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記憶の絵07

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:薬私が生れて最初に意識して飲んだ薬は、牛の血を固めた大きな丸薬《がんやく》=明治時代には錠剤とは言わなかったのか? 私の
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私が生れて最初に意識して飲んだ薬は、牛の血を固めた大きな丸薬《がんやく》=明治時代には錠剤とは言わなかったのか? 私の父親が好みで丸薬と言っていたのか、知らない=である。牛の血を固めたままのものだから異様な味がして、表面はザラザラし、それに平たく丸くて角《かど》があるので呑みこむのが大変だった。そこへ私は呑みこむのが下手で、現在飲んでいる小さな毒掃丸の錠剤でさえ始終呑みこみ損《そこ》なっては厭な味にへきえきし、その度に喉頭癌になったのかと思うのである。どうしても呑みこめなくて、つい噛んでしまうと、厭な味が口の中一杯に拡がって私は顔を歪めた。「噛まないで。呑みこむんですよ」とせっかちの母親が、青白い美しい顔で睨む。透明な壜に赤黒いざらついた色を透かせて、その丸薬が父親の部屋のちがい棚に、いつもひっそり存在している。青葉の影で畳が薄緑にそまり、青い風が吹きぬける夏座敷で、父の傍にねころぶ楽しい刻《とき》も、その薄白い半透明な壜の存在に眼が行くと、嫌悪すべき味が舌の上に拡がって来て、私はその壜を呪った。父親はそれを飲ませる役を母におしつけていたから、厳しい母親はいよいよ私に嫌われていた。壜には横線のある白い罫紙が張ってあって、羅馬字が濃藍色のインクで並んでいた。今考えると、父親はその壜を好きでそこに置いていたのだ。部屋に置くものの好き嫌いが私は父親にそっくり似たらしい。薬壜の傍には、牛乳《ミルク》に珈琲を落したような薄茶に白く Rintaro Mori と、浮彫りされている、銀の蓋つきの陶器の麦酒|洋杯《コツプ》があり、黒塗りに、アイヌの着物の模様のような図案が渋い緑と赤茶で線書きになっている煙草の筐、又|薄衣《うすぎぬ》を着た美しい少女が腕を延ばしている彫刻のある銀の灰皿、なぞもあった。少女の胸は小さく、丸く、薄衣をもち上げていた。風邪をひくと飲まされる、杏仁《きようにん》の入った淡黄色の水薬も、嫌悪すべき飲みものだった。丸薬の方は甘いチョコレエトの口直しで比較的すぐ味が消えたが、水薬の方はいつまでも厭な味が残った。白い粉の風薬は苦くて、一寸砂糖を入れた葛粉の味がし、いやでなかった。百日咳に冒った時に腎臓炎を併発して、水薬を貰ったが、その味の拙さは言語に絶していた。酸っぱくて、へんに悪甘いのである。
私は一生涯の病気を七八歳までに全部し尽してしまったらしく、その後はあまり病気には縁がなかったが、戦後のヴィタミン剤ブウム以来、薬道楽が始まり、ヴィタミンを随分飲んだがもう飽きて、最近は毒掃丸にブレナミン(グルタミン酸入りで、自律神経にいいというので、ノイロオゼに利くと信じている)、アリナミン(これはすべての栄養や薬の吸収をよくするというのを信じている)それと肝臓や心臓、高血圧の予防のための漢方薬を、倦《う》まずたゆまず飲んでいる。私は未開人のようなところがあって、何でも信じるので薬の霊験はあらたかなようである。
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