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シャドウテイカー ドッグヘッド20

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:5 校庭にヘリコプターが着陸するまで、蔵前は目を閉じたままだった。これから裕生たちを殺すことを思うと胸が躍《おど》ったが
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 校庭にヘリコプターが着陸するまで、蔵前は目を閉じたままだった。これから裕生たちを殺すことを思うと胸が躍《おど》ったが、少し気を落ち着かせるつもりだった。
エンジンを切ったのか、ローターの回転音が徐々《じょじょ》に治まっていく。ようやく蔵前は目を開けた。隣《となり》の正操縦席《そうじゅうせき》に座っている若いパイロットが、震《ふる》えながらヘルメットを脱ごうとしていた。
「ご苦労様。助かったよ」
まるでタクシーの運転手でもねぎらっているような自分の物言いに、耐えきれないほどの可笑《おか》しさがこみ上げてきた。蔵前は座席に背中を預けながら、ほとんど絶叫に近い声で笑い始めた。機内に反響《はんきょう》する自分の声が奇妙に心地《ここら》よかった。
蔵前の着ている白いコートの前半分は鮮血《せんけつ》で染まっている。操縦席の後ろにある、罹災者《りさいしゃ》を収容するためのキャビンには、オレンジ色の制服を着たレスキュー隊員があおむけに倒れている。まだかろうじて息はあるが、彼の肩口には備品の一つである赤い斧《おの》が深く突き刺さっており、蔵前《くらまえ》が浴びたのもこの隊員の血だった。
裕生たちの前から姿を消した後、一旦《いったん》地上に出た蔵前は、近くにあるデパートに併設《へいせつ》された立体|駐車場《ちゅうしゃじょう》に忍び込んだ。体力の限界に達した彼は、火の手の回っていないその建物の隅《すみ》で意識《いしき》を失った。
目覚めたのはほんの一時間前だった。既《すで》に日は暮れていたが、消火活動が思うように進まないためか、まだ街は燃《も》え続けていた。立体駐車場から外へ出た時、蔵前は紫色《むらさきいろ》に染まった空を旋回《せんかい》している消防庁のヘリコプターに目を留めた。炎上しているデパートの屋上へ、逃げ遅れた人々を救出に向かうところらしい。
アブサロム・ドッグヘッドを呼び出してから、燃えさかる建物の屋上へ駆け上がり、蔵前がヘリを奪《うば》うまでほんの数分しかかからなかった。乗っていた隊員の一人を放り出し、もう一人に重傷を負わせた後で、蔵前《くらまえ》はカゲヌシを自分の影《かげ》に戻した。
そして、怯《おび》えきっているパイロットに加賀見《かがみ》市へ向かうよう命令した。ヘリはそのまま西に向かって飛び続け、加賀見市に入った途端《とたん》、蔵前は眼下の学校から「黒の彼方《かなた》」の気配《けはい》を感じ取ったのだった。
笑いの発作が通り過ぎ、ふと我《われ》に返ると隣《となり》の座席からパイロットが姿を消していた。ドアが開いていて、つまずきながら一心不乱に逃げて行く背中がフロント・ウィンドウ越しに見えた。その無様《ぶざま》な後ろ姿に再び笑いを誘われたが、今度はどうにかこらえることが出来た。
彼は自分も反対側のドアを開けて、外へと降り立った。ひやりとした夜風が頬《ほお》を撫《な》でる。眠りの時間を迎えた静かな街だった。
「アブサロム・ドッグヘッド」
彼の影から白黒の二つの頭を持った獣人《じゅうじん》が飛び出し、オレンジ色の制服に向かって突進した。そして、後ろからしっかりとパイロットの頭を掴《つか》まえた。一瞬《いっしゅん》、男の頭をリンゴのように握りつぶすイメージを思い描いたが、
(ぼくたちを真っ先に殺せ)
同時に藤牧《ふじまき》裕生《ひろお》の声が脳裏をよぎった。その言葉は彼自身の命令となって、アブサロム・ドッグヘッドに伝わる。カゲヌシは不満げに牙《きば》をむき出した後、男の背中に左手を当てた。
瞬《またた》く間にパイロットの全身は金属に変化し、地面にごろりと転がった。
(……あいつらは?)
