことはかなわない。しかし、せめてもう一度だけ人間に戻って娘の顔が見たかった。そのためにレインメイカーの能力が必要だったんだよ」
「レインメイカーの能力はどういうものなんですか?」
と、裕生は尋《たず》ねた。
葉が目を覚ます前に清史が立ち去ってしまうことは分かっている——そして、永遠に帰ってこないだろうということも。だから、その前に聞くべきことを聞いておきたかった。
「はっきりとは分からないが……どうも、その能力を使えば、サインの階位の中にいるカゲヌシなら人間から引《ひ》き離《はな》すことができるらしい」
「えっ!」
裕生《ひろお》は思わず身を乗り出していた。もし、そんな方法があるのなら——。
「待ってくれ。あくまで、『階位の中』だけだ。その外側にいるレインメイカーや『同族食い』は関係がない」
「でも、どうしてそれにリグルは協力していたんですか?」
清史《きよし》の話が本当だとしたら、レインメイカーは、リグルと清史の関係を脅《おびや》かすものということになる。
「カゲヌシが契約者から引きはがされることを望むはずがない。彼女は——いや、あのカゲヌシは、レインメイカーの能力を押さえこむために、彼を捜《さが》していたのだろうと思う。それがわたしとリグルの妥協点だったんだよ」
(わたしと父の静かな生活)
リグルが口にしていたという言葉を思い出す。レインメイカーを手に入れれば、静かな生活は保証される、と言っていたらしい。
「わたしはもう一度、人として娘に会うことが望みだった」
葉《よう》の髪に触れながら清史はつぶやいた。
「その願《ねが》いはかなった……ただ」
そこで初めて彼は言葉を詰まらせた。
「わたしが娘の願いをかなえることはできないようだ」
ふと、葉が裕生の腕の中で身じろぎした。目を覚まそうとしているらしい。
「君に二つ頼みがある。絶対に聞き入れて欲しい頼みだ。わたしが話す前に、聞き入れるかどうかを決めて欲しい」
一瞬《いっしゅん》迷ってから、裕生はうなずいた。それがなんであれ、清史の頼みを断りたくなかった。
「そうか。ありがとう」
と、清史は微笑《ほほえ》んだ。
「今後一切、娘にわたしの話はしないで欲しい。今話した内容も絶対に言わないで欲しい。葉に聞かれても、わたしがなにも言わずにどこかへ行ったことにして欲しいんだ」
「でも、それは……」
「この子は利口な子だ。君が言わなければ、言えないことなんだと分かるだろう。それに今、君は約束しただろう?」
約束のことを持ち出されると、裕生はなにも言えなくなってしまった。
また葉の体が動く。清史はもう一度娘の髪をいとおしげに撫《な》でてから立ち上がった。
「そろそろわたしは行く。もう二度と君にも、他《ほか》の誰《だれ》にも会うことはないだろう。どこか静かな場所で、自分の始末をつけるつもりだ」
裕生の胸が苦しくなった。かける言葉を必死に探したが、なにも見つからなかった。
「さようなら、裕生《ひろお》くん」
「待って下さい!」
と、裕生は言った。
「あの、頼みのもう一つの方を聞いてません」
清史《きよし》は笑顔《えがお》を浮かべた。
「そうだったな……この子を一人にしないで欲しい。絶対にこの子を守れ、とは言わない。ただ、この子を孤独なままにしないで欲しいんだ……でも、それはわたしが言わなくてもそうしてくれるだろう?」
裕生はうなずいた。彼は無言で葉《よう》に触れてぎゅっと握りしめた。
「……頼んだよ」
そう言い残して、清史は歩き出した。
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