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シャドウテイカー リグル・リグル34

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示: 裕生《ひろお》は幽霊《ゆうれい》病院の廊下を歩いている。さっき、『くろのかなた』の続きが書かれたノートを葉のところに届
(单词翻译:双击或拖选)
 裕生《ひろお》は幽霊《ゆうれい》病院の廊下を歩いている。さっき、『くろのかなた』の続きが書かれたノートを葉のところに届けた帰りだった。葉は眠っていたが、起きたらきっと読んでくれるに違いない。
(どうかあの子といっしょにいてあげて欲しい)
意識《いしき》しているつもりはないのだが、葉に話したいけれど話せないことや、裕生の抱えている不安が、あの物語に反映されてしまった気がする。
白いリグルを倒してから一夜明けている。清史《きよし》がどこへ行ったのかは分からない。ひょっとするともう今頃《いまごろ》は——。
裕生は首を振ってその考えを振り払った。そのことに触れたくなかったし、それに今は他に考えるべきことがある。
裕生はレインメイカー——船瀬《ふなせ》智和《ともかず》の様子《ようす》を見にここへ来た。
手術室に足を踏み入れようとした裕生はぎょっとして立ちすくんだ。
船瀬《ふなせ》は目を覚まして立ち上がっていた。黄色《きいろ》いレインコートを着た彼の姿が、暗い部屋の中でぼんやりと浮かび上がっている。
「……船瀬さん?」
裕生《ひろお》はおそるおそる呼びかける。彼はマスクもゴーグルも身につけておらず、かぶっていたフードも外していた。手入れをしていない髪の毛がだらしなく伸びている。
船瀬はわずかに首を動かして、裕生に無機質《むきしつ》な視線《しせん》を向けた。表情ははっきり見えないが、名前に反応したのではなく、単に声が聞こえたことに反応しただけらしかった。
「あの、傷は大丈夫……ですか?」
船瀬|智和《ともかず》という名前を知り、素顔を見てしまうと、以前のように子供に対するように話しかける気にはならなかった。
「……」
船瀬は答えない。力のない目に知性は感じられなかった。
今のこの肉体の主導権を握っているのがカゲヌシだったとしても、千晶《ちあき》が言ったように「知能が高い」とは思えなかった。もちろん、人間の方だとしても明らかに異様だった。なにか事情があるのかもしれない。
「あの、一応病院に行った方がいいと思うんですけど」
答えは返ってこない。彼の左足からの出血はまだ続いているが、無理に連れていこうとしても無駄《むだ》だろう。裕生は床《ゆか》に落ちていたビニール袋を拾い上げる。昨日《きのう》、裕生が持ってきた救急キットが入っていた。
「じゃあ、せめてこれ使って下さい」
裕生は船瀬に向かってその袋を差し出した。
理解《りかい》しているのかいないのか、相手はゆっくりと歩いてくる。一メートルほどの距離《きょり》まで近づいた時、裕生ははっと息を呑《の》んだ。
「あ……」
ビニール袋を取り落としそうになる。指から離《はな》してしまう直前に、手を伸ばした船瀬がそれを掴《つか》んでいた。
裕生の隣《となり》をすり抜けるようにして、彼は廊下へ出ていく。その横顔がすぐ目の前を通りすぎた。
右耳から後頭部にかけて、船瀬の頭は鈍い銀色《ぎんいろ》に染まっていた。むろん、なにかの塗料が付着しているわけではない。
頭の三分の一ほどが金属化していた。
「……アブサロム」
思わず裕生はつぶやいた。アブサロムは殺人鬼・蔵前《くらまえ》司《つかさ》に取《と》り憑《つ》いていたカゲヌシで、触れたものを金属に変える能力を持っていた。
船瀬《ふなせ》の頭に残っているのは、明らかにアブサロムに襲《おそ》われた跡だった。知性が損なわれているのは、おそらくこのせいだったのだ。
呆然《ぼうぜん》とする裕生《ひろお》を残して、船瀬はどこかへ去っていった。
アブサロムは二ヶ月も前に「黒の彼方《かなた》」によって倒されたはずだ。しかし、もしあれがアブサロムの攻撃《こうげき》によるものだとしたら、あのカゲヌシはどこかで生きていることになる。
蔵前《くらまえ》司《つかさ》は裕生たちに復讐《ふくしゅう》を誓って逃亡した。もし、あの男がカゲヌシとともにいるのであれば、必ず戻ってくるはずだ。
裕生たちを殺すために。
どうしても不安が頭から離《はな》れない。おそるべき力を持つ敵となって、近いうちに自分たちの前に現れる気がしてならなかった。
 裕生は他《ほか》に誰《だれ》もいない廃墟《はいきょ》の中で立ちつくしていた。
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