蔵前は「黒の彼方」の気配を探る——どうやら、校舎の中に逃げ込んだらしい。よく見ると、昇降口《しょうこうぐち》のガラスが一枚粉々になっていた。
「……誰《だれ》よりも先に殺す」
蔵前は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。もし、彼らを殺す前に他《ほか》の人間を殺せば、今度こそ完全に正気を失う気がする。
そうでなくとも、近いうちにアブサロムは完全に彼の自我《じが》を消し去ってしまうだろう。その前に自分の精神に残された最後のねがいを叶《かな》えたかった。茜《あかね》は既《すで》に死にゆく運命にあり、残っているのは裕生と葉《よう》——そして、「黒の彼方」だけだ。
アブサロムは猛然《もうぜん》と人気《ひとけ》のない校舎に向かって走り出した。
『あと十分ぐらいでそっちに着くから。それまで、どうにか逃げ回ってほしいんだ』
「……まあ、適当にやっとくわ」
雄一《ゆういち》たちは三階建ての校舎の最上階にいる。階段を上がりきったところで、雄一は裕生と携帯《けいたい》で話していた。彼の前には下の階へ下りる階段が、右手には一直線《いっちょくせん》に伸びた長い廊下が見える。
『適当って……無理しないでよ。とにかくぼくたちが行くまで待ってて』
そこで電話は切れた。雄一《ゆういち》はじっと手の中の携帯を見つめていた。葉《よう》がすぐ隣《となり》で、不安げに雄一の様子《ようす》を窺《うかが》っている。
裕生《ひろお》からはレインメイカーと会った顛末《てんまつ》をおおまかに聞いた。結局、自分たちだけでもう一度アブサロム・ドッグヘッドと戦わなければならないらしい。
(ってことは、裕生たちが来たって意味ねーじゃねーか)
命の危険にさらされる人間が増えるだけだ。だとしたら——。
その時、階下をひたひたと走る足音が聞こえた。アブサロム・ドッグヘッドが校舎に侵入したらしい。雄一は自分の携帯《けいたい》を葉の手に握らせた。
「あの……?」
「お前は一人で逃げろ」
雄一は手にしていた金属バットを目の前にかざした。後はベルトに挟んである錆《さ》びたナタ。武器はそれだけだったが、雄一にしてはむしろ多すぎる方だった。
(エモノ使うのは俺《おれ》のシュミじゃねーんだけどな)
昔からどんな相手でも素手で戦うことをモットーにしてきたが、今回はかかっているのが自分の命だけではない。仕方がないと思うことにした。
「裕生たちが学校に着いたら、電話かけてくるはずだ。そしたらあいつらと合流しろ」
足音は雄一たちの真下まで来ていた。どうやら階段まで来ているらしい。
「裕生が来るまではなるべくカゲヌシは呼ぶんじゃねえぞ。お前は自分じゃ目ェ覚ませねえんだから」
葉はそれでも困惑《こんわく》したように立ちすくんでいた。
「でも……雄一さんは?」
まだ分かってねえのか、と雄一は舌打ちしそうになった。
むろん、一人でアブサロム・ドッグヘッドと戦うつもりだった。
「俺のことは放っとけ。走れ!」
彼女はびくっと体を震《ふる》わせる。そして、何度も振り返りながら廊下を進んで行った。
雄一は手すり越しに階段を見下ろした。階下からの足音は近づいてきていた。このまま階段を上がってくれば、ちょうど雄一のいる場所の真下を通るはずだ。
ふと、雄一は廊下の方を確認《かくにん》する。葉が十メートルほど先で立ち止まってこちらを見ていた。残った雄一のことを気にしているらしい。行け、という風《ふう》に手を振ると、ようやく走り出した。
再び雄一は手すりに飛び付く。足音は既《すで》に二階に達していた。次の瞬間《しゅんかん》、彼の真下をアブサロム・ドッグヘッドの双頭が通りすぎようとした。考える間もなく雄一はひらりと手すりを乗り越え、落下しながら金属バットを体重ごと振り下ろした。覚醒《かくせい》している黒いドッグヘッド左の頭の脳天にバットの先端が命中する。
確《たし》かな手応《てごた》えを両手に感じながら、雄一はアブサロムの背後に着地した。幅の狭い段の上で雄一《ゆういち》はバランスを崩した。
(ちっ)
足を踏み外《はず》しがちにそこからさらに飛び、数段下の二階の廊下に着地した。
アブサロムは背中を丸めて、まるで時が止まっているかのように静止していた。
(効いてんのか?)
