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記憶の絵17

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:借金私は近所の銀行に、ほんの少しの預金をしていて、そこへ入って来た金を持って行って入れ、又そこから要る金を出して来て、生
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借金

私は近所の銀行に、ほんの少しの預金をしていて、そこへ入って来た金を持って行って入れ、又そこから要る金を出して来て、生活しているが、いつも頭がぼけているので、銀行へ行くことを忘れていたことに気がついて、さて行こうと思うと不思議に土曜日の午後である。
或土曜日、例によって「失敗《しま》った」と思ったが、次の瞬間ひやっとした。前に引き出した時に、判が紛失していて無かったのを、無理に懇願して判なしで出して貰ったのだが、それをそのまま忘れていたので、今度は紛失届けと改印届けをした上でないと金を出すわけにはいかないのである。紛失届けと改印届けを出し、それが受け付けられて定《き》まった手続きを踏んだ後、ようよう金が出せるのであるから、少なくとも五六日は無一文で暮さなくてはならない。先ずいつものように萩原葉子に電話をかけると、憎らしいことに出かけている。私はそういうことになる度に、紅茶もミルクも、牛肉、人参、玉葱も、蜂蜜も、チョコレエトも、すべてピタリと鼻の先《さき》で扉をたてられたように買うことが出来なくなるのを怒り、自分の金なのにどうして出せないんだ、と、銀行員というにくむべき存在を呪って怒るのである。仕方なく、前によく、珈琲代がない時に本を売った店に行って借金を申込んだ。いずれ萩原葉子からも借りるとしても二千円は借りたいところだったが、いざとなると多すぎるような気がするので五百円と言ってしまった。忽ち無くなって次に葉子に借りたが、これも又無くなり、電話をかけると又留守である。室生朝子氏にかけると家にくるようにということなので行くと、朝子氏は犀星に面白い借金の理由を話した。犀星は背中にある戸棚の抽出しから札の入った皮の紙入れを出し、(二千円では足りんでしょう)と一枚、二枚、と数えて五千円を出し、又後から白い封筒を出して札を入れて火鉢ごしに差出した。私はひどく感動して受とったが、犀星が床につく九時が来て朝子氏の住む離れに行こうという時、その大喜びで受取ったばかりの封筒を犀星の、中央公論から貰った置時計のある棚において来てしまった。それを朝子氏が私を車で送る途で栃折久美子を誘って酒場に入った時、思い出した。朝子氏がハンドバッグを探り、(丁度ここに持っていたから、同じでしょう?)と言って五千円を出して渡そうとしたが、それでは甚だ不満であった。私は何か妙な考えにとり憑かれると、それがどれほど馬鹿げているかということも、人に迷惑なことであるかということも一切わからない状態になるので、(やっぱり先生の下さった、あの封筒に入ったのでなくては)とだだをこね、翌々日速達で、首尾よく望みの白封筒を受とったが、その送料に金がかかって朝子氏が迷惑したことは御存じなしである。「私《あたし》に借りればいいじゃないの」と無理を言って眼を三角にした萩原葉子が、送料が大体百円かかったろうという、親切な進言でようやくお気づきになった。
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