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シャドウテイカー リグル・リグル33

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示: 目を覚ました葉はゆっくりと体を起こした。「あの?」裕生《ひろお》はなにも言わなかった。もし父親のことを聞かれたらどうし
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  目を覚ました葉はゆっくりと体を起こした。
「あの……?」
裕生《ひろお》はなにも言わなかった。
もし父親のことを聞かれたらどうしようかとそればかり考えていた。
「ここは?」
「まださっきの駐車場《ちゅうしゃじょう》だよ」
「駐車場?」
葉《よう》はきょろきょろとあたりを見回している。
「……どこの駐車場ですか?」
その言葉に裕生は戸惑《とまど》った。
「どこって……幽霊《ゆうれい》病院の」
彼女はなおも首をかしげている。それから、自分の肩に目を留《と》める。しばらく不思議《ふしぎ》そうに包帯の様子《ようす》を確《たし》かめていたが、やがて裕生に言った。
「わたし、どうして怪我《けが》をしてるんですか?」
裕生は息を呑《の》んだ。さっきの「黒の彼方《かなた》」の言葉が蘇《よみがえ》る——力は完全に取り戻した。
「葉、今日《きょう》は何月何日?」
彼はおそるおそる尋《たず》ねた。
しばらく彼女は首をかしげていたが、やがて頼りなさそうな声で言った。
「九月……三日?」
裕生は言葉を失った。
彼女はこの三日間の記憶《きおく》を丸ごと失っていた。
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エピローグ
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葉《よう》が目を覚ますと、病室の窓の外はもう日が落ちかけていた。
(わたしは雛咲《ひなさき》葉)
いつものように、彼女は目を閉じて自分についての事柄《ことがら》を思い出し始めた。
(わたしは加賀見《かがみ》高校の一年生。裕生《ひろお》ちゃんの家に住んでるけど、今は病院にいる。今日《きょう》は……)
一瞬《いっしゅん》、彼女の独白は堰《せき》を落とされたようにぴたりと止まった。しかし、すぐに元通りに進み始める。
(今日は九月七日。わたしは肩に怪我《けが》をして入院してる。カゲヌシに操《あやつ》られている人に撃《う》たれた)
撃たれたことは自分の記憶《きおく》としてではなく、裕生から聞いた話で知っているだけだった。一度は父とも再会したらしい。父はカゲヌシに操られていたところを裕生たちに救われ、葉も一度は解放された父と会って話したという。しかし、父はまたすぐに姿を消してしまった。
父が現れたことも、再び姿を消したことも、葉は深く尋《たず》ねなかった。裕生はそのことについて触れたがらない。なにか深い事情があるのは分かっていた。
葉は病室の中を見回した。
たった今まで誰《だれ》かがすぐそばにいたような気がした。サイドテーブルを見ると、そこに一冊の小さなノートがあった。
「あっ……」
手に取った葉は思わずつぶやいた。その古びた表紙には見覚えがあった。今は裕生が持っているはずの、『くろのかなた』が書かれたノートだった。
さっきまでここに裕生がいたに違いない。
ノートを開くと、以前読んだところの先に物語の続きがあった。
 黒い海へ出ていった二人は、
それからなん日も波のあいだをさまよいました。
空には雲ひとつなく、海には魚のかげひとつ見えません。
けれど朝日ののぼるほうへふきつづける、つよい風が二人のみかたでした。
ぴんとはった帆が風をうけて、ぐいぐいと舟はすすんでいきました。
やがて二人ののった舟は、大きな国の港にたどりつきました。
 そこは一人の王さまがおさめる国でした。
石づくりの大きな建物があり、たくさんの人がいました。
おまえたちはどこからきたのだ。
人びとは二人にそうたずねました。
黒い海のかなたからきたの。
女の子がおそるおそるこたえると、二人は王さまのすむお城へつれていかれました。
あのけわしい黒い海をわたってきたものは、かいぶつだとおもわれていたのです。
 おまえたちは何ものなのだ。
大ひろまにつれて行かれた二人に、王さまがそうたずねました。
男の子がこたえました。
ぼくの乗ったふねがこわれ、この女の子のいる島へ流れついたのです。
ぼくはこの子にコトバをおしえ、舟《ふね》をつくりました。
そして、二人でこの海をわたってきました。
 おまえの名はなんというのだ。
王さまは女の子にそうたずねました。
わたしはくろのかなた。黒い海のかなたからやってきたから。
おまえはだれから生まれたのだ?
女の子はびっくりしました。
人間がだれかからうまれるということをしらなかったのです。
わかりません。それはだいじなことですか?
それを聞いたとたん、王さまはとてもかなしそうな目をしました。
おまえのねがいはなんなのだ?
わたしのねがいはもっとたくさんのことばをしること。
そのために、この人とたびをつづけることです。
王さまは男の子だけを自分のいすのそばによびました。
男の子が王さまのそばにひざまずくと、王さまは小さな声で言いました。
 むかし、
あの黒い海のかなたから、おおきなばけものがやってきた。
ばけものはこの国の子どもたちをはんぶん食べてしまったあとで、わたしに言った。
この国のヒメをさしださなければ、あとのはんぶんの子どもを食べてしまうぞ。
わたしはかんがえたあげく、自分のむすめを黒い海にながしてしまった。
あの子はきっとわたしのむすめだ。
だけど、わたしはむすめをすててしまった。
それをしらないほうが、むすめもしあわせだろう。
どうかこの子にほんとうのことをいわないでほしい。
そしてたびの人よ、この子といっしょにいてあげてほしい……
 男の子は、女の子のところにもどっていいました。
あの人を、おとうさん、とよんであげてください。
女の子はくびをかしげました。
それはどういうイミのコトバ?
とにかく呼んであげてください、と男の子はこたえました。
おとうさん。
首をかしげながら女の子はそういいました。
王さまはそのコトバをきくと、なみだをながしはじめました。
女の子はますますふしぎにおもいました。
あの人が目からながしているものは、いったいなんですか?
……
 気が付くと葉《よう》の手からノートが滑《すべ》り落ちていた。
いつのまにか彼女は泣いていた。
突然わき出した泉のように、止まることなく涙が溢《あふ》れ続ける。どうして自分が泣いているのか、考えることもできない。
ただ、胸が破れるほど悲しかった。
他《ほか》に誰《だれ》もいない病室で、葉は声も立てずに泣き続けた。
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