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記憶の絵02

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:祖母薄い、骨のような膝の上に私は乗っていて、細い、かさかさした手が私を抱いている。私は緋色地に薄紅色の暈《ぼか》しのある
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 祖母

薄い、骨のような膝の上に私は乗っていて、細い、かさかさした手が私を抱いている。私は緋色地に薄紅色の暈《ぼか》しのある白い大きな牡丹の模様の、メリンスの綿入れを着ていて、まるで綿の団子のようだ。抱いているのは祖母で、茶の間のボンボン時計の下である。
(もういくつ寝るとお正月)と、祖母が歌っている。祖母の声は撫でるように優しいが、私の暈《ぼんや》りと開いている眼は、祖母の顔から何かを視、祖母の声の中から何かをききとっていた。それは祖母が、その痩せた、骨のような胸の中にもっていて、彼女が隠さなくてはいけないと思っているものだ。祖母は、私とは異う母をもった兄を哀れんでいた。彼女は私をも愛していたが、愛していながら、愛することが出来ない。そこから彼女の寂しさが生れ、冷たさが生れた。その冷たさを私は陽の当る縁側から差し込む温い光で、牡丹の花が明るく浮き出ている、メリンスの肌目《きめ》と一緒に、吸いこんでいた。祖母が、藍色の男帯を小さく結んだ、痩せて小さな背中を見せて草むしりをしている。苔の中に出てくる、小さな白い蕾《つぼみ》のついた雑草を一本一本引きぬくのである。いつもそうやっているから、私は「又いた」と思う。そばへ行くと「於菟《おつ》ちゃんに遊んでお貰い」と、後を向いたままで言った。(兄さんなんかいやしない)私はそう思って、彼女のそばを離れた。観潮楼と言っていた二階へ上がる梯子段は急で、途中で一度よじれていて、曲るところは段の右側が三角形に尖っていた。私は上野の山の森まで見える明るい二階の廊下へ出るうれしさを夢みながら、よく一人でその暗い梯子段を(もう一つ、もう一つ)と思って上がった。真中辺の暗いところを上がっていると、谷底のような下の方で、(まりちゃん、危いよ)という祖母の声がしたが私は黙って又一つ、一つと上がって行った。祖母の口癖は(於菟ちゃんが角帽になって、茉莉ちゃんが海老茶になったら……)と言うのだったが、そんな祖母の声の中に愛情を感じて、私はふと、祖母の顔を見た。或日祖母が私の手をひいて砂利を敷きつめた、大変に広いところへ伴れて行った。黒い蟻のような群衆が真中辺に円陣になって固まっている。その中では何かやっているらしいが、祖母は私の手をひいてその円陣の廻りをうろうろ廻っているばかりだ。すると親切そうな兵隊が来て、二人を一番前列に連れ出してくれた。そうしてひそめた声で(そこに居られるのが陛下です)と言った。一間位離れて、猫背の老いた軍人がいた。それは明治天皇だった。明治天皇は、胸の厚みの辺りの、釦と釦との間が少したるんでいて、そこに内容が詰っているような、愛情があるような、大変に懐しい人間像を、私に感じさせた。それは観兵式だったと、後でわかった。
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