半ば信じられない思いで、雄一は目の前の小山のような白い塊《かたまり》を見上げていた。小刻みに体を震《ふる》わせながら、獣人《じゅうじん》はゆっくりと体の向きを変え始めた。
その緩慢《かんまん》な動きを見た雄一は、卒然《そつぜん》と悟った。
(弱点はあの頭か)
あの黒いドッグヘッドがこのカゲヌシの全身を無理に統括《とうかつ》しているらしい。だとすれば統括することにかなりの労力を強《し》いられているはずだ。この最強のカゲヌシの肉体は危うい拮抗《きっこう》のもとに成り立っているに違いない。黒い首にちょっとした刺激《しげき》を受けるだけで、全身の動きが止まってしまうのだ。
踊《おど》り場《ば》と二階の廊下の中間あたりにいるアブサロムに向かって、雄一は勢いを付けて駆け上がった。カゲヌシは黒い首を振って雄一の居場所を捜している。
(あそこだ)
ベルトに挟んでおいたナタを引き抜くと、渾身《こんしん》の力をこめて錆《さ》び付いたナタを尖《とが》った顎《あご》の下に打ち込んだ。十分な手応《てごた》えがあり、首筋に肉厚の刃が食い込む。裂けた毛皮からどっと黒い血が噴《ふ》き出してくる。あの「黒曜《こくよう》」に似た液体だった。
同時にアブサロムの左腕が跳《は》ね上がり、拳《こぶし》の甲《こう》が雄一の右胸に命中した。
「ぐっ」
肋骨《ろっこつ》が何本か折れる音を確《たし》かに聞いた。彼の体は階段の壁《かべ》に叩《たた》き付けられる。背中と胸に与えられた衝撃《しょうげき》で、息をすることが出来ない。よく見ればアブサロムの左拳は金属化している。頭部に当たっていれば、死んでもおかしくない一撃だった。
アブサロムの左手に触れた雄一のシャツの前半分も、薄《うす》い金属に変わっていた。もっと長い時間拳に触れていたら、彼の皮膚《ひふ》までその能力の影響《えいきょう》は及んでいたかもしれない。
(動かねーと)
しかし、雄一は立ち上がることが出来なかった。同時に喉《のど》にナタを食い込ませているアブサロムも、素早く動けないらしい。
不意に眠っている右の白い首がむっくりと起き上がり始めた。
(ヤベェ)
見たものを圧壊《あっかい》するという「黒い光」の能力を使うつもりだ。とにかく階段の下へ転がってでも逃れようと思った時、頭上から物音が聞こえた。
反射的に音の方を見上げる——たった今雄一が飛び降りた三階の手すりから、葉《よう》が顔を覗《のぞ》かせていた。
(あのバカ……)
雄一《ゆういち》は歯ぎしりした。結局、戻ってきてしまったのだ。しかし次の瞬間《しゅんかん》、彼はさらに驚《おどろ》いた。その葉《よう》の隣《となり》から双頭の黒犬が現れ、アブサロムに向かって飛び降りてきた。
「黒の彼方《かなた》」はむき出した牙《きば》をアブサロムの肩口に食い込ませる。続いて葉も手すりを乗り越えて、雄一の前にひらりと飛び降りてきた。
「な……」
彼の体に葉の腕が回され、ほとんど引きずり下ろされるように二階の廊下へと運ばれて行った。
「葉、お前……」
と、言いかけて、雄一は今さらながら思い出した。今ここにいるのは雛咲《ひなさき》葉ではない。「黒の彼方」が操《あやつ》っている肉体だった。
「この娘はあなたを置いて行けなかったようですよ」
葉の目はひややかだった。人ではない、まったく別の生き物に見つめられている気がした。
その時、黒犬が二階の廊下に投げ落とされて、二人のすぐ手前で止まった。その体を見た雄一は目を瞠《みは》った——全身から黒い血が滴《したた》り、首の付け根には深い裂け目が走っている。
その上、たった今もまた新たな攻撃《こうげき》を受けたらしい。「黒の彼方」の二つの首のうち、眠り首は目を閉じたままの状態で、灰色《はいいろ》の金属と化していた。
「立てますか?」
「……ああ」
寝てはいられない。状況はこちらに圧倒的に不利だった。とにかく今は逃げなければならないようだった。